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本ガイドでは、静電気電荷の物理的な特性を説明し、計量時にどれほどの誤差を引き起こすのかをご説明します。
一般的なラボの作業のさまざまな例において、静電気が計量する物質および計量皿に力を加え、計量結果に相当の誤差を引き起こすかをご案内します。
また、静電気についての物理学の簡単な説明の後で、静電気の発生および消散の問題や、Excellence分析天びんがその存在を検出する方法、計量誤差の大きさ、そして正確な計量結果を得るためにはどのようにしてその電荷を消すかについてご案内します。
このカタログについて
ドキュメント名 | 計量における静電気 革新的な検出ソリューション |
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ドキュメント種別 | ホワイトペーパー |
ファイルサイズ | 1.1Mb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | メトラー・トレド株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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計量における静電気
革新的な検出ソリューション
要旨
ラボでは、サンプルや容器に帯びた静電気の力が、計量皿、風袋容器、計量する試料に
作用し、不正確な計量結果を引き起こす例がたくさんあります。本文書では静電気電荷
の物理的な特性を説明し、計量時にどれほどの誤差を引き起こすのかをご説明します。
また、最新のExcellence分析天びんがこの力を検出し、その影響を低減、または無くし、正
確な計量結果を達成させる方法をご説明します。
概要
一般的なラボの作業のさまざまな例において、静電気が計量する物質および計量皿に
力を加え、計量結果に相当の誤差を引き起こすかをご案内します。また、静電気につい
ての物理学の簡単な説明の後で、静電気の発生および消散の問題や、Excellence分析天
びんがその存在を検出する方法、計量誤差の大きさ、そして正確な計量結果を得るた
めにはどのようにしてその電荷を消すかについてご案内します。
目次
1. はじめに 2
2. 静電気に関する物理的内容 3
―どのような状況が危険か?
3. 静電気と、静電気による計量精度への影響 4
4. Excellence 分析天びんの静電気検出方法 5
5. Excellence 天びん搭載の新しい「StaticDetect」機能 6
6. 静電気による計量エラーを回避する対処法 7
結論 8
参考文献 8
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1. はじめに
多くのラボでは日常的に下記の事象が起こっています:
分析天びんは、しばしば決められた濃度の溶液を調製する目的で、ガラスフラスコに一定量の粉末を入れる
ために使用されます。
例えば、100mlのメスフラスコが計量皿に置かれます。通常、フラスコは静電気を帯びており、そのため相補
的な電荷が計量チェンバーに蓄えられます。これによって正味の引力が発生します。
この正味の力は、フラスコを下方向へ引っ張り、実際の計量物質の重さ以上の重さにするか、または上方向
に押し上げて、軽く見せることがあります。一般的な分析ラボのような、空気が乾燥している、または温度が
調節されているような環境では、電荷が簡単に発生し、大きな測定誤差を起こします。通常は、天びんの表
示値が一定していることを確認し、オペレーターが天びんの風袋引きを行い、手作業で粉末を分注すると
いう、手間と時間のかかる作業を行います。
静電気による力が発生した場合には、オペレーターが粉末を多めまたは少なめに分注してしまい、最終的に
間違った濃度の溶液を調製することになります。典型的な例としては、風袋容器における電荷が時間ととも
に少しずつ環境に消散していくので、ユーザーがずっと多めの粉末を追加することになり、その後の工程の
作業エラーにつながります。その結果、調製した溶液濃度が誤って高くなり、一部の分析測定状況では致命
的なエラーとなります。たとえば、規格外(OOS)の結果につながり、更に多大な再検査の作業が強いられる
ことになります。
少量のサンプルを大きなガラスまたはポリマーの容器で計量することは、静電気によって計量結果の誤差
を大幅に増やしてしまう典型的な例です。
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2. 静電気に関する物理的内容 ―どのような状況が危険か?
2.1 静電気
クーロンの法則 [1] では、電荷間に働く力の大きさ、 FE は、以下のように表されます :
FE = 1 Q1 Q2 または簡略化して: FE = ke Q1 Q2 [1]
4πε0εr r 2 r 2
ke : クーロン定数
Q : 2つの物体の個別の電荷量
r : 物体間の距離
ε0 & εr は絶対的および相対的な誘電率
2.2 計量における静電気の影響
天びんまたは計量される物質/容器における電荷が静電気の力を引き起こします。天びんはその力のうち、
垂直方向の成分を測定し、Δm の重量変化として解釈します。
FE = g ∆m [2]
g は重力定数です。
[1] と [2] を組み合わせると、質量の変化(または計量結果に及ぼす影響)は、以下式で表されます :
∆m = 1 k . Q1 Q2 [3] ( e )
g r 2
図 1:計量容器に帯電した正電荷と、天びん本体の負電荷の間
に生じる力線を示しています。電位差によって、天びんと計量す
る物質との間に力が作用します。垂直方向の力が重量に影響し、
計量結果に影響します。
物体(例えば計量容器)はどのようにして静電気を帯びるのでしょう?静電気を生じる主な原因は摩擦で
す。物理学の授業で、ガラスの棒を布に擦ると、小さい紙屑を引きつけたり、髪の毛が上がっていく実験をし
た記憶があることでしょう。
1) 摩擦以外でも電荷が生じることがあります。単に、2つの物質を離す(例えばプラスチックでガラスフラスコを取り上げるなど)こと
で電荷が生じることがあります。それぞれの物質の摩擦帯電性特性が離れているほど電荷は強くなります。
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ラボの中で、物体が帯電する要因は、たとえばガラスビーカーを布で乾かしたり、計量容器を使い捨て手袋
で触ることなどが挙げられます。また、ラボ容器をビニール袋から取り出したり、物質を入れたりするだけで
も、測定できるだけの静電気を生成することがあります。
静電気は時間が経過すると消散します。絶縁性の低い物体では消散が速いですが、絶縁性の高い物体では
消散が遅くなります。ほとんどのラボ用容器や用具はホウケイ酸ガラス製であり、それらは卓越した電気絶
縁材でもあります。ラボ用に使用されるプラスチックにも同じことが言えます。また、一般的な窓ガラス(ケイ
酸ナトリウムガラス)は湿度が低い状況においては卓越した絶縁材です。
2.3 電荷の消散
帯電物体の表面導電性は静電気の消散率に影響する重要な要因です。表面導電性が高いほど、静電気は速
く消散します。表面導電性は材料の特性や、空気湿度、および表面汚染の度合いによって左右されます。冬
季の、暖房の効いた部屋で空気湿度が 45% 以下の場合には、静電気に対する注意が必要です。また、多く
のプラスチックは、空気湿度が高い環境においても非常に高い絶縁性を保っています。同じ試料に複数回
の計量で計量値が異なった場合、もしくは計量値がドリフトするような場合には、通常は静電気が影響を及
ぼしていることが考えられます。その結果、クーロン力の垂直方向の力が変化し、正確な計量は難しくなり
ます。
時間 [分] 時間 [分]
図 2 :
100ml ホウケイ酸ガラス製フラスコからの、一般的な時間に依存 同様に、 PTFE 製の計量容器での評価結果です。湿度が高い時
する静電気の消失の挙動です。時間の経過により計量値の錯誤 でも、長期間に渡ってかなりの計量エラーが観察されます。
が減少します。相対湿度80% の環境で、ガラスフラスコが帯電
することはありません。
表面の汚染度合い、相対湿度および材料特性が電荷消散の時間定数を左右します。状況によって、電荷の
消散には数秒間から数分間かかります。制御下の、相対湿度が 20% 以下の乾燥した空気では、計量される
材料の電荷が数時間残留することもあります。
3. 静電気と、静電気による計量精度への影響
通常、プラスチックの容器に入った試料を計量する実験では、数ミリグラムの計量エラーが見られます。それ
は方程式 [1] によるクーロン力 FE によるものです。 しかし、場合によっては 100㎎ ほどのエラーが出るこ
ともあります。従って、小さな試料を計量する際には、計量に大幅なエラーが発生することがあります。この
ような状況は、計量値のドリフトおよび繰り返し性の悪さによって確認することができます。
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測定エラー [mg]
測定エラー [mg]
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このエラーは、適切な静電気に対する措置、例えばイオン発生器や、電荷の消散を待つことによって対処す
ることができます。しかし、その問題が困難であるか、または確認しにくい場合もあります。例えば静電気が
存在しながらも、安定した計量ができた場合などです。
静電気による計量値への悪影響を自動的に検出することで、静電気への対策がより簡単となり、計量結果
の信頼性を高めます。これは計量技術における大きな進歩でもあります。
4. Excellence 分析天びんの静電気検出方法
メトラー・トレドが新しく開発した、サンプルに帯電した静電気の検出方法を紹介します。天びんの計量皿の
下に、同心電極が内蔵しています。検出の際、振幅 60V、周波数 1.2Hz の交流方形波が与えられます。
方形波の正の半サイクルの際、電極には正電荷キャリアが生成します。計量物質が電荷を帯びていない場
合には、方程式 [1] による力が発生しないため、計量セルは試料の実重量を計量します。
計量物質が負の電荷を帯びている場合には、負の電荷を帯びた計量物質と電極の間に一時的に引力が発
生します。計量セルはこの力のうち、垂直方向の成分の力を感知します。その結果、計量セルは実質量を超
える力の大きさを計量します。このケースは図 3a で説明されています。方形波の次の半サイクルでは、負の
サイクルとなり、電極には負電荷キャリアが生成します。ここでは計量物質と電極の間には斥力が作用し
(図 3b)、計量結果は実質量を下回るようになります。潜在的な計量誤差は、上記2つのパラメータによる
計量値から、相関係数を使用して計算します(図 4)。図 4 に、この相関関係を表すグラフを示します。
また、計量物質が正の電荷を帯びている場合には、上記の説明が逆になります。
ステップ 1 ステップ 2
垂直方向
の力 垂直方向
の力
電極 電極
図 3a:計量する物質と電極の間には引力が作用します。垂直方 図 3b:計量する物質と電極の間には斥力が作用します。垂直方向
向の力が重量に影響し、計量結果が大きくなります。 の力が重量に影響し、結果計量結果が小さくなります。a と b の差から静電気による計量エラーを特定します。
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この機能は、ロックインまたは同期検出技術を使った優れた信号処理によって、信号対雑音比を改善し、ノ
イズの干渉を抑制できます。電荷検出は電荷生成器の正確な励磁周波数だけで測定します。周波数の最適
な選択により、静電気影響の測定は数秒で、天びんの安定時間内に収まりますので、オペレーターの計量
作業に影響することはありません。
測定エラー [mg]
図 4:測定結果は、計量の実際の誤差と幅広いレンジで相関関係が見受けられました。本実験は、様々なレベルで帯電した、さまざ
まな計量容器を使用して検証を行ったものです。帯電センサは、実際の誤差が、表示値を超えないように校正されています。
ちなみに物体の静電気帯電状況の検出方法は他にもあります。しかし、それらの方法すべては、静電気がど
の程度計量値に影響しているかを推定することはできません。方程式 [1] では、両電荷に発生する力はそ
の距離に依存することが明白です。そのため、その力は空間的位置に依存しています。そのギャップを埋め
るためには、既述の測定方法のみが適切です。
他のアプローチと比べて、この測定方法は電磁的干渉の影響をも受けません。
5. Excellence 天びん搭載の新しい「StaticDetect」機能
Excellence XPE分析天びんは、試料が計量皿に置かれた瞬間に静電気検出サイクルを自動的に開始し、計量
する物体が帯電している場合には、オペレーターに警告を出します。オペレーターはグラム単位の検出しき
い値を設定できます。第 4 章で説明したとおり、この検出による計量作業の遅延は発生しません。
静電気計測中の際には青色のライトが点灯します。その後、2 つのケースがあります:
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センサの出力 [mg]
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• ステータス表示がオフになる:計量値が正確で、静電気による影響は抑えられています。
• ステータス表示が点滅する: 静電気による計量値への悪影響がある場合の警告です。天びんのターミナ
ルディスプレイで誤差の程度を表示する警告が出ます。精度を保証するために適切な静電気防止の措置
(第 6 章を参照)が必要です。
6. 静電気による計量エラーを回避する対処法
1) 静電気の蓄積を防止する:
a) 導電性の高い、または静電気防止加工をされている材料を使用する。
b) 操作する際に、異質な材料との接触を避ける(摩擦帯電性を参照のこと)。
c) アースによる対策をする。
d) 空気湿度を高くする。静電気はしばしば冬季に暖房の効いた(乾燥した) 部屋において発生します。
エアコンの効いた部屋なら、設定を適切に(相対湿度45~60%) すると解決する場合があります。
2) 静電気による力を低減させる。
a) 計量物質を、計量皿上のファラデーケージの中で測定をします。例えば、 メトラー・トレドの「Ergo-
Clip」風袋容器ホルダーを使用する。
b) 小さめの風袋容器を使う。
c) 計量する材料を計量皿の中央に置いて、縁からはみ出ないようにする。
d) 軽くて電導性の高いパッドを敷き、風袋容器と計量室間の距離を拡げる。
3) 帯電を消散させる:
a) メトラー・トレドの静電気防止イオナイザーを活用する。メトラー・トレドの静電気防止は交流(AC)回
路によるイオン発生器で、気流を変えずに最適な容器と試料の電荷消散を促進します。
b) 静電気除去ピストル (簡易除電機) を使う。ただし市販の製品は完全な効果はありません。
c) 空気をイオン化するために放射性物質(ポロニウム 210、弱い X 線源など)を使う。ただし国によって
規制されていることがあります。
d) 天びん(計量皿を含む)を接地させる。すべての 3 ピン電源プラグ付き メトラー・トレド天びんは自
動的に接地されています。
図 5:試験管やチューブ等の風袋容器をサポートするツールとして
金属バスケットを採用すると、静電気の影響を防ぐことができます。
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結論
静電気による計量値への悪影響を自動的に検出することで、静電気への対策がより簡単となり、計量結果
の信頼性を高めます。これは計量技術における大きな進歩でもあります。既存の計量セルを検出に使用す
るため、天びんが計量する物質の静電気を感知するだけでなく、測定誤差の大きさも合わせて測定するこ
とが可能です。これは、オペレーターが正確かつ信頼できる計量結果を期待できる保証となります。
また、計量する物質や風袋容器の静電気を除去するためには実証された対処法を取る必要があります。例え
ば物体のサイズ、表面抵抗率を低減させる、ファラデー効果で静電気の影響を最小化する(「ErgoClip」)、
相対湿度を上げる、イオナイザー装置を使用するなどです。
参考文献
計量ガイド
Reichmuth A et al.; The Uncertainty of Weighing Data Obtained with Electronic Analytical Balances. Microchimica
Acta 148, 133–141 (2004) DOI 10.1007/s00604-004-0278-3
Reichmuth A (2001); Weighing accuracy with laboratory balances. Proc 4th Biennial Conf Metrol Soc Australia,
Broadbeach (QLD, AU), p 38
Reichmuth A, Mettler Toledo; Einflüsse und deren Vermeidung beim Wägen
Reichmuth A, Mettler Toledo; Weighing small samples on laboratory balances
計量における静電気の影響:誤差と問題を回避する措置
www.mt.com
メトラー・トレド株式会社 ラボラトリー・ライフサイエンス事業部 詳細はこちら
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