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気象条件から受ける影響による計量精度の問題に対しても安定した精度を保証できる天びんについて解説
台風上陸による災害危険性とは別に、中国沿岸、香港、日本、台湾、ベトナム、韓国、フィリピンなどの太平洋地域に拠点を置く製造業者や、またまれに、マレーシア、タイ、シンガポールなどの東南アジア諸国に点在するより小さな規模の製造工場において、台風の発生時期に天びんが示す計量精度の不安定性について報告されています。
メトラー・トレドは大手原薬製造プロセス開発や活性医薬成分(API)の製造を行うサイノファーム台湾と協働し、気象条件の変化から受ける天びん性能への影響についての調査研究をご紹介。
このカタログについて
ドキュメント名 | 【技術資料】台風が与える計量精度への影響 |
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ドキュメント種別 | 事例紹介 |
ファイルサイズ | 1.5Mb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | メトラー・トレド株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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天びんの計量性能
台風が与える計量精度への影響
ScinoPharm Taiwan Ltd.
天候による気圧の変化などで、天びんの精度が不安定になる問題に注目が集まっていま
す。特に、台風の通り道にあたる地域において、標準天びんで微量な計量測定を実施する
機関では、深刻な問題になっています。このような気象条件から受ける影響による計量精
度の問題に対して、メトラー・トレドは安定した精度を保証できる天びんを開発しました。
台風とは、最大風速17m/s以上のトロピカル・ストームで、一般的に太平洋北西部と呼ばれる東経100度
~180度の北太平洋の海域で発生するものを指します。 この海域は、地球上でも気象活動が活発な地域
で、世界で発生する熱帯低気圧の約3分の1が毎年この地域で発生します。
北西太平洋海域では、公式には「台風シーズン」と言うものは存在しませんが、その発生時期は大西洋でハ
リケーンが多く発生する8月-10月頃でほぼ一致します。この時期は、ストームの発生頻度が高くなるだけで
なく、過去には非常に猛威を振るったトロピカル・ストームの発生も記録されています。水温上昇、大気不
安定、高湿度、空気の対流、ウィンドシアなどのの気象条件が重なり、大規模ストームが発生します。
台風上陸による災害危険性とは別に、中国沿岸、香港、日本、台湾、ベトナム、韓国とフィリピンなどの太平
洋地域に拠点を置く製造業者や、またまれに、それよりは小さな規模でマレーシア、タイそしてシンガポー
ルなどの東南アジア諸国に点在する製造工場では、台風発生時期の、天びんによる計量精度の不安定性に
ついて報告しています。
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階級 最大風速
台風 ≥ 64 ノット
≥ 118 km/h
シビヤ・トロピカル・ストーム 48 - 63 ノット
89 - 117 km/h
トロピカル・ストーム 34 - 47 ノット
62 - 88 km/h
熱帯低気圧 ≤ 33 ノット
≤ 61 km/h
表1: 国土交通省気象庁の台風に関する用語より
ストーム発生時期の天びんの不安定性による利益損失は小さくありません。北西太平洋海域では、毎年20-30のトロ
ピカル・ストームと同レベルまたはそれ以上の規模の熱帯低気圧が発生しています。そのため、台風の季節になると
天びんの計量精度の不安定期間が数日から数週間になることがあることがあります。さまざまな業界規制への遵守が
求められる生産技術者にとって、高精度天びんの精度の不安定性は重大な問題です。例えば、医薬品製造業では、微
量の誤差は、最終製品の効果や安全性が保証できなくなり、逸脱製品による規制当局からのペナルティにつながりま
す。
革新のための調査協力
メトラー・トレドは大手原薬製造プロセス開発や活性医薬成分(API)の製造を行うサイノファーム台湾と協働し、気象
条件の変化から受ける計量器の性能への影響について調査研究を進めることにしました。調査を始めた初期段階で
は、風と気圧によって建物が受ける振動の影響で、計量器の精度が不安定になるとする仮説を立て、発達途中および
発達したストームの気圧の変化などの台風の現象について大気パラメータの記録を行いました。
トロピカル・ストームの環境下で、非常に繊細な計量精度が求められる作業においては精度の安定を確保するまで
の時間は少し長引くが、優れた繰り返し性を実現することができる「台風フィルター」を開発しました。
不安定要因の特定
メトラー・トレドの計量技術チームは、産業環境での設置を想定し、高精度の計量と健全なデータ取得を実現する
ため、コンパクトな駆体に自動計量機能を搭載し最小表示0.001㎎で優れた繰り返し性を実現するWXS205SDU/15
デュアルレンジ計量センサを4台組み込んだ測定ボックスを開発しました。台風の多い地域で多く設置されている
WXS205計量センサは、仮設の検証に最適な機種です。この測定ボックスには、湿度計、気圧計、温度計、振動計、差圧
計も組み込みしています。産業用PCでは、計測機器およびセンサと接続し、1日あたり1.8GBのデータを直接収集しま
す。収集したデータは、フィールド機器の開発前のオフラインでの分析および検証中のソリューションの検証に使用さ
れます。このアプローチにより、フィルター設定の最大限の改善案の実装前の検証を可能にします。
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図1: ハードウェアの測定ボックス内レイアウト
測定ボックスは、台南市善化区の2階建てビルの2階にある検証ラボに設置されています。(北緯23.07115度 東経
120.16557度)。 2013年の台風時期には多くの台風が発生し、なかでも台湾に影響を与えた台風に起因する自然現
象を検証する機会に恵まれました(図2の赤枠)。 ここでは台風「ソーリック」 (2013年7月7日~14日) と台風「ウサギ」
(2014年9月16日~24日) の際に収集されたデータをサンプルとして検証します。
図2: 2013年6月~12月中の太平洋でで発生した台風 (赤枠は、台湾に影響を与えた台風)
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これらの、台風時に収集されたデータにはいくつかの傾向を発見することができます。図3では、台風の接近に従って
気圧が20mbar下がっていることが示されています。また、最終の標準偏差チャートでは、台風の接近に伴い気圧変動
も示されています。 収集されたデータを分析することにより、計量器の性能低下と台風による影響に強い相関関係が
あることが判明しています。しかしながら、単に気圧または振動によって機能低下を引き起こしていると結論付けるこ
とはできません。
Typhoon Soulik
Typhoon Usagi
Typhoon Usagi
図3: 台風「ソーリック」と台風「ウサギ」の気圧変動の比較
台風の接近中は、計量センサの測定信号は混乱します。台風の期間は、毎時10日間にわたり測定信号の変化の最大
値を記録します。この値は、計量センサのひょう量に関して、ゼロロード、ハーフロード、フルロードで15分間最大値か
ら最小値を除算した値として定義します。 15分間の標準偏差の計量信号も、10日間記録しています。図4と5では、フィ
ルター設定時の計量信号の台風による影響を示しています。 5㎎までの偏差は記録され、それは台風の通過に直接
一致しています。
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Typhoon Soulik
図4: 台風「ソーリック」上陸時の計量信号の混乱
Typhoon Usagi
図5: 台風「ウサギ」上陸時の計量信号の混乱
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検証結果をもとに、メトラー・トレドは、台風に起因する気圧変動および振動にも対応する天びんの計量精度の安定
性と繰り返し性の確保を、確実なフィルタリングで排除できるソリューションの開発が求められます。
ソリューションの開発
歴史的に、計量センサの不安定な動きが報告される環境での台風上陸前後の期間を含めた連続したデータを使用し
て、さまざまなアプローチや改良を行い、2014年サイノファーム台湾は現実的なソリューションに到達しました。次の
ようなステップで進められました:
アプローチ 1: 設定期間中にフィルタリングされ収集されたデータを標準化するためのアルゴリズムの開発
この方法は、製造機材周辺での計量の際の低周波の振動や、大型船舶上での微小サンプルの計量の際の揺れなど、
さまざまな環境条件によっておこる課題に対応する多くのアプリケーションであり、すでに実用化されています。しか
し、この方法では、専用コマンドの開発と実装のための指示計が必要になり、非現実的なソリューションであることが
示されました。結論として、このアプローチ以外の方法の検討が必要になりました。
アプローチ 2:「台風フィルター」の開発
フィルターによって示された結果を平均する代わりに、初めに高度なフィルターを設定してみることにしました。
図6で示されているように、計量信号が適切に補整されるまでの複数のステージを含む、初期のフィルター設定状態
を示しています。しかしながら、この方法では、測定の乱れを標準化する高度なフィルタ機能が適切に作用しています
が、特定のしきい値以下の荷重変化に対する感度が減少しました。
図 6: 開発初期の「台風フィルター」アプローチ
改良アプローチ 2: 追加フィルタリングステージの検証
初期フィルターおよび設定時間の延長に相反して改善する繰り返し性への評価を検証し、その他のフィルタリング検
証を実施しました。計量結果の繰り返し性およびセンサの設定時間との関係の最適な条件を、フィルターパラメータ
として設計しました。図7では、計量センサ内部分銅の1分間ロードの3回分を示しています。明らかに、計量センサに
分銅を載せた時に、データが急上昇しています。2013年9月の台風「ウサギ」の通過中に天びんの標準フィルター設定(
青い線)と改善された「台風フィルター」(赤い線)を比較しました。
図7が示すように、台風の通過時には計量センサの安定性を確保することができていません。緑のポイントは台風フィ
ルターを使用することによって安定した測定値を示しています。
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図7: 天びんの標準フィルタ―と新しい「台風フィルター」の比較
「台風フィルター」によって天びんの繰り返し性が大きく改善していることが分かる。
図 8: 台風「ソーリック」の時に3種類のフィルター設定での計量値の繰り返し性
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台風「ソーリック」の時の繰返し性は記録されています。 図8では3つの異なるデータフィルタリングによって示された
繰返し性を比較しています。天びんの標準フィルターと比較して、新しい台風フィルターによって繰り返し性が25倍改
善されています。(表2を参照):
使用されているフィルタ―方法 図8でのグラフ 繰返し性の改善
標準フィルター, 平均10秒以上 黄色 x 10
標準フィルター,平均20秒以上 赤 x 15
新しい調整された台風フィルター 緑 x 25
表 2: 異なるフィルター方設定時の繰返し性の結果
想定内の振動
海洋性の微弱振動は世界中で確認される現象であり、台風の如何に関わらず高精度で高精細な計量機器の性能に影
響を与える要因として認識されています。通常はこの振動による影響は限定的ですが、台風発生時には特に堆積層に
対して作用し結果的に計量センサの性能に悪影響を与えてしまいます。
台風時の観測中に取得したデータを参考に、メトラー・トレドの研究開発部門ではWXS205をかくはん機の上に設置
して台風時の振動の再現と検証を行いました。開発部門での検証データおよび、実際の台風時に収集したデータに
基づき、「台風フィルター」を使用することで、天びんの性能は台風の不規則な振動からの影響にも耐性があるという
ことが証明されました。
実験でのデータおよび実際の振動データとの関係性について確認することはできましたが、影響を与える要因が
振動なのか気圧なのか、それともその両方なのかについては、まだ技術的な解答に至っていません。しかしながら、
天びんユーザーからの建設的なフィードバックおよびラボでの検証結果をもとに、現在は高度フィルター機能が
XEAnalyticalBridgeV1.10ソフトウェアに標準装備されるようになりました。このソフトウエアは2014年9月以降に製造
されたXPE分析天びんには標準装備されています。
悪天候に左右されない機能のフィールドテスト
最終的に、2014年の9月に南シナ海で発生した台風「カルマエギ」の台湾接近に際して、高い強度のフィルターのフィ
ールドテストが実施されました。台風の上陸による影響を受ける中、サイノファーム台湾で使用されている分析天びん
は安定が確保できず社内校正テストにも合格できませんでしたが、2014年7月に設置されたXPE205分析天びんは改
良されたフィルターを搭載し、台風の影響を受けることなく安定を確保することができました。現在、サイノファーム
台湾では、台風の上陸による影響を受けないソフトウェアの開発を急いでいます。
メトラー・トレドの高精度天びんは、台風による天候の影響を受ける時期には台風フィルター機能を活用することが
できるだけでなく、通常の天候下での作業の際には、迅速で高精度な計量を医薬品製造プロセスに提供します。不安
定な天候の中でも、台風フィルターをセットすることで安定した計量が可能になります。この台風フィルターは通常の
フィルター設定時間よりも多少立ち上がりに時間を要しますが、高精度、高品質、高い繰り返し性の計量結果を提供
することができます。
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www.mt.com
Mettler-Toledo AG メトラー・トレド株式会社 詳細はウェブサイトへ
Laboratory & Weighing Technologies 産業機器事業部
CH-8606 Greifensee, Schweiz Tel:03-5815-5515
Tel. +41 44 944 22 11 Fax:03-5815-5525
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