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晶析と沈殿のガイド
晶析は、製品の分離と精製に使用される一般的な単位操作です。しかし、晶析は蒸留や吸収などのその他の単位操作と比較すると、化学的な基礎について一般的にはあまり知られていません。晶析化の手順は、結晶のサイズ、形状、収率、純度などの製品の属性に直接影響があり、最終製品の品質と、プロセスの効率性の両方を向上させます。
このホワイトペーパーでは、晶析の基礎について説明し、高品質な晶析プロセスを設計するためのガイドラインをご説明します。業界や学会のケーススタディと参考資料を使用して、溶解度、過飽和、晶析の速度などの主な晶析のトピックについて説明します。 溶解度、過飽和、晶析の速度を活用して、データに基づいて効果的な晶析プロセスに関する決定を行う方法の例も取り上げます。 効果的な晶析プロセスパラメータの制御から結晶サイズと過飽和の in situ モニタリングまでの晶析開発の技術の役割についても提示されます。
このカタログについて
ドキュメント名 | 効果的な晶析プロセス開発 |
---|---|
ドキュメント種別 | ホワイトペーパー |
ファイルサイズ | 3.3Mb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | メトラー・トレド株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
Page1
晶析と沈殿
効果的なプロセス開発の進め方
著者 Des O’Grady PhD (メトラー・トレド)
晶析は物質の単離および精製を行う単位操作として、産業の様々な分野で利用されてい
ます。しかしその科学的な原理は、蒸留や吸収のような他の単位操作に比べ、広く知られ
ているとは言えません。晶析工程は結晶サイズや形状、収率、純度などの結晶品質に直
接影響するため、最終製品の品質と製造効率の両者を改善できる大きな可能性を秘め
ています。
このホワイトペーパーでは、晶析の基礎から優れた晶析工程を設計するために常識とさ
れているガイドラインをご紹介します。次に産業および学術研究からの実例と文献を示
し、晶析の重要なパラメーターである溶解度や過飽和度・結晶化速度などが、データに
裏付けされた効率的な晶析工程の設計においていかに利用されているかをご説明しま
す。晶析開発における測定技術・装置技術についても、晶析条件を効果的に制御する手
法から、結晶粒度分布と過飽和度のin situモニタリングまでを網羅してご紹介します。
もくじ
1 晶析と沈殿の基礎
2 溶解度を下げ晶析を進行させる一般的手法
3 過飽和度:晶析と核成長のドライビングフォース
4 結晶の粒度分布および形状分布の重要性
5 まとめ
Crystallization Guide
Page2
1 晶析と沈殿の基礎
晶析は、私たちが口にする食品や医薬品から燃料に至るまで、様々な形で私たちの生活
に関係しています。農薬や医薬品の大部分は多段階の晶析操作を経て、開発・製造され
ていますし、乳糖やリシンといった重要な食品成分は、人も動物も結晶として摂取してい
ます。また深海パイプラインにおけるガスハイドレートの望まない結晶化は、石油化学工
業にとって、大きな安全上の懸念となっています。
世界中の様々な企業の研究者や技術者が晶析を研究し、最適化し、制御する必要性に
直面しています。このガイドでは鍵となる晶析現象についておさらいするとともに、興味
の尽きないこの現象を検討するための様々な手法に触れていきます。
晶析: 固体である結晶を、固体ではない相(通常は溶液または溶解状態)から生成
させるプロセスのことです。
結晶: 構成分子、原子、またはイオンが、空間的にある一定で強固な繰り返しパター
ンや格子で配列している固体粒子のことです。
沈殿: 沈殿の定義は少しあいまいです。単純で非常に速く、多くは制御されていない
晶析工程をこう呼ぶことがあります。または化学反応の結果の結晶形成を指すこと
もあります。さらに、産業分野によって異なり、医薬品産業で「晶析」と呼ばれるも
のが、化学産業で「沈殿」と呼ばれることがあります。
産業において晶析が多用されるのは、分離と精製の
両者を一括して行えるからです。ワンステップで所望
の純度の結晶を作り取り出すことができるのが晶析 製品性能1
なのです。この明らかな特長にも関わらずいまだ晶 「特にAP(I active phar-
:原
析には謎の部分があり、所望の結晶品質、並びに効 maceutical ingredient薬)の結晶は化学的純度、
果的で費用対効果の高い晶析工程を確保するため 所望の多形であることなど
の制御法は完全に確立されているとは言えません。 の品質が重要であり、仕様
を守るために厳しく制御さ
結晶を評価する指標は様々ですが、最終製品(およ れる必要がある」
び製造工程)の品質に最も大きな影響を与えるの
は、結晶の粒度分布と言えるでしょう。晶析工程の
次にあるろ過工程や乾燥工程では、結晶サイズや形
状が直接的に影響し、処理状況が顕著に変動しま プロセス性能1
す。同様に最終製品の品質にも、最終的な結晶の粒 「APIの晶析工程と結晶特
度分布が影響します。医薬品ではバイオアベイラビ 性は、後工程に著しく影響
リティおよび有効性と、粒度分布との相関性が高い する。例えば微小結晶が多
ことが多く、溶解性と溶解特性の向上を目的として、 すぎたり、粒度分布が広す
より小さな粒子が好まれる傾向にあります。 ぎたりすると、ろ過が遅くな
り、乾燥が不十分となる。結
果として製造工程全体のボ
トルネックとなる可能性が
高い」
2 Crystallization and Precipitation
Crystallization Guide
Page3
アイスクリーム中の氷の粒度分布は、味と舌触りを大きく左右し、50μm以下の氷の結晶
のほうが100μm以上の結晶より良好とされています。農薬中の結晶は、スプレーノズル
につまらないくらい小さい必要があり、さらに、近接農地に浮遊していかない程度には
大きくなければなりません。
結晶粒度分布は、晶析開発プロセスや製造で最適化され制御されている複数の変数に
影響を受けています。そして結晶粒度分布は製品と製造効率の両方に影響します。図1-1
は、正しい初期条件とプロセスパラメーターの選択が、いかに晶析現象に作用し、さらに
は晶析完了時における製品品質およびプロセス特性に影響するかをまとめたものです。
初期条件 プロセスパラメーター
• 濃度 • 撹拌
• 溶媒 • 冷却速度
• 種晶添加VS無添加 • ホールド時間
• スケール • 種晶添加方法
• 温度 • 非溶媒添加速度
• 不純物プロファイル • 温度サイクル
晶析現象
• 核発生(一次・二次)
• 成長
• 相分離
• 多形転移・晶癖変化
• 磨滅
• 凝集
製品品質 プロセス性能
• 粒度分布 • ろ過性
• 純度 • 乾燥
• 収率 • 成形性
• 溶解速度 • スケーラビリティ
• 流動性
• 堅牢性
• 再現性
図 1-1 一般的な晶析パラメーターと晶析現象、製品品質・プロセス性能の関係2
1. Kim S. et al., “Control of the Particle Properties of a Drug Substance by Crystallization Engineering and the Effect
on Drug Product Formulation” Organic Process Research & Development, 9, 894-901 (2005).
2. Adapted from Powder Technology Volume 189, Issue 2, 31 January 2009, Pages 313–317.
Crystallization and Precipitation 3
Page4
2 溶解度を下げ晶析を進行させる一般的手法
晶析を進行させるには、冷却・非溶媒の添加・蒸留、またはそれらの組み合わせで、飽和
溶液の溶解度を下げなければなりません。あるいは複数の反応物質を混合し反応させる
ことでその反応液に不溶な固形物を形成させる方法も一般的に晶析と呼ばれています。
例えば酸と塩基を反応させて塩を作るといった方法です。
その物質の晶析に、どの方法が適しているかは、様々な要因で異なります。例えばたん
ぱく質の結晶は温度変化に敏感なため、冷却や蒸留は避け、通常、非溶媒添加法が用い
られます。多くの晶析工程にとっては、やりなおしのきく冷却法が便利です。良好な結果
が得られなければ飽和溶液を再加熱できます。巨大なスケールの工業用晶析槽では、蒸
留法が多く用いられ、硝酸カリウムや塩化アンモニウムなどの大量生産が行われていま
す。
いずれにしろどのような晶析法も、飽和溶液から出発するのは共通しています。
飽和溶液と溶解度: ひとつの温度下において、ある溶媒に溶解できるある溶質の量
には限界があります。その状態を溶液が飽和していると言います。溶解できる最大
量を溶解度と言います。
単位: 溶解度は次のような単位で表します。
- 溶媒100gに対する溶質g
- 溶液1Lに対する溶質g
- モル分率
- モル%
80
溶解度と温度と溶媒の種類との
関係を示すには、一般に溶解度 70
Solvent A
曲線(図2-1)が用いられます。研 Good SolventSolvent B
60
究者は温度に対する溶解度を図 Solvent C
にすることで、望ましい晶析工程 50
を開発するための構想を練るこ
40
とができます。
30
図2-1を見ると、溶媒Aに対するこ
20
の物質の溶解度は高い、つまり1 Good Antisolvent
バッチの溶媒量から晶析できる 10
物質の量が多いことがわかりま
0
す。溶媒Cは温度を変えても溶解 0 20 40 60 80
度が低いままですから、この物質 Temperature (°C)
にとっては非溶媒として有用とわ 図 2-1. 三種の溶媒への溶解度曲線モデル
かります。
4 Crystallization and Precipitation
Crystallization Guide
Solubility (g Solute / 100 g Solvent)
Page5
溶解度曲線から、その晶析工程における理論的な収率が得られます。図2-1で溶媒A100g
を50gの溶質で飽和させ、60℃から10℃に冷却すると、100gの溶媒あたり10gの物質が
溶液中に溶解したまま残留することがわかります。言い換えると100gの溶媒で40gの物
質を結晶化できるとも言えます。理論的な収率と実際の収率を比較すれば、晶析工程の
効率を評価できます。
適切な溶媒の選択後、溶解度曲線は効果的な晶析工程を開発するためのデータとして
必須です。まず晶析開始時の濃度と温度(または非溶媒比)を選択でき、次にどのように
その晶析を開発していくかという最初の重要な決定が行えます。例えば、核発生を促す
ために種晶を添加するのならば、添加時点が溶解度よりも低温でなければなりません。
さもないと種晶は溶解してしまうからです。
ケーススタディ3
Point of Nucleation Point of Dissolution
ParticleTrack(プロセス中で粒子
サイズとカウント数の変化速度お
よび変化量を追跡するプローブ 12000 55
型測定)を使用し溶解する温度(
溶解度曲線上の点)と、核発生の 10000
温度(MSZW上の点)を異なる溶 45
質濃度ごとに得ることで、溶解度 8000
曲線と準安定域幅(MSZW)を正
確に測定することができます。図 6000 35
2-2は、飽和していない溶液をゆ
るやかに一定速で冷却し、核発生 4000
のポイントをParticleTrackで測定 Temperature (°C) 25
Particle Count (0-20 µm)
したものであり、これがMSZW上 2000 Particle Count (50-250 µm)
の一点ということになります。次
に溶液をゆっくりと加熱し、溶解 0 15
した温度を特定すれば、溶解度 0 20 40 60 80 100
曲線上の一点が判明します。 Time (mins)
図 2-2 冷却中の核発生と加熱中の溶解を検出
溶媒を添加し、濃度を下げて同
じ実験を繰り返します。これに
より溶解度曲線とMSZWが迅速
に広い温度幅において測定で
きます。この工程はEasyMaxや
OptiMaxのような自動合成機を使
い、ParticleTrackのデータをフィー
ドバックして、加熱と冷却のタイ
ミングを図れば自動化できます。
図 2-3 プロセスの条件に対して精密な条件制御が可能な自動晶析ワークステ
ーションとリアルタイムでプロセスを特徴づけることができるプローブ型センサー
(ParticleTrack とParticleViewプローブでEasyMax自動合成機をモニタリング)
Crystallization and Precipitation 5
Counts per Second
Temperature (°C)
Page6
図2-4に、硫酸アルミニウムカリウ 40 Solubility Data
ムの溶解度曲線と準安定域幅を MSZW (C.15 °C per min)
MSZW (C.7 °C per min)
示しました。溶解度曲線は同じ溶
媒・溶質であれば熱力学的に一 30
定ですが、準安定域幅は動的境
界であり、操作条件すなわち冷却
速度や撹拌速度、スケールなどに 20
よって変動します。準安定域幅を
いくつかの条件下で測定すること
により、スケールが異なった場合
10
や何かしらの異常があった場合
にどのような挙動となるかを予測
することができます。条件を変え
ると準安定域幅がばらつくという 0
0 10 20 30 40 50 60
ことは、その晶析は核発生や結晶 Temperature (°C)
成長において常に安定している 図 2-4 硫酸アンモニウムカリウムの溶解度曲線および準安定域幅
わけではないということです。こ
のような結果を踏まえて、バッチ間の核発生のポイントを一定にするため、種晶添加を検討することもあり
えます。
前述した動的な溶解度の求め方は、加熱速度に依存するために正確性に限界があり、溶解した温度が高く
測定されがちです。重量分析のような統計処理により、正確さの向上が図られていますが、時間がかかり、
適用も面倒です。溶解度曲線の採取には多くの手法があり1-4、最近では様々な溶媒への溶解度を予測する
という研究も注目されています5。より詳しくお知りになりたい場合は、欄外に参考文献を示しましたので
ご参照ください。
1. Howard K. Zimmerman, The Experimental Determination of Solubilities, Jr. Chem. Rev., 1952, 51 (1), pp 25–65
2. Granberg & Rasmusson, Solubility of Paracetamol in Pure Solvents, J. Chem. Eng. Data, 1999, 44 (6), pp
1391–139.
3. Barrett and Glennon, “Characterizing the Metastable Zone Sidth and Solubility Curve Using Lasentec FBRM and
PVM,” Trans ICHemE, vol. 80, 2002, pp. 799-805.
4. Mark Barrett, Mairtin McNamara, HongXun Hao, Paul Barrett, Brian Glennon, Supersaturation tracking for the
development, optimization and control of crystallization processes, Chemical Engineering Research and Design,
Volume 88, Issue 8, August 2010, Pages 1108-1119.
5. Abraham, M. H., Smith, R. E., Luchtefeld, R., Boorem, A. J., Luo, R. and Acree, W. E. (2010), Prediction of solubility
of drugs and other compounds in organic solvents. J. Pharm. Sci., 99: 1500–1515.
6 Crystallization and Precipitation
Crystallization Guide
Concentration (g hydrate/ 100 g water)
Page7
3 過飽和度: 晶析と核成長のドライビングフォース
晶析を制御するとは晶析進行中の過飽和度をきちんと制御するということです。
過飽和度: ある温度における溶解度と実際の濃度の差が過飽和度(ΔC)です。
図3-1は過飽和度の概念の上に、晶析が進行する動的境界である準安定域の役割を重ね
たものです。飽和溶液をゆっくり冷却すると、ある温度で結晶が「クラッシュアウト(急激
な核発生)」します。自発的に結晶ができるのですから、この温度は溶解度の温度、すな
わち加熱した時に結晶が溶けて
無くなる温度と同じように思われ
ます。しかし飽和溶液が冷却され
ると、準安定領域に入り、溶液は
過飽和状態、言い換えれば溶液
Nucleation
が溶解度曲線で予測される以上 Cooling
の溶質を溶解させている状態に
なります。冷却を継続することに Metastable Limit ∆C (Supersaturation)
より、ある温度に達した時に結晶
の核発生が起きます。この点が準 Solubility
安定域限界であり、この点と溶解
度曲線との差を準安定域幅と呼
びます。いったん準安定域限界に Temperature
達し、晶析が始まると、過飽和度 図 3-1 溶解度曲線と準安定域幅
は消費され、液相における濃度は溶解度と同等にまで下降していきます。
過飽和度は、結晶の核発生と成長の推進力であり、最終的に生成する結晶の粒度分布
に影響することから、その概念の理解がとても大切です。核発生は新しい結晶の核が生
まれることであり、溶液からの自発的なもの(一次核発生)と、すでに存在する結晶から
のもの(二次核発生)に分けられます。結晶成長とは溶液から析出した結晶の大きさ(
正確には「代表長さ」)が増加す
ることです。過飽和度、核発生、 g b
成長の関係は、一般的な式として G = kg ∆C B = kb ∆C
表されます(一部簡略化されてい
ます)(表3-1)。 G = 成長速度 B = 核発生速度
kg = 成長定数 kb = 核発生定数
g = 成長次数 b = 核発生次数
ΔC = 過飽和度 ΔC = 過飽和度
表 3-1 過飽和度、核発生、成長速度の関係を示した式.1
Crystallization and Precipitation 7
Concentration
Page8
有機物の晶析では、成長次数(g)は1以上2以下、核
Crystal Size
発生次数(b)は5以上10以下が普通です。ある理論
上の有機物の晶析について、これら数式を曲線で表
すと、過飽和度の重要性が明白になります。過飽和度
が低ければ、核発生速度を成長速度が上回り、結晶
の粒度分布は大きくなります。しかし過飽和度が高い
と、核発生が成長を凌駕し、最終的に小さな粒度分
布となります。図3-2は、過飽和度に対する核発生、 Nucleation RateGrowth Rate
成長、結晶の大きさの関係を示しており、結晶を望ま
しい大きさおよび分布にするためには、理論的にも
過飽和度の制御が重要であることがわかります。
Supersaturation
図 3-2 飽和度と成長速度・核発生速度の関係を示す曲線
ケーススタディ5
Peak Height Associated
with Benzoic Acid
SReactIR(ATR-FTIR)で液相の濃 0.05
度を測定すると、過飽和度を Sample in 0.075 g Benz / g Sol.in Background and Sample 0.04
situかつリアルタイムに追跡でき 1 g Water / g Ethanol Solution
ます。この事例は、エタノール・水 0.03
溶液中からの安息香酸の冷却晶 0.02
析において、過飽和度をReactIR
でin situかつリアルタイムにモニ 0.01
タリングしたものです。キャリブ 0
レーションを省いた新しい手法 2650 2150 1650 1150 650
であり、ReactIRスペクトル上の溶 Wavenumber (cm-1) -0.01
質濃度に特異的なピークを、単純
にプロットします(図3-3)。 図 3-3 in situ ReactIR モニタリングを用いた過飽和度測定の検討
結晶スラリーを低速で加熱する
と、溶解度の軌跡(各温度でのピ Point of Dissolution
ーク高さの変化)を知ることがで
15000
きます。温度が上昇すると結晶が
溶解し、溶液中の溶質が増加しま 0.42 12500
す。加熱速度を十分遅くすること ReactIR Solubility Curve 10000
で、溶液は各温度で常に飽和状 FBRM Fines #/sec
0.38
態のまま推移すると考えられ、温 7500
度対ピーク高さのプロットはキャ
5000
リブレーションしていない溶解度 0.34
曲線に相当します(図3-4)。この 2500
方法は静置状態での測定法(2
0.30 0
章最後に記述)に比べて精度が 0 10 20 30 40 50 60
高いとは言えませんが、その容易 Temperature (°C)
さとリアルタイム性ゆえ、晶析開 図 3-4 温度に対するピーク高さおよびカウント数のプロットで溶解点を検出
発において日常的に使える有用な
手法であると言えます。
8 Crystallization and Precipitation
Crystallization Guide
Peak Height (ReactIR)
Nucleation Rate, Growth Rate, Crystal Size
Counts per Second (ParticleTrack) Peak Height
Page9
最初に溶解度の軌跡を採取し、次に実際の晶析をモニタリングすると、プロセス条件に
より過飽和度がどのように変化するかを知ることができます。冷却速度を速くすると、核
発生の温度は低くなり、晶析中の過飽和度は高くなります。非常にゆるやかな冷却を行
うと、核発生温度は高くなり、低い過飽和度で晶析が行われます。1時間の非線形冷却(
初期に遅く、後半に速い冷却)では全行程で中程度の過飽和度となっています。
過飽和度の違いが結晶粒度分布と形状分布に及ぼす影響は、ParticleView(プローブ型
リアルタイム顕微鏡)で容易に比較できます。過飽和度が高いと核発生が結晶成長を上
回るため、小さな結晶ができ、冷却が遅ければその逆となっています。
100 µm 100 µm 100 µm
1 Hr Cool Down 1 Hr Cubic Cool Down 15 Hr Cool Down
Point of Nucleation
Solubility Curve
1 Hr Cool Down
0.39
1 Hr Cubic Cool Down
15 Hr Cool Down
0.38
0.37
0.36
0.35
0.34
0 5 10 15 20 25 30
Temperature (°C)
図 3-5 3つの冷却速度での、温度対ピーク高さの比較
晶析の原理や、過飽和度と結晶化速度の関係については、以下の参考文献に詳述され
ています。
1. Jaroslav Nývlt, Kinetics of nucleation in solutions, Journal of Crystal Growth, Volumes 3–4, 1968, Pages
377-383.
2. John Garside, Industrial crystallization from solution, Chemical Engineering Science, Volume 40, Issue 1, 1985,
Pages 3-26.
3. D. O’Grady, M. Barrett, E. Casey, B. Glennon, The Effect of Mixing on the Metastable Zone Width and Nucleation
Kinetics in the Anti-Solvent Crystallization of Benzoic Acid, Chemical Engineering Research and Design, Volume
85, Issue 7, 2007, Pages 945-952.
4. Noriaki Kubota, Masaaki Yokota, J.W. Mullin, Supersaturation dependence of crystal growth in solutions in the
presence of impurity, Journal of Crystal Growth, Volume 182, Issues 1–2, 1 December 1997, Pages 86-94.
5. Mark Barrett, Mairtin McNamara, HongXun Hao, Paul Barrett, Brian Glennon, Supersaturation tracking for the
development, optimization and control of crystallization processes, Chemical Engineering Research and Design,
Volume 88, Issue 8, August 2010, Pages 1108-1119.
Crystallization and Precipitation 9
Peak Height
Page10
4 結晶の粒度分布および形状分布の重要性
一口に結晶のサイズ・形状・凝集状態と言っても、それが単
純でないことは、ParticleViewで撮影した画像を見るとよく a.
わかります。大きくてごろごろした塊状結晶から、美しく繊
細な樹枝状結晶まで、生成する結晶は頻繁に姿を変えるも
のであり、分離や後工程を効率化するための検討に課題を
投げかけます。
晶析工程の後には、通常、ろ過や遠心分離工程があり、
結晶の粒度分布と形状はそれら単位操作の効率に著
しい影響を及ぼします。一時間で終わる晶析を設計し
ても、ろ過に24時間かかったのでは使い物になりませ 150 µm
ん。ParticleViewの画像を見ると、このように姿かたちの異
なる結晶がろ過でどのような挙動を示すかについて、ヒント
が得られます。 b.
a. この結晶は迅速かつ一定速度でろ過できるでしょう。大
きな塊状結晶は結晶間にすきまが多く、ろ液が迅速に抜
けるからです。
b. このような板状結晶は、ろ過がもっとも困難かもしれま
せん。板状結晶同士が重なり合い、層を作り、ろ液をせき
止めてしまうからです。これによりろ過時間が長くなった
り、晶析槽から結晶がどのように排出されたかによって、 150 µm
ろ過時間がばらついたりします。
c. これもろ過時間が長くなる例のひとつです。微小結晶が
大きな結晶の間を埋めてしまい、結晶がろ液が抜けるの c.
を妨げます。晶析工程の最後に(収率を上げるため)高速
で冷却したり非溶媒を添加することがよくありますが、
二次核の大量発生の原因となりこのような問題が頻発し
ます。さらに晶析終了後のスラリー排出時に撹拌を速く
することも結晶の破砕で同様の問題を引き起こします。
d. このような結晶は、とりわけ種晶添加を行った有機物の
晶析で、想像以上に多く発生しています。ただオフライン
の顕微鏡観察では、サンプリングと試料調整の段階で崩 150 µm
れてしまうため発見が難しいだけなのです。
一方ParticleViewは美しい樹枝状構造を映し出します。
樹枝状結晶は粉砕した種晶を使用するとよく発生しま d.
す。表面の荒れた面から結晶が成長し、長い結晶の枝が
種晶を核として成長します。このような結晶がどのような
ろ過性を持つかを予測することは難しいのですが、結晶
が壊れやすいため、ろ過時間がばらつくと考えられます。
150 µm
図 4-1 ParticleView リアルタイム顕微鏡画像
10 Crystallization and Precipitation
Crystallization Guide
Page11
ろ過は、結晶の粒度分布が重要である理由のひとつに過ぎません。多くの製品にとって
結晶サイズは製品の効果、例えば、医薬品の体内への吸収速度や、高エネルギー燃料の
燃焼速度に影響します。プロセスに関して言えば、例えば粒度分布と粒子形状により流
動性が変わるはずです。図4-1は結晶粒度分布が重要な役割を果たす様々な分野をまと
めたものです。
アプリケーション 製品品質 プロセス品質
原薬 効き目の速さ(小さな結晶は速く溶けるの 乾燥速度(大きな結晶は容積比で表面積が少
で速く効く) ないため乾燥に時間がかかる)
燃料 燃焼速度(小さな結晶はより高いエネルギ 安全取扱い(微小結晶は揮発性しやすく危険)
ーで速く燃える)
農薬 分離(粗い結晶はタンク内で沈殿し、均一 収率(微小結晶はフィルターをつまらせ、複数回
に散布できない) の洗浄が必要となり収率が下がる)
砂糖 流動性(均一の結晶ができれば、製品の流 制御性の悪化(核発生過多による微小結晶は、
動性が高まる) 工程を不安定にする)
アミノ酸 バイオアベイラビリティ(微小結晶は溶解 スループット(粒度分布が広いと撹拌性が悪く
が速い) なり、工程間の移送が困難)
バルク化学品 価格(結晶の粒度を変えられれば、目的を 遠心分離(微小結晶は遠心分離しにくく途中停
変えて異なる価格で売ることができる) 止の原因となる)
表 4-1 いろいろなアプリケーションにおける結晶粒度と製品およびプロセス品質の関係
ケーススタディ
12500 Increased Fines Generation 70
(Secondary Nucleation)
10000
プロセス条件の選択が結晶サイ 60
ズを大きく左右するのは、結晶 7500 Temperature (°C)Fines (#/sec, 0-20 µm)
化速度が過飽和度に依存するか
5000
ら(3章)、またはより物理的な、 50
Increased Cooling Rate
つまり晶析槽内の撹拌条件が結 2500
晶の破砕や凝集に影響するから
です。 0 4004:00 08:00 12:00 16:00 20:00 24:00
Relative Time (hr:min)
図4-2と図4-3は晶析実験の最後 図4-2 ParticleTrackデータ: 温度とカウント数(0~20μm)の時間変化から冷却速度
に冷却速度を速めることで、いか の上昇が二次核発生を助長していることがわかる
に二次核発生が起き、微小結晶の
600
カウント数(20μm以下)が急激 Cooling Ramp 1 100 µm
Cooling Ramp 2
に増えるかを示しています。冷却 500
速度を速めると過飽和度が上昇
400
し、核発生が成長を上回ります。
所望の粒度の結晶をより多く生成 More fines, 300 100 µmsmaller crystal size
させるためには、工程全体を通し
200
て冷却速度を注意深く制御しな
ければなりません。 100
0
1 10 100 1000
Chord Length (µm)
図 4-3 二回目の冷却匂配で微小結晶が増加していることをParticleTrackとParticleView
で確認
Crystallization and Precipitation 11
Counts per Second Counts (Fines, 0-20 µm)
Temperature (°C)
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図4-4に高せん断湿式粉砕中の結晶サイズと結晶形状の変化を示しました。最初、
棒状の結晶があり、湿式粉砕によって結晶が小さくなり、カウント数が増加していま
す。ParticleTrackとParticleViewでこの進行をモニターすることで、望ましい終点を検出
し、適切なサイズおよび形状の結晶を再現性良く得られるようになりました。
a. Begin Milling Endpoint Not Yet Reached
90
13000
80
12000
11000 70
Particle Count (Fines)
Mean Dimension
10000 60
9000
50
00:00 05:00 10:00 15:00 20:00 25:00 30:00
Relative Time (hr:min)
b.
100 µm 100 µm
図 4-4 a.湿式粉砕におけるカウント数と平均コード長の時間変化
b.同プロセスにおける7分後(左)と30分後(右)のParticleView画像
12 Crystallization and Precipitation
Crystallization Guide
Counts per Second
Mean Chord Length (µm)
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5 まとめ
本ホワイトペーパーでは晶析開発のための基本的な知識、特に結晶粒度分布と形状分
布の制御という点に重点を置いてまとめてまいりました。晶析原理を十分理解すること
は、効果的な晶析工程を構築し、確実に製造へとスケールアップするために不可欠であ
りますが、このガイドでカバーできなかった点も多くあります。種晶添加、スケールアッ
プ、プロセスや製品を適切に制御するための正しいプロセス条件の選び方など、フォロー
アップのためのホワイトペーパーや数多くの晶析実験と改善法を今後も作成予定です。
インライン粒子特性評価のベストプラクティス
このホワイトペーパーはインライン粒度分布・カウント測定によって、
研究や製造での製品品質とプロセス性能をどのように改善するかの概
要を述べています。インライン装置の導入により、オフラインサンプリ
ングと試料調整に伴う測定誤差やばらつきが排除されます。
www.mt.com/wp-E25
In Situ顕微鏡を使用した晶析工程の理解
このホワイトペーパーは従来のオフライン観察法に対し、in situ顕微
鏡が迅速な代替え法であることを示すとともに、グラクソスミスクライ
ン、メルク、Sintef、ダブリン大学らによる晶析工程研究への新規性の
高いin situ顕微鏡の適用例について解説しています。
www.mt.com/wp-PVM
Crystallization and Precipitation 13
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付録 A : FBRM®法(Focused
Beam Reflectance Measurement、
収束ビーム反射測定)を用いた
ParticleTrack
最適化のためのリアルタイム測定法 - ParticleTrackは非常に高精度、高感度な技術で
あり、粒子サイズ、粒子形状、粒子数の変化を追跡します。検出範囲は0.5~2000μmと
広く、粒子の形成挙動をリアルタイムに測定できるために、プロセスの制御と最適化に用
いられます。また、高濃度なサンプル(70%やそれ以上)や、不透明な懸濁液でも、サン
プリングやサンプル調整が不要です。
www.mt.com/ParticleTrack
図c. コード長分布
レーザー光源
反射したレーザー光
光学系
1 2 3 4
図 b
図 a 図d. 統計値のトレンド
グラフ
サファイアウィンドウ
ParticleTrackの原理
ParticleTrackプローブを溶液や流動する高 されます。通常1秒毎に数千のコード長
濃度スラリー・液滴・エマルション、または が個々に測定され、コード長分布(Chord
流動層に直接差し込みます。収束された Length Distribution:CLD)が形成されます
レーザーが、接液部であるサファイアウィ (図c)。CLD は粒子全体の指紋であり、そ
ンドウの表面で収束させられます(図a)。 こから得られる統計値を用い、粒子のサイ
拡大図はレーザー光が粒子の集合体で後 ズや個数の変化をリアルタイムでモニタリ
方散乱され、プローブに戻る仕組みを示し ングすることができます(図d)。従来の粒
ています(図b)。後方散乱光のパルスはプ 子分析技術とは異なり、ParticleTrackは粒
ローブで捕捉され、コード長に変換されま 子の形状を仮定しません。よってこの原理
す。コード長とはスキャン速度(レーザー による測定値は、粒子のサイズ・形状・個
光の移動速度)とパルス幅(時間)を掛け 数の変化を直接表す測定値として利用で
たものです。一つのコード長(測定された きます。
粒子のサイズ)とは粒子や粒子集合体の、
ある一端から一端までの直線距離と定義
14 Crystallization and Precipitation
Crystallization Guide
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付録 B:PVM®(Particle and Vision Microscope、
粒子画像顕微鏡)技術を用いたParticleView
PVM技術を用いたParticleViewはリアルタイムで粒子や粒子のメカニズムを視覚化するプ
ローブ型の機器です。サンプリングやオフライン分析を行う必要はなく、幅広いプロセス
濃度において高品質な画像を連続的に取得できます。粒子サイズや濃度の変化に感度の
良いプロセスのトレンドは自動的に最も関連のある画像に組み合わされるために、研究
者はすべての実験においてプロセスを包括的に理解することができます。
www.mt.com/ParticleView
光源
カメラ
PVM 光学系
プロセス内の粒子
サファイアウィンドウ
ParticleViewの原理
ParticleViewは高解像度のカメラ
と内蔵光源で、暗い高濃度スラリ
ーやエマルション中でも高品質の
画像を採取します。キャリブレー
ションは不要なので、データ解析
200 µm
が容易であり、結晶・粒子・液滴
の挙動に関する重要な知見を即
座に得ることができます。
左: ParticleView インライン画像
右: オフライン顕微鏡
Crystallization and Precipitation 15
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参考文献
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Engineering and the Effect on Drug Product Formulation” Organic Process Research &
Development, 9, 894-901 (2005).
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Width and Nucleation Kinetics in the Anti-Solvent Crystallization of Benzoic Acid, Chemical
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10. Noriaki Kubota, Masaaki Yokota, J.W. Mullin, Supersaturation dependence of crystal
growth in solutions in the presence of impurity, Journal of Crystal Growth, Volume 182,
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