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誰もが使える優れた操作性と、誰もが満足する高い分光性能を併せ持ち、短時間で精度の高い分析結果を提供するシステム
顕微赤外分光法は、FT-IR単体では測定できない微小物や複雑な構造をもつ試料の分析において有用な手法のひとつです。顕微FT-IRを用いることで、その高い空間分解能を活かした局所的な赤外スペクトル分析が可能となり、試料上の任意の部位の化学情報を得ることが可能となります。
したがってこの手法は、各種工業製品の品質管理や科学捜査、生物医学領域における組成分析など、様々な分野において活用されています。対象試料は、繊維、塗料片、混入異物、複合材料(ラミネート、錠剤など)、生体組織など多種多様であり、様々な応用が期待できます。例えば、パッケージング材料の各層の化学組成を分析したり、電子部品上の微小異物やゴム材料に局在する不純物を同定したりすることが可能です。
ここでは、ブルカー・オプティクスが新たに提案する一体型FT-IR顕微鏡、“LUMOS(”ルーモス)による顕微分析の実例を紹介します。
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このカタログについて
ドキュメント名 | 【アプリケーションノート】一体型FT-IR 顕微鏡LUMOS による微小試料の分析 |
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ドキュメント種別 | 製品カタログ |
ファイルサイズ | 498.9Kb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | ブルカージャパン株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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Bruker Optics
Application Note
一体型 FT-IR 顕微鏡 LUMOS による微小試料の分析
はじめに 装置
顕微赤外分光法は、FT-IR 単体では測定できない微小 測定に用いた LUMOS (図1)は、FT-IR分光計と顕微
物や複雑な構造をもつ試料の分析において有用な手法の 光学系を一体化した顕微 FT-IR専用機で、主な仕様は以
ひとつです。顕微 FT-IR を用いることで、その高い空間分 下のとおりです。
解能を活かした局所的な赤外スペクトル分析が可能とな n本体サイズ: 30 x 64 x 52 cm (W x H x D)
り、試料上の任意の部位の化学情報を得ることが可能と n試料観察: 標準視野 1.5 mm x 1.2 mm
なります。したがってこの手法は、各種工業製品の品質 デジタルズーム機構付 CCDカメラ
管理や科学捜査、生物医学領域における組成分析など、 n測定モード : 透過、反射、ATR (Ge)
様々な分野において活用されています。対象試料は、繊 全モードでマッピング対応
維、塗料片、混入異物、複合材料(ラミネート、錠剤など)、 n対物鏡 : 8倍カセグレン型 NA= 0.6 (観察時 0.4)
生体組織など多種多様であり、様々な応用が期待できま ワーキングディスタンス: 30 mm
す。例えば、パッケージング材料の各層の化学組成を分 測定時 /観察時のNA自動切替機構装備
析したり、電子部品上の微小異物やゴム材料に局在する nコンデンサ : 8倍電動式、自動焦点調整機能付き
不純物を同定したりすることが可能です。 n ATR プリズム : ピエゾ制御式 ゲルマニウム (Ge)
ここでは、ブルカー・オプティクスが新たに提案する 接触圧力 3段階切替機構付
一体型 FT-IR 顕微鏡、“LUMOS(” ルーモス) による顕微 n視野絞り : 可視光透過型、電動 3軸アパーチャ
分析の実例を紹介します。 n試料ステージ : XYZ 電動式
測定最大エリア: 75 mm x 50 mm
全測定モードでマッピングに対応
nソフトウェア : OPUS / LUMOS (図 2 参照 )
図 2. OPUS ウィザード - 測定ポイントの設定の様子
OPUS / LUMOS では、画面上の試料の可視観察像を観察しながら、
測定ポイントやアパーチャのサイズを簡単に指定することが可能で
図 1. フルオート、オールインワン FT-IR 顕微鏡 LUMOS す。アパーチャの大きさは、試料のサイズにあわせて自由に設定することが可能で、それぞれのアパーチャサイズごとにバックグランド
スペクトルの測定もすべて自動的に実行されます。
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アプリケーション例 1 そこで、黒い斑点とその周辺部の違いを比較・解析する さらに、マッピングデータ上の、ワニスの各層に対応す
SMD チョーク上の汚染物質の同定 ために、2つの黒い斑点を含むエリアについて、反射モー るエリアから抽出したスペクトルを個々に観察することで、
製品を構成する部品の汚染や異物の ドによりラインマッピング測定を行いました(連続 20ポイ それぞれの成分について、より詳細な解析が可能となりま
混入は、言うまでも無く、その品質と ント)。その結果を図 4 に示します。ここでは、黒色斑点の す。たとえば、緑色の層の成分については、抽出したスペ
性能に悪影響を及ぼします。特に、小 領域のスペクトルにおいて顕著に見られた 1650 cm-1 近傍 クトルをスペクトルライブラリ検索に掛けることで、その主
型化が進むマイクロエレクトロニクスの のバンドについて、その積分強度の分布の状態を可視化し、 成分が市販塗料である “Finadur 781” に近いものである
分野では、ますますその脆弱性が顕著 試料の可視像に重ねあわせて汚染の様子を示しています。 ことが判明しました。ワニスをはじめとする塗料片の迅速
となっており、ごくわずかな異物でも さらに測定により得られた各スペクトルを解析した結果、 な成分分析は、法科学等の分野で非常に重要です。
無視することはできません。たとえば、 汚染の原因となっている未知の物質がタンパク質の一種で アプリケーション例 3
汚染された表面実装デバイス (SMD) は、ハンダ付けの あることが判りました。タンパク質の濃度は、明らかに黒 図 5. 可視像に重ね合わせたワニスの薄切片の RGB 画像。測定は透 塗料片の ATR 測定
不良に伴いリーク電流を発生するなど、最終的に様々な い斑点上で高くなっており、こうして収集した情報により、 過モードで実施しています ( 空間分解能 10 μm x 10 μm)。 3つ目の例として、積層構造を持つ塗料片の化学組成
トラブルの原因になる可能性があります。異物や汚染物 汚染源の特定と問題の解決を実現することができました。 分析について紹介します。この試料は非常に柔らかく、透
質の定性が最大の関心事となります。 過測定が可能な厚みの切片に調製することができません
構造がより複雑化・微細化された電子素子の場合にお でした。このように厚みを持った試料に対しては、顕微
いては、たったひとつの微粒子によってデバイスがまったく ATR モードが非常に有効です。LUMOSでは、測定位置
動作しなくなるなど、その影響はますます大きくなります。 はもちろん、各測定ポイントにおける測定エリアの大きさ
汚染源を排除するためには、その化学的性質を知るこ (=アパーチャの大きさ)を自由に設定することが可能で、
とが不可欠です。FT-IR 顕微鏡を使用することで、マイク それぞれのアパーチャサイズにあわせたバックグランドス
ロメートルオーダーの汚染物質や異物の同定が可能とな ペクトルの測定もすべて自動的に実行されます。ここで紹
ります。ひとつの例として、SMD チョークのはんだ接点 介する測定においても、試料を構成する 8つの層について、
上の汚染物質を分析した事例を示します。 それぞれの厚みに合わせてアパーチャのサイズを設定し、
図 6. スペクトル検索による緑色の層の定性解析。スペクトルライブ 連続自動測定を行いました。波数分解能は 4 cm-1、積算
ラリ検索の結果、緑色の層は市販エナメル塗料 " Finadur 781 " と同 回数は 32 回としました。
様の成分から構成されていると推測されました。
測定によって得られた各層のスペクトルのうち、特徴的
スペクトルマップは、試料片に含まれる 3つの成分(第 1 な 4つの層に対応するスペクトルを 図 7 に示します。図
図 4. 汚染部のスペクトルにみられるアミド I バンドの積分値(面積強 層、第 2層、包埋材)に特徴的なバンドの強度をもとに 7-左の、試料の顕微鏡像に重ねあわせで示される赤枠は、
度)により、汚染の様子を可視化。右側のスケールに従って色分け
した積分値を SMD チョーク接点の可視像と重ね合わせています。 マップを構築し、さらにそれぞれの成分に対して 1色ずつ 測定時のアパーチャの大きさに相当します。赤枠内の丸い
割り当て、その相対量を RGB像として示しています。こ スポットの色は、右図に示した各スペクトルの表示色に対
のようにすることで、着目する化学成分の空間的な広が 応します。得られたスペクトルは、厚みが 20 μm を切る
アプリケーション例 2
ワニス被膜の透過マッピング測定 りの様子を簡単に把握することができます。この測定デー 白色の薄層を含め、各層の成分の違いを明瞭に現してお
タにおいても、各層の化学的な組成の違いを高い空間分 り、このことは LUMOSの ATRマッピング機能の精度の
2番目の例として、2層構造のワニス被膜片の分析を示
解能で明確に描出しており、可視観察像と良い一致を確 高さと、複雑かつ微細な構造をもつ試料の分析において、
します。測定に先立ち、試料を樹脂包埋し、さらにミク
認することができました。 非常に有効であることを示しています。
ロトームを用いて切片を調製しました。多くの有機化合物
は赤外光に対して強い吸収を与えるため、吸収の飽和を
避けるためにも最適な厚みの試料を準備することが重要
となります。
調製した試料切片について、透過モードによるエリ
アマッピング測定を行いました。LUMOSでは、内蔵
CCDによりキャプチャされた試料の可視観察像の上でマ
ウスを操作するだけで、測定エリアを簡単に指定するこ
図 3. SMD チョーク不良品の接点部を撮影した可視像。 とが可能です。ここでは、測定点のサイズ、すなわち空
間分解を規定する視野絞りアパーチャのサイズを 10 μ
チョークの面積はおよそ -1 3.0 mm x 2.5 mm、高さは m x 10 μmとし、波数分解能 4 cm 、各測定ポイントで 3600 3200 2800 2400 2000 1600 1200 800
2 mm 程度です。LUMOS の可視光用対物鏡による観察 の積算回数を 12回(約 6秒)として測定を実行しました。 Wavenumber cm-1
では、ひとつの接点上に幾つかの黒い斑点状の物質が見 その結果を、図 5に示します。この図では、試料の 図 7. 左)試料塗装片の断面像。測定ポイントと視野絞りアパーチャのサイズを重ねて表示。右)測定により得られた代表的な赤外スペクトル。
られます (図 3)。その大きさは、直径 50 μm 程度です。 可視像にスペクトルマップを重ね合わせて示しています。 左図の各測定ポイントの色は、右図に示されているスペクトルの表示色に対応します。
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アプリケーション例 4 図 8 に、透過マッピング法で得られたデータを示しま
生体試料の赤外スペクトルマッピング す。ここでは、試料片の 870 μm x 705 μm のエリアに
顕微赤外分光法は、生体試料の分析においても有用な ついて、空間分解 15 μm x 15 μm、波数分解 8 cm-1、
手法です。生体組織を構成する化学成分の分析において 積算時間 1.5 秒 /ポイントの条件を用い、合計 2,726本
は、着目する成分と特異的に反応する試薬等を用いて染色 (58 x 47)のスペクトルを連続的に測定しました。図 8で
し、その着色の様子を “間接的に”観察する方法が一般的 は、組織に含まれる脂質成分に由来する1740 cm-1 近傍
です。これに対して顕微赤外分光法では、赤外スペクトル のバンド強度の分布を可視化し、試料可視顕微鏡像と重
がもたらす化学情報をもとに、それぞれの成分をダイレク ね合わせて表示しています。細胞の一つひとつが鮮明に
トに捉えることが可能となります。ここでは、シンプルなデ 見て取れ、さらにスペクトルマップからは、予想された通
モンストレーションとして、赤外スペクトルマッピング法によ り、脂質二重層が含まれる細胞壁の内側で脂質の濃度が
る玉ネギの組織小片に関する測定結果を紹介します。 高くなっていることが容易に確認できました。
まとめ
各種工業製品に発生する不具合の原因特定において、
異物や汚染物質の同定は、非常に重要です。また、科学
捜査の分野では、事故や事件の現場に残された繊維や
塗料等の断片に関する分析の結果が、重要な証拠となる
場合があります。さらに、多層ポリマーや生体組織など
の不均一系試料の化学組成分析は、その機能や性能を
把握・向上するうえで必須と言えます。ここで紹介した分
析事例が示す通り、顕微 FT-IR は、微小異物や汚染物の
定性分析や微細構造を持つ試料の化学的な解析におい
て貴重な情報をもたらすことが可能であり、現在では無
くてはならない分析手法のひとつとなっています。
ブルカー・オプティクスの新型顕微 FT-IR “LUMOS” は、
誰もが使える優れた操作性と、誰もが満足する高い分光
図 8. タマネギ組織片の脂質成分の分布状態を示す赤外スペクトル 性能を併せ持ち、短時間で精度の高い分析結果を提供す
マップ(脂質由来の 1740 cm-1 バンドの積分強度分布図)を、可視 るシステムです。LUMOS を用いることで、顕微赤外分光
像に重ね合わせて表示。 分析がさらに身近となり、迅速かつ高精度な分析をとお
して、製品の品質改善や生産性のさらなる向上が可能と
なります。
ブルカージャパン株式会社 オプティクス事業部
本社:〒221-0022 神奈川県横浜市神奈川区守屋町 3-9 B棟6階
Phone:045-450-1601 Fax: 045-450-1602
大阪営業所:〒532-0004 大阪市淀川区西宮原 1-8-29 テラサキ第2ビル
Phone:06-6394-8118 Fax: 06-6394-9003
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Application Note AN-JP 1