1/3ページ
ダウンロード(839.3Kb)
これまでにない高い感度を示す新たな手 法であり、短時間で精度の高いスペクトルを与えます
シリコンウェハー(Si ウェハー)表面の特性は、材料としての機能性に大きく影響し、とくにウェハー表面に形成される各種薄膜の化学的評価がますます重要となっています。たとえば、太陽光発電の材料として用いられる結晶シリコン基板の表面は、化学的安定性の向上と光反射の防止を目的に、シリコン窒化膜(SiN)で覆われています。
同じく単結晶シリコンをベースとする半導体回路においては、層間絶縁膜としてボロンリンガラス(BPSG)層が用いられていますが、さらに高性能な低誘電体(low-k)材料の研究開発が盛んに行われています。同様に、シリコン基板上の自己組織化単分子膜(SAM; self-assembledmonolayers)が示す特性や機能に対して大きな注目が集まっています。
こうした薄膜の厚みは、一般的には数十~数ナノメートル程度、ときにはサブナノオーダーにまでおよぶため、化学的解析が困難になってきています。薄膜の化学分析において代表的なツールのひとつである FT-IR においては、これまで様々なサンプリング手法が開発されてきましたが、ナノメートルオーダーの超薄膜の評価において求められる分析精度に対しては、必ずしも十分とは言えないケースが増えてきています。
◆詳細はカタログをダウンロードしご覧いただくか、お気軽にお問い合わせ下さい。
このカタログについて
ドキュメント名 | 【アプリケーションノート】Wafer ATRによるシリコンウェハー表面の高精度分析 VERTEX |
---|---|
ドキュメント種別 | 製品カタログ |
ファイルサイズ | 839.3Kb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | ブルカージャパン株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
この企業の関連カタログ
このカタログの内容
Page1
Bruker Optics
Application Note
Wafer ATR によるシリコンウェハー表面の高精度分析
はじめに
シリコンウェハー(Siウェハー)表面の特性は、材料 1回透過:→ 感度に限界
としての機能性に大きく影響し、とくにウェハー表面に形
成される各種薄膜の化学的評価がますます重要となってい 内部反射による干渉縞:→ 微弱なバンドが隠れる
ます。たとえば、太陽光発電の材料として用いられる結
晶シリコン基板の表面は、化学的安定性の向上と光反射
の防止を目的に、シリコン窒化膜(SiN)で覆われていま 感度に限界
す。同じく単結晶シリコンをベースとする半導体回路にお 干渉縞が出る場合も
いては、層間絶縁膜としてボロンリンガラス(BPSG)層 条件によっては
が用いられていますが、さらに高性能な低誘電体(low-k) 波形が歪む場合あり
材料の研究開発が盛んに行われています。同様に、シリ
コン基板上の自己組織化単分子膜(SAM; self-assembled 感度に限界(とくに高波数域)
monolayers)が示す特性や機能に対して大きな注目が集
まっています。 試料を加圧、測定面がATR IREに接触
こうした薄膜の厚みは、一般的には数十~数ナノメート → 負荷やダメージの可能性
ル程度、ときにはサブナノオーダーにまでおよぶため、化
学的解析が困難になってきています。薄膜の化学分析にお 測定面が大きいため、
ATR IREとの接触圧力を
いて代表的なツールのひとつである FT-IRにおいては、こ 均一に保つことが困難
れまで様々なサンプリング手法が開発されてきましたが、 → 再現性に難あり
→ 負荷やダメージの可能性
ナノメートルオーダーの超薄膜の評価において求められる
分析精度に対しては、必ずしも十分とは言えないケースが 図 1.シリコンウェハー表面の FT-IR 分析に用いられてきた
増えてきています(図 1参照)。 従来法と、それぞれのデメリット
キーワード 使用装置 / ソフトウェア
Wafer ATR ( ウェハー ATR): FT-IR VERTEX 70(v)/80(v)
VERTEX Wafer ATR アクセサリ (p/n: A460-L15/Q, A460-L40/Q)
多重内部反射による感度の向上
薄膜 MCT 検出器 (p/n: D313/B)
ここで紹介するWafer ATR は、いわゆる MIRS 法 シリコン リファレンス FZシリコンウェハ(p/n: 1008259)
(Multiple Internal Reection Spectroscopy; 多重内部反射 半導体 OPUS IR ソフトウェア
分光法 )を応用した新たなアプローチであり、フランス原 ATR
Page2
d~773µm
30° 70
シリコン Si L=15mm 内部反射回数:60
ダブルプリズム Rn = 1 + L / (2 x d x tan30º)
50 L=40mm~46 Refl.
シリコンウェハ 40 Rnが大きいとき:
30 吸光度 ∝ L / d
薄膜
30°
20 ~18 Refl. L
プリズム長 試料押さえ 10
d
0
0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0
検出器へ 光源から
Wafer ATR + FZ-Si ウェハ
40 mm シングルビームスペクトル Si の吸収によりor
15 mm (任意強度)
遮蔽
測定可能な波数域:
4000 ~ 1500 cm-1
予想されるWafer ATRでの
図 2.上段 ) Wafer ATR の光学系。試料ウェハー自体を ATR プリズ Si ウェハの吸収スペクトル
ムとすることで、分析面の多重反射 ATR スペクトルが得ら (L=15mm)
れる。下段) Wafer ATR の外観。試料サイズ等に合わせ、プ 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500
リズム長について 15 mm と 40 mm の 2 機種を用意。 Wavenumber / cm-1
子力庁電子情報技術研究所 CEA-Leti のグループとの研究 図 3.上段)Wafer ATR のプリズム長 (L=15 mm および L=40 mm)
成果を商品化したものです。1) このアクセサリでは、高精 と試料ウェハーの厚みと反射回数の関係図。下段) Wafer
度に光学研磨された “ダブル Siプリズム ”により、赤外光 ATR による分光感度特性
を分析対象となる Siウェハーの内部に導入して多重反射 測定例
させます(図 2)。つまり、Siウェハーそのものが ATR測
定における内部反射エレメント (IRE; Internal Reecting ひとつめの測定例として、シリコン太陽電池表面の SiN
Element)の役割を果たしつつ、Siウェハー表面の多重反 パッシベーション膜を試料として用いた、従来法との比較
射 ATRスペクトルを得るものです。この際、Siウェハー データを紹介します。太陽光発電材料に用いられるプラズ
の測定面に対しては、機械的な負荷や他の物質と接触が一 マ CVD法によるパッシベーション膜の厚みは、一般的に
切ないため、試料のダメージや汚染の心配もありません。 は 50~ 100nmですが、ここではさらに薄い 13nmの厚み
また、Siウェハー内部での反射回数が非常に大きくなるた を持つ試料(基板ウェハーの厚みは 773μm)を用い、従
め、表面薄膜を高感度に測定することが可能となります。 来法である透過法と入射角 60°の Ge ATRと比較しながら
測定時の必要事項 13nm SiN / 773 µm Si ウェハ: Si の強い吸収:
測定に際しては、十分な光学的スループットを確保する Wafer ATR, L=15mm Ge ATR は波形がGe ATR (~65°), 1回反射 歪み解析が困難
透過法
ために、試料基板として低不純物ウェハー(FZシリコン SiH
等)の両面研磨品が必要となります。また、機械的理由か SiH, NH バンド強度の比較:
ら、300μm程度以上の厚みが必要となります。試料ウェ Wafer ATR : Ge ATR : 透過
SiN 強度比 35 : 4 : 1
ハーの厚みは内部反射の回数に直接影響するため、分析精 NH
度を左右する非常に重要なファクターとなります(図 3、
左上)。アクセサリには、試料ウェハーの形状や測定の目 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500
(L) Wavenumber / cm
-1
的に合わせ、赤外光の導入部から出射部までの距離 が
15mmのタイプと 40mmのタイプが用意されていますが、 Wafer ATR,
L=15mm NH バンドで強度を規格化
たとえば、市販品の単結晶Siウェハーとして一般的な 600 Ge ATR 比較のためオフセット調整
Transmission
μmの厚みをもつ基板を用いた場合の内部反射回数は、
L=15mmタイプのアクセサリで 23回程度、L=40mmタイ S/Nの比較 (~ 3300cm-1):
プで 60回程度となります。測定対象となる Siウェハーそ Wafer ATR : Ge ATR : 透過強度比 7 : 2.5 : 1
のものを IREとして用いるこの手法では、Siウェハー自身
の赤外吸収帯以外の領域 (>1500cm-1) が測定対象域となり
ます(図 3 下)。 3500 3400 3300 3200 3100
April 21, 2015
バックグラウンド測定には、厚みや不純物量、表面特性 Wavenumber / cm-1
(表面研磨状態)が試料ウェハーと同一の、清浄な単結晶 図 4.上段) 厚み 13nm の SiN パッシベーション膜の赤外吸収スペ
ウェハーを用います。また、多重反射による赤外光の減衰 クトル ; 橙色 Wafer ATR、青色 Ge ATR(60°)、灰色 透過法。下段) N-H バンド域のスペクトル(強度規格化)。使用装置
をカバーするため、MCTや InSb等の高感度検出器を使用 /測定条件はいずれも同一(VERTEX 70、MCT 検出器、波数
する必要があります。 分解 4cm-1、測定時間 90 秒)
Normalized Diff. Absorbance Diff.Absorbance Units
0 1. 0.00 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07
Absorbance
0 2 4 6 8 10 12
Page3
有機単分子膜/Si ウェハ
(両面コート)
トリクロロオクタデシル
シラン(C18H37SiCl3)
CH2 バンドで S/N 比較 (CHn近傍)強度を規格化
Wafer ATR : 透過法
比率 5 : 1
図 5.シリコン基板表面に形成されたトリクロロオクタデシルシ 図 6.Wafer ATR 外観(側面/赤外光の入射方向より)。写真左手
ラン単分子膜の赤外吸収スペクトル。使用装置はいずれも のダイアルを回転することで、2 本のガイドピンが試料ウェ
VERTEX 80v 真空型 FT-IR。透過法 : J-Stop アパーチャ 6mm、 ハーを “ ダブル Si プリズム ” に密着・保持します。この際、
DTGS 検 出 器 使 用。Wafer ATR: J-stop ア パ ー チ ャ 1mm、 特別なツールや調整は不要です。
MCT 検出器使用。
測定を行いました。3つの手法による測定結果を図 4に示 まとめ
します。
Wafer ATRは、単結晶 Siウェハー上に形成された薄膜
たとえば、窒化膜中に存在する N-H結合に由来す の分析において、これまでにない高い感度を示す新たな手
る 3300cm-1のバンドと近傍のノイズ強度を比較すると、 法であり、短時間で精度の高いスペクトルを与えます。一
Wafer ATR法が最も高い検出能をもつことが分ります。シ 般的な透過法との比較では、感度に優れることはもちろ
リコン窒化膜中の水素結合量は、保護膜としての機能や信 ん、透過法においてしばしば問題となる試料基板内部での
頼性に大きく影響すると考えられており、Wafer ATRによ 多重反射による干渉の影響がない点は、とくに高い波数分
る高感度測定は、膜質や成膜プロセスを評価するうえで、 解が求められる測定において大きな利点となります。また、
非常に有効な分析手法になると言えます。 FT-IRを用いた表面分析において代表的な手法となってい
もうひとつ、Wafer ATRを用いた測定例として、シリコ る従来の ATR法との比較では、Wafer ATRでは試料の測
ン基板表面に形成された有機単分子膜(トリクロロオクタデ 定面に一切触れることが無いため、試料への負荷や表面の
シルシラン)に関するデータを図 5 に示します。ここでは、 汚染等を気にする必要が無い点が最大の利点と言えます。
同一試料について透過法と比較していますが、測定時の入 Wafer ATRは、分析感度や精度の改善が常に求められる今
射光量や検出器等については、それぞれの測定手法におい 日の研究開発の現場において、非常に有効な分析手法であ
て最適な組み合わせを用いました。一方、波数分解と積算 り、新規材料の開発や成膜、表面処理などの各種プロセス
3)
時間については両者の性能を厳密に比較できるように統一 の最適化への活用が期待されます。
条件としました。図中に示す通り、Wafer ATRの方が 5倍
程度高い S/Nが得られており、信頼性の高いデータが短時 参考文献
間で得られることが理解できます。ウェハー基板そのもの [1] Nevine Rochat et al., Applied Physics Letters vol. 77 no.
を ATR法の IREとして用いるこの手法では、測定領域が 14, 2000
1500cm-1以上に限定されてしまうものの、従来法と比較し [2] Helmut Brunner et al., Applied Spectroscopy vol. 51 no.
て高品位のスペクトルが短時間で得られることから、単分 2, 1997
子膜の膜質等を評価するうえで有用な手法と言えます。2) [3] A.Simon et al., poster contribution at ICAVS7 conference
ブルカー・オプティクス株式会社
本社: 〒104-0033 東京都中央区新川 1-4-1 住友不動産六甲ビル
Phone: 03-3523-6870 Fax: 03-3523-6871
大阪営業所: 〒532-0004 大阪市淀川区西宮原 1-8-29 テラサキ第2ビル
Phone: 06-6394-8118 Fax: 06-6394-9003
www.bruker.com Marketing.BOPT.JP@bruker.com
Application.Note.AN-JP.13