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有機分子の化学吸着によって形成される単分子膜、Self-AssembledMonolayer;SAMに関する研究が注目されています。
SAMは自然界で自発的に生じる自己組織化/自己集積化によって形成される規則的な会合体であり、そのプロセスを支配するのは、分子内および分子間の水素結合やファンデルワールス力などです。これらの相互作用を生じる有機分子を選択することにより、目的に応じて膜構造や膜表面の化学的性質や機能をデザインすることができます。
この場合、分子レベルで形成される規則的構造を理解することが非常に重要となりますが、赤外分光法を用いることで、分子配向や結晶性等について官能基レベルで解析することが可能です。
ここでは、大気の影響を除去できる真空型 FT-IRを用いたIRRAS法による、SAM修飾基板に関する解析について紹介します。
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このカタログについて
ドキュメント名 | 【アプリケーションノート】真空型赤外分光システムを用いたIRRAS 法による有機単分子膜の解析 VERTEX80v |
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ドキュメント種別 | 製品カタログ |
ファイルサイズ | 255.3Kb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | ブルカージャパン株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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Bruker Optics
Application Note
真空型赤外分光システムを用いた
IRRAS法による有機単分子膜の解析
はじめに
有機分子の化学吸着によって形成される単分子膜、
Self-Assembled Monolayer; SAM に関する研究が注
目されています。SAMは自然界で自発的に生じる自己組
織化 /自己集積化によって形成される規則的な会合体で
あり、そのプロセスを支配するのは、分子内および分子
間の水素結合やファンデルワールス力などです。これらの
相互作用を生じる有機分子を選択することにより、目的
に応じて膜構造や膜表面の化学的性質や機能をデザイン
することができます。この場合、分子レベルで形成され
る規則的構造を理解することが非常に重要となりますが、
赤外分光法を用いることで、分子配向や結晶性等につい
て官能基レベルで解析することが可能です。
赤外分光法による金属基板上の薄膜の分析は、一般
的に、赤外光の入射角度を大きくし、入射面に平行な
振動をもつ p偏光を入射させてその反射光を測定する
赤外反射吸収分光法(Infrared Reflection Absorption
Spectroscopy; IRRAS)により行われますが、単分子膜
の場合、その反射吸光度は 10-4~ 10-3と非常に弱く、装
置の置かれる環境によっては、大気中の水蒸気や二酸化
炭素の吸収が強く現れ、薄膜の詳細な情報を得ることが
できません。そのため、一般的な FT-IRでは、測定前に
試料室内の雰囲気を窒素等のガスで十分に置換する必要
があり、良好なデータを得るまでには長時間を要します。 図1. VERTEX 80v(上)
一方、真空型 FT-IRでは、試料の設置後、2 ~ 3分で分 IRRASアクセサリ A518/Q (下)
光計内部を真空にすることができ、短時間で測定を開始
することが可能です。ここでは、大気の影響を除去でき 装置
る真空型 FT-IRを用いた IRRAS法による、SAM修飾基 測定には、試料室に入射角 80°の IRRAS用アクセサリ
板に関する解析について紹介します。 (A518/Q)を装着した真空型 FT-IR “VERTEX 80v” を使
試料 用しました。本システムは、分光計と試料室をそれぞれ
独立制御により真空排気することが可能で、今回は測定
試料として用いたSAM修飾基板は、金蒸着ガラス基板 系全体を 3 hPa に減圧して測定を行いました。波数分解
をアルカンチオールとメルカプトカルボン酸の混合エタノール 能は 4cm-1、バックグランドとサンプルの積算時間は各々
溶液に浸漬することで調製しました。またリファレンスには、 2分としました。
重水素置換したアルカンチオール SAM基板を用いました。
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結果
図 2に、測定系排気の際に一定の時間間隔で測定した
リファレンス基板のシングルビームスペクトルを示します。
このデータから、2分程度の短時間で水蒸気や二酸化炭
素を完全に排除することが可能であり、大気による吸収
が障害となるような微弱な赤外吸収をもつ試料の解析に
有効であることが理解できます。
図3. 混合ASM修飾基板のIRRASスペクトル
長軸方向に対して直交した方向に遷移モーメントをもつこ
とを、上記の表面選択律と照らし合わせて考えると、吸
着分子は基板法線方向からある程度傾いていることが推
察されます。
一方、カルボン酸由来の C=O 伸縮振動バンド
(1740 cm-1近傍)が現れていることから、メルカプトカル
図2. 減圧に伴う水蒸気、二酸化炭素の減少の様子 ボン酸の末端に位置するカルボニル基は、基板法線方向
を向いていることが分かります。これに対し、通常 3300
図 3に、混合 SAM基板の IRRASスペクトルを示し ~ 3200 cm-1を中心に現れるOH伸縮振動バンドが今回
ます。水蒸気による妨害吸収が消滅したことにより、指 のスペクトルでは見られません。これは、末端の -OH基
紋領域に現れるカルボン酸由来の吸収(1740 cm-1の が基板平面と平行な方向を向いているためではないかと
C=O伸縮振動、1460 cm-1近傍の C-O-H面内変角振動、 考えられます。
1260 cm-1の C-O伸縮振動等)も、より明瞭となってい 以上のように、IRRAS法を用いることで、基板に対す
ます。この領域は、わずかな水蒸気量の変動でも影響を る分子の配向状態を官能基レベルで議論することが可能
受けやすく、パージ型分光計では微弱な吸収を再現性よ です。さらには、吸収ピークの位置やバンド半値幅を解
く測定することは困難です。 析することで、結晶性や配向の乱れに関する情報が得ら
IRRAS法では、試料基板に対して垂直な方向に遷移 れることから、SAMの形成過程における吸着時間と構
モーメントをもつ振動モードが強く観測され、基板表面 造の関係などを理解するうえで、非常に有効な分析法と
に平行な遷移モーメントを持つものは吸収を与えません。 言えます。
この IRRAS法の持つ表面選択律と、各振動モードの遷 とくに、真空 FT-IRを用いることで、測定の高効率化
移モーメントの向きを相互に考えることで、分子配向に関 と解析精度の向上が可能となるため、今後のさらなる活
する解析が可能となります。 用が期待されます。
図 3のスペクトルにおいて、まず 2920 cm-1および
2850 cm-1に、分子骨格のメチレン鎖に由来する CH 伸 参考文献2
縮振動モードが観測できます。いずれのピークも比較的 A. Ulman, Chem. Rev. 96, 1533 (1996)
低い波数位置にあることから、吸着分子のパッキング状 A. Simon, G. Zachmann, Vibrational Spectroscopy, 60, 98 (2012)
態は密であると考えられます。加えて、いずれも分子鎖の
L.E. Dunlop et al, Thin Solid Films, 517, 2048 (2009)
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