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【技術資料】ポリマーの熱分析(ポリマー・アプリケーションハンドブック)

ハンドブック

ポリマーのアプリケーション事例、特に熱可塑性物質、熱硬化物質、エラストマーの挙動を分析する方法について掲載しています。

掲載内容一例
-熱可塑性樹脂のDSC、TGA、TMA、DMA測定
-熱硬化性樹脂のDSC、TGA、TMA、DMA測定
-エラストマーのDSC、TGA、TMA、DMA測定
など

このカタログについて

ドキュメント名 【技術資料】ポリマーの熱分析(ポリマー・アプリケーションハンドブック)
ドキュメント種別 ハンドブック
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取り扱い企業 メトラー・トレド株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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このカタログの内容

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Thermal Analysis User Information for Users Com Application Handbook ポリマーの熱分析 Selected Applications Thermal Analysis
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Selected Applications Thermal Analysis ポリマーの熱分析 このアプリケーションハンドブックでは、厳選されたアプリケーション例をご紹介します。 実験は、各アプリケーションの説明に記載した機器を使用し、細心の注意を払い行いまし た。結果の解析は、弊社に蓄積されている最新の知識に基づいています。 ただし、これらの例がお客様のメソッド、機器、目的にふさわしいかどうかについては、お 客様ご自身でご確認ください。アプリケーションの譲渡および使用に関しては弊社の管轄 外であり、弊社は一切の責任を負うことができません。 化学薬品、溶剤、ガスをご使用になる場合は、一般的な安全規則に加えメーカーまたはサ プライヤーの指示に従ってください。 ® TM すべての商品名は特に明示されていない場合でも、登録商標である可能性があり ます。 METTLER TOLEDO Selected Applications ポリマーの熱分析 3
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はじめに 熱分析は最も古い分析技術の 1 つです。歴史を振り返ると、人は物質が本物か偽物かを 単純な温度試験により判断していました。 熱分析が現在のような形になったのは、1887 年だとされています。この年に、フランスの 有名な化学者である Henry Le Chatelier が最初の熱測定を粘土上で行いました。 その数年後の 1899 年には、英国の化学者 William Roberts-Austen が最初の示差熱測 定を行い、それが DTA の発明へとつながったのです。 ただし、業務用機器が登場するのは 1960 年代に入ってからです。それから現在に至る 50 年の間に、熱分析は猛烈な勢いで発展を遂げました。 機器開発の原動力となったのは、材料科学、特に新しい材料の開発において極めて大き な進歩があったことです。現在では、その軽量さ、経済的な生産性、優れた物理的特性お よび化学特性によって、幅広い製品にさまざまな種類のポリマーが使用されています。 熱分析は、物質の特性や相転移の分析、ポリマー材料の特性評価に最適な手法です。 このハンドブックでは、ポリマー分野における熱分析の応用例について詳しく説明しま す。熱分析は他の多くの業界でも使用されています。 サーモプラスチック、熱硬化性物質、エラストマーの分析の説明は、年 2 回発行のユーザー 向け技術誌である UserCom (www.mt.com/ta-usercoms) に別途掲載されています。 ここでご紹介するアプリケーションがお客様の業務に役立ち、ポリマー分野での熱分析メ ソッドに秘められた大きな可能性を理解していただくきっかけとなれば幸いです。 Dr. Angela Hammer および、メトラー・トレド Materials Characterization グループの編集 チーム (以下) Nicolas Fedelich Samuele Giani Dr. Elke Hempel Ni Jing Dr. Melanie Nijman Dr. Rudolf Riesen Dr. Jürgen Schawe Dr. Markus Schubnell METTLER TOLEDO Selected Applications ポリマーの熱分析 5
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1. はじめに 8 1.1 このハンドブックについて 8 1.2 主要な熱分析手法 8 1.3 DTA 8 1.4 SDTA 8 1.5 DSC 8 1.6 TGA 8 1.7 EGA 8 1.8 TMA 8 1.9 DMA 9 1.10 TOA 9 1.11 TCL 9 1.12 アプリケーションの概要 9 2. 熱可塑性樹脂の DSC 測定 10 2.1 はじめに 10 2.2 実験の詳細 10 2.3 測定と結果 10 2.4 文献 14 3. 熱可塑性樹脂の TGA、TMA、DMA 測定 15 3.1 はじめに 15 3.2 熱重量分析 (TGA) 15 3.3 熱機械分析 (TMA) 15 3.4 動的粘弾性分析 (DMA) 17 3.5 熱挙動の概要と結果の比較 17 3.6 文献 18 4. 熱硬化性樹脂の DSC 測定 19 4.1 はじめに 19 4.2 実験の詳細 19 4.3 示差走査熱量分析 (DSC) 19 4.4 文献 22 5. 熱硬化性樹脂の TGA、TMA、DMA 測定 23 5.1 はじめに 23 5.2 熱重量分析 (TGA) 23 5.3 熱機械分析 (TMA) 23 5.4 動的粘弾性分析 (DMA) 24 5.5 熱挙動の概要と結果の比較 25 5.6 結論 25 5.7 文献 26 6. エラストマーの DSC、TGA 測定 27 6.1 はじめに 27 6.2 実験の詳細 27 6.3 測定と結果 27 6.4 文献 31 7. エラストマーの TMA、DMA 測定 32 7.1 はじめに 32 7.2 測定と結果 32 7.3 熱挙動とアプリケーションの概要 35 7.4 結論 35 7.5 文献 36 8. 詳細情報 38 METTLER TOLEDO Selected Applications ポリマーの熱分析 7
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1. はじめに 1.1 このハンドブックについて 1.3 DTA グナルは、サンプルが吸収または 本ハンドブックでは、熱分析を 放出するエネルギー (単位: mW 使用してポリマー、特に熱可塑性 示差熱分析 ) です。DSC を使用すれば、吸 物質、熱硬化性物質、エラストマ DTA では、サンプルと不活性の標 熱および発熱の検出、ピーク面 ーの挙動を分析する方法につい 準物質との間の温度差が温度の 積 (転移および反応のエンタル てご説明します。各章では多くの 関数として測定されます。DTA シ ピー)の解析、ピークまたは他の 興味深い例を挙げ、物理的特性 グナルの単位は、°C または K で 現象の生じる温度の評価、およ の測定、さまざまな種類の転移、 す。従来は、熱電対電圧 (単位: び比熱容量の測定が可能になり 劣化、フィラーおよび添加剤の効 mV) が表示されていました。 ます。 果、生産条件の影響に対して、熱 分析がどのように役立つかを説 1.4 SDTA 1.6 TGA 明します。 シングル DTA 熱重量分析 実験には、3 つの異なる種類のプ この手法はメトラー・トレドの特 TGA は重量の測定、すなわち、温 ラスチック、つまり熱可塑性物質 許技術で、従来の DTA の変化形 度に対するサンプル質量の変化 (PET)、熱硬化性物質(KU600)、 です。熱重量分析と組み合わせ を測定します。従来、この手法は エラストマー(W001)を使用しま て使用する場合に特に効果を発 TG という略語で呼ばれていまし した。 揮します。測定シグナルは、対象 た。 サンプルと事前測定され保存さ 1.2 主要な熱分析手法 れているブランクサンプルとの温 最近では、Tg (ガラス転移点) と 以下のセクションでは、主要な 度差を表しています。DTA および の混同を避けるため、TGA という 熱分析手法を簡単に説明しま SDTA を使用すれば、吸熱および 用語が一般的に用いられていま す。本ハンドブックでご紹介する 発熱現象の検出、その熱挙動が す。TGA を使用すると、サンプルの DSC、TGA、TMA、DMA の 4 つの 生じる温度の評価が可能になり 質量変化 (増加または減少) の 主要な測定手法は一般に、互い ます。 検出、段階的な質量変化 (一般 に補足しあう関係にあります。 に初期サンプル量に対する割合と 1.5 DSC して示される) の評価、質量減少 しかし、サンプルを完全に理解す または質量増加のステップ温度の るには、これら 4 つの手法すべて 示差走査熱量分析 測定が可能になります。 の組み合わせが必要になる場合 DSC では、サンプルを加熱か冷 もあります。図 1 に示すとおり、 却、または一定温度に維持したと 1.7 EGA ポリアミド 6 のサンプルの測定で きにサンプルと標準物質に流入 は DSC、TGA 、TMA が使用されて および流出する熱流が、温度の 発生ガス分析 (EGA) います。 関数として測定されます。測定シ EGA は、サンプルから発生した揮 発性ガス生成物の特性や量を温 図 1: さまざまな熱挙動 度の関数として測定する技術の を示すポリアミ 総称です。最も重要な分析手法 ド 6 の測定手法。 DSC: 結晶部分の は、質量分析および赤外分光分 融解ピーク、TGA: 析です。 乾燥および分解の ステップ、TMA: 荷 重による軟化。 EGA は一般に、TGA 機器と組 み合わせて使用します。これ は、TGA で測定する現象の中に 揮発性化合物の揮発 (質量減 少)が含まれるためです。 1.8 TMA 熱機械分析 TMA はサンプルの変形および寸 法変化を温度の関数として測定 する手法です。TMA ではサンプ 8 ポリマーの熱分析 METTLER TOLEDO Selected Applications Introduction
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ルに一定荷重、変調した荷重のい の関数として測定されます。DMA を使用して透過光および反射光 ずれかを加えます。膨張率測定で を使用すると、弾性率もしくは減 でのサンプルの視覚的な観察 の寸法変化は可能な限り最小の 衰挙動の変化に基づく熱挙動を や、光の透過率測定を行います。 荷重を使用して測定します。TMA 検出できます。最も重要な結果 一般的な用途は、結晶化および を使用すると、測定モードに応じ は、熱挙動の温度の測定、損失角 融解のプロセスや結晶多形の相 て熱挙動 (膨張または収縮、軟 (位相シフト)、動的損失率 (位 転移の評価です。 化、膨張係数の変化) の検出、 相シフトの損失正接)、弾性率ま その温度の測定、変形のステップ たはその構成要素である貯蔵弾 1.11 TCL 高さの測定、膨張係数の測定が 性率および損失弾性率、せん断 可能になります。 弾性率またはその構成要素であ 熱化学発光 る貯蔵弾性率および損失弾性率 Thermochemiluminescence) 1.9 DMA です。 TCL を使用すると、特定の化学反 応に伴う微弱な発光の観察およ 動的粘弾性分析 1.10 TOA び測定が可能になります。 DMA において、サンプルは正弦波 熱光学分析 Thermo-optical の機械的ストレスを受けます。過 Analysis) 重の振幅、変位(変形)の 振幅、 TOA では顕微鏡用加熱冷却ステー 位相ずれが、温度または周波数 ジもしくは顕微鏡を搭載した DSC 1.12 アプリケーションの概要 特性、アプリケーション DSC DTA TGA TMA DMA TOA TCL EGA 比熱容量 ••• • エンタルピー変化、反応エンタルピー ••• • 融解、結晶化エンタルピー ••• • 融点、融解挙動 (liquid fraction) ••• • • ••• 結晶性低分子物質の純度 ••• ••• • 結晶化挙動、過冷却 ••• • ••• 蒸発、昇華、脱離 ••• • ••• ••• ••• 固相―固相転移、結晶多形 ••• ••• • ••• ガラス転移、非晶質の軟化 ••• • ••• ••• • 熱分解、パイロリシス、解重合、劣化 • • ••• • • ••• 温度安定性 • • ••• • • ••• 化学反応 (例: 重合) ••• • • • 反応速度の解析および反応速度の応用 (反応予 ••• • ••• • 測) 酸化分解、酸化安定性 ••• ••• ••• • ••• 組成分析 ••• ••• ••• 異なるロットおよびバッチ、競合製品の比較 ••• • ••• • • ••• • ••• 線膨張率 ••• 弾性率 • ••• せん断弾性率 ••• 機械的減衰 ••• 粘弾性挙動 • ••• ••• は「最適」、• は「適用可能」を表します METTLER TOLEDO Selected Applications ポリマーの熱分析 9
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2. 熱可塑性樹脂の DSC 測定 2.1 はじめに 一つが、飲料用プラスチックボ プルパンの底面とぴったりと熱接 本章では、DSC を使用して熱可 トルです。PET はスポーツウェア 触するように、サンプルの底面は平 塑性樹脂、PET (ポリエチレンテ の衣料分野でも繊維として使用 滑な表面を有するように注意して レフタレート) を分析する方法を されます。この理由は、しわが寄 サンプリングする必要があります。 包括的に説明します [1]。さまざ らない、耐裂性、耐候性、水をほ サンプルをサンプルパンに詰め込 まな手法で測定した結果を互い とんど吸収しないというような む際には、サンプルパンの底が変 に比較します。主なトピックは以 優れた特性を持っているためで 形しないように、フラットな板、押 下のとおりです。 す。さらに、PET からは、厚さ 1 し棒等を用いて注意しながらセッ • ガラス転移 ~500 µm の包装用フィルム、家 トし、サンプルパンを密閉しました。 • 冷結晶化 具用フィルムまたは遮光フィルム • 再結晶化 等が製造されています。出来上が 2.3 測定と結果 • 溶融 ったフィルムは被覆加工されるこ • 熱履歴 とが多いのですが、あるいは他の 示差走査熱量測定 (DSC) • 酸化誘導時間(OIT) フィルムと接着されて、ラミネート DSC は、サンプルの熱流を温度ま • 分解 フィルム化され、これらのフィルム たは時間の関数として測定する技 は例えばコーヒーパッケージ用の 法です。DSC により、物理的変化 PET 香りの保持フィルムとして食品業 と化学的変化(化学反応)を定量 熱可塑性樹脂のグループの代 界で広く使用されてきています。 的に熱量測定することができま 表例として、PET(Polyethylene このような材料の優れた品質を す[2]。異なる DSC 測定を行うこ Terephtalate)を測定サンプルと 確認し、用途に適した製品である とで、現象を分析することができ しました。構造式については、図 ための一定の品質を保証できる ます。図3 では、PET を DSC で 2 に示しました。PET は、テレフ ようにするためには、熱分析によ 測定した場合に起こる、もっとも タル酸とエチレングリコールの る材料の熱特性に関する情報が 重要な現象を示します。これらの 重縮合により製造されたポリエ 非常に重要になります。 DSC 曲線は物質ごとに特徴的で ステル系の熱可塑性樹脂で、多 あることが多く、ある特定の物質 種多様な分野で使用されていま 2.2 実験の詳細 の指紋のようなものとして扱うこ す。最もよく知られた使用例の 本試験ではメトラー・トレド とにより、品質管理に応用するこ 製 熱分析装置 FRS5 センサ付 とも可能です。図 3 は PET サンプ 図 2: き DSC 1を用いました。解析は ルの 1st heating で得られる典型 PETの構造式。 STARe ソフトウェアにより行いま 的な DSC 曲線です。ガラス転移、 した。測定サンプルは、試料量約 冷結晶化、融解の現象を見ること 3~10 mg としました。実験条件 ができます。このガラス転移はエ によっては予備加熱処理を行いま ンタルピー緩和を伴っており、吸 した。一般的には、サンプルはサン 熱ピークが重なっているように見 えます。この緩和はサンプルが長 図 3: エンタルピー緩和 い時間、ガラス転移より低い温度 を伴うガラス転 で保管されていた場合に起こりま 移、冷結晶化及び 融解を示す典型的 す。結晶化はサンプルが急速に冷 な PET の DSC 曲 却され、冷却中に結晶化する時間 線(温度範囲:30 がなかった場合に生じます。また ~ 300℃、昇温速 度: DSC 曲線から、比熱 cp を決定す 20 K/min、雰囲気 ることも出来ます。ガラス転移に ガス:50 mL/min はさまざまな解析方法があります 窒素)。 が、メトラートレド熱分析STARe ソ フトウェアにより、そのうちのいく つかの解析方法でガラス転移を 分析した例を図 3 に示します。 ガラス転移 ガラス転移は非晶質物質を加 熱、冷却した場合に特定の温度 範囲で起こる可逆的な転移です。 10 ポリマーの熱分析 METTLER TOLEDO Selected Applications Thermoplastics
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その特性を示す温度をガラス転 • PET の融点:Tmelt = 256℃ = その熱履歴に依存します。サンプ 移点 Tg と示します。物質は、冷却 529.16 K ルの融解熱を測定し、それをそ するとガラスのような脆い(柔軟 • ガラス転移点 Tg =(529.16) の 100% 結晶の融解熱で割るこ 性のない)状態となり、加熱する × 2/3 = 352.8 K すなわち とで求めることができます。X 線 と柔らかい状態に戻ります。[2, 79.6℃ 回折法で 100% 結晶性物質で 3, 4, 5]。熱可塑性樹脂の場合、 ガラス転移は DSC 曲線上におい あることを確認することができま ガラス転移は、それを超えると樹 てはステップとして現れ、固体か す。PET のような半結晶性サンプ 脂が成型可能となる温度範囲に ら液体に変化する時の 比熱容量 ルでは、そのガラス転移点を超え ほぼ相当することになります。ガ (cp)の変化を示しています。 たところで冷結晶化が生じ、測定 ラス転移が見られるサンプルは、 前のその物質の結晶化度を決定 一般的には半結晶性固体または 冷結晶化 することは難しくなります。従って 完全非晶質固体であり、通常のガ 冷結晶化は結晶化による発熱現 本章では、これについて、これ以 ラスまたはプラスチック(有機高 象です。融解後非常に急速に冷却 上議論しません。 分子)です。ガラス転移点を超え され、結晶化する時間的がなかっ ると、ガラスまたは有機高分子は たサンプルで生じます。ガラス転 再結晶化 軟化し、破壊させずに、塑性変形 移点以下では、分子の運動性は 再結晶化は、より小さな結晶が大 もしくは成型できるようになりま わずかであり、結晶化は起こりま きく成長する一種の再組織化プ す。この挙動は、プラスチックを せん。昇温してガラス転移点を超 ロセスです。このプロセスは昇温 非常に有用なものにしている特 えると、比較的低温でも小さな結 速度に依存します。昇温速度が遅 性の一つとなっています。ガラス 晶が形成されます。このような昇 くなるほど、再組織化できる時間 転移は動的現象であり、測定され 温過程で生じる再結晶化のこと がより長くあることになります。 たガラス転移は、冷却速度、サン を特に冷結晶化といいます。 再結晶化は発熱現象である結晶 プルが受けた熱履歴、機械的な 化と、吸熱現象である融解が同 履歴、解析条件などにより大きく 融解 時に起こるため、DSC で測定す 依存します。冷却速度が遅いほ 融解は固体から液体への転移で るのは困難です。 ど、その後の昇温測定で測定され す。吸熱現象で、純粋な物質では るガラス転移点は低くなります。 決まった温度で生じます。その温 昇温・冷却・昇温測定 これはガラス転移点が測定条件 度で転移の間、温度は一定にな 図4は、20 K/min の昇温・冷却・ に依存し、正確に定義できないこ ります。その状態変化のために必 昇温のサイクルで測定された とを意味します。DSC によるガラ 要な熱が、融解潜熱として知られ DSC 曲線です。この種の昇温・冷 ス転移の測定で、ガラス転移に ています。 却・昇温のサイクル実験は、サン 重なって非常によく観察されるの プルを 1 回目の昇温(1st run) が、エンタルピー緩和による吸熱 結晶化度 で、サンプルに決まった方法で、 ピークです。これはサンプルの履 結晶化度とは、半結晶性物質に 熱的な前処理を行う意味で、熱分 歴に依存します。ガラス転移点以 含まれる結晶の割合です。熱可塑 析では広く採用されています。図 下での物理的熱処理(アニーリン 性樹脂では結晶化度は、最大で 4 の 1st run は、図3 の DSC 曲線 グ)を反映した結果として、エンタ も 80% です。物質の結晶化度は に相当します。図から、2nd run が ルピー緩和ピークが観察されるこ 図 : とになります。ガラス転移点( ) 4 Tg エンタルピー緩和 においては、以下のような物理的 を伴うガラス転 な性質が変化します。 移、冷結晶化およ び融解の PETの昇 • 比熱容量( cp) 温・冷却・昇温の • 熱膨張率 CTE( TMAで測定可 リサイクルDSC曲 能) 線による比較 1st昇温:エンタル • 弾性率(DMAで測定可能) ピー緩和ピークあ • 誘電率 り、冷結晶化ピー クあり、 1st冷却:再結晶化 大まかにガラス転移点を計算する ピークあり 方法として 2/3 経験則を用いる 2nd昇温:エンタ ことも出来ます。この経験則は、 ルピー緩和ピーク及び冷結晶化ピー ガラス転移点は実測された融点 クは消滅。 の 2/3 (絶対温度 K で計算)に 相当するという法則です。PET の ガラス転移点を計算してみますと 下記のような結果となります。 METTLER TOLEDO Selected Applications ポリマーの熱分析 11
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1st run と大きく異なっていること 晶質の割合が小さくなり、結晶の 次の昇温時に冷結晶化による発 も分かります。2nd run では、融解 割合が大きくなったことを意味し 熱ピークが観測されます。例えば ピークの幅は広くなり、ガラス転移 ます。結晶化の結果として、非晶質 50 K/min で PET を冷却した場合 に伴うエンタルピー緩和と冷結晶 の割合が減少し、それに付随して は、冷却中にサンプルは完全には 化による発熱ピークがなくなって 結晶化度が増加しました。 結晶化が出来ず、次の昇温で、非 います。冷却過程ではサンプルは 晶質部分が冷結晶化します。 結晶化する十分な時間があり、冷 冷却速度の影響 却曲線では結晶化ピークがはっき 図 5 に、結晶化とその温度範囲 熱履歴 りと見られます。サンプルはその後 に対する冷却速度の影響について 図 6 は、サンプルに対する熱履歴 すぐに昇温されたため、物理的エ 示します。冷却速度が速いほど、 の影響を示したものです。PET サ イジングの時間がなく、エンタルピ 結晶化ピークがより低温へとシフ ンプルを 3 種類の条件で冷却し ー緩和は生じませんでした。この トすることになります。サンプルが ました。1 つ目は非常にゆっくりと ような昇温・冷却・昇温サイクルの 非常にゆっくりと冷却されると、そ 冷却、2 つ目は急速冷却し、3 つ 実験は、その熱履歴を見積もり、 の後すぐの 2nd run には冷結晶化 目はサンプルを急冷した後ガラス 製造過程の確認するのに用いら は観測されません。これに対して、 転移点より僅かに低い 65℃ で れます。2nd run では、ガラス転移 サンプルが急速に冷却された場 10 時間アニールしました。このよ のステップがより小さくなっていま 合には、サンプルには充分に結晶 うにして冷却した後の昇温測定で す。これは 1st run の時よりも、非 化する時間がないまま冷却され、 は、明確な差異が見れます。ゆっ くりと冷却されたサンプルでは、 図 5: ガラス転移の小さなステップしか 異なる冷却速度で の DSC測定。各冷 観測されず、冷結晶化が見られま 却過程(上)と、そ せん。結晶化する時間が十分にあ の後の昇温(下)。 遅い冷却速度で ったため、サンプル中の非晶質の は、冷却中に十分 割合は小さくなります。一方急冷 に結晶化する時間 されたサンプルの DSC 曲線には があるため、その 後の昇温での冷結 大きなガラス転移によるステップ 晶化がなくなりま が観測されています。このことは す。 非晶質の割合が高いことを意味し ます。更に結晶化するのに十分な 時間がなかったため、冷結晶化ピ ークが観測されるます。急冷後と 65℃ で 10 時間アニールされた サンプルでは、前述の急冷サンプ ルで見られた現象に加えて、エイ ジングの結果としてエンタルピー 緩和を示します。融解ピークに関 しては 3 サンプルともほぼ変わら 図 6: ない結果でした。融解は熱処理に 異なる条件で冷却 よる影響を受けないことが分かり した PETの昇温 ます。図 7 は、エンタルピー緩和カーブ。 おける、アニール時間の違いによ る影響を示したものです。サンプ ルをまず昇温速度 10 K/min で 30℃ から 300℃ に昇温して融 解後、ただちに急速冷却し、65℃ で等温保持してから、時間を変え て0~24時間の範囲でアニールし ました。そのサンプルを昇温速度 10 K/min で 30℃ から 300℃ ま で測定を行いました。サンプルの ガラス転移点以下での保持時間 が長いほど、エンタルピー緩和は 大きくなり、サンプルへの物理的 エイジング効果は強くなっている ことが分かります。エンタルピー 12 ポリマーの熱分析 METTLER TOLEDO Selected Applications Thermoplastics
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緩和ピークはサンプルが熱履歴 図 7: を受けていたことを表すものであ PET のガラス転移、およびエンタ り、ガラス転移の解析に影響を与 ルピー緩和へのア えます。このピークは一度サンプ ニール時間の影 ルをガラス転移より高い温度まで 響。 昇温させ急冷して、その後の昇温 を測定することで取り除くことが できます。サンプルの保管された 温度は重要な要因なので、、望ま しくない履歴(を与えないよう注 意すべきです。 昇温速度の影響 図 8 は、PET サンプルの DSC 測 定に対する昇温速度の影響を明 らかにしたものです[6, 7]。昇温 速度が速くなるほど、結晶化のた めの時間は短くなります。昇温速 度 300 K/min では、結晶化する 時間がなくなるために、融解ピー 図 8: 各種昇温速度で測 クが全く観測されません。 定した PETの DSC 曲線 (注)縦軸は比熱 TOPEM® 値(J/g・℃)の TOPEM® は、IsoStep や ADSCと ため、下向き→発 並んで、最新のもっとも強力な 熱方向、上向き→ 吸熱方向となりま 温度変調測定技術です。これに す。 より、可逆、不可逆の現象を分け ることができます。図 9 に、標 準的なパラメータを用いて解析 したPET の TOPEM® 測定の結 果を示します。サンプルは事前に 80℃ まで昇温後、炉から取り出 し冷たいアルミプレートの上に おいて急冷したものを用いまし た。TOPEM® 測定は 40uL アルミ パン(ピンホール開孔の蓋)を用 い、0.2 K/min の昇温速度で行い ました。 図 9 PET の TOPEM® 図 9 の一番上のデータが解析前 測定。可逆、不可逆、トータルヒー の測定データです。TOPEM® 解析 トフローカーブ。 をすることで、トータルヒートフロ ー(黒線)、可逆ヒートフロー(赤 線)、不可逆ヒートフロー(青線) に分けることができます。加えて、 準静的 cp0 が測定から求められ ます。その次の段階として、特定の 周波数における熱容量もしくは 位相を得ることができます。図で は16.7 Hz の周波数について求 めています。TOPEM® [8, 9]は、 通常の DSC では分けることので きない現象を分けて cp を得るこ ともできるすぐれた手法です。例 えば、化学反応から得られるエン METTLER TOLEDO Selected Applications ポリマーの熱分析 13
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タルピーから、同時に起きている 酸化安定性(OIT/OOT) 性に対して金属が影響することが ガラス転移によるエンタルピー変 最後に、ポリマーやオイルの酸化 あるため、異なる材質の数種類の 化だけを分けることもできます。 安定性の評価[10,11]に用いられ パンを用いることがよくあります。 これは、ガラス転移が可逆的現象 る、OIT,OOT として知られる二つ (図11)この例では、次の温度プ である一方、化学反応は不可逆反 の DSC 測定について述べたいと ログラム:窒素雰囲気下、 30℃ 応であることによります。TOPEM® 思います。この方法では、製品の で 3min 保持、20℃/min で 30℃ 技術は、ランダムパルス波の温度 加速的化学エイジングをシミュレ から 180℃ まで昇温、180℃ で プロファイルを用います。これによ ートし、その相対的な安定性につ 2min 等温後、雰囲気ガスを酸素 り、一度の測定で様々な特性の分 いての情報を得ることができま に切り替えて測定。酸化が観測で 析が可能となります。図10 には す。例えば、異なる材料を互いに き次第測定を停止するにて測定を PET のガラス転移の周波数依存性 比較したり、同じ材料でも添加剤 行いました。OITの時間はガスを酸 を示します。この場合、ガラス転移 が異なるものでは、その添加剤の 素に切り替えた瞬間から、酸化反 は周波数が高くなるほど高い温度 影響を分析することができます。 応のオンセットまでの時間です。 にシフトします。一方で、このカー 実際には、この実験にはPE(ポリ ブの冷結晶化によるステップは、 エチレン)が広く用いられていま 測定は 40ulの開放パンで行い、 同じ温度で起こっており周波数に す。PETでは分解と融解および再 アルミニウムと銅のパンで比較し 依存しません。未知のサンプルで エステル化が重なって明確に識 ました。銅パンの方が明らかに早 は特定の現象が周波数依存性を 別することができないので、図の く酸化しています。銅が触媒とし 示すことから、現象の解釈を明確 例でもPEを用いています。PE の て作用し、PEの分解を加速させる にすることができます。 OIT(酸化誘導時間)は、PEの安定 ためです。酸化安定性は酸化開始 温度のオンセット(OOT)の測定か 図 10: らも比較することができます。こ PET の TOPEM®測 定。ガラス転移に の方法では、サンプルを酸素雰囲 おける周波数依存 気で昇温させ、酸化の始まるオン 性。 セット温度を解析します。OIT 測定 は簡単に行うことができ、それほ ど時間がかからないので、製品の 安定性を比較する品質管理によく 用いられます。 2.4 文献 [1] Total Analysis with DSC, TMA and TGA-EGA, UserCom9, 8–12. [2] Interpreting DSC curves, Part 1: Dynamic measurements, User- Com11, 1–7. [3] The glass transition from the point of view of DSC-measurements; Part 1: Basic principles, User- Com10, 13–16. [4] The glass transition temperature measured by different TA tech- 図 11: niques, Part 1: Overview, User- 異なるサンプルパ Com17, 1–4. ンを用いた PEの [5] R. Riesen, The glass transition OIT測定 図 11 temperature measured by different 異なるサンプルパ TA technique, Part 2: Determinati- ンを用いた PEの on of glass transition temperatu- OIT測定。 res, UserCom18, 1–5.[6] M. Wagner, DSC Measurements at high heating rates - advantages and limitations, UserCom19, 1–5. [7] R. Riesen, Influence of the heating rate: Melting and chemical reac- tions, UserCom23, 20–22. [8] TOPEM® – The new multi- frequency temperature-modulated technique, UserCom22, 6–8. [9] J. Schawe, Analysis of melting processes using TOPEM®, User- Com25, 13–17. [10] Oxidative stability of petroleum oil fractions, UserCom10, 7–8. [11] A. Hammer, The characterization of olive oils by DSC, UserCom28, 6–8. 14 ポリマーの熱分析 METTLER TOLEDO Selected Applications Thermoplastics
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3. 熱可塑性樹脂の TGA、TMA、DMA 測定 3.1 はじめに 図は測定中のサンプルの重量減 定性分析を行うためには、TGA- 本章では、TGA、TMA、DMA の分 少を補正した DSC 曲線です。青 FTIR または TGA-MS 同時測定装 析手法について詳しく説明しま いカーブは補正前で、赤いカーブ 置が有効となります。 す。分解、膨張、冷結晶化、ガラ が補正後です。[2, 3] ス転移、融解、緩和、再結晶化な 3.3 熱機械分析(TMA) ど、各種の現象について、詳細に 分解 熱機械分析とは、ある一定の雰囲 説明します。TGA、TMA、DMA によっ 分解過程では、化学結合が破壊 気中で昇温または冷却されたサ て、貴重な補足情報が DSC 測定に され、複雑な有機化合物もしくは ンプルの寸法変化を測定する技 もたらされます。 ポリマーは、水や二酸化炭素、炭 法となります。さらに、TMA 測定 化水素のような気体の生成物に にはいくつかの異なる測定モード 3.2 熱重量分析(TGA) 分解されます。 があり、得られる結果も異なって 熱重量分析(TGA)とは、物質が きます。ここでは代表的な膨張モ ある特定の雰囲気中で昇温、冷 酸化しない不活性雰囲気では有 ード、針入モードおよび DLTMA 測 却または等温保持された場合 機分子がカーボンブラックになる 定法(動的 TMA: Dynamic Load に、サンプルの質量変化を時間 こともあります。発生するガスの TMA)について紹介します。 または温度の関数として測定す る手法ということになります。 図 12: PETの TGA/DTG曲 このTGAは、主として各種製品か 線、拡大 DSC曲線 らの熱重量変化を定量的に分析 および TGA重量補 することを目的として使用されて 正後の DSC曲線昇温速度 : います。 20 K/min 温度範囲 : 一般的な TGA 曲線は、高揮発性 30~1000 ℃。 成分(水分、溶剤、モノマー)の 揮発、ポリマーの熱分解、すすと 残渣(灰、充填材、ガラス繊維) の酸化燃焼分解などに関連した 重量変化を示しています。従って TGA 曲線から、揮発性成分、熱 分解性成分あるいは残渣につい ての成分量を知ることが可能とな ります。TGA 曲線の時間、または 温度で一次微分された DTG 曲 線からは、分解速度についての情 報が得られます。 図 13: 膨張モードで測定 T G A / D S C 同時測定の場合 した PET の TMA 曲線と平均線膨張 は、DSC と重量変化が同時に得 係数曲線。 られるので、発熱反応や吸熱反応 を検出、解析することができます。 しかし TGA/DSC で測定された DSC 曲線は、DSC 専用機で測定 されるよりも、感度、分解能が劣 ります。 図 12 には、PET の TGA 曲線と DTG 曲線を示しました。また図 9 の下の 2 つの図は窒素雰囲気で の対応する DSC 曲線です。右の DSC 曲線は 300℃ までの範囲 を拡大しており、ガラス転移、冷 結晶化、融解が見られます。左の METTLER TOLEDO Selected Applications ポリマーの熱分析 15
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膨張モードによる測定 囲: 30℃ から310℃, 測定荷 針入モードによる 測定 膨張モードによる測定では、サン 重: 0.005 N, プローブ : ボー 針入モードでの測定では、特性温 プルの熱膨張または熱収縮によ ルポイントプローブ 度に関する情報が得られます。測 る長さの変化が測定されます。こ 定中のサンプル形状の変化によ のため通常サンプルに掛ける荷 図 13 の TMA 曲線から、ガラス り、プローブの接触面積が変わる 重は、常に接触させておく程度 転移点までは膨張は非常にゆる ため、この測定では通常サンプル に、出来る限り微小な荷重にす やかであることが分かります。ガ の厚みは重要ではありません。針 ることが必要です。測定結果か ラス転移点 約 73℃ を境に分子 入深さは測定に用いられる荷重 ら得られる情報は、熱膨張係数 の運動性が増加することにより、 とサンプルの形状の影響を受け (CTE)です。 膨張率は著しく増加します。 ます。 図 13 に膨張モードによる測定結 その後冷結晶化と再結晶化が起 針入モード測定には、厚さ約 果を示しました。厚さ約 0.5 mm こり、サンプルは収縮します。約 0.5 mm の PET サンプルを用い、 のサンプルを 2 枚のシリカディス 150℃ で再結晶化による結晶形 サンプルをシリカディスクの上に クの間に挟み、装置中で 90℃ ま 成が終了したところから、サンプ 置き、ボールポイントプローブを用 で予備加熱し、熱履歴を除去、冷 ルは再度膨張にし、最終的に融 いて、昇温速度: 20 K/min, 温度 却後、下記の測定を行いました。 解します。融解は粘度とサンプル 範囲: 30 ~ 310℃, 測定荷重: 昇温速度 : 20 K/min, 温度範 長の劇的な減少を伴います。 0.1 N および 0.5 N, で測定しまし た。予備加熱は行っていません。 図 14: 針入モードで測定 した PET の TMA 針入モードでの測定においてプロ 曲線。 ーブは、だんだんサンプルに入り 込んでいきます。縦軸のシグナル はガラス転移により軟化した所で 大きく減少します。その後、冷結 晶化の領域ではほとんど一定の 値となり、融解で再び減少します (図14)。 DLTMA 法による測定 DLTMA は、物理的性質を測定 するのに非常に感度の高い方 法です。DSC と異なり、サンプ ルの機械的な挙動を評価しま す。DLTMA(Dynamic Load TMA) [4]の場合、サンプルに一定の周 波数で大きな荷重と小さな荷重 図 15: を交互にかけます。 室温 ~160℃の温 度範囲での PETの このようにして 測定結果。 DLTMA 測定からDLTMA 微小な転移、膨張および弾性率( ヤング率)の測定が可能になり ます。図 15 に PET サンプルの DLTMA曲線を示します。動的荷重 に対する DLTMA 曲線の振幅は ほとんど見られません。ガラス転 移点約 72℃ 以上になると、で、 サンプルが柔らかくなるため大き くなります。この後、冷結晶化で は体積収縮と同時に、固くなるた め、振幅は小さくなってきます。 再結晶化が終了した 140℃ でサ ンプルは充分な固さに戻り、その 後 160℃ まで一定の膨張を示し ます。 16 ポリマーの熱分析 METTLER TOLEDO Selected Applications Thermoplastics
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3.4 動的粘弾性分析(DMA) 図 16: 動的粘弾性分析 DMA は、粘弾 -150 ~ 270℃の範囲での PETのせ 性材料に周期的な振動荷重を加 ん断モードによる え、機械的な特性を、時間、温度 DMA測定結果。 または周波数の関数として測定す る装置です。 DMA 測定では、振動荷重を様々 な周波数でサンプルに加えて測 定しますが、DMA からは弾性率 (ヤング弾性率 E’,せん断弾性率 G’、損失弾性率 E”,G”)を測定し、 そのデータから、損失係数 tanδ や減衰係数が求められます。 DMA では、他の測定技術に比 べて非常に感度が高く、例えば DSC ではフィラーを含有したサン プルや基板上の薄膜のガラス転 図 17: 移を測定することが可能です。 PETの測定結果の 比較。 図 16 は PET の DMA 測定結 果を示したものです。前もって 急速冷却された直径5 mm、 厚さ 0.49  mm の PET サ ンプルを、周波数 :1 Hz , 昇 温速度 :2   K /min, 温度範囲: -150 ~ 270 ℃ でせん断モード で測定しました。 DMA 測定結果では、TMA または TGA/DSC 測定で観測されたガラ ス転移、などの他に、新たにポリ マー内の局部的な分子運動であ る、β 緩和現象を示すピーク、 再結晶化のピークが見られまし た。β 緩和は弱い現象で、DMA でしか測れません。 挙動についてまとめました。表 2 る手法を用いて、一貫性のある結 では、各測定により得られた転 果が得られ、互いに補完し、材料 3.5 熱挙動の概要と結果の 移温度についてまとめました。温 の物性について重要な情報が得 比較 度の解析方法は TGA/DSC およ られるということは明らかです。 図 17 には、PET の分析に用い び DSC の場合はピーク温度で、 た熱分析手法とその結果につい TMA の場合は膨張変化の開始温 これは、物質の品質管理や、未知 てまとめました。表 1 には、各種 度、DMA の場合はtan δ 曲線の の材料の検討、ダメージ・不良分 の熱分析手法から測定できる熱 ピーク温度で示しています。異な 析(例えば、材料中の不純物の検 熱特性、現象 DSC TGA/DSC TMA DMA 表 2: 各種熱分析手法に β 緩和 x より測定される現 ガラス転移 x x (DSC signal) x x 象。 冷結晶化 x x (DSC signal) x x 再結晶化 (x) x 融解 x x x x 分解 (x) x (x) OIT x METTLER TOLEDO Selected Applications ポリマーの熱分析 17
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出)などに特に役立ちます。この 結晶化、融解、分解です。OIT や 3.6 文献 ように複数の熱分析手法を用い サンプルの熱履歴のような測定 [1] A. Hammer, Thermal analysis of た複合分析は非常に有益です。 までカバーしています。 で述 polymers. Part 1: DSC of thermo-PET plastics, UserCom 31, 1–6. べたのと同様の現象が他のポリ [2] R. Riesen, Heat capacity deter- 結論 マーでも生じます。特定の現象を mination at high temperatures by TGA/DSC. Part 1: DSC standard この最初の2章では、熱可塑性樹 種々の熱分析手法によって測定 procedures, UserCom 27, 1–4. 脂について、一般的な熱分析手 できる場合はよくあります。それ [3] R. Riesen, Heat capacity deter- 法である DSC、TGA、TMA および により、一つの測定から得られた mination at high temperatures by TGA/DSC. Part 2: Applications, DMA により、どのような熱挙動 結果を他の測定で確認すること UserCom 28, 1–4. が測定可能であるかについて検 ができます。包括的な材料の特性 [4] PET, Physical curing by dynamic 討しました。熱可塑性樹脂として 評価を行うには、まず TGA で検 load TMA, UserCom 5, 15. PETを用い、一貫性のある結果が 討し、DSC ,TMA、最後に DMA を 得られました。検討した主要な現 用いて分析を行うことが一般的で 象は、ガラス転移、冷結晶化、再 す。 熱特性、現象 DSC TGA/DSC TMA DMA (20 K/min) (20 K/min, DSC, N2) (20 K/min) (1 Hz, 2 K/min, tan delta) β 緩和 –77 ℃ ガラス転移 80 ℃ 81 ℃ 77 ℃ 81 ℃ 冷結晶化 150 ℃ 154 ℃ 152 ℃ 118 ℃ 表 3: 再結晶化 183 ℃ 各種熱分析手法に 融解 248 ℃ 251 ℃ 242 ℃ 254 ℃ より得られた PET の熱特性の比較。 分解 433 ℃ 18 ポリマーの熱分析 METTLER TOLEDO Selected Applications Thermosets
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4. 熱硬化性樹脂の DSC 測定 4.1 はじめに です。DSC によって物理的変化と 回目の昇温測定では、ガラス転 本章では、いろいろな DSC アプ 化学反応を定量的に把握するこ 移に続いてエポキシ熱硬化性樹 リケーションをご紹介します。主 とができます [3]。図 18 は、熱 脂を特徴付ける大きな発熱ピー な熱挙動として、ガラス転移およ 硬化反応を DSC で測定した例で クが確認できます。 び比熱容量、硬化反応および反 す。図には 3 回の昇温測定の結 応速度、熱履歴、温度変調 DSC 果が示されています。最初の昇温 また、約 210℃ に添加剤(ジシア (ADSC) を説明します。 測定(青色)ではエンタルピー緩 ンジアミド)の融解による吸熱ピ 和を伴うガラス転移が観測され ークがみられます。3 回目の昇温 熱分析のさまざまな手法を使用 ています。 測定では全く異なる様相を呈して することで、物質の温度を温度 おり、ここでサンプルは大きな変 プログラムに従って変化させな エンタルピー緩和はサンプルが 化を受けます。 がら、物質の物理的特性を時間 長時間、ガラス転移点よりも低 の関数として測定できます。こ い温度に保持されたときに生じ 初めはサンプルは粉末でした の手法には、示差走査熱量測定 ます。100℃ までの昇温によって が、2 回目の昇温測定の際に粉 (DSC)、熱重量分析(TGA)、熱 サンプルの熱履歴は消去され、2 末はくっつくとともに重合体が生 機械分析(TMA)、動的粘弾性測 定(DMA)などがあります。 図 18: KU600: 昇温速 度 10 K/min での 熱分析は、研究開発、プロセス最 DSC 測定の結果 適化、品質管理、材料の不良や損 (計 3 回の昇温測定)。 傷の分析、さらには競合製品の調 査に使用されています。一般的な 用途としては、製品の硬化挙動に 関する予測、複合材料の適合性 試験、ガラス転移の周波数依存 性の調査などがあります。 KU600 電子部品用の粉末コーティング 剤である KU600 は、エポキシ樹 脂と触媒から成り、金属部品の絶 縁やセラミックコンデンサーの保 護層として使用されます。基盤へ の良好な密着性と、非常に優れた 機械的・電気的・熱性特性、さら 図 19: に化学物質に対する耐性を有し KU600: 150℃ の ています。 等温で一定時間硬 化し、引き続き昇 温速度 10K/min 4.2 実験の詳細 で測定。 使用したのは FRS5 センサ搭 載の DSC 1 と DSC センサ搭載 の TGA/DSC 1、および TMA/SD- TA840e と DMA/SDTA861e です。 解析は STARe ソフトウェアで行い ました。 4.3 示差走査熱量測定 (DSC) 主な熱挙動 DSC はヒートフローを温度または 時間の関数として測定する技術 METTLER TOLEDO Selected Applications ポリマーの熱分析 19
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成し、硬化します。3 回目の昇温 熱履歴 等温で硬化させたときの DSC カ 測定ではガラス転移点は高温側 図 20 は、硬化した KU600 を異 ーブとその反応率カーブが、図 にシフトし、発熱ピークは観測さ なる速度で冷却した後、10 K/min 21 に示されています。温度が高 れません。図 19 は、サンプルを の昇温速度で測定したもので、ガ いほど硬化に必要な時間は短く 150℃ で一定の時間保持したの ラス転移点の冷却速度依存性を なるとともに、反応率カーブから ち昇温測定を行ったもので、保 示しています。冷却速度が遅いほ 180℃ の場合、約 11 分で 80% 持は最大 140 分行いました。 どエンタルピー緩和は大きくなり の硬化度に、190℃ では約 6 分 ます。また、ゆっくりとした冷却速 で到達することがわかります。 一回目の昇温測定の結果から、 度は長時間のアニーリング処理と ガラス転移点が硬化度に依存 同じ効果を持っています。これら もう 1 つの硬化法として昇温で することが明確に示されていま のことから、エンタルピー緩和は の硬化があります。図 22(1、左 す。さらに、硬化が進むほどガラ サンプルのプロセス条件、もしく 上)には、いくつかの昇温速度で ス転移点は高温側にシフトする は保管条件が同じであるかを調 測定したときのDSCカーブが示 ことがわかります。そして硬化が べるために使用することができま してあります。昇温速度とともに 進むにつれ、後硬化反応の発熱 す。 ガラス転移点と硬化反応に伴う ピークは減少し、完全に硬化し 発熱のピーク温度が高温側にシ たものは後硬化反応を示しませ 等温での硬化および昇温での硬化 フトすることがわかります。 ん。 KU600 を 180℃ と 190℃ の 反応速度論解析 図 20: 反応速度論解析は、化学反応の KU600: ガラス転 移点の冷却速度依 速度を研究するのに用いられま 存性。 す。熱分析における最も重要な使 用法は、測定不可能な条件での 反応状況、例えば極めて短いもし くは長い反応時間下で物質がど のように変化するかを予測するこ とにあります。 つまり、特定の温度において希 望の反応率に到達するまでのど れぐらい時間がかかるのか、と いう問いに答えるということで す。ここではモデルフリー反応 速度論解析 (MFK)として知ら れている解析ソフト [5, 6] を用 い、KU600 を例にその説明をし ます。 図 21: KU600: 180℃ ま この解析では反応のモデルを考 たは 190℃ での 慮する必要がありません。また、 等温で硬化させ たときの DSC 曲 反応の活性化エネルギーが反応 線(上)と反応率 率に伴い変化するものとします。 カーブ (下)。 この解析法では、3 つ以上の異 なる昇温速度での測定が必要と なります(図 22、1)。そして、そ の DSC カーブから反応率カーブ を求めます(図 22、2)。続いて、 反応率に応じて変化する活性化 エネルギー(図 22、3)を算出し ます。 最終的には、ここから予測曲線 を導き出し(図  22、4)、実際の 実験でそれを検証することがで 20 ポリマーの熱分析 METTLER TOLEDO Selected Applications Thermosets