Application Note AN M138
建築用材料の品質管理
はじめに
キーワード 装置およびソフトウェア
現代の建築材料は、様々な厳しい要求を満たすために最適化さ 建築材料 ALPHA FT-IR
れた製品です。橋梁、トンネル、路面など、各種建築物に用いられ 混和剤 Platinum-ATR
るコンクリートでは、機械的耐久性の向上や建築時間の短縮等を 建築用化学物質 OPUS ソフトウェア
目的に、数多くの混和剤が使用されています。これら混和剤は、 品質管理 スペクトル比較
最終的なその用途に合わせてコンクリートに添加されますが、有
リバースエンジニアリング 混合物検索
機物質であるケースもしばしばあります。例えばポリカルボキシレ
ートエーテル(PCE)は、コンクリート懸濁液の分散特性を向上さ
せるための超可塑剤として機能します。またシロキサン化合物は、 しかし残念ながら、XRFやXRDは混和剤や接合剤といった有機材
コンクリートの白華現象の抑制と撥水性の向上を目的に使用され 料に関する分析には不向きです。有機系材料の定性と複雑な化学
ます。アスファルトコンクリートやポリマーコンクリートの様な一部 組成の解析には、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)が有用です。
のコンクリートにおける接合剤は、完全なポリマーです。
FT-IRは、様々な工業分野の品質管理において広く活用されている
建築材料の化学分析 化学分析機器のひとつで、これにより得られる赤外スペクトルは、
測定対象物の化学情報の詳細を反映することから、人間の指紋
ポルトランドセメントや石膏、石灰石等、基本的な無機構造材料 と同様に考えることができます(図1)。すべての有機化合物と多
の品質をコントロールする場合、成分分析の手法として蛍光エッ くの無機化合物は、それぞれのもつ化学構造を反映したスペクト
クス線法(XRF)が有効であり、酸化物、硫酸塩、炭酸塩等の元素 ルを与えます。したがって、赤外分光法は、純粋化合物ならびに複
組成の測定が可能です。さらにエックス線回折法(XRD)を用いる 合材料の識別に適用が可能です。さらに赤外分光法は、着目する
ことで、建築材料に関する物理的特性ならびに化学的特性の両 成分に関する定量分析にも有効ですので、その応用分野は多岐に
面を把握することが可能となります。 渡ります。
当然のことながら、FT-IRは建築材料の分析にも応用が可能で、各 原材料等の受入検査
種原材料の受入検査から最終的な配合材料の品質管理まで、幅
広く利用することができます。さらに赤外分光法は、研究開発や 建築材料の品質を保証するためには、まず第一に、間違った原
トラブル対応にも有効で、例えば製品中に見つかった異物や競合 料や質的に不十分な原料が使用されることを防ぐ必要がありま
他社が使用する未知の物質について定性分析を行う場合にも、 す。FT-IRを用いて入荷原料を化学的に分析することで、例えば、誤
強力なツールとなります。成分や化学構造が既知の標準物質につ った包装やラベル付けといった簡単なエラーによる取り間違いを
いて収集されたスペクトルデータベースも数多く用意されており、 防ぐことができます。さらに、複数の成分からなる配合剤について
これらを用いることで、未知物質の定性を迅速に行う事ができま も、組成の違いや経時による品質の変化も判別することが可能で
す。 す。原料が正しいかどうかは、品質の基準となる標品の赤外スペ
クトルを予め測定しておき、検査対象品のスペクトルと比較するこ
とで、簡単に判別することができます。赤外スペクトルどうしの比
較・判別は、ALPHAの制御ソフトウェア「OPUS」とこれに付属する
QuickCompare機能を組み合わせることで、全て自動的に実行さ
れ、その結果は直ちにオペレータに示されます。
図1. 赤外スペクトルは、人間にとっての指紋と同様、その物質の化学組成
を反映します。上から:ケイ酸塩、炭酸カルシウム、アクリルモノマー、エ
ポキシ樹脂
装置と手法
建築材料の分析には、Platinum ATRモジュールを装備したALPHA
が最適です(図2、上)。ALPHAは、設置面積がA4用紙1枚分と
いう非常にコンパクトなボディに加え、耐震性と可搬性を有する
FT-IRで、測定を行う場所を選びません。このATR法による測定時
間は、ほとんどの試料において1分程度と短時間で、しかも事前の
試料調製、あるいは測定のための試薬や消耗品も不要です。
Platinum ATRには、ダイヤモンド製ATRプリズムが標準で採用され
ます。ダイヤモンドは物理的にも化学的にも非常に安定であり、あ
らゆるタイプの試料に適用が可能です。とくにPlatinum ATRは、モ
ノリシック構造のダイヤモンドプリズムをタングステンカーバイト
製の台座に直接ろう付けするという、非常に高い堅牢性を有する
設計となっています。これにより、あらゆる硬度の試料を測定する
ことが可能で、さらにクリーニング等メンテナンスにおいても安心 図2. 上: Platinum ATRモジュール付 ALPHA FT-IRスペクトロメータ、下:
ATR法の概略図。赤外線が試料とATRプリズムの界面で反射するとき、わ
です。測定は、図2の下段に示すように、少量の試料をダイヤモンド ずかに試料側に潜り込み、試料に吸収されます。液体または固体試料を
プリズムの表面に密着させるだけで、操作も非常に簡単です。 ATRプリズム表面に密着させるだけで、測定が可能です。
図3に、FT-IRによる受入検査結果の例を示します。ここで紹介す 混和剤の定性分析
る原料は「ヒドロキシメチルセルロース(HPMC)」で、これは増粘
剤、結合剤、膜形成剤および保水剤としてのセメントベースの建 競合する会社の製品を分析することは、自社製品の開発促進や、
材に使用される添加剤です。図の上段は検査対象品のスペクトル その会社による特許侵害の特定等に役立ちます。未知の物質を
(青)、下段が標品(=正常品)のスペクトル(赤)です。検査に際 同定する場合には、参照ライブラリを用いたスペクトル検索が有
しては、二つのスペクトルの相関係数を求めることで、両者の異同 用です。未知物質が複数の成分からなる混合物の場合も、最新の
を判別しますが、ここに示す例では、相関値が99.9%と非常に高 データ解析用ソフトウェアに含まれる混合物検索機能を用いるこ
く、検査品のスペクトルが基準スペクトルと非常に良く一致してい とで、各成分の定性が可能となっています。
ることを示しています。 この検査では判別閾値を99%と設定して
いますので、検査票には合格を示す「OK」と表示されます。 ここでは、人工大理石およびコンクリート用ポリエステル樹脂の
重合プロセスを開始するために使用される、組成が未知の液体配
アスファルト/石灰石混合物中の熱可塑性ポリオレフィン(TPO) 合物に関する分析を紹介します。液体試料をATR法で測定する場
の定量 合、必要なサンプリングは、試料液をダイヤモンド製ATRプリズム
の表面に乗せるだけと、非常に簡単です。
TPO樹脂は、しばしば建築材料に使用されますが、例えばアスフ
ァルトにTPO樹脂を加えることで、アスファルト混合物の耐流動性
が向上します。ここでは、ALPHAによる、アスファルト/石灰石混合
物に添加したTPO樹脂に関する定量分析について紹介します(図
4)。データの再現性を確認する目的で、各試料について測定を2
回ずつ行いました。図4の上段に、アスファルト/石灰石/TPO混合
物と、参照のためのTPO単体のスペクトルを示します。TPOに特徴
的な吸収バンドの強度を積分することで、TPO含有量に関する検
量線が得られます(図4、下)。さらにこの検量線を基準とするこ
とで、未知試料におけるTPOの添加量を1分程度で把握すること
が可能となります。
図3. OPUS QuickCompare による増粘剤HPMC原料の受入検査の例。検 図4. 上段: アスファルト/石灰石/TPO混合物のスペクトル(TPO含有量:
査対象物のスペクトル(上段)と標品のスペクトル(下段)を比較すること 緑: 5%、青: 10%、オレンジ: 12.5%、赤: 15%)。下段: TPO成分に特徴的な
で、両者の同一性を検証することが可能です。 973cm-1のバンド積分強度を基づく検量線。
ATR測定後、得られたスペクトルについて行った混合物検索の結 まとめ
果を図5に示します。検索候補として挙げられた各成分を足し合
わせた合成スペクトル(黒色のスペクトル)と分析対象試料のスペ 現代の建築材料に関するQA/QCにおいて、XRFやXRDと共にFT-IR
クトル(赤)は非常に良く一致しており、検索結果の妥当性が高い を用いることで、相補的な化学分析が可能となります。FT-IRによ
ことを示しています。また候補として挙げられた二つの化合物、 る赤外分光法は、とくに有機系材料の分析に有効であり、各種原
ジ-tert-ブチルペルオキシド(青色)ならびにtert-ブチルベンゾイル 材料から混和剤まで、幅広く適用することが可能です。赤外分光
ペルオキシド(ピンク)は、いずれも重合開始剤として知られてお 法の持つ定性および定量分析能力を利用することで、受入検査
り、試料を構成する成分として妥当であると言えます。検索の結 から研究開発まで、多面的な分析が可能となります。
果から、試料溶液は、これら二つの成分がおよそ4対1の割合で配
合されてできているものと推測されました。 ブルカーのコンパクトFT-IR「ALPHA」は、あらゆる形状の試料に
対応する汎用性の高い分析システムです。直感的なハードウェア
デザインに加え、ガイド機能付ソフトウェアによるシームレスな操
作感により、どなたでも簡単確実にお使い頂けます。
さらにスペクトルデータベースと検索機能を活用することで、未知
物質の同定を迅速に行っことが可能です。ALPHAは、受入検査等
の品質管理から、故障解析、さらにはリバースエンジニアリングま
で、様々な用途にお使い頂ける強力なツールです。
図5. 成分未知の液体配合物に関する混合物検索結果。上段の赤色のス
ペクトルが未知試料のスペクトル、黒色が混合物検索の結果から候補と
して挙げられた各成分(中段と下段のスペクトル)による合成スペクトル。
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