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粉末焼結積層造形(SLS)方式3Dプリントは、多品種または単一品を数十個単位でバッチ生産するための技術です。主な用途は実製品用の部品から生産・組立または試験用治具を一定数生産するケースや、比較的大型の高強度品をワンオフで製作するケース等が挙げられます。
本ガイドブックでは、SLS方式の技術解説だけでなく、そのシステムや材料、作業手順、実際の事例、そして他の3Dプリント方式や旧来の製造方法と比較してのSLSのメリット等を幅広くご紹介いたします。
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このカタログについて
ドキュメント名 | 粉末焼結積層造形法(SLS) 3Dプリントガイドブック |
---|---|
ドキュメント種別 | ホワイトペーパー |
ファイルサイズ | 3.8Mb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | Formlabs株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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WHITE PAPER
Guide to Selective Laser
Sintering (SLS) 3D Printing
粉末焼結積層造形(SLS)方式3Dプリントは、他の方式とは違い、ある程度の数量をバッチ生産または
連続生産するための技術としてさまざまな業界のメーカーやエンジニアから注目されています。
本総合ガイドブックでは、SLS方式3Dプリントのプロセスや、高強度高精細な造形が行える本方式
を活用できる多様なシステムや入手可能な材料、SLS 3Dプリントのワークフロー、使用事例、なら
びに他の3Dプリント方式や切削など旧来の製造法と比較してSLS 3Dプリントがどのような用途で
有効かなど、粉末焼結積層造形(SLS)方式について幅広く解説いたします。
����年�月 | Formlabs.com
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Contents
粉末焼結積層造形(SLS)方式3Dプリントとは �
SLS方式3Dプリントの仕組み �
樹脂3Dプリントの造形方式 �
SLS方式3Dプリントの歴史 �
SLS方式3Dプリンタの種類 �
旧来の工業用SLS方式3Dプリンタ �
Fuse 1:業界初のベンチトップ工業用SLSプリンタ �
SLS方式3Dプリンタの比較 �
SLS用3Dプリント材料 ��
SLS用ナイロン材の機械的特性 ��
SLS 3Dプリントのワークフロー ��
� モデルの設計とファイルの準備 ��
� プリンタ側の準備 ��
� 造形作業 ��
� 造形品の取り出しと後処理 ��
� 後加工と表面処理 ��
SLS 3Dプリントが選ばれる理由 ��
設計の自由度 ��
高い生産性とスループット ��
実製品製造の実績 ��
製造単価の低さ ��
製品開発サイクルの短縮 ��
SLS方式3Dプリントの代表的な用途 ��
FORMLABS: 粉末焼結積層造形法(SLS)�Dプリントのガイド �
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粉末焼結積層造形(SLS)方式3Dプリントとは
SLS方式3Dプリントは、高出力レーザーで粉末状の高分子樹脂材料を溶融し、1層ごとに造形を
行うことで3Dモデルの形状をプリントする3D造形方式です。
SLSの独自性は、造形物を高さ方向に積み上げて造形スペース内に高密度にレイアウトして造形
することで、バッチ生産が行える点にあります。カスタム品や受注生産品等で同一のモデルを
数十個単位で少量生産または連続生産する場合、生産治具や試験治具等で様々なモデルを造形
スペースに混載して一度に造形する場合、あるいは量産移行前の開発段階での試験生産やラピ
ッドプロトタイピングによる試作品製作でも多くのエンジニアに活用されています。旧来の
SLSの課題であった粉体の取扱等の課題がFuse 1 & Siftによって解決された今、従来のような
一部のハイテク企業だけでなく、幅広い業界のメーカー各社がこの新世代のSLSを導入し始め
ています。
高性能SLS方式3Dプリントシステム、Fuse 1製品紹介動画
FORMLABS: 粉末焼結積層造形法(SLS)�Dプリントのガイド �
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SLS方式3Dプリントの仕組み
8
7
1 1 ヒーター
2 ビルドチャンバー
5
6
3 パウダー供給システム
4 造形品
4
5 リコーター
6 照射レーザー
3 3
7 X-Yスキャンミラー
8 レーザー
2
1
粉末焼結積層造形(SLS)方式3Dプリントプロセス概略図:
SLS方式は高出力レーザーで粉末状の高分子樹脂材料を溶融させることで3Dモデル形状の造形を行う。
1 プリント:造形時にはまず、ビルドチャンバー最上部にあるプラットフォーム上に1層分の粉末を
敷き詰めます。次に、プリンタ内で予熱として材料を融点以下の温度まで加熱します。これに
よって造形の際にレーザーが特定箇所の粉末だけを溶融させて造形を行うプロセスを円滑化し
ます。レーザーを3Dモデル1層ごとの断面形状に沿って走査し、材料を融点またはそれに近い
温度まで熱していくことで、粉末材料は機械的に融合し、固化していきます。レーザーは造形
品の形状だけを選択的に溶融するため、造形品周囲には未溶融の粉末が残り、それがサポート
材の代わりに造形品を支える役割を果たします。そのためSLSではサポート材が必要ありません。
1層分の造形が終わるごとにプラットフォームはビルドチャンバー内に1層分ずつ下がっていき、
結果的にビルドチャンバー内で造形が行われることになります。プラットフォームの1層分の
下がり幅は50~200μmの間となり、この動作を連続して行うことで造形が完了します。
2 冷却:造形が完了後には、材料の物性を想定通りに引き出しつつ、後処理工程でたわみ等の発生
を防ぐため庫内を冷却します。この冷却時間は予め表示される造形時間に含まれています。
3 後処理:造形と冷却の完了後、ビルドチャンバーから粉末の塊を取り出し、造形品周囲の未溶融
パウダーを取り除きます。除去した未溶融パウダーは再利用可能で、造形品はブラスタや回転研
磨機等で更に平滑に仕上げることが可能で、材料によってはブラスト処理は必須となります。
ワークフローの詳細は、後述の「SLS方式3Dプリントのワークフロー」をご参照ください。
FORMLABS: 粉末焼結積層造形法(SLS)�Dプリントのガイド �
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SLSの造形品表面は多孔質となり、ざらつきのある表面となるものの、積層痕と呼ばれる層ごとの境界線は
ほぼ視認できない。表面をより平滑に仕上げたい場合は、ブラスタ等での仕上げ作業が推奨されている。
Formlabsの高機能SLSであるFuse 1の詳細は製品詳細ページにて公開されている。
SLSでは先述の通り、造形中に未融合パウダーが造形品を支える役割を果たすため、サポート材が
不要です。そのため、SLSでは非常に複雑な内部構造やヒンジ式の可動部を備えたモデルが一体
造形で製作でき、成形品ではアンダーカットとなる形状や薄肉構造等のデザインをも3Dプリント
で製作するソリューションとなります。また、SLSでの造形品は、強度等において射出成形品並み
の機械的特性を発揮することでも知られています。
FORMLABS: 粉末焼結積層造形法(SLS)�Dプリントのガイド �
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樹脂3Dプリントの造形方式
FDM
熱溶解積層方式/Fused Deposition Modeling
• 熱可塑性樹脂のフィラメントを熱で溶かしノズルから押し出す
• エントリーモデル機が低コストで導入できる
• 解像度や精度がノズル吐出口の径に依存し、最も低い
最適な用途:
試作用途。概念実証(PoC)用モデルなど初期段階の試作品
SLA
レーザー光造形方式/Stereolithography
• 光硬化性樹脂の液体レジンを紫外線レーザーで硬化させて造形
• 材料の選択肢が非常に広く、熱可塑性でないため耐熱性も
• 解像度、精度、ディテールの表現能力が最も高い
最適な用途:
初期段階から機能検証など幅広い試作、金型・治具製作、最終部品など
SLS
粉末焼結積層造形方式/Selective Laser Sintering
• 熱可塑性の高分子樹脂材料をレーザーで溶融させて造形
• バッチ生産、連続生産向け。生産性が高く造形 品の製作単価が低い。
サポート材不要。
• 造形品は射出成形品並みの非常に優れた機械的特性を発揮
最適な用途:
生産・組立・試験治具、最終部品、機能検証用試作など
FORMLABS: 粉末焼結積層造形法(SLS)�Dプリントのガイド �
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SLS方式3Dプリントの歴史
粉末焼結積層造形方式は、最古のアディティブマニュファクチャリング技術の1つであり、テキ
サス大学オースチン校のCarl DeckardとJoe Beamanの両博士によって1980年代中期に開発されま
した。以来この技術は、プラスチック、金属、ガラス、セラミック、そして幅広い複合材を含め
た様々な粉末材料で用いられています。現在では、熱エネルギーで粉末床(パウダーベッド)の
特定箇所を溶融させるこうした技術は総称して「パウダーベッドフュージョン(PBF)」と呼ばれ
ています。今日最も広く定着しているのは樹脂材料を使用する通称SLS方式と、金属を主原料と
するダイレクトメタルプリント法(DMLS)またはレーザー溶融法(SLM)と呼ばれるPBF方式
です。近年まで樹脂と金属の両PBF設備は非常に高額で複雑なシステムであったため、航空宇宙
用の部品や医療機器など、元来が高額な製品あるいは受注生産品等の少量生産時に使用される
のみで、その用途は限られていました。しかしこの分野における近年の技術革新は目覚ましく、
樹脂材料のSLSも光造形(SLA)方式や熱溶解積層(FDM)方式といった他の3D造形方式のように
低コストで導入できるコンパクトなシステムが登場し、広く普及し始めています。
SLS方式3Dプリンタの種類
SLS方式の3Dプリンタはどれも、先述のような背景を経て今日に至っています。各プリンタの
違いが表れる差別化要素は、レーザーの種類、ビルド容積の大きさ、そしてシステムとしての
複雑さです。装置に実装された温度管理、パウダー材の供給システムやパウダー材の層を溶融
させるソリューションもそれぞれで異なっています。
SLS方式には造形プロセス全般にわたって、非常に高水準な精度とその厳格な管理が不可欠です 。
たわみや応力、熱による変形を最小限に抑えるため、予熱、溶融、後処理前の保管という3 つ
のステップ全てにおいて(プリント中の)造形品と粉末双方の温度を誤差2℃以内にコント ロ
ールする必要があります。
旧来の工業用SLS方式3Dプリンタ
SLS方式は、同一のモデルであっても全て別個のモデルであっても、ある程度の数量をバッチ生産
できるという利点から、3Dプリントの受託事業者の間では既に何十年も前から広く採用されて
います。しかし、その作業手順の複雑さと要件の厳しさ、そして高額な導入コスト等の理由に
より、導入する事業者は受託事業者や大企業に限られていました。
旧来の工業用SLS 3Dプリントシステムは、パウダー材の酸化や劣化を防ぐため、窒素等の不活
性ガスの充填を要しており、専用の吸排気設備が必要でした。加えて特殊な温度管理機能と工業
用電源も求められ、最小クラスの設備であっても10m²の設置面積を確保する必要がありました。
また、価格面では最低でも1,300万円以上となり、オプション扱いとなっていた各種ソリューシ
ョンをプラスすればその価格を遥かに超えてしまいます。こうした理由から、工業用SLSは多く
の企業にとって手の届かない存在だったのです。
FORMLABS: 粉末焼結積層造形法(SLS)�Dプリントのガイド �
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Fuse 1には特殊な環境整備は必要なく、ごく一般的な作業スペースで簡単に運用できる。
Fuse �:業界初のベンチトップ工業用SLSプリンタ
近年、FDMやSLAのような他の3D造形方式同様に、低コストでコンパクトなSLS方式の3Dプリント
システムも市場に登場しているものの、そのソリューションにはまだ大きな課題が残されています。
代表的なものとしては、オレンジピールと呼ばれる造形物表面に発生するオレンジの表皮のような
SLS特有の凹凸変形や、単純な精度の問題から来る造形品質の低さ、そして主に後処理工程で発生
する粉末の飛散や多くの手作業を要する複雑な作業手順等が挙げられます。こうした課題もあり、
コンパクトな工業用SLSの普及はまだ広く進んでいないのが実情です。
FormlabsはFuse 1 & Fuse Siftによってこれらの課題を克服し、高品質かつ省スペースで、後処理工程
も含めて極めてシンプルな作業手順で造形作業が完了でき、従来の工業用SLSの数分の一の価格帯で
導入・運用ができる、業界初のベンチトップ(ベンチ上に設置できる程度のコンパクトサイズの意)
工業用SLS 3Dプリンタという独自カテゴリの確立を目指しています。
Fuse 1ではファイバーレーザーの採用によりレーザーユニットは1基のみの搭載とし、ビルドチャン
バーも小型化しているため、大きな加熱出力は不要です。Fuse 1における造形プロセスでは、粉末
が高温環境下に置かれる時間を可能な限り短縮することで、窒素等の不活性ガスの充填や特殊な給
排気設備は必要ありません。また、電力消費量も低く、日本国内で一般的な単相100VAC電源で運転
できるため、導入のために設備工事を行う必要もありません。
SLS特有のオレンジピール等の精度面での課題に対しては、特許出願中のSurface Armorという独自
技術で生成される半溶融状の膜によって造形品周囲を均等に保温することで、表面品質を向上しな
がら一貫した機械的特性が安定的に発揮できるようになっており、信頼性とパウダー材の再利 用
比率を向上させています。
また、Fuse 1は造形後の後処理と未溶融パウダーの回収・保管から未使用の新しいパウダーとの自 動
混合までを陰圧システム内で粉末の飛散を防ぎながらワンストップで行うFuse Siftを活用することで、
造形から後処理、材料の再利用までを一貫して安全かつクリーンにカバーしています。
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Fuse 1の造形スペースとなるビルドチャンバーは意図的に、旧来のSLSのエントリー機に備わる造形
スペースよりやや小さめに設計されています。これは製品の設置面積の大幅な縮小、作業手順の簡
素化、そしてより低コストで導入・運用いただくことを目的とした仕様です。
SLS方式3Dプリンタの比較
Fuse �:ベンチトップ 旧来の工業用SLS 3Dプリンタ
工業用SLS 3Dプリンタ
価格 約320万円から 約1,400万円~7,000万円以上
プリント容積 最大165 x 165 x 300mm 最大550 x 550 x 750mm
長所: ✓ 低コストで導入・運用 ✓ 大きな造形スペース
✓ 非常に優れた造形品質 ✓ 高い造形品質
✓ 高い生産効率(後処理含む) ✓ 高い生産効率(プリントのみ)
✓ 簡素化された作業手順 ✓ 複数の材料オプション
✓ 省スペース設計
✓ 最小限のメンテナンス
短所: X やや小さな造形スペース X 導入・運用が高コスト
X 材料オプションが限定的 X 広い設置面積要
X 設備工事を要するケース
X 高頻度のメンテナンス
X 専任のオペレータが必要
上記の比較情報は、Formlabs Fuse 1 ベンチトップ工業用SLSシステムと、EOS社および3D System社のSLS
システムとの比較結果に基づいてFormlabs米国本社にて作成したものです。
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SLS用3Dプリント材料
SLSで用いられる最も一般的な材料はナイロンです。ナイロンは熱可塑性の高分子樹脂材料で、強
度と耐久性に優れた工業用材料として機能確認用の試作品から実際の製品製造にも幅広く採用され
ており、複雑な形状を備えたパーツや高耐久性部品の製作等で用いられます。
ナイロン材によるSLS造形品は、優れた強度、剛性、耐久性を備えています。後処理を終えた完成
品には、高い耐衝撃性をもち、繰り返し使用しても摩耗せず長期間の使用にも耐えることができま
す。また、ナイロン材は紫外線、光、熱、温度、湿度、溶剤そして水に強く、ナイロン材による3D
プリント品は生体適合性部品としても使用でき、感作性がないため様々な用途で着用または安全に
使用することができます。
ナイロン材はポリアミド系材料であり、様々な用途に合わせて多くのバリエーションが開発されて
います。Nylon 12パウダーは、SLS方式3Dプリントで最もポピュラーな汎用材で、幅広い用途に 対応
します。そのNylon 12のガラス充填材であるNylon 12 GFは、剛性と耐熱性を向上させ、より過酷
な工業環境に対応できるよう開発されています。また、Nylon 11は靭性に特長があり、耐衝撃性に
優れ、摩耗と脆性破壊に対する高い耐性が求められる製品や治具、試作品等に適しています。
NYLON 12 POWDER
幅広い用途に使える汎用材。ディテールの再現性と寸法精度
に非常に優れた材料
• 高い強度と耐久性が求められる治具・固定具・工具等
• ナイロン材製品のバッチ生産、連続生産
• 機能部品等の試作
• 一般的なSLS部品
NYLON 12 GF POWDER
剛性と耐熱性を向上し、より過酷な環境下で使用できるよう
開発されたガラス充填材料
• 非常に高い強度や耐熱性が必要な冶具、交換部品等
• 恒常的に負荷に晒される部品、各種治具
• ねじやソケット等、高精度な篏合と強度を要する部品
• 高温環境下に置かれる部品、治具等
NYLON 11 POWDER
高い靭性と耐久性が求められる製品に適した、耐衝撃性と
伸びに優れた材料
• 高い耐衝撃性が求められる治具、固定具、試作品
• 薄壁の流路や筐体
• スナップ、クリップ等の留め具およびヒンジ等
• 義肢装具等*
* 材料の特性は、その設計や造形方法により変動する場合があります。造形品が意図された用途に適合するものかを検証
するのは、製品製造元の責任となります。
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ナイロン材はその優れた機能性から、工業製品から消費財、ヘルスケア製品に至るまで幅広い用途で活用されている。
SLS用ナイロン材の機械的特性
FORMLABS FORMLABS FORMLABS
材料名
NYLON 12 POWDER NYLON 12 GF POWDER NYLON 11 POWDER
最大引張強さ ��MPa ��Pa ��MPa
引張弾性率 ����MPa ����MPa ����MPa
破断伸び、X/Y(%) ��% �% ��%
破断伸び、Z(%) �% �% N/A
アイゾット衝撃強さ(ノッチ付) ��J/m ��J/m ��J/m
荷重たわみ温度(℃/1.8MPa) ��°C ���°C ��°C
荷重たわみ温度(℃/0.45MPa) ���°C ���°C ���°C
FormlabsのNylon 12とNylon 11パウダーは、共に単一成分によるパウダー材です。SLS方式3Dプリン タ
の中には、塗装粉末や混合粉末材等、2種の成分で構成された複合材粉末を使用できるものもあります。
Nylon 12 GFパウダーはガラス充填複合材となります。他の複合材の例としては、より高い強度、剛性、
靭性を付加するため開発されたアルミナイドやカーボンを用いた複合材も存在します。これら複合材の
パウダーによるSLS造形は、ガラス転移点が低い方の成分のみを溶融させることで両成分を結合させ、
造形を行います。
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SLS 3Dプリントのワークフロー
1. モデルの設計とファイルの準備
一般的な3D CADソフトウェア上で、あるいは3Dスキャンデータからモデルを設計し、その設計
データを3Dプリント対応のファイル形式(STLまたはOBJ)で保存します。各3Dプリンタには通
常、モデルの向きを決め、レイアウトを調整し、造形時間を算出する等の造形設定を行い、デジ
タルモデルを1層ごとにスライスする機能を備えた専用ソフトウェアがあります。造形設定完了
後、その造形準備ソフトウェアがWiFIや有線で接続されたプリンタに造形データを送信します。
Fuse 1では他のFormlabs製3Dプリンタ同様に、PreForm(無料でダウンロード可能)という造形準備ソフト
ウェアを使用。3Dグリッド内で3Dモデルをコピーして高密度に配置し、1回の造形で最大量の造形を行う等
の自動アシスト機能が豊富に揃う。自動生成された設定を必要に応じて微調整することも可能となっている。
�. プリンタ側の準備
プリンタ側の準備手順は、各メーカーや機種により異なります。殆どの旧来のSLSプリンタは造形
準備やメンテナンス方法を習得するため多くのトレーニングを要し、求められる労力やツール関係
も多大なものでした。
Fuse 1ではそういった旧来のSLSが抱える課題をよりシンプルで高効率なものへと改善すべくモジュ
ール化したコンポーネントでノンストップの造形とパウダー材の取扱いを実現しています。
Fuse 1で使うパウダーはカートリッジに充填される Fuse 1は造形スペースとなるビルドチャンバーが
ため、周囲を汚さず簡単に補充できる。 着脱可能でそのままFuse Siftに移管できるため、
造形完了後にビルドチャンバーを取外し、冷却中に
スペアのビルドチャンバーですぐに次の造形を開
始できる。
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�. 造形作業
Fuse 1本体のタッチスクリーンで図と共に案内される事前チェックがすべて完了すれば、事前準
備は完了です。SLS 3Dプリントの造形時間はモデルの数や大きさ、配置の密度や形状の複雑さに
より、短くて数時間、長ければ2-3日を要するケースもあります。
造形が完了すると、後処理に進む前にプリンタ内でビルドチャンバー表面の温度が下がるまで待つ
必要があります。PreFormやオンラインのDashboard、Fuse 1本体のスクリーンに表示される造形
時間には必要な冷却時間も含まれています。冷却完了後、スペアのビルドチャンバーがあれば冷却
が完了したビルドチャンバーと入れ替えて、すぐに次の造形が開始できます。後処理を始める前
にはビルドチャンバー内部も冷やす必要があります。これは造形品から想定通りの機械的特性を
引き出し、後処理中に変形するのを避ける目的もあります。ビルドチャンバー内部のクールダウン
には、最大で造形時間の半分程度を要する場合もあります。
Fuse 1本体のタッチスクリーンには造形中のライブ映像が表示され、1層ごとの造形の様子が確認できる。
このカメラビューはPreForm上でも表示でき、遠隔で進捗状況をモニターできる。
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�. 造形品の取り出しと後処理
SLS方式での造形品は、他の3Dプリント方式と比べて最小限の時間と労力で後処理が行えます。
サポート材が不要であるため、造形品の製作点数が増えても簡単に対応でき、生産バッチ内の
造形品質も一貫しています。
造形完了後、Fuse Siftにビルドチャンバーを移管すると、造形品を内包した粉末の塊がFuse Sift
の作業スペースにリフトアップされます。造形品周囲の未溶融パウダーを取り除く作業に移行
しますが、旧来のSLSと違い、Fuse Siftではこの工程を陰圧システムが付属した作業スペースで
行え、粉末が周囲に飛散するのを防ぐことができます。コンプレッサやブラスタで更に徹底的
な後処理を行うことも可能です。
造形品周囲に残った未溶融分のパウダーは、Fuse Sift内でふるいにかけられて大粒になった粉末
を除去した後、再利用されます。再利用分の未溶融パウダーは、高温に晒された影響で僅かに
劣化している可能性があるため、未使用の新しいパウダーと混合してリフレッシュさせた上で、
次回以降の造形に使用します。このパウダーの再利用が、SLSが最も無駄のない3D造形方式で
ある理由となっています。
旧来のSLS共通の課題は、パウダーの回収・保管・混合の各工程にそれぞれ別の装置が必要と
なっていた点にありました。Fuse 1のワークフローでは、Fuse Siftがワンストップで造形完了
後のパウダー除去から未溶融パウダーの回収、保管、供給、未使用パウダーとの混合までを
すべて1台で担うため、大幅なコスト減と作業手順の簡素化が図れます。
Fuse Siftは、Fuse �での造形完了後のすべての工程をワンストップで担い、SLS方式�Dプリントのワークフロー
を完結させるシステムとなっている。造形品を安全かつ効率的にパウダーから取り出し、未溶融パウダーを
回収して再利用できるよう設計されている。また、未溶融パウダーと未使用の新しいパウダーを混ぜ合わせ、
Fuse �に補充する際に使用するパウダーカートリッジに自動で充填する。そのため材料ロスを最小化しつつ
消費量の適切な管理も簡単に行える。
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�. 後加工と表面処理
SLSでの造形品は、周囲の未溶融パウダーを取り除けばすぐに使用できます。一方で、粉末SLS
造形品では仕上げ作業として後加工を行うことも考慮に値する点として挙げられます。
SLS造形品は、その特徴として表面が多孔質になるため多少のざらつきが残ります。そのため
Formlabsでは、造形品を製品として使用される場合は表面をより滑らかに仕上げるため、ブラ
スト作業や回転研磨機を用いて造形品の後加工を行うことを推奨しています。カラーリングの
面ではスプレーによる塗装やラッカー塗装、あるいは電気めっきやカラーコーティングも選択
肢となります。こういった表面処理により、SLS造形品は様々な質感や特性(例:水密性を向上
するコーティングや電気伝導性能を持たせる電気めっき等)を向上させることができます。
Partial Hand Solutionsがハイドログラフィックス SLSパーツは電気めっきにより金属のような質感
で塗装したSLS製品。 に仕上げることも可能。
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軽量化のため複雑なパターンが施されたハンドスプリント(保存療法用装具)。
SLS 3Dプリントが選ばれる理由
SLS導入のきっかけとなる要素は、デザイン面での自由度の高さ、生産能力とスループット、製 造
単価の低さ、実製品としての実績など、多岐にわたります。以下にて代表例を見てみましょう。
設計の自由度
レーザーによる光造形(SLA)方式や熱溶解積層(FDM)方式等の他の方式はいずれも、突出部
のあるモデルを造形する際、その形状に合わせたサポート材が必要となります。
SLSの場合は、造形品周囲に残る未溶融パウダーが造形品を支える形となるため、サポート材は
使用しません。SLSは突出部や複雑な形状を備えたモデル、可動部、内部に流路を備えた部品等、
切削加工や他の3D造形方式ではプリントが難しい設計にも対応できます。
設計者は通常、DFM(Design For Manufacturability/製造容易性設計)の考え方のもと、その製品
の製造工程を想定しながら製品設計を行います。試作のみを3Dプリントで行い、実際の製造は
切削や成形など別の方法で行う場合は、その試作品の設計は従来の生産設備で製造できるものに
限られてしまいます。
今後、日本国内でも欧米のようにSLSを実製品または部品の生産技術として活用する動きが広がれ
ば、自ずと試作と製品製造の双方をアディティブマニュファクチャリングで行う機会が増え、これ
までは不可能だったデザインや形状が実現できることとなり、設計やエンジニアリングに新たな
可能性を切り拓くことが期待できます。特にSLSでは、従来は不可能であったり高額な加工コスト
を要して現実的でなかった形状が生産できます。また、SLSは各構成部品を別個に製造した後に
アセンブリを必要としていた部品も、一体造形でアセンブリされた状態で製造できます。つまり
SLSでは、これまで強度に不安のあった結合部や可動部を一体造形し、アセンブリ工程自体を無く
してしまうこともできるのです。
SLSはジェネレーティブデザインの利点を最大限に活用し、これまで製造が難しかった軽量化と
強度を両立した複雑な格子構造の設計等も可能となるのです。
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高い生産性とスループット
SLS方式の3Dプリントは、高い機能性や耐久性を備えた製品、治具、あるいは試作品を最も高速
で製造できる造形方式です。パウダーを溶融させるレーザーの走査速度は、熱溶解積層(FDM)
方式など他の造形方式よりも遥かに高速です。
Fuse 1では無料の造形準備ソフトウェア PreFormにて多くのモデルを手早く簡単にコピーして同一
のモデルを数多くパッキングしたり、異なる複数のモデルで造形スペースをフルに活用できる
よう自動配置して造形することで、誰もが簡単にプリンタの生産性を最大限に引き出せます。
SLSは他の造形方式と違い、高さ方向にモデルを積み上げて造形スペースを最大限に活用できる。
サポート材が一切不要のため後処理も短時間で行える。
実製品製造の実績
SLSの機能性と多用途性は、その材料が鍵と
なっています。ナイロンとその複合材は高
品質な熱可塑性樹脂材料として広く採用され
ています。レーザーで溶融したナイロン製品
は、100%に近い密度と、射出成形品等に匹
敵する機械的特性を備えています。
そのためSLSで製造されたナイロン製品は、
射出成形による一般的な樹脂製品の代替品と
して利用されるケースも多くあります。
スナップ式の篏合部品やコネクタ、可動部
を備えた構造部品を製造する上で最も優れ
た造形方式です。樹脂製品は他の造形方式 Nylon 12パウダーで製造した電動ドリルの筐体。
で製造した場合は経年劣化が懸念ますが、 ナイロンの3Dプリント品は簡単な後処理だけで、
SLSでは長期使用に耐える機能部品を製造す そのまま製品として使えるほどの品質で仕上げる
ることが可能です。 ことができる。
FORMLABS: 粉末焼結積層造形法(SLS)�Dプリントのガイド ��
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測定器筐体
by REEKON Tools
部品あたりの製造単価
外部委託 約��,���円
旧来のSLS 約�,���円
Fuse 1 約�,���円
パウダー重量 1点あたり280g
製造単価の低さ
部品1点あたりの製造コストは通常、材料費に加えて生産設備の運転・維持管理費、人件費を
含めて算出されます。
• 所有設備:設備機器のライフタイムにおける生産可能数量が多いほど、その設備で生産される
製品の製造単価は抑えられます。結果的に、部品あたりの製造コストという観点からは生産性
が高いほど設備のランニングコストは下がることになります。高速でレーザーを走査させ、造形
スペースを最大限に活用しつつ後処理も簡素化できるSLS方式3Dプリントは、樹脂材料の3D
プリントで最高の生産性を発揮します。
• 材料:3Dプリントの多くは専用の材料を使用する必要がありますが、ナイロン材は大量生産品
の製造に広く使われる熱可塑性樹脂の工業用材料であるため、アディティブマニュファクチャ
リングの原材料としては最も安価な部類の材料です。また、SLSはサポート材が不要で材料も
再利用ができるため、製造工程で発生する廃棄物を最小限に抑えることができます。
• 労力:ほぼすべての3Dプリントにおいてアキレス腱になるのが、労力の問題です。ほとんどの
3Dプリントは自動化が困難な複雑な作業手順を必要とするためです。自動化不可能な作業は人
件費の最適化を阻み、部品の製造コストにも大きく影響します。一方でSLSの後処理プロセス
は非常にシンプルで、生産量が増えても比較的簡単に対応できるため、省力化にも貢献すること
ができます。
SLS方式 3Dプリンタの導入時には、それなりの初期投資が必要です。しかし投資を回収する
までの期間に目を向けると、SLSは安価な小型の3Dプリンタ以上に回収までの期間が早い場合
が多くなります。ベンチトップサイズのSLS方式3Dプリンタは、金額面がネックとなっていた
新規導入のハードルを大きく引き下げ、導入後も製造単価を削減することが可能です。
3Dプリントでの製造頻度が高くない場合は、サービスビューローと呼ばれる受託生産事業者
に外注する方法も検討に値します。しかしその場合は内製した場合と比べて製造コストと生産
期間の双方が増大してしまう点がデメリットとなってしまいます。3Dプリント最大のメリット
は、旧来の製造法よりも遥かに早い「スピード」にあります。対して外部委託の場合では、製
品が納入されるまで1週間から1か月以上を要するケースもあります。しかし近年では、サービス
ビューローが複数台のSLSを導入してその短所を克服する動きも広がっています。
FORMLABS: 粉末焼結積層造形法(SLS)�Dプリントのガイド ��
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SLSでの造形品は、そのまま厳格な機能検証に回すことも交換部品や製品として使用することもできる。一方
で塗装や染色、水密性コーティングや電気めっき等の表面処理も可能で、幅広い機能部品や治具のバッチ生産
に活用される。
製品開発サイクルの短縮
設計上の都合を考慮すれば、実際の製品で採用される製造法や材料と、試作で用いるそれは同一の
ものであるのが当然ながら理想的です。SLSによるアディティブマニュファクチャリングで製品製造
を行う場合、エンジニアは、設計プロセスの早い段階で製品製造と同一の設備と素材を用いて試作を
行うことができます。これは後工程となる設計検証(DVT)や生産検証(PVT)工程を考慮すれば、
開発期間の大幅な簡素化に繋がることが分かります。SLSでは旧来の製造法に必要な金型や治具等も
不要で、各部品やアセンブリの試作と検証、そして設計調整と再試作の反復作業も僅か数日 で完了
できます。開発期間とコストの削減効果はSLSの導入コストを評価する際に、注目すべき指標です。
SLSは製造難易度の高い複雑な形状の製品や精密部品でも、製造単価を抑えながら高強度材料で生産
が可能なため、投資対効果に優れた製品と言えます。そのため近年では、射出成形での少量生産を、
SLSによる3Dプリントに置き換える動きも増えています。
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SLS方式3Dプリントの代表的な用途
SLS 3Dプリントは、イノベーションを加速し、日用品から産業機械、ヘルスケア等あらゆる製造
業において、生産技術や製造部門、あるいは開発や試作技術の分野で用いられています。
生産技術・製造・組立分野
期間とコストの削減だけでなく、内製のキャパシティを拡大
することでサプライチェーンリスクへの対策、急速なニーズ
の変化に柔軟に対応。
• 実製品および部品のバッチ生産・連続生産
• カスタムでの少量生産品や受注生産品のバッチ生産
• マスカスタマイゼーションによる日用品・消費財の製造
• 交換部品の製造によるサプライチェーンリスクの低減
• 高い強度や長期使用への耐性が求められる生産または組立用治具
• 自動車、二輪、船舶等のカスタム部品 ほか
開発・設計・試作分野
初期段階から技術検証、機能検証用試作から検証・設計調整
後の再試作サイクルの高速化、量産移行前の試験生産までを
すべて内製し、フルにコントロール。
• ラピッドプロトタイピング(試作・検証・設計調整後の再試作の高速化)
• プレマーケットでの試供用モックアップ
• 機能検証用の試作品製作
• 高強度な試験用治具の製作(ダクトや配管、ブラケット、固定具等)
ヘルスケア分野
そのまま使用可能な個人専用の義肢装具等をその場で製 作し
すぐに提供。
• 医療機器の試作品製作
• 義肢装具や歯列矯正器具
• 外科用の模型や各種器具製作
• 実製品用の部品(Nylon 12パウダーは減菌処理対応の生体適合性
材料です)
* 材料特性は、設計や製造方法により変動する場合があります。造形品が目的の用途に適したものかを検証するのは
各製品の製造元の責任となります。
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