近年、発展著しい「金属3Dプリンター」。航空機エンジンや発電機など過酷な環境で使用される金属部品を造形できるようになり、大手重工メーカーのGE社がアディティブマニュファクチャリング(Additive Manufacturing、以下「アディティブ」)に注力するという発表を行うなど、話題に上る機会が増えています。またJIMTOF2018でもマシニングと金属3Dプリンターを複合したハイブリッド機が多数出展されていました。
もともと「アディティブ」とは、金属、樹脂、セラミック、繊維などさまざまな素材を加熱やUV硬化、溶射により積層・堆積させる工法全般を示します。日本では「アディティブ」=「金属3Dプリンティング」と表記されることが多いため、本特集でも金属3Dプリンティングを中心としたアディティブを取り扱います。
これまでの金属加工は、鋳造・鍛造ワークを「切削・切断・パンチング」加工するものでしたが、最近は金属3Dプリンターで造形されたワークを切削加工する、切削加工中に3Dプリンタで肉盛やコーティングを行う、異種金属や金属・非金属を一体成型するなど「加える(英語でAdd)」加工が可能になってきました。
例えば切削とアディティブのハイブリッド加工により、物理的に切削工具が入らない複雑形状の加工(例:羽の枚数が多く深いカーブを持つプロペラやインペラ)、複数部品を組み合わせた一発成形・部品点数削減(例:20点の部品の航空機の燃料ノズルを1点に)、表面やエッジの異種金属コーティング、部品の摩耗や欠損の補修(例:金型や一点物の高額部品)などが可能になります。
また内部構造を中空+梁のラティス構造にすることで軽量化と強度確保を両立できます。さらに金属ではありませんが、下で紹介するアディダスの靴底の事例のように、一体成型された同一素材でもつま先とかかとなど、場所によって密度や特性を変えることもできます。
一方で、アディティブが万能かというと弱点もたくさんあります。
まず、最もよく言われているのが「量産に向かない」ということです。正確にいうと単純な成形品の量産でも時間と手間がかかるため、量産に向くものが限られます。
次に、どうしようもないことですが金属粉末にする以上は「材料費が相対的に高い」ということが挙げられます。また切削やプレスに比べると「表面の粗さ」も避けられません。
これらはいずれも「従来成形物と同じものを大量生産」する場合には弱点が目立つことを示しており、アディティブによる製造業の変革は「アディティブでないとできないようなもの」を作るようにしないと実現しません。
そのために重要なことは、加工の前段階では、部品の設計者が新しいアイデアを受け入れ・生み出せるようにすること(よくあるのは生物からヒントを得るもので、BigRepの事例では、鳥の羽とザトウクジラのヒレからスクリュープロペラをデザイン)。設計者を支援するアディティブに適応したソフトウェアを整備すること。そして加工段階では、加工内容に合わせた最適な工法の組み合わせを選択することです。
加工の前段階に関しては、例えば中空のラティス構造の強度や応力の計算は、従来の有限要素法のメッシュでは計算が複雑になりすぎる、あるいは処理ができず、計算ロジックの変更やマシンパワーの強化が必要になります。また加工形状の制約(この位置には肉抜きできない、これ以上 / 以下の厚みにできないなど)が著しく減少することで、軽量化や耐摩耗性強化を実現できる可能性がある手段が無数になるため、トライアル&エラーでたくさん試すことも必要です。
そして、アディティブの工作精度はソフトウェアに大きく影響を受けます。JIMTOF2018では、同じハイブリッド加工機で専用CAMのバージョンアップで加工精度が目に見えて向上しているものがありました。
加工段階に関しては、金属3Dプリンターと加工機を分けて使う、金属3Dプリンターに切削・研磨などの加工機の機能を付加する、加工機に金属3Dプリンターの機能を付加するなどの形態で、「得意領域を明確にし、強化した」複合加工機が出てきています。
金属3Dプリンター自体の進化、ソフトウェアの進化、素材の進化、そして設計者の進化。これらは、どれか一つでも大きく欠けると、アディティブのメリットを損なう可能性が高いと思われます。ユーザー企業は、自社のニーズと実力、技術動向などを見据えて、これら4つのバランスがとれた導入計画を立てなければなりません。
本特集では、上記の内容をイメージできるようなホワイトペーパーやカタログ、事例などを厳選して掲載しました。ここに掲載したものが全てではありませんが、これらをきっかけに理解を深め、効果的な導入の検討の一助になれば幸いです。
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