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FT-IR顕微鏡は、MPPの標準的な分析方法として確立されています。さまざまな試料に対して適用することができ、 すべてのポリマー種についてより正確な同定が可能です。
マイクロプラスチック汚染への関心がここ数年高ま ってきており、遍在的な発生要因や将来の展望など が現在の研究対象となっています。マイクロプラス チック粒子(Micro-Plastics Particles; MPP)は、 特に海洋などの環境中に拡散した5mm未満の直径を 有する微小なプラスチック粒子を指します。MPPは 起源に応じて、一次粒子と二次粒子に分類されます。
【掲載内容】
◆FT-IR分光法によるマイクロプラスチックの分析
◆解析事例: MPPの誤検出
◆解析事例:フィルター濾過されたMPPの自動解析
◆Janssenとその共同研究者による、深海底堆積物中のMPP
◆まとめ
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このカタログについて
ドキュメント名 | 【アプリケーションノート】顕微FT-IRと顕微ラマンを用いた マイクロプラスチックの分析事例 |
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ドキュメント種別 | 事例紹介 |
ファイルサイズ | 512.5Kb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | ブルカージャパン株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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Application Note AN M144
顕微FT-IRと顕微ラマンを用いた
マイクロプラスチックの分析事例
マイクロプラスチック汚染への関心がここ数年高ま キーワード 装置及びソフトウェア
ってきており、遍在的な発生要因や将来の展望など マイクロプラスチック HYPERION FT-IR 顕微鏡
が現在の研究対象となっています。マイクロプラス
チック粒子(Micro-Plastics Particles; MPP)は、 粒子分析 SENTERRA II ラマン顕微鏡
特に海洋などの環境中に拡散した5mm未満の直径を ポリマー OPUS ソフトウェア
有する微小なプラスチック粒子を指します。MPPは
起源に応じて、一次粒子と二次粒子に分類されます。
一次粒子は、洗剤や化粧品に含まれる研磨剤などの工業 MPPを詳細に分析することで、MPPの起源と形成の両面
的に製造された粒子です。二次粒子は、プラスチック部 について結論を導き、汚染の程度を判断する取り組みが
品や容器など比較的大きなプラスチック片が海洋を漂 なされています。一般的に、MPPの濃度は比較的低く、
流するうちに、紫外線による化学的分解や波浪による サンプリング中にキチン、綿繊維または砂粒などの、典
物理的分解などによって微小化された全ての粒子を指 型的な生物由来の粒子や無機物に由来する粒子も含まれ
します。プラスチック廃棄物の分解には非常に長い時 るため、多くの点で分析が困難となります。したがって
間がかかるため、環境中のMPPの量は着実に増加して まず初めに、物理的なふるい分け、密度分離法、さらに
います。特に、世界の海洋汚染は深刻な問題であり、 は分析の妨げとなる有機成分を除去するための酸化処理
現在のMPPの年間排出量は、1人あたり210g、合計約 工程または酵素的工程などの複合的な手法による試料の
1.5メガトンと推定されています。[1] 魚類をはじめとす 前処理が必要となります。分離後、化学的に同定するた
る海洋生物が、可塑剤や有害物質などを含むMPPを めに様々な分析方法が用いられます。スクリーニング的
摂取することで汚染の食物連鎖が起こり、生態系の に分類評価するための1つのシンプルな方法は、MPPの
バランスが崩れてしまうことが懸念されています。 密度および炭素:水素:窒素比の分析です。[2] しかし、
さらには、その魚類を食べた人間にも影響が及ぶと この方法ではポリマー種の明確な決定は不可能であり、
予想されています。 より小さな粒子を分析することはできません。
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FT-IR分光法によるマイクロプラスチックの分析
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)は、ポリマー種の同定に
おいて実績のある分析法です。その物質が天然物由来か、
合成物かを確実に識別できます(図1)。同定は、スペクト
ルライブラリを用いることで自動的に実行されます。
一般的なFT-IRでも、比較的大きな粒子は容易に分析
することができます。さらに顕微FT-IRでは、数マイ
クロメートル程度の単一粒子の分析が可能で、一定の
大きさをもつ試料においては1つの粒子について複数
個所の測定を行うこともできます。FT-IRには試料の
形体に応じて、さまざまな測定手法がありますが、
MPPの分析で最もよく使用される測定手法は透過法で
す。この手法は、測定する試料を赤外光に透過性のあ
る基板の上に調製する必要があり、また試料が厚い場
合は、スペクトルの飽和により分析精度が低下してし
まうため、薄片化等の前処理が必要となります。試料
図1:異なるポリマー種のIRスペクトル を載せる基板としては、3800cm-1から1250cm-1の範
囲に強い赤外吸収をもたない酸化アルミニウムフィル
他の分析法としては、質量分析と組み合わせた熱分解-ガ ターがよく用いられ、調製したMPPをフィルター上に
スクロマトグラフィーがあります。[3] この方法からは、ポ 採取することで直接測定できます。
[4,5] 比較的新しく有
リマー種について信頼性の高い測定結果が得られます。し 効なフィルターとしては、スペクトル範囲に制限のな
かし、粒子を手作業で熱分解試料管に入れなければなら いシリコンに、フォトリソグラフィーエッチングプロ
ず、分析の処理能力を著しく低下させます。 セスによって10µm程度の細孔を加工したものがあります。比較のため図2に、従来のアルミナフィルター
とシリコンフィルター(赤色)の赤外透過スペクトル
顕微赤外分光法および顕微ラマン分光法は、分析の処理 を示します。 [6]
能力が高く、非常に小さな粒子でさえも信頼性の高い同
定解析を可能とします。両分析法はさまざまな試料に対
して適用が可能であり、数マイクロメートルサイズの粒 顕微FT-IR測定では、試料片上の着目する位置(ポイント)
子一つひとつを選択的に分析することができます。MPP を指定して順次測定する方法と、一定の領域内をアレイ検
のより大きな蓄積物についても、自動化されたイメージ 出器により一度に測定するイメージング法とがあり、これ
ング測定によって迅速な分析が可能です。 らは2種類の検出器を切り替えにより使い分けることができ
ます。特筆すべきは、後者の場合に用いられるフォーカ
ルプレーンアレイ(FPA)検出器です。FPA検出器は、通
常64×64程度の受光素子からなるマトリックスで構成さ
れ、一度の測定で4096本の赤外スペクトルを取得するこ
とができます。この方法を用いることで、数分程度の短
い時間で、数十μmから数百μm四方の広い領域を測定す
ることができます。
ブルカーのHYPERION 3000 赤外顕微鏡(図3)にはFPA
検出器が装備されています。その空間分解能は、光の回
折によってのみ制限されるため、数µmの粒子を捉える
ことができます。また、拡張性に優れるHYPERIONは、
ATR法、透過法、反射法、GIR法による測定が可能で、
試料の形体や目的に合わせてさまざまな測定手法を選択
することができます。また、FPA検出器と電動ステージ
を組み合わせることにより、連続的にイメージング測定
を行うことができるため、短時間でさらに広い領域を解
析することも可能です。
図2:シリコン(赤色)とアルミナフィルター(青色)の比較スペクトル [6]
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解析事例:フィルター濾過されたMPPの自動解析
広い表面積をもつ試料の分析事例が、Gerdtsおよびその
共同研究者によって報告されています。[5] 彼らは、ドイ
ツ湾の堆積物を分析しました。MPPを塩化亜鉛溶液で分
離し、濾過および酵素精製した後、さらに密度分離プロ
セスを加えた試料をアルミナフィルターに通して濾集し
ました。FPA検出器を使用しイメージング測定すること
で、直径25mmのアルミナフィルター全体を分析し、そ
のスペクトルを自動解析しました。専用のソフトウェア
を使用することで、最大100万のスペクトルデータを元に
評価し、結果をグラフィック表示することができます。
図5に、分析された粒子のサイズおよびポリマー種を表示
したイメージを示します。
図3:TENSOR II FT-IR分光器と連結した
HYPERION 3000イメージング赤外顕微鏡
解析事例: MPPの誤検出
Gerdtsらは、塩化亜鉛溶液(ρ= 1.5g / cm3)を用いて
MPPを密度分離した場合でも、分離後の粒子の大部分
が無機化合物であるにも関わらず、MPPの含有量が実
際よりも非常に高いという誤った結果が導き出されたケ
ースについて報告しています。[7] HYPERION 3000 赤外
顕微鏡とFPA検出器によるイメージング測定を行った結
果、実際には粒子のわずか1.4%のみがMPPであること
が確認されました。残渣粒子のほとんどは、原理的には
約2.65g / cm3の密度で分離できるはずの石英(図4)であ
ることが分かりました。振動分光分析は、このような誤
った判断をすることなく確実に同定可能であることか
ら、いかに重要な分析法かが証明されています。
図5:アルミナフィルター上のポリマー種を色分けした解析結果 [5]
測定事例:ビスコースレーヨンとセルロースの識別
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図4:石英の参照スペクトル(青色)と典型的な残渣粒子(赤色)のスペク のせんレでーしザたー。を使用する必要があります。ブルカーの
トル比較 [7] SENTERRA IIラマン顕微鏡は、波長1064 nmの近赤外レー
ザーを含む最大4つの励起レーザーを使用することができ、
それぞれの試料に対して最適な励起波長を選択することが
できます。ラマン顕微鏡を使用した研究例としては、
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自動化された分析方法で、何千ものMPPを迅速に同定す
ることが可能です。一方、ラマン顕微鏡は、蛍光の問題はあ
るものの、FT-IRでは困難なミクロンサイズの小さな粒子で
さえ測定することができる、相補的な分析方法です。両方の
手法を使い分けることで、より詳細かつ確実なMPP分析が可
能であると言えます。
参考文献
[1] J. Boucher, D. Friot, Primary Microplastics in the Oceans: A
Global Evaluation of Sources. 2017, Gland, Switzerland:
IUCN.
[2] S. Morét-Ferguson, K.L. Law, G. Proskurowski, E.K. Murphy,
E.E. Peacock, C. M. Reddy. The size, mass, and composition
of plastic debris in the Western North Atlantic Ocean. Marine
Pollution Bulletin, 2010, 60(10), 1873–1878.
図6:合成されたビスコースレーヨン繊維(赤色)と天然のセルロース [3] E. Fries, J.H. Dekiff, J. Willmeyer, M.T. Nuelle, M. Ebert,
繊維(青色)のATRスペクトル D.Remy, Identification of polymer types and additives
ラJaマnsンse分nと光そ法のに共よ同る研M究PP者のに分よ析る、深海底堆積物中のMPP in marine microplastic particles using pyrolysis-GC/MS
の顕分微析FTが-IあR分り光ま法すの。[相9]補 SE的NなTE分R析RA法ラとマしンて顕、微顕鏡微を用ラいマてン測分 and scanning electron microscopy. Environmental Science-
定光し法たが結あ果り、ま2す5c。m顕2あ微たラりマ最ン大分1つ光の法MでPはP、が検試出料、を同前定処さ理れす Processes & Impacts, 2013, 15(10), 1949–1956.
まるしこたと。なく非接触で測定することが可能です。試料にレー [4] M. G. J. Löder, M. Kuczera, S. Mintenig, C. Lorenz,
ザー光を照射し、その非弾性散乱光をCCD検出器等で受光 G. Gerdts, Focal plane array detector-based micro-Fourier-
して分析することで、ラマンスペクトルが得られます。一 transform infrared imaging for the analysis of microplastics in
般的には、532nmまたは785nmの可視および近赤外レーザ environmental samples. Environ. Chem. 2015, 12, 563–581.
ーを使用するため、赤外顕微鏡と比較すると、ラマン顕微 [5] S. Primpke, C. Lorenz, R. Rascher-Friesenhausen, G. Gerdts,
鏡の空間分解能は高く、より小さなミクロンサイズの粒子 An automated approach for microplastics analysis using focal
を識別することができます。また、試料が無機化合物の場 plane array (FPA) FTIR microscopy and image analysis. Anal.
合、ラマン分光法はより優れた識別性を示します。しか Methods, 2017, 9, 1499-1511
しながら、この手法の欠点は、測定時に多くの試料から [6] A. Käppler, F. Windrich, M. G. J. Löder, M. Malanin,
発せられる蛍光にあります。蛍光シグナルは、典型的に D. Fischer, M. Labrenz, K. J. Eichhorn, B. Voit, Identification
強く且つブロードに現れるため、試料のラマンシグナル of microplastics by FTIR and Raman microscopy: a novel
を覆ってしまい、この場合、解析に有効なラマンスペク silicon filter substrate opens the important spectral range
トルを得ることができません。蛍光の影響を回避するた below 1300 cm−1 for FTIR transmission measurements. Anal.
めには、長波長のレーザーを使用する必要があります。 Bioanal. Chem., 2015, 407, 6791–6801
ブルカーのSENTERRA IIラマン顕微鏡は、波長1064 nmの [7] M. G.J. Löder, G. Gerdts in: Marine Anthropogenic Litter
近赤外レーザーを含む最大4つの励起レーザーを使用する Eds.: M. Bergmann, L. Gutow, M. Klages), Springer Open,
ことができ、それぞれの試料に対して最適な励起波長を選 Heidelberg, New York, Dordrecht, London, 2017, p. 201
択することができます。ラマン顕微鏡を使用した研究例 [8] I. R. Comnea-Stancu, K. Wieland, G. Ramer,
としては、Janssenとその共同研究者による、深海底堆 A. Schwaighofer, B. Lendl, On the Identification of Rayon/
積物中のMPPの分析があります。[9] ラマン顕微鏡を用いて Viscose as a Major Fraction of Microplastics in the Marine
測定した結果、25cm2あたり最大1つのMPPが検出、同定 Environment: Discrimination between Natural and Manmade
されました。 Cellulosic Fibers Using Fourier Transform Infrared
まとめ Spectroscopy, Applied Spectroscopy, 2016, 71(5), 939-950
FT-IR顕微鏡は、MPPの標準的な分析方法として確立され [9] L. Van Cauwenberghe, A. Vanreusel, J. Mees, C. R. Janssen,
ています。さまざまな試料に対して適用することができ、 Microplastic pollution in deep-sea sediments, Environ. Poll.,
すべてのポリマー種についてより正確な同定が可能です。 2013, 182, 495-499
さらにFPA検出器を用いたイメージング測定は、完全に
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