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目視観察に基づく測定だけでは見落としがちになる情報も、短時間で確実に捉えることが可能
自動車の塗装は、耐候性や外観上の品位を向上させるため複数の塗料層で構成され、層構造や塗料の種類は車種ごとに異なります。したがって、塗料片を構成する各層の成分分析は、その車種を特定するうえで貴重な情報を与えます。これに対し、フーリエ変換顕微赤外分光計(顕微FT-IR)はマイクロメートルオーダーの微小試料や構造体の定性分析に有効な分析システムであることから、科学捜査の現場においても、塗料片の分析手段のひとつとして比較的古くから活用されています。
ここでは、最新の顕微赤外分光イメージングシステムを用いて行った自動車塗料片に関する解析事例について紹介 します。
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このカタログについて
ドキュメント名 | 【アプリケーションノート】顕微赤外分光イメージングシステムによる塗料片の構造解析 HYPERION3000 |
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ドキュメント種別 | 製品カタログ |
ファイルサイズ | 527.3Kb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | ブルカージャパン株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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Bruker Optics
Application Note
顕微赤外分光イメージングシステムによる
塗料片の構造解析
はじめに 測定には、素子数 64 x 64のMCT 2 次元アレイ検出器を
自動車の塗装は、耐候性や外観上の品位を向上させる 搭載するブルカー・オプティクス社の顕微赤外分光イメージ
ために複数の塗料層で構成され、層構造や塗料の種類は ングシステム “HYPERION 3000” を用いました。このシステ
車種ごとに異なります。したがって、塗料片を構成する各 ムは、従来の単素子検出器によるピンポイント測定ならび
層の成分分析は、その車種を特定するうえで貴重な情報 にマッピング測定に加え、最新の 2次元アレイ検出器による
を与えます。これに対し、フーリエ変換顕微赤外分光計(顕 超高速分光イメージングに対応しています。何れも、透過、
微 FT-IR)はマイクロメートルオーダーの微小試料や構造 反射、ATRのすべての測定手法との組み合わせが可能で、
体の定性分析に有効な分析システムであることから、科学 試料形状や目的に応じて、自由に切り替えることができます。
捜査の現場においても、塗料片の分析手段のひとつとして 今回の測定では、試料切片上の 345 × 345 μmのエリアについ
比較的古くから活用されています。 て、素子分解 2.7 μm、波数分解 4 cm
-1、積算回数 32回にて、
しかしながら、従来の顕微 FT-IRによる分析では、試 スペクトル総数 16,384本から成る赤外吸収スペクトルイメー
料上の測定領域を目視観察により決定するため、コントラ ジデータを取得しました。測定時間は、約 5分でした。
ストが低いような場合には、領域の特定が困難となるケー
スもあり、結果として重要な情報を見落としてしまうことも
起こり得ます。
このような問題に対して、顕微赤外分光イメージング法
は非常に有効な分析手法です。とくに 2次元アレイ検出器
を搭載するイメージングシステムでは、化学成分の分布の
様子や化学構造の空間的な違いに関する詳細を短時間で
可視化することが可能であり、迅速かつ確実な分析が期
待できます。
ここでは、最新の顕微赤外分光イメージングシステムを
用いて行った自動車塗料片に関する解析事例について紹介
します。
試料、分析システム
多層構造から成る自動車の塗料片を樹脂包埋し、ミクロ
トームを用いて 10 μm程度の均一な厚さの切片に調製しまし
た。この試料薄片を可視光域から赤外領域まで透明なフッ 図1. 塗料片の顕微透過像
化バリウム板に載せ、透過モードにて分光イメージデータの
測定を行いました。
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データ解析
イメージングデータの解析においては、着目する化学成
分や官能基に帰属されるバンドの強度に基づく分光イメー
ジを算出します。この際、試料自体による光散乱や他の成
分バンドの重畳などに起因するベースラインの変動の影響
を取り除く目的で、着目するバンド近傍にベースラインを設
定し、ピーク強度あるいは面積強度を計算することが一般
的です。この演算処理はイメージデータに含まれる全ての
スペクトルに対して同一の条件で行われます。最終的には、
バンド強度や波数の高低を等高線や色分けにより視覚化し
てイメージとします。また、着目する成分に帰属されるバン
ドが他の成分と重畳してしまう場合には、多変量解析を応
用した解析手法も有効です。今回の解析では、試料の可
視観察像と対比しながら、イメージ構築に用いるバンドと
-1
諸条件を決定し、面積強度をもとに分光イメージを構築し 図2. 顕微赤外透過分光イメージング (1277~1200cm の積分強度分布)
ました。
結果
図 1に、試料塗料片の顕微鏡写真を示します。この写
真からは、それぞれ 40~ 60 μm程度の厚みをもつ 4つ
の層で構成されているように見えます。これに対して、測
定により得られた赤外透過分光イメージングデータについ
て 1277~ 1200 cm-1の波数範囲における積分値から構築
した赤外分光イメージを図 2に示します。ここで着目すべ
きは、図中 2-1、2-2と示したように、図 1の左から 2番
目の黒色層に対応する領域において、積分強度の分布が
2つに分かれている点にあります。このことは、1つの層に
見える黒色層には成分の異なる 2つの層が存在し、可視
観察では 4層構造と考えられていた塗料片が、実際には 5
層構造をもつことを示唆しています。実際、図 3に示すよ
うに、分光イメージで分離された各層から抽出した 5つの
スペクトルを比較すると、その成分の違いは明らかです。
まとめ
ここで紹介した事例のように、目視観察に基づく測定だ
けでは見落としがちとなる情報も、2次元アレイ検出器を
使用した赤外分光イメージング法を用いることで、短時間 図3. 図 2 で観測された各層の赤外吸収スペクトル
で確実に捉えることが可能となります。HYPERION 3000 (グレーの領域が図 2 構築時の積分範囲)
は、可視観察では明瞭なコントラストが得られない生体組
織や、着目する成分が濃度勾配を示すような系を中心に活 参考文献
用されており、今後も様々なアプリケーションが期待され 顕微赤外・顕微ラマン分光法の基礎と応用
ています。 (2008・技術情報協会)
赤外分光測定法 -基礎と最新手法(2012・田隅三生編著)
ブルカー・オプティクス株式会社
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