1/13ページ
ダウンロード(1.6Mb)
今日の産業革命の中でスマートマシンが登場し、私たちのものづくりに大きな影響を与えています。
競争力と収益性を維持するため、マシンに対してよりスマートな接続性・効率性・柔軟性・安全性が
求められています。 本ホワイトペーパーでは、スマートマシンが産業界に及ぼす影響と変化する
ものづくりに我々がどう対応するべきかを記述しています。
このカタログについて
ドキュメント名 | スマートマシン~ものづくりの未来~ |
---|---|
ドキュメント種別 | ホワイトペーパー |
ファイルサイズ | 1.6Mb |
取り扱い企業 | シュナイダーエレクトリックホールディングス株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
この企業の関連カタログ
このカタログの内容
Page1
スマートマシン ~ものづくりの未来~
Rainer Beudert Leif Juergensen Jochen Weiland著
概要
今日の産業革命の中でスマートマシンが登場し、
私たちのものづくりに大きな影響を与えています。
競争力と収益性を維持するため、マシンに対して
よりスマートな接続性・効率性・柔軟性・安全性
が求められています。
こちらの資料では、スマートマシンが産業界に及ぼ
す影響とまた変化するものづくりに我々がどう対応
するべきかを記述しています。
Page2
2
今日、世界の産業全体に大きな変化をもたらしている 2 つのトピックがあります。それは、ドイツが
はじめに
提唱した製造業のデジタル化に対する長期ビジョン【インダストリー4.0】とネットワークにつながる機
器と分析に焦点を当てた【IIoT】です。これらのトレンドとそれを支える基盤技術は、ビルオートメー
ション、輸送、医療、軍事、セキュリティ、小売など、幅広い産業部門に影響を与えています。 こち
らの資料では、産業オートメーションとマシンがどのように影響を受けるかについて焦点を当てていま
す。
インダストリー4.0 と IIoT の間には、類似点と相違点があります。スマート工場やインダストリー4.0
の取り組みは、製造の柔軟性、自動化レベルの向上、およびデジタル化に重点を置いています。
これは次世代の産業革命ではなく進化と言えます。 今後、工場と製造オペレーションは今とは全く
異なるやり方を導入していくでしょう。このような進化には、エンドユーザーや装置メーカーに多大な
影響を及ぼす多くの技術とアイディアが必要です。 これには、膨大な時間とすべての機器同士を繋
げることが必要不可欠となります。
図 1 は、産業オートメーション分野での接続機器の傾向を示しています。
図 1
インターネットに接続された
産業機器
世界の IIoT に対する考えは、単純なセンシングから操作、制御、最適化、完全自動化に至るま
関連資料
で、さまざまなレベルのインテリジェント機能を兼ね備えたスマート接続の資産が、より大きなシステム
IIoT 関連の詳細については、
の一部として機能するというものです。これらのシステムは、ビッグデータや分析技術、モビリティ技術
別紙「Industrial Internet
of Things:スマート接続によ を活用して、より大きなビジネス価値を生み出すために、デバイスや情報への安全なアクセスを可能
る進化」を参照ください。 にするオープンで標準的なインターネットとクラウド技術に基づいています。
装置メーカーとエンドユーザーは、IIoT を活用してマシンの監視と制御を強化することができます。
今日、工場では一部の機器はネットワークに接続されていますが、その他の多くの機器はまだ接続
されていない状態です。 IIoT アプリケーションには、マシンツーマシン(M2M)通信だけでなく、マ
シンと人、人とマシン、マシンとモノ、また人とモノの通信も含まれます。 これらの接続により、幅広い
スマートマシン ~ものづくりの未来~ 998-2095-10-16-15AR0_J201807
Page3
3
デバイスやアプリケーションからデータを収集することができます。 この「ビッグデータ」に、クラウド経由
でアクセスし、洗練されたツールを活用して分析することができます。
この IIoT を取り巻く要素の 1 つである通信は、業界にとって新しいものではありません。 例えば、
フィールドバス通信は数十年前から行われてきました。 これが IIoT を革命ではなく進化としてとら
えなければならない理由です。 また、クラウド、サイバーセキュリティ、ビッグデータ、広範囲のセンシン
グなどの新しい要素は、今や普及レベルに達しております。 ここで課題となるのは、どのようにこれら
全てを実際に現場環境に取り込むか、ということです。
また IIoT は、近年注目されている「スマート製造」に影響を与えています。 市場動向の基盤の共
通点は、分散システムを活用し、生産の可視性と管理の改善へと繋げるネットワーク環境を強化
するということです。
スマートマシン 新しいレベルの運用システムの開発のためには、時間の経過とともに新しい機能をしっかりと活用で
きる工場環境の準備が必要です。
そこで次世代マシン、「スマートマシン」が登場します。
より正確な予知保全と、より柔軟なニーズへの対応には、インテリジェンスのレベルを上げなければな
りません。 「スマートマシン」とは、よりよい接続性、柔軟性、効率性、安全性を兼ね備えたマシンの
ことを指し、これにより新しいニーズに迅速に対応することができます。 スマート接続された機器によ
り、ユーザーの直感的な操作を実現し、効率を最大化でき、スペースとコストを最小限に抑えなが
ら、予知保全の対策に活用することも可能になります。
スマートマシンの設計は、技術、市場動向、エンドユーザーの要望の 3 つの主要要因によって影響
を受けます。
テクノロジー
技術面では、技術進化と低コスト化の両方がトレンドとなっています。
以下がその例になります。
• イーサネット接続
ネットワークの統合とデータアクセス向上の実現
サービスモデルとセキュリティ管理の基盤の提供
• 無線機器(RFID など)
迅速な自動データ入力
• モバイル技術
より安全な遠隔の機器操作
• CPU の強化
スマートマシン ~ものづくりの未来~ 998-2095-10-16-15AR0_J201807
Page4
4
低コストかつデータ処理能力の向上
• メモリのコスト削減
高度なデータ管理とよりよい意思決定のサポート
• デジタル化
低コストでの自動化シミュレーションプログラムの開発
• スペースと放熱の低減
高い電力密度の実現
• 広範囲のアクチュエータとセンサーの接続
より正確なデータの収集
• AR(拡張現実)と生体認証
マシンオペレーターの効率とセキュリティの向上
市場トレンド
新技術の参入により、マシンオペレーターとシステムユーザーの期待が高まり、新入社員とベテラン
従業員の両方に対するトレーニング方法が変化しつつあります。
• インターネット活用による生産情報へのリアルタイムなデータアクセス
• スマートフォンやウェアラブルデバイスの使用による場所を選ばないデータアクセス
• 「プラグアンドプレイ」(iPhone、テレビ、USB メモリ、Bluetooth デバイスなど)の機器活用
• スマートマシンと分散型コントロールセンターのソーシャルネットワーク上での連携
エンドユーザーの要求
エンドユーザーの柔軟性に対する要求は、IIoT アプリケーションの設計に大きな影響を与えます。
要求に応えるためには、以下の要件を設計に組み込む必要があります。
• カスタマイズ製品の大量注文に対応し、迅速に市場投入できる製造能力
• リアルタイムで修正できる柔軟性
• 生産性の高さと製造コストの削減
• 製品、情報のトレーサビリティと透明性
• 資産の総所有コストの削減
• サプライチェーン管理の改善を考慮したリアルタイムデータ管理
• 改造およびアップグレードの互換性
• 製品品質の向上とエネルギーと資源の低減
• 情報への素早いアクセス(メンテナンスの 50%は情報検索に当てられている)
• ユーザーとマシンを保護するためのセキュリティと安全の保証
スマートマシン ~ものづくりの未来~ 998-2095-10-16-15AR0_J201807
Page5
5
生産コストの厳重な管理と生産ライン全体の性能の向上には、より柔軟性、接続性、効率性の
高いマシンが必要になります。
イーサネット対応機器はスマートマシンの重要な要素であり、製品の市場投入までの時間短縮、コ
ストとダウンタイムの削減、品質の向上、エネルギー消費の削減、カスタマイズ対応品の増加を可
能にするというメリットを持っています。
図 2
モジュール
スマートマシンの構成
再利用可能な設計
接続性
自己診断
デジタルモビリティ
プラグ&ワーク
データ管理
安全性及びサイバーセキュリテ
ィ
スマートマシン スマートマシンの特長は、次のとおりです。
の特長 効率性
• 自己診断 – センサー機能を活用することで、スマートマシンは環境情報だけでなく機器の監
視を行い、上流と下流のパラメータを適合することができます。またオペレーターやエンドユーザ
ーに関連情報を提供することにより、より柔軟で効率的な生産が行えます。
機器監視を導入することで、装置メーカーは予防保全のサポートができるようになり、部品の
故障やそれに伴うダウンタイムや装置の損傷を回避できます。 また、付加価値サービスのビ
ジネスを拡大しつつ、生産への影響を最小限に抑えるために、保守計画を事前に調整する
こともできます。
開発の最前線におけるマシンには、工場内の意思決定と自動化に役立つインテリジェンスを
備えた有線および無線のセンサーが多く使用されています。 これらの技術のコストが低下す
るにつれて、より多くの機器にセンサーが統合され、リアルタイムの可視性を可能にします。
スマートマシン ~ものづくりの未来~ 998-2095-10-16-15AR0_J201807
Page6
6
• データ管理 – スマートマシンは、データへ素早くアクセスするために最適な動作と安定性が
必要とされます。中央制御装置は拡張性のない構造であるため、すべてのデータを送信し
分析を行うと、すぐにデータ遅延が発生してしまいます。機器のデータを共有することに特化し
たマシンを用いることで、データ全体の管理を改善することができます。より広いネットワークや
コミュニティで共有されるデータのレベルを向上させることで、意思決定をより素早く行えるだけ
でなく、未処理業務を減らすことができます。
また、データの保存も重要な課題です。これまでハードウェアは主に生産データの保存に用い
られてきましたが、この管理方法は時間とコストが非常にかかります。そのため、クラウドはより
コスト効率の良い方法として、選択肢の 1 つとなりつつあります。
安全性およびセキュリティ
• 安全性およびサイバーセキュリティ – 基本設計にセキュリティを盛り込むことで、スマートマシ
ンは操作の安全性を高め、ネットワーク拡大のセキュリティ上のリスクを最小限に抑えます。マ
シンや生産ラインの安全性やセキュリティを下げても、マシンの性能向上やトータルコストの削
減を実現することはできません。
装置メーカーは安全対策に柔軟に対応する必要があり、それらには安全 PLC や安全インバ
ーターといった安全機器だけではなく、レーザースキャナーや防犯カメラなどの機器も含まれて
います。安全機器と制御機器を組み合わせて使用することができるため、装置メーカーはソリ
ューションをエンドユーザーのニーズに合わせて、性能および生産性を向上させることができま
す。
今日、データのセキュリティ対策は、エンドユーザーが新しいネットワークや業務工程を導入す
る際の主な阻害要因となっています。生産利益を得るためのネットワーク機器や装置の導入
のリスクは高いと認識されています。
またネットワーク化の拡大に伴い、セキュリティを多様なレベルで検討する必要があります。セ
キュリティの提供は、ハードウェア、ソフトウェア、およびサービスを組み込んだ多層構造でなけ
ればなりません。また装置メーカーに対し、セキュリティの脆弱性の認識とネットワークインフラ
を管理し漏洩のリスクを最小限に抑えることが可能であるという保証が求められています。
スマートマシンのメリットやインターネットプロトコル上でセキュリティを維持する方法を現場で教
育するためには、その使用例や成功談を強調することが重要です。
柔軟性
• プラグ&ワーク – 次世代スマートマシンは、複数の装置メーカーが製造した既存の設備や
機器との互換性を持たなければなりません。エンドユーザーは、短期間で設置できる装置を
求めており、他のシステムとの統合も容易でなければなりません。
スマートマシン ~ものづくりの未来~ 998-2095-10-16-15AR0_J201807
Page7
7
• モジュール性 – 今日のマシンのライフサイクルでは、単一設計や専用設計が受け入れられま
せん。市場投入までの時間が限られているため、装置メーカーはメカトロ設計やモジュール化
した設計へのシフトを強いられています。この傾向は、最新マシンのソフトウェアやアプリケーシ
ョンでも見受けられます。
• 再利用可能な設計 – 装置メーカーは、実績と信頼性があり、妥当性が確認されているコン
セプトを導入しています。モジュール性は異なるソフトウェアとハードウェアを再利用するための
パラダイムに、これまでにない新しい思考が必要となります。テストが可能な特定の動作を持
つ、確実かつ正確なインタフェースのコンセプトは、IT の世界に由来しており、一部改造を行
うことでオートメーション分野でも適用できます。これは、スマートマシンを差別化するもう一つ
の主な要因となります。
接続性
• 接続性 – スマートマシンは、より広域なネットワークに直接接続できます。これにより、従来
の独立型マシンの能力をはるかに超えるデータ共有、生産計画が可能となります。スマートマ
シンは情報技術(IT)と制御技術(OT)の間にある隔たりを埋め、生産データがさまざま
な管理設定(在庫管理、オペレーターのスケジュール管理、メンテナンス、エネルギー管理、
部品交換など)で使用を可能にします。
• デジタルモビリティ – マシンのオペレーターや工場のエンジニアは、現場でモバイル機器を以
前に比べ多く活用しています(図 3 参照)。監視や管理を行うために人間がマシンの近く
にいる必要はもはやありません。モバイル機器を用いることで、オペレーターはマシンのデータに
アクセスしたまま動き回ることができ、エンジニアは問題の診断や指示を離れたところから行う
ことができるため、ソリューションを実行するスピードが格段に上がります。これにより、機器の
不具合によるダウンタイムやロスが減少します。
図 3
産業用モバイルアプリケーションの 制Co御ntおroよl aびnd可 v視isu化al(iza青tio)n (blue)
世界市場予測(出展:
IHS) ワWーorクkfフloロw ―ma管na理ge(m灰en)t (grey)
メ Mンainテtナenンanスc(e (紺da)rk blue)
システム統合(緑)
System Integration (green)
2014 2015 2016 2017 2018 2019
Confident ial Property of Schneider Electric 2
スマートマシン ~ものづくりの未来~ 998-2095-10-16-15AR0_J201807
R収e益v(e百n万uドeル) ( M $)
Page8
8
通信 製造のデジタル化と IIoT 化に伴い、従来のフィールドバスプロトコルに代わり産業用イーサネットの
普及が進んでいます。イーサネットベースの機器やシステムを導入せずに従来のフィールドバスに依
存し続けた場合、長期的に見て、生産全体に損害が及ぶと予想されます。
現時点ではフィールドバスプロトコルが依然としてノード接続の約 66%を占めていますが、産業用イーサネット
のシェアは年間に 1%ほどしか増えていません。イーサネットをベースとするネットワーク化への動きは現在のとこ
ろ緩やかですが、製造のデジタル化と IIoT 化のメリットがさらに充実し、幅広く認知されるにつれ加速すると思
われます。
産業用イーサネットは、工場とオフィスのネットワークを統合し、データ共有とより賢明な意思決定の
ための基盤を形成します。しかしながら、アプリケーションに最適な技術とより広範で多目的な仕様
を備えた技術が一体となることで、多くのプロトコルは依然として残ると予測されます(図 4 参
照)。近い将来に単一の工業用イーサネット標準が登場することはありませんが、今後 10~15
年以内に確実に発展していくでしょう。
図 4
ネットワーク技術の細分化
スマートマシン ~ものづくりの未来~ 998-2095-10-16-15AR0_J201807
Page9
9
専用フィールドバスから産業用イーサネットプロトコルへの移行、またスマート製造の登場は、統一さ
れたデータ転送・交換層としてのオープンプラットフォーム通信(OPC)から統一アーキテクチャ
(OPC UA)への進化としてその技術が反映されています。OPC は、確立されている各産業用
通信プロトコル間において、転送媒体としての機能を果たす一連の標準と仕様で構成されていま
す。OPC により、設定された時間内に正確なデータが受送信されるため、重要な製造情報へ容
易にアクセスすることができます。
しかしながら、この接続性の拡大により新たなセキュリティの問題がもたらされます。
エンドユーザーは、ネットワーク機器に関連するリスクがメリットを上回ることはないという保証を要求
し、既存の製造ラインに変更を加える前や新製品のデザインを考案する際にはトレーニングや教育
も必要となります。技術チームには、新しい技能や技術が必要とされるため、装置メーカーは早期
導入を行う必要があります。サイバーセキュリティも、彼らにとって非常に重要な点となります。装置
メーカーとエンドユーザーの業務をシンプルにする製品は差別化をもたらす要素となり、オートメーショ
ン市場への大きなチャンスがもたらされます。
スマートマシンの開発やネットワーク化を進めるためには、大規模なデータ量の管理、ならびに重要
なデータと重要度が低いデータの識別を同時に行う必要があります。このネットワークの成長に伴
い、通信の方法ではなく何を通信するかが重要な課題となります。
標準化 IIoT、スマート製造、およびスマートマシンを導入する際におそらく最大の壁となるものの一つに、基
準の設定があります。これは単に通信プロトコルの問題ではなく、特別なプログラミングをすることなく
スマートデバイスの接続やデバイス間での「対話」が行えるよう基準となるセマンティクスの作成をする
必要があります。また、これらのスマートデバイスは、互いを「検出」して相互に作用することも求めら
れます。
オープンな基準を設定することで、装置メーカーとエンドユーザーに環境と指針が提供されるため、
新たな作業工程の実施や IIoT のメリットの活用を行う際の助けとなります。設定には、システム全
体の統合や工場内全域での統一性に焦点を合わせることが必要です。
エンドユーザーは、自身が投資したハードウェアやソフトウェアがセキュリティ、安全性、および性能
が、彼らのニーズを満たしているか確認するため、規格を使用することがあります。産業オートメーシ
ョン機器のサプライヤ、装置メーカー、および関連団体は、より広い世界的視野を持ってエンドユー
ザーに信頼性を提供するため、標準規格を共同で開発する必要があります。
ODVA、MESA、OMAC、PLCOpen といった関係団体は、大手オートメーション企業と密接に連
携し、産業界における相互運用性と情報共有を促すことを目的としたオープンな標準の推進をサ
ポートしています。
同様に、Smart Manufacturing Leadership Coalition(スマートマニュファクチャリングの研
究開発のための米国の産学共同組織)などの関連団体は、エンドユーザーによるシステムの統合
を可能にする標準の開発を目標としています。 最終的な目標は、多数の独立システムから情報の
スマートマシン ~ものづくりの未来~ 998-2095-10-16-15AR0_J201807
Page10
10
維持、管理、収集を行うことではなく、大手企業と連携してスマート製造のためのオープンなプラット
フォームを作成することにあります。
統合の傾向 ネットワークやシステムを一点に集中できるか否かは、通信プロトコル同士の互換性次第です。互
換性に欠けている場合は、データは単独のままとなり、決定者はリアルタイムでデータを確認し、意
思決定をすることができません。ダウンタイムの短縮、エネルギー消費量の低減、オペレーターの安
全性向上、予防保全、および生産の柔軟性といったスマート製造によるメリットを得るためには、IT
と OT のネットワーク化やシステム統合をすることが極めて重要です。
そのため、エンドユーザーと装置メーカーはスマートマシンをより大きな組織やサプライチェーンに統合
する方法を工場の域を超えて検討しなければなりません。工場で働く人は稼働時間、安全性とセ
キュリティに、オフィスで働く人は、データ分析とサイバーセキュリティに関心を持つでしょう。システム全
体の側面ごとに人々の役割を定めることもまた難しいでしょう。
技術によってデバイスは機能性を増し、より広範な用途に対応することが可能になることから、統合
はさまざまなレベルで行われています。例えば、PLC やインバーターといった制御機器は、安全機能
と、処理能力を持つ無線機器を一体化します。上位層のシステムとソフトウェアの統合は、ハードウ
ェアの統合の域を超えて、工場内での業務を企業や広範なサプライチェーンと融合するための次の
ステップとなっています。
このレベルの統合を実現するには、特に安全性とセキュリティの面で、多くの障害を乗り越えなけれ
ばなりません。ソフトウェア定義型ネットワーク(SDN)およびソフトウェア定義型オートメーション
(SDA)の技術は極めて新しく、新たな分野の知識や専門技能を形成するため、システムインテ
グレーターやコンサルタントにとって新しい活躍の場が生まれています。
ソフトウェアの役割 その実現の手段として、ソフトウェアの重要性は近年増しており、この傾向は続くと思われます。場
合によっては、スマートマシンの環境においてソフトウェアがハードウェアに取って代わることもあるでしょ
う。また、異なるシステム間のつながりを形成して相互運用を可能にし、論理世界と物質世界とを
つなぐのに役立ちます。
スマートマシン ~ものづくりの未来~ 998-2095-10-16-15AR0_J201807
Page11
11
図5
産業用制御システムの設計とシ
ミュレーションのデジタル化(出
展:IHS)
ヨーロッパ、中東、アフリカ アメリカ アジア太平洋
制御システム設計のデジタル化は、ソフトウェアがもたらすプラスの影響の一つです。シミュレーション
/プロトタイピングソフトウェアにより、仮想モデルを作成することができ、さまざまな制御システムの要
件を実現することがさらに容易となり、設計プロジェクトの実施が加速化されます。これはプログラミン
グ段階に特に当てはまり、仕様が不適切であると、貴重な時間とコストが無駄になります。このよう
なソフトウェアシミュレーションツールを用いることで、オペレーターは新規システムを設置する前に熟
知することができ、効率と安全性を向上できます。図 5 は、各地域におけるシミュレーションツール
の成長の見通しを示しています。
装置メーカーの立場からは、メカトロニクスシステムや制御システムの実用的なソリューションや設計
の簡易化が重視されることがあります。ハードウェアを用いずにオートメーションプログラムのシミュレー
ションを行う能力は、大きなメリットとなっています。
I/O に加えセンサーにおいても、CPU の能力や差別化は装置メーカーにとって、課題であり、スマー
ト機能はソフトウェアおよびアプリケーションをベースとする付加価値によってマシンの差別化を行いま
す。そのため装置メーカーは、新たなビジネスモデルを開発し、スマートな統合、データの可用性、高
度な分析やその他幅広いオプションを全てソフトウェアベースで可能にする新たなサービスや機能の
収益化を求められています。
クラウドへの移行 企業において、データの保存やデータへのアクセスにクラウドを用いることは比較的当たり前に行われ
ています。工場では、この技術の導入に難色を示していますが、IIoT が今後数年のうちにクラウド
の使用を活発化させると思われます。
収集される生産データの量が増加し、オートメーション装置やマシンがネットワーク化されるに従い、
データの保存、管理、および分析を行うためのハードウェアの需要は、飛躍的に増大するでしょう。
現在エンドユーザーによる利用が可能になりつつあるクラウドストレージやプラットフォームは安全かつ
スマートマシン ~ものづくりの未来~ 998-2095-10-16-15AR0_J201807
売上
Page12
12
信頼性が高く、データが実用的な情報となるようアクセス、保存、および統合を行うためのコスト効
率の良い方法となります。エンドユーザーにとってのメリットは、ハードウェアコストの低減、社外のデー
タ管理担当者の活用、生産データへの安全なアクセスによる意思決定の支援などがあります。
同じく装置メーカーにとっても、新しい専門技術の分野となります。工場の機器を IT インフラと統合
する際、マシンが読み取り可能な方法で情報をマシンから分析システムへと提供する方法が鍵とな
ります。これを実現できる装置メーカーは、今後数年間、競争優位性を維持することができると思
われます。
イーサネットをベースとする装置のネットワーク化における重要課題および産業オートメーション分野
の保守的な傾向に対し、セキュリティに関する懸念を克服することが極めて重要です。クラウド導入
のメリットについて、エンジニアの教育やトレーニングを行い、ネットワークへの移行と稼働中の資産を
活かしながら最新の設計に置き換えるプロセスを支援することが、重要な成功の鍵となります。
オートメーション機器のサプライヤとクラウド専門家との間で、両者の専門技能を活用するために提
携が進んでいます。大手装置メーカーとエンドユーザーは、工場のアプリケーションに関する知識と技
術を共有しており、クラウドの導入によるメリットを最大限に高めつつリスクを最小限に抑えていま
す。
結論 従来のマシンは、コストが高く通信技術が限られているという性質がありました。最近のスマートマシ
ンは、確立された通信プロトコル、IIoT デバイス、ならびにクラウドを使用し、ライフサイクルコストの
低減、マシン性能の向上、また肉体労働者と頭脳労働者の交流を図る新たな方法を提供してい
ます。
新たな IIoT の技術と手法は、時と共に進化しています。スマートマシンへの大規模な移行が行わ
れる前に、移行の影響を受ける従業員には教育が、そして改善に投資を行う場合は、幹部へ投
資回収の明確なデモンストレーションをする必要があります。新技術は時間をかけてその証明をし、
セキュリティ上の懸念などの阻害要因を克服しなければなりません。
市場での地位の維持や向上を望む装置メーカーは、マシンで分散技能を用いる能力を活かす制
御システムを活用するでしょう。新しい技術を活用して、性能や効率を向上させながらダウンタイム
とエネルギー消費量を低減することで、装置メーカーとエンドユーザーの両者がライバルとの差別化を
図ることができます。新しいアクションを取り遅れた企業は、移り変わり行く市場で、取り残されてしま
うでしょう。
また、IIoT とスマートマシンのプロセスとシステムを支援するための新たなサービスを開発することで、
装置メーカーは特に予知保全と遠隔監視の分野において、大きなチャンスを得ることができます。
通信や IT、OT、およびソフトウェアの専門家との提携は、エンドユーザーと装置メーカーにとって重
要な成功要因となります。
スマートマシン ~ものづくりの未来~ 998-2095-10-16-15AR0_J201807
Page13
13
今や、装置メーカーが新たに発展する世界へと参入する道を拓くか否かは、規格の標準化団体と
オートメーションのサプライヤにかかっています。これにより、インダストリー4.0 をベースとする生産や
製造環境のスマート製造化へスムーズに移行することができるでしょう。
著者紹介
Dr. Rainer Beudert 2007年、シュナイダーエレクトリックに ELAUのグローバルトレーニングの責任者として入
社。現 在はシュナイダーエレクトリックの産業事業部門にて、システムおよびネットワークマシンソリューション活動のマーケ
ティング部長として在籍。シュナイダーエレクトリックに入社する前は、ドイツのニュルンベルクにある INAT に 10年間勤
務し、トレーニングおよびサービスの責任者を務めた。また、Arcelormittal、Audi、および BMW といった企業において
産業用イーサネットネットワークの問題に取り組んだ。ヴュルツブルク大学にて物理化学の理学博士の学位を取得。
Leif Juergensen シュナイダーエレクトリックの産業事業部門における、装置メーカーのプロジェクトプログラムの責任
者。以前はマシンソリューション組織にてさまざまな地位にあり、ソフトウェアおよび販売戦略の責任者を務めた。マシンの
オートメーションおよびイノベーションの分野で 20年を超える経験を持つ。2001年にシュナイダーエレクトリックに入社す
る前は、オートメーション重要顧客マネージャーとして Klockner Moeller GmbH に勤務。カールスルーエ工科大学に
て、オートメーション、電気技術の工学ディプロムの学位を取得。
Jochen Weiland シュナイダーエレクトリックの産業事業部門における、マシンソリューション活動の顧客サポート統
括責任者。シュナイダーエレクトリックには 1998 年に入社。工業用通信、ソフトウェア開発、およびオートメーションソリ
ューションの分野において 15年を超える経験を持つ。ダルムシュタット応用科学専門大学にて、オートメーション、電気
工学、および経営管理の学位を取得。
スマートマシン ~ものづくりの未来~ 998-2095-10-16-15AR0_J201807