設計製造現場の
技術者100名に聞きました!
設計 製造関連 の
IITシステムの稟議
どうしていますか?
は じ め に
今、製造業でも話題のデジタル化やDX、IoTですが、それを
推進するために必要なのがITシステムの導入です。ITシステム
の投資は決して安いとはいえず、システムの種類によっては
導入効果について数値でうまく示すために工夫がいる場合
もあります。
今回は、設計製造ITシステムにしぼり、技術者の方を中心に
稟議でどのようなことを工夫しているかを尋ねました。
目 次
実態調査:アンケート結果
・回答者のプロフィール……………………………………………03
・ITシステムの稟議の経験、エピソード…………………………04
・稟議が通ったときの理由/却下されたときの理由……………05
・稟議をうまく通す秘訣……………………………………………09
実態調査:技術者インタビュー
・「生産力増強の方への投資が優先になってしまい、
ITは後回し気味」
Aさん/担当 職業:生産技術 約20年…………………………12
・「試用版などをうまく活用し、
製品の導入効果について実感してもらう」
Bさん/担当 職業:研究開発 約40年…………………………13
・「稟議は、ちょうどよいバランスの説明テクニックと、
コミュニケーション力が重要」
Cさん/担当 職業:経営 約20年………………………………14
概 要
調査時期:2022年3月1日~3月4日
対象者: 生産技術、生産管理、品質管理・保証、設計、情報システムなど
回答数:146
有効回答数:116
02
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アペルザ様_wp㉒_03[アンケート]
回答者のプロフィール 設計・製造関連のITシステムの稟議について、生産技術、生産管理、
品質管理・保証、設計の従事者116人の方にお尋ねしました。
Q 所属する企業の業態を
教えてください。 食品 1% その他 22%
産業機械
非鉄金属材料 1% 24%
建設業 2%
電子部品・デバイス・
医薬品 2% 電子回路
家電、事務機器 2 18%
%
情報通信機器 2%
自動車・航空・
化粧品 2% 船舶など輸送機器
14%
医療機器・器具 2% 部品加工・生産 8%
Q 所属する企業の
従業員数を教えてください。
1~9人 8
10~19人 3
20~49人 12
50~99人 10
100~299人 16
300~499人 7
500~999人 21
1,000~2,999人 8
3,000~4,999人 5
5,000~9,999人 12
10,000~19,999人 2
20,000人以上 12
0 5 10 15 20 25
あなたの職種を 新規事業 企画・営業・
Q 教えてください 開発 生産管理 Q あなたの職場では何を
製造していますか?
情報システム1% 1% 1%
回答の一部を紹介します。
2% その他
製造 6%
3% 主 な 製 造 物
生産管理
生産
●
技術 レーザ応用製品
経営 6% ● ● ● ● ●
22 自動車関係 航空関係 電子部品 半導体 化学品
%
● 産業機械 ●計測器 ●医療機器 ●加工設備 ●治工具
保守/
● 金属部品 ● 抗体、生物材料 ● インプラント人工骨
メンテナンス 研究
開発 ● アルコールインク ● 公共鋼構造物
8%
17 ●
% 家族のコミュニケーションをサポートする製品
品質管理/ 電機/ ……など、さまざまな製品が挙がりました。
品質保証
9 機械設計 制御設計
% 12% 12%
03
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アペルザ様_wp㉒_04[アンケート]
Q 設計している製品の生産数や種類
(複数担当する方は、現在、メインで設計している製品について)
その他
9% 多品種、かつ単品~数台
33%
少品種大量生産
10%
変種変量生産 多品種少量生産
23% (生産数が1000台に届かない)
24%
Q 設計製造向けのITシステムの稟議の
ご経験はありますか?
いいえ
61%
はい
39%
ITシステムの稟議のご経験がある方に伺いました
Q どの仕組みの購入での
稟議を経験していますか?
BIツール 2
ERP 3
2D CAD 11
3D計測機、スキャナー 11
2D CAD 11
IoTシステム 12
CAE、シミュレーションツール 13
3D CAD 16
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
その他の回答 ● 工程監視システム ● ベンチシステム ●回路図作成CAD ● SCM
● 製造設備、検査機器 ● 計算用ソフトウェア、計測用ソフトウェア ● PDM ● AIシステム
●生産スケジューラー ● AR/VRシステム ● 稟議を受ける側
04
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アペルザ様_wp㉒_05[アンケート]
ITシステムの稟議のご経験がある方に伺いました
Q いつも稟議を通そうとする価格で多い価格帯
特定の価格帯が際立って多いということもないようですが、3,000万円以上の稟議を日々扱っている方はやはり
少ないようです。一方、10万円未満であっても稟議を通すという回答も少し見られました。
※「その他」は「稟議を受ける側」の方とのこと。匿名インタビューに答えていただいていますので、本資料後半をぜひご覧ください。
その他 2% 10万円未満 2%
3,000万円以上 4% 10万円以上~25万円未満 18%
1,000万円以上~3,000万未満 13% 25万円以上~50万円未満 9%
500万円以上~1,000万未満 9%
50万円以上~100万円未満 9%
300万円以上~500万円未満 13%
100万円以上~300万円未満 20%
Q 過去最高の稟議価格
10万円以上~25万円未満 7%
1,000万円以上が約半分を占めました。
3,000万円以上 50万円以上~100万円未満
31% 4%
1,000万円以上~3,000万未満 100万円以上~300万円未満
18% 11%
300万円以上~500万円未満
500万円以上~1,000万未満 13%
16%
Q 稟議が通った理由は?
当然かもしれませんが、費用対効果の訴えが一番であることがはっきり表れています。
一方、「運が良かった」「決裁者が気に入った」など、棚ぼた的な回答はごくわずかでした。そりゃそうですね……。
顧客要求のため 1
ものづくり補助金に応募し採択された 1
客先指定ツールだったため 1
通ったことがない 1
運が良かっただけ 1
決裁者が気に入った 3
決済者に根回しをしたから 12
会社の経営方針と合っていた 16
事前に上長などへの説得を繰り返した 19
費用対効果を分かってもらえた 29
0 5 10 15 20 25 30 35
05
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アペルザ様_wp㉒_06[アンケート]
ITシステムの稟議のご経験がある方に伺いました
Q 稟議が通った理由について、詳しく教えてください。
稟議が通った理由について、もう少し詳しく聞きました。
フリーコメントの一部を紹介します。
●当時、全社で3D-CADの活用を進めようというプロジェクトがあり、これに乗って高価なDMUソフト(1,000万円以上)で、
製造シミュレーションを事前に行い、仮想的に習熟効果を積んで清掃にかかる費用の削減を図る、との理由で稟議が通った
● 弊社の場合、稟議前に最低3回事前説明会を実施しているため、キーパーソンの了承を取ってから稟議を通している
●会社が抱える課題と、それを改善できる見込みのあるツールであることを明確にしてプレゼンし、理解を得られたため
●ものづくり補助金(中小企業庁予算で装置等購入費用の2/3が補助される)に応募し採択されたので、1/3の費用で導入できたため
● 現状かかる費用、投資した場合にかかる費用を提示し、費用対効果を明示したことで稟議が通った
●予算申請から調整を実施しているため ● 用途、費用、費用対効果について説明資料を作成し、内容をしっかりと理解してもらった
● 会社の要求事項に沿った形で構成し、効果が出せると判断してもらったため
●最先端技術の導入で将来の商品開発に活用できると判断されたため
●トップダウンで指示が来た内容に対し、条件を満たす内容が稟議の金額であった
●決済者も一緒に検討した案件であったため、内容も理解されていたため
●元々のシステムが老朽化していたため、更新が必要な時期であったから
● CP、合目的的であることは非常に重要。 ● ROIも目標を上回っており事前に関係者へ説明、了承を得ていた
●制御盤用のCADソフトは大体が50万以上100万円以下なので選択肢がない
● 客先指定ツールだったため、受注のために否決できなかった ● 時代の流れで話題性を採った一面もあり費用対効果は二の次
● 新規事業で必要なツールとしてのCADシステムが必須となったから ● 導入することでの効果額を明確に出した
● 経営方針に基づき立案しているから ● 担当業務に支障をきたすため
Q 稟議が却下されるときの理由は?
「必要かもしれないが高すぎるという判断」「導入効果について数字で示せない」といった、投資に値すると納得して
もらえなかったという回答が最も多くなりました。
一方、「決裁者の気分のせい」という回答が少しあるのも気になります。
必要な項目が漏れていた 2
決裁者の機嫌や気分のせい 3
明らかに不必要という判断 6
決裁者の現場理解が不足していた 8
事前の根回しが足りなかった 9
説明不足、準備不足 14
導入効果について数字で示せない 16
必要かもしれないが高すぎるという判断 24
0 5 10 15 20 25 30
その他の回答 ● 却下されたことがないため、分かりません ● 理由が不明 ●他の稟議が重要性が高い
● 特にない。会社で不要と推察されるものは申請しない ●景気情勢 ● 案件のとん挫
●優先順位の低さから、延期
06
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アペルザ様_wp㉒_07[アンケート]
ITシステムの稟議のご経験がある方に伺いました
Q 稟議が通らなかった理由について、詳しく教えてください
フリーコメントの一部を紹介します。
●決裁者に知識や経験がないと効果をイメージしづらく、却下される可能性高い。例えば、現場エンジニアの作業内容が
軽減されることを説明しても、作業内容が理解できていないと新規に導入したいシステムの効果を理解してもらえない
● 業務における課題があり、それを改善できる見込みが60%程度の内容だった際、指摘を受けて導入を見送った
● 半導体サイクルというものが存在し、発注間際に景気低迷といった例も多い。許容される予算はあるので、設備投資額が
高すぎると無理な場合が出てくると思います
●モノを作る加工機などに投資をする傾向。IT機器導入に対してはそれなりの効果を求める
●費用対効果計算のロジックや根拠となる数値に納得を得られない場合、稟議は通りにくい
●ハイスペックのパソコンは購入は却下される。不要なソフトを省き、DELLなどの廉価な商品があるため
●差戻しになる場合は事前の根回しが十分でない場合と新規案件の場合、案件がとん挫することがある
● 却下されることは基本的にはないですが、説明不足や準備不足でワークフローが差し戻されることはよくあります
● 課長承認の10万円までは許可が下りるが、それ以上になると、安価なもので代用する指示が来るケースが多い
●会社として設備投資の金額が決まっている中で、テーマの優先順位の高さから持越しとなった
●安全でない、投資に見合った効果が見られないなど、不明点がある場合
● 稟議書の必要項目が漏れていたため、発注が遅れたことがあります。
●一番の理由としては、会社の業績が悪く、なかなか設備投資に踏込めない企業体質だから
● 継続的な利用が見えないため、短期で終わるものには投資が難しいから
●費用対効果がよくなかった、客先にとっては良いがこちらの負担になる
●付帯設備に関して、廉価製品や内製化の取り組みで投資低減する ● DX絡みは通りにくい
Q 稟議について悔しい思い出、腹が立った思い出はありますか?
稟議にまつわるちょっと悔しいエピソード、切ないエピソードの一部を紹介します。
自分自身に腹が立ったというコメントも。「そういう思い出はない」というお声も
少しありましたが、大半の方が何かしら、嫌な思い出があるみたいです。
悔しい・悲しい・腹が立った
● 海外出張の企画・調整・計画を行い稟議申請をしたが、まさかの自身が外れてしまった(別の担当で遂行)
● CADソフトを導入のため前年度より予算を確保していたが、導入決済の際、同じ部門の別のグループから別のCADソフト
導入の案件に予算を奪われ、希望のソフトが導入できなかったことがある
●過去、緊縮財政の中で安価に設備導入できるよう、努力、工夫、犠牲があった。現在は半導体好況の中で設備導入は何の
コスト削減努力もなく決裁されているように映る
●決済者が海外出張で帰国できず、予定よりも1カ月以上決済超過のため対象製品を購入できなかったために、本年度決算
の約束を来年度に回されたとき
● CAEソフトの導入のため協力していただいた会社に発注したかったのですが、出入りしている他の会社が大幅に価格を
下げて提案してきたので、申し訳ない結果になったことがあります
● 稟議の事前説明を全て完了後に新規案件の投資方針が変更になり、案件そのものがとん挫したことがある
● 私が提案した稟議が却下された2年後に、決済者の上司から導入するよう鶴の一声があり、導入が決定した。稟議の内容
より提案者を重視していると感じられた
● 限られた資源を限られたものに投資するには、それなりに費用対効果の説明がいる。何度説明しても理解できない、
理解しようとしない
● 設備を維持するために必要なパーツが生産終了していて、入手困難な状況にある事を理解してもらえないこと
●これまで人間で行ってきたから、コストをかけてシステムの導入は必要ないと判断された
●出しては戻ってくるの繰り返しがあったとき ●ちびちび指摘修正の指示を出す ● 稟議添付資料が、無駄になった。
● ありますが、いまさらという感じです ●自分は絶対必要と思うものが通らなかった
●意図的なのか当事者の能力不足なのかは不明だが、分析不足、情報不足はよくある
●何度も資料を直すことが、自分の日本語力の低さを感じ悔しいです ●説明の仕方が悪く、誤解を生じさせてしまった場合
えっ!?
● 理由なしで否決される ●ほぼ最初から落選が決まっているけど出さなければならない
そういう思い出はない
● 感情論での却下はなく、稟議を下ろさない際にも論理だてて説明があるため悔しい思いや腹が立ったことはない
● 発注が遅れたことはありますが、通らなかったことはないためそのような思い出はありません
07
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アペルザ様_wp㉒_08[アンケート]
ITシステムの稟議のご経験がある方に伺いました
Q 稟議・承認は IT 化(電子化)されていますか?
「いいえ」が最も多くなりました。
次いで多かったのは、社内開発システムを使っているという回答です。
はい(社内開発システム)
33%
いいえ
42%
はい(商用・汎用システム)
24%
Q 稟議書の用意で大変なことは?
情報収集や資料作成、分析など、事前準備で時間や手間がかかっているようです。
不要なものはない 1
電子化されていないので面倒 4
関係者の把握 8
社内フローやフォーマットの確認 11
事前根回し 16
情報分析の手間と時間 18
作成時間の手間と時間 27
情報収集の手間と時間 30
0 5 10 15 20 25 30 35
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アペルザ様_wp㉒_09[アンケート]
ITシステムの稟議のご経験がある方に伺いました
Q 稟議をうまく通す秘訣を教えてください
「経営層にも分かりやすい説明にする」が最多でした。
現場が抱える課題を、普段あまり現場にいない経営層の方にも分かりやすく伝えることが重要かもしれません。
通ったことが無いのでわからない 1
費用対効果を説明する 1
類似の稟議を通した人から話を聞く 3
関係者に事前に根回しをしっかりしておく 15
想定されるリスクや効果を数値化/
可視化をする 19
簡潔に説明する、だらだら書かない 26
調査をしっかり行うこと 29
経営層にも分かりやすい説明にする 31
0 5 10 15 20 25 30 35
稟議を通す秘訣について、詳しくお尋ねしました。フリーコメントの一部を紹介します。
● 関係者の中でできる限り強い立場にある人間を巻き込み協力してもらうこと
また費用対効果の見込みも踏まえて必ず実施すべきと考えることは、理解が得られるまで何度でも稟議を上げること
●決裁者の必要としている情報を集め効果的に見せられる資料を作る
●その製品の調査と、知らない人にどうわかるようなアピール文書を作成するかに気を付けている。また数値の値引き交渉
なども手を抜きません
● 内容を把握できなくても、年間でどの程度の利益につながるのか、どれくらいの期間で取り返すことができるのか、
といった内容がしっかりしており、その根拠が明確であれば承認を得ることは可能
● 現状を事実で語ること。目指す姿を明確にして、そのとき何がどう良くなるかを明瞭に書くこと
● 導入の目的と期待効果、対象設備の仕様、導入しない場合のリスク、投資対効果計算、などの必要な情報を簡潔に示すこと
● 技術説明ではなく、その技術の価値が稟議申請額に似合っているかを判断されるため、それがわかる簡潔な資料を準備する
● 稟議が必要なケースはたいていの場合、高額となり、効果が出ないと責任問題となる。費用対効果を明確にして決算者を
説得する必要がある
●費用対効果に関する調査や類似案件の調査を事前にしっかりしたうえで、納得のいく説明資料を作ることがポイントです
●効果額を明確にすることも必要だが、事前に根回しをし、意見を聴取することも必要
● 弊社の稟議の場合、事前摺り合わせが成否を決定する
●費用対効果を前面に押し出す。経営層が見たいポイントを的確に ●目的とCPはしっかり意識する必要がある
●費用対効果を明確にして、関係者に根回しをする ●この根回し時に関係者に抵抗なく説明することが重要
●上司、決裁者の判断基準を把握しておくこと ●先に相談をするのが重要と思われます
● 稟議の申請に関して、役員が対応すると早いことが多い ● Factに基づきまとめ、事前了承を得る。稟議は手続きのみ
●簡潔に説明する文書と、誰が読んでも目的と効果が理解できる内容の稟議書
● 必要なソフト、ハードについて説明しても分からない世代なので、安く簡単にする
●自分が決済者だと想定して物事を進める ●問答集の作成
書類の作り方の秘訣
書類の作り方についてのアドバイスも少しありました。
● 説明資料の字は16ポイント以上、A4 1枚にまとめる
●図と箇条書きは必須。専門用語は使用しない。起承転結で書かない
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アペルザ様_wp㉒_10[アンケート]
ITシステムの稟議のご経験がある方に伺いました
Q 稟議を通したいときに役立つことは?
「導入製品の知識」が最多でした。
その後には、「プレゼンスキル」「社内業務や組織の知識」と続きました。
稟議自体は書類審査なので
特に必要知識はいらないかと 1
イノベーター理論とキャズム理論 1
人脈、交友関係 6
過去の事例情報 11
熱意 12
経営の知識 14
業界知識 19
社内業務や組織の知識 20
プレゼンスキル 21
導入製品の知識 29
0 5 10 15 20 25 30 35
Q 稟議を通したいときに役立たないことは?
熱意や人脈など、エモーショナルな要素は役に立たないという回答は、案の定多かったです。
全部いらないというお声は、過去のご経験で何かあったのかもしれません……。
全部いらない 1
業界知識 1
導入製品の知識 2
社内業務や組織の知識 2
役に立たないことはない 3
経営の知識 4
過去の事例情報 7
プレゼンスキル 7
熱意 14
人脈、交友関係 17
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
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アペルザ様_wp㉒_11[アンケート]
ITシステムの稟議のご経験がある方に伺いました
Q 設計・製造向けの ITシステム導入は、費用対効果など数字指標による効果の説明が難しいと
よくいわれます。想定される導入効果について、どのように情報収集をしたり、可視化や数値
化を行うとよいか、もしコツやお知恵があれば、教えてください。
フリーコメントの一部を紹介します。中には、結構具体的なアドバイスもあります。
稟議でお困りの皆さんへのヒントが少しでもあれば幸いです。
●工数削減ができるか、効率化できるかというところに主眼を置いてできるだけその削減効果を数字で出すようにしています。
あとは改善前後を目で見て分かるように説明資料で示すと理解が得やすいと思います
● 設計・製造向けのITシステム導入は、費用対効果など数字指標は切り口を変えて思考すれば難解ではない
●アジャイルの名の下にシステム迷子になっているのでは?の懸念があるので、要件定義とあわせた費用対効果の説明が
欲しい(ABCを削ればX円は不要、その場合はYZには目をつぶるなど)
● 現場でかかっている費用算出のため、1人あたりいくら、1ヶ月あたりいくら作業工数がかかっているか捻出する。その後
システムによりどの程度作業工数を削減できるか、作業者とシステム販売元と共にリサーチする。これでおおよその費用
対効果を捻出できる
● 新規設計のアウトパフォーマンスと設計業務などのインプットを金額で表わす。システム導入による機能向上(うれしい)
ことと、欠点を洗い出す。そしてその両者の比で導入によって得られる価値向上を示す
● CAEソフトの場合はソフトベンダーのベンチマーク(自社の業務に近い形のシミュレーションを依頼し結果を提供して
もらう)を利用して、効果を明確にするのが良いと思います
● ITシステム導入によって、増えるキャッシュイン(新製品開発で売り上げ増など)と、キャッシュアウトの削減(設計や
製造の工数削減など)を、根拠のある数値を使ってNPVを計算し、一定期間(目安:3年間)で初期投資が回収できる
ことを示すと良いです
●人力による現状の工数をしっかり把握し、その工数が不要になるというシナリオ
●工数をもとに費用対効果を出すと良いと思う
● 導入によって時間短縮が図れると思われます。それを人数と短縮時間で工数として費用削減効果として算出する
●費用対効果は現状をきちんと把握していないと難しい。逆に言えば現状が理解できていれば簡単になる
● 実際にPoCで成果を出したうえで、それを展開したときの効果を算出するしかないと思います。PoCについては、経営
層の理解があれば実施させてくれると思います
●過去の例では、数値化できるもの、できないものを明文化し、できないものであっても自らの所見で導入効果を訴える
ことで理解を得ることができた
●自社に近い業界でどのようなものが使われているか、導入することで仕事をもらえるようになる取引先候補、導入前に
対応できずに断ってしまった案件などから算出する
●この場合の算出額は希望としてとらえられるため、半分の内容でも黒字になるようでないと、内容の詳細を把握して
いない役員の承認は難しい
● ITトレンド等のレビュー・比較サイトの活用と、自社に適合するかどうかの分析
●自部門以外のステークホルダーを可能な限り巻き込む
●デメリットを適切に伝える(高い、遅い、汎用性が無い)良いことばかりでは信用されない
●高額案件でも5年で元が取れることを説明できれば、そこそこ通る
●通常の効果だけではなく、異常時のロスを最小化、回避できるコストも効果に含める
● 導入前後の単純な工数削減の計算から費用対効果を計算する ● いつから、いくら儲かるを示すことができれば、経営陣
は判断しやすいかと
●自分で効果があると思えることを、経営者にわかる数字にすること ●他社にない付加価値を自社で持てるという優位性など
● 動画がインパクトあり ● 具体的な実施ケースの調査 ●他社システム比較
● OEMの動向やサプライヤーの意見 ● 事例を複数調べる ●工場の立場、顧客の立場に立って考える
ITシステムの稟議のご経験がない方に伺いました
Q 稟議の経験が 「高額のシステムや道具の導入を決める機会がなかった」というお声が大半でした。
ない理由
その他 6% 高額のシステムや道具の購入を
決める機会がなかった
ITシステム導入は
担当外の業務であるため 49%
9%
稟議の制度がない 上長や先輩、
同僚などがやってくれるため
18% 18%
11
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アペルザ様_wp㉒_12[インタビュー]
interview 01 回答者プロフィール
Aさん/生産技術:約20年 仕事の内容
製造業[産業機械](社員数:500~999人) 生産技術業務のマネジメント
今回のお話 生産力増強の方への投資が優先になってしまい、ITは後回し気味
Q 稟議をあげているツールとして、3D CADや 当社では新しい取り組みは、ボトムダウンで展開す
CAEをアンケートの回答で挙げていました ることが多く、それだと現場から抵抗の声もあがって
くることもしばしばあり、うまくいかないことも多い。
が、職場でよく使われているのですか? トップダウンで一気に進めてほしい。
いいえ。現時点では2Dメインで設計しており、3D
設計の導入はまだこれからだ。現在、その関連の稟議
を通そうとしている。 Q 稟議での
苦労について
Q IoT システムについても、挙げて ソフトウェアのメーカーがさまざまなITツールを
提案してくれるが、実際の現場を知らない人が多い
いらっしゃいましたが、どうですか?
印象だ。「これを導入したら、こういうふうに作業が
今、生産現場の情報は、紙や帳票を中心に管理して 効率化がされる」といった導入効果の部分の説得材料
おり、手書きや手入力による記録になっている。それ の情報をあまり持ってきてくれない。われわれ製造業
をデジタル化し、自動で入力できるようにしようとし に営業したいなら、もう少し、現場のことについて
ている。材料の残量や、各担当の作業工数などをデジ 理解を深めてもらいたいと思う。
タルで可視化したい。また経営方面の課題となるが、
各事業所の二酸化炭素排出量の可視化も目指している。
Q 稟議を通すために、
どのような工夫をしていますか?
Q IT システムの稟議を通そうとする時、
「これを導入した時に、どういう費用対効果がある
コストはやはり課題になりますか? か」ということを金額で説明すること。あとは自社
稟議の際、加工機など生産量に直結する設備の投資 と近しい他社の事例を示すこと。「他社はもうここま
が優先となり、ITシステムは二の次にされてしまい、 で進んでいるので、当社も取り組まなければ負けて
通すのが難しく感じている。 しまう」という説得をする。
自分としては、今後、当社が生き残るためには、こ
うしたデジタル化やIoT導入を積極的に進めていくべ
Q 「他社の事例は、自社に活かせない」と
きで、そうした取り組みが生産性向上にもつながって いった声も聞こえてきます。
くるためビジネスとしても重要だと考える。
内容によるのではないかと思う。成功したことの表
だけをさらって紹介するような事例ではなく、導入に
Q 今まで通った最高額の稟議が 際してどのような課題があり、どう努力をして乗り越
1,000万~3,000万円ということでした えたかということが参考になると思う。
が、こちらはどういうものでしたか?
加工機で、ITシステムではない。単位時間当たりの
Q IT 化の課題に
生産力が高まることは、やはり経営者が納得してくれ ついて
やすかった。当社を含む製造業では人手不足が課題で
あり、求人をしてもなかなか人が集まらなくなって 当社を含む日本の製造業は、今もなお、昔ながら
おり、経営者もそこを一番気にしているからだ。 の熟練技を極めることが評価されがちであると思う。
昔の成功体験から、なかなか抜け出せないのではな
とはいえ、3Dデータを導入すると、AR(拡張現実) /
いかと思う。しかし工業製品は工芸品ではないため、
VR(仮想現実)のシステムも使えるようになるし、新
作業を機械化して定量化し、品質を高めていかなけれ
入社員の教育や技能伝承がしやすくなる。そのため
ばならない。
経営者の心配を解消するものであると理解はしても
らっているものの、やはり限られた予算の投資先は 最近入社してくる若手社員はデジタルでの思考に
目先の生産力にいってしまう。生産力に対して十分投 慣れている。教育についても、アナログな現象をデジ
資をしたと思った時点で、ITシステムにも投資をして タルに置き換えながら、普遍的な技術について説明す
くれるようにはなるかもしれない。 ることが有効であると思う。
12
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アペルザ様_wp㉒_13[インタビュー]
interview 02 回答者プロフィール
Bさん/研究開発:約40年 仕事の内容
製造業[産業機械](社員数:20~49人) 製造法関連の研究開発
今回のお話 試用版などをうまく活用し、製品の導入効果について実感してもらう
Q 稟議をあげているツールとして、3D CADや 稟議が却下される
CAEをアンケートの回答で挙げていました Q 理由について
が、職場でよく使われているのですか? 当社は中小企業なので、やはり高い投資は
よく使っているし、自分自身もCAEを長年使 躊躇されてしまいがちだ。数百万から数千万
用してきた。 に桁を1つ上げると、稟議を通すハードルもか
なり高くなる。数字だけで「このような成果が
出ます」と示しても、不安になるものだ。その
Q CAE での計算規模は
ため、ソフトや機器の試用で少しずつ成果を
どのような感じですか?
出し、それを示しながら、安心して投資をして
あまり大規模ではないが、今後は増大してく もらえるように努力するべきだと考える。
ることも考えられるため、クラウドで使用でき
るHPCやスーパーコンピュータなどを活用した
い。オンプレミスに投資をするより、クラウド Q 稟議を通すための
の方が安くつくかもしれないと考えている。 秘訣について
事前の調査はやはり重要だ。ベンダーや代理
店から、ベンチマークのデータをもらい、それ
Q 稟議の価格帯が300万~500万円と
に基づいて導入効果がどう訴求できるか考える。
いうことでしたが、ソフトウェア関係が
多いのですが。 また、CAEであれば、稟議の事前に設計現場
ソフトウェアと併せ、データロガーなどの の人に「こういうツールがあるから使ってみて
ハードウェアも買っている。 ほしい」と紹介して、事前にある程度理解をし
ておいてもらう。
経営者に対しては、さまざまな種類のソフト
Q CAE のライセンス費用は ウェアの欠点や長所を比較しながら、「これが
高く感じますか。 一番である」という説得をする。しっかり調査
そう思う。市場の中にもう少し競争が起これ をしたうえでの稟議であることを理解してもら
ば、安くなるのかもしれない。もう少し、中小 える。
企業に優しい価格の製品が出てほしい。 あとは、熱意も大事だと思う。「ほしい!ほし
い!」と気持ちを伝えないと(笑)。
Q 稟議が通った理由に「ものづくり補助金」の
ことを挙げていらっしゃいましたが、ほか、
説得で苦労されたことなどはありましたか?
経営者がITやデジタル技術に対する理解をし
てくれているので、それほど抵抗があったわけ
ではないが、「もの補助」で費用の3分の1が捻
出できる点は説得力になった。
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アペルザ様_wp㉒_14[インタビュー]
interview 03 回答者プロフィール
Cさん/経営:約20年 仕事の内容
製造業[産業機械](社員数:500~999人) 技術法務などに携わる
今回のお話 稟議は、ちょうどよいバランスの説明テクニックと、コミュニケーション力が重要
Q 稟議を通す方ではなく、 稟議を出してくる方々に、日々どのような
受ける立場ということでした。 Q アドバイスをされていますか?
社内からあがってくる稟議を決済をする立場。 ケースバイケースだが、当社は稟議者と決裁者
稟議の金額は、数千万から億単位が多い。 が物理的に遠いところにいることが多く、電子
メールでのコミュニケーションが中心になること
稟議の内容で が多く、それだと説明不足やすれ違いが起こるこ
Q 困ることは? ともあるので、電話もして話をすると良いとアド
バイスしている。
説明不足や情報不足であることが非常に多い。
顔を突き合わせて話をすると、納得できる説明が あと、 「これを、20個にまとめました!! (ドヤァ)」
あるが、それを書類化するところで、なぜか「ど ということもよくありこれはさすがに3個から5個
うしてこうなった?」的な内容になってしまう。 にしておいた方が、決済する方も理解しやすいと
稟議者本人は、説明不足であることを理解できて 助言している。
いないため、「なぜなんだろう」と頭を抱えている。
稟議を戻すのもお互い手間になるので、最初か 稟議で、腹が立った思い出や
らしっかり書類の整備をしてほしい。 Q 悔しかった思い出はありますか?
新事業を立ち上げる時の稟議書で、「この市場に、
Q 情報が足りてないというのは、 当社の競合などいない!」と言い切ってくること
どういう状態ですか? がある。そういうケースでは、こちらで調べてみ
例えば「5つの項目の説明があれば、納得いく」 ると、案の定、競合がいる。これはさすがにイ
ということなのに、書類になるとなぜか3つしか ラッとする。真面目に調べたのか?と。当社の場合、
説明されていないというような状態がよくある。 この判断で結構な額のお金が動くので、もう少し
あとは、契約書にはリスクについて書かれている 真剣にやってほしいと思う。
のに、稟議書では全く触れていないということも。
その一方で、不要な説明まで細かい情報をたくさ 稟議を出すときの
ん詰め込んでくることもある。 Q 秘訣は?
稟議者が忙しすぎて、書類整備に手が回ってい
余分なことは書かないけれども、必要なことは
ないのかもしれない。情報を詰め込み過ぎてしま
書くというバランス感覚が肝心だ。あとはコミュ
う人については、まじめすぎるのだと思う。
ニケーション能力も大事だ。決裁者と日ごろから
よくコミュニケ―ションを取り、話を前向きに聞
Q 技術者さんは いてもらえる、あるいは大事な決済を通すために
まじめな人が多いですよね。 口添えをしてもらえるような関係性を作っておく
まじめすぎて悩んでしまうことがよくある。若 ことも良い。
手の頃から「かなり」など、適当な言葉を使って
説明をするなとしつけられる。しかし稟議書では、 IT システムの稟議で、
そういう言葉をあえて使った方がよいこともあっ Q うまく説得をするには?
て、ちょうど良いお湯加減の表現が分からなく
なってしまうことがあるようだ。技術者の方で 「アジャイル」という言葉が、「やれるところか
上の方のポジションに行く人には、人とうまく らやろうね」という意味合いで、軽く使われるこ
コミュニケーションするための表現を器用に操れ とがとても多い。そうしたITの横文字に惑わされ
る人が多いと思う。 ず、説明すべきことをしっかり説明すること。
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設計製造現場の
技術者 100 名に聞きました!
設計・製造関連の IT システムの稟議、
どうしていますか?
発行日:2022年3月30日
発行:株式会社アペルザ
問合せ先:aperzacatalog-mail@mail.aperza.jp
リクエスト募集中!
ぜひお声をお聞かせください
https://forms.gle/e2M17aghUfWaFeyD8