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バイオレイヤー干渉法 (BLI) を用いたOctetシステム によるコロナウイルスワクチンと治療法の開発促進
世界保健機関は2020年3月11日、新たなCOVID-19のアウトブレイクをパンデミックと宣言しました。世界中で数百万人がこのウイルスに感染し、これまでに数十万人の死亡が報告されています。
パンデミックの疫学は急速に進歩しており、この病気の認可された治療法やワクチンがないことから、介入策開発の必要性がますます求められています。ワクチン探索の中心にあるのは、効果の可能性が最も高い候補を決定するために多くの潜在的候補の迅速スクリーニングが可能な、最新の生化学・分析技術です。
COVID-19のゲノム配列が2020年1月に初めて共有されて以来、Octet®のデータは、コロナウイルスの生物学、ワクチン、および抗ウイルス治療法の開発に関連する、ブレイクスルーをもたらしたいくつかの出版物で取り上げられてきました。Octet BLIプラットフォームは、下記のような利点を科学者に提供することにより、SARS-CoV-2の研究を加速するのに役立っています。
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このカタログについて
ドキュメント名 | Octetシステムによるコロナウイルスワクチンと治療法の開発促進 |
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ドキュメント種別 | ホワイトペーパー |
ファイルサイズ | 1.3Mb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | ザルトリウス・ジャパン株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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バイオレイヤー干渉法 (BLI) を用いたOctetシステム
によるコロナウイルスワクチンと治療法の開発促進
イントロダクション これらの特徴により、ユーザーはアッセイやバイオセンサーの条件
を簡単に変更し、貴重なサンプルを再利用することができるので、
世界保健機関は2020年3月11日、新たなCOVID-19のアウトブレイク 迅速かつ低コストでアッセイの最適化を実現します。さらにユー
をパンデミックと宣言しました。世界中で数百万人がこのウイルスに ザーは、ワクチンや生物治療薬の開発研究に適した、様々なアフィ
感染し、これまでに数十万人の死亡が報告されています。パンデミッ ニティキャプチャーおよび固相化法のセンサーを選択することがで
クの疫学は急速に進歩しており、この病気の認可された治療法やワク きます。幅広いサンプルに適用でき、事前調製が不要なバイオセン
チンがないことから、介入策開発の必要性がますます求められていま サーの表面に固相化された化学物質を表1に示します。
す。ワクチン探索の中心にあるのは、効果の可能性が最も高い候補を
決定するために多くの潜在的候補の迅速スクリーニングが可能な、最
新の生化学・分析技術です。COVID-19のゲノム配列が2020年1月に Biosensor Description Application
初めて共有されて以来、Octet®のデータは、コロナウイルスの生物
学、ワクチン、および抗ウイルス治療法の開発に関連する、ブレイ AHC Anti-Human ヒトIgGまたはヒトFc融合タンパク質を、
クスルーをもたらしたいくつかの出版物で取り上げられてきました。 Fc-Capture 精製または未精製培地中からキャプチャー
し、様々なアナライトを用いたカイネティ
Octet BLIプラットフォームは、下記のような利点を科学者に提供す クス分析またはエピトープビニング分析に
ることにより、SARS-CoV-2の研究を加速するのに役立っています。 用います。
AMC Anti-Mouse マウスIgGまたはマウスFc融合タンパク質
Fc-Capture を、精製または未精製培地中からキャプ
• 標的抗原、ワクチン、治療薬候補を迅速に選択し特徴づけるため チャーし、様々なアナライトを用いたカイ
の、ハイスループットカイネティクスによる相互作用解析ソリュー ネティクス分析またはエピトープビニング
ション 分析に用います。
• 抗体エピトープの特性評価とカバレッジ決定のための高速かつ柔軟 SA Streptavidin ビオチン化された分子を固相化し、カイ
なプラットフォーム ネティクスまたはエピトープビニング分
析に用います。
• ワクチンやバイオ医薬品開発研究に向いている様々なバイオセン
HIS1K Anti-Penta- 精製または未精製培地中からHisタグ付き
サーによる効率的なワークフロー HIS タンパク質をキャプチャーし、標的アナラ
• ワクチン力価、安定性、タイター測定など、上流および下流のワク イトを用いたカイネティクス分析を行うこ
とができます。緩衝液、培地、または希釈
チン開発および製造における多用途なソリューション 溶解液中のHisタグ付きタンパク質の定量
• 直感的で使いやすいデータ分析ソフトウェアツール にも用いることができます。バイオセン
サーは、ペンタHis抗体であらかじめコー
ティングされています。
Octetでは、生体分子間相互作用を観察するために、検出面 (バイオセ FAB2G Anti-Human ヒトFabフラグメントおよびIgGと、標的抗
ンサー) 上の結合による光の干渉を測定するBio-Layer Interferometry Fab-CH1 2nd 原、Fc受容体、他のアナライトとのカイネ
(BLI) 技術を利用しています。検出結果は結合レスポンスとしてリアル Generation ティクス分析。FabおよびIgGの定量にも用
いることができます。
タイムに観察されます。この装置は、96または384ウェルプレート中
のサンプルを、マイクロ流路のない環境で測定します。アッセイワー NTA Ni-NTA 緩衝液や希釈したマトリックス中でのHIS
クフローには、ディスポーザブルなバイオセンサーをマイクロプレー タグ付きタンパク質の定量に用いることが
できます。各種アナライトを用いたカイネ
ト内のサンプルに浸しリアルタイムで相互作用を検出する、シンプル ティクス分析のためのHISタグ付きタンパ
なDip and Read™ 測定によって行われます。このワークフローは、細 ク質のキャプチャーにも使用します。
胞培養上清、血清、血漿、その他培地などの複雑なマトリックス中の Protein A Fc-Capture ヒトを含む様々な種の、IgGおよびFc融合
標的分子の特異的なキャプチャーと分析を可能にするという点で、マ タンパク質のキャプチャーに用います。
イクロ流路ベースの技術よりも有利です。スクリーニングのために抗
体や他の組換えタンパク質を精製する必要性がなく、サンプルが目詰 表1:抗体ベースのカイネティクス解析、受容体結合およびエピトープビニン
まりするリスクを回避することができます。 グアッセイに広く使用されているバイオセンサーの化学表面。すべてのバイオ
センサーについての情報・選択ガイドは、Biosensor selection guideをご覧く
ださい。
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Octetは、様々なワクチン開発研究プログラム (HIV Reference 1, 2、イン Octetによるエピトープビニングフォーマットとアッセイガイダンス
フルエンザReference 3、エボラウィルスReference 4、新型コロナウイルス
Reference 5-15) と、ナノ粒子Reference 16、ウイルス様粒子 (VLP)Reference 17 A B C
In-tandem assay Classical sandwich assay Premix assay
および二重特異抗体Reference 18などのワクチン製剤技術の評価に広く
使用されています。Octetシステムはまた、リード候補の選択だけで Biosensor Biosensor Biosensor
はなく、バイオプロセス開発と製造へのソリューションも提供しま
す。このレビューでは、コロナウイルス研究とワクチン開発への取り 1 Ag 1
2 Coupled 1 Coupled mAb
組みにおける、Octetアッセイを使用した最近の研究成果の事例をま mAb (Ab1) (Ab1)
Saturating Ag
とめました。 3 mAb (Ab1) 2 2 Ag
3 Ag Ag
Competing Sandwiching
mAb (Ab2) mAb (Ab2) Premixed mAb +
Ag (Ab2+Ag)
コロナウイルス受容体の結合機構と交差反応性
の決定 D
Antigen
SARS-CoV-2 (あるいは2019-nCoV) は、他のコロナウイルスファミ Monomer Multimer
リー、特にbetacoronavirus属 (SARS-CoV 2003) と遺伝的および形態学
的な特徴を共有しています。SARS-CoV-2は、ヒトアンジオテンシン変 mAbs mAbs
換酵素2 (ACE2) 受容体 (Reference 19) を介して宿主細胞への侵入を得 Crude Crude
るために、グリコシル化されたホモ3量体クラスI fusionスパイク (S) タ Purified (Hybridoma supes, (
phage lysates) Purified Hybridoma supes,
phage lysates)
ンパク質を使用しています。SARS-CoV-2のS糖タンパク質は、MERS-
CoVのような他の主要なコロナウイルスと比較すると、SARS-CoVと有 Binning Binning Binning Binning
format format format format
意な構造的相同性を有しています。Sタンパク質は、宿主細胞膜とウイ
ルス膜を融合させるために再編成を受ける、融合前準安定構造が存在
することが知られています。宿主細胞受容体へのS1サブユニットの結 Premix Classical
sandwich In-tandem Classical
sandwich In-tandem Premix In-tandem In-tandem
合は、融合前状態の三量体の不安定化を誘発し、そのタンパク質構造
変化によりS2サブユニットを介して宿主細胞膜との融合が開始されま PREMIX CLASSICAL SANDWICH IN-TANDEM
す。宿主細胞受容体に結合するためには、S1の受容体結合ドメイン • 抗原濃度はKD以上である必要 • 抗原はバイオセンサーと結合し • 抗原はタグを使用して、また
があります。 た抗体から急速に解離してはい は直接 (AR2G) バイオセン
(RBD) は、ダウンコンフォメーションとアップコンフォメーションと ビニング形式に • プレミックス抗体は抗原より けません。 サーにロードできます。
おける考慮事項 も過剰である必要があります。 • AHC / AMCバイオセンサーを使 • 「フリー抗原」が競合する抗体
• AHC / AMCバイオセンサーを使 用する場合、不飽和バイオセン に結合しないように、最初の抗
呼ばれる、受容体結合領域を隠す、あるいは提示する、ヒンジのよう 用する場合、不飽和バイオセ サー表面をブロックする必要が 体は飽和して抗原に結合したま
ヱサー表面をブロックする必 あります。 まである必要があります
な構造変化を経る必要があり、それは受容体結合へのアクセスを可能 要があります。 • バイオセンサーに結合された弱 • 飽和抗体として提示された弱
い親和性/速い解離の抗体は、あ い親和性 / 速い解離の抗体は
にし、またワクチン開発のための重要な抗原ターゲットとしてそれ自 いまいなデータにつながる可能 あいまいなデータにつながる
性があります 可能性があります。
体が提示されます。
• カイネティクススクリーニング • 抗体間の交差反応がないことを • AR2Gバイオセンサーへの抗原
Wrappらにより、融合前コンフォメーションにおけるSARS-CoV-2 S三 からおおよそのKDを求める必要 確認します。 の直接結合は、抗原の不活性化
推奨される があります。 • SAまたはAR2Gへのカップリング につながる可能性があります。
量体の構造が、クライオ電子顕微鏡法による最初の構造解析の一つと 初期の最適化 • 抗体間の交差反応がないことを 後に抗体に活性があることを確 固相化後に抗原に活性があるこ
実験 確認します。 認します。 とを確認してください。
して明らかにされました (Reference 12) 。彼らは、SARS-CoV-2 Sタン • SAまたはAR2Gへのカップリン • セルフブロッキングを確実にし • セルフブロッキングを確実にし
パク質の全体的な構造がSARS-CoV Sとほぼ類似しているのに対し、 グ後に抗体に活性があることを てください。 てください。
確認します。
RBDのダウンコンフォメーションの間に違いが存在することを示しま • セルフブロッキングを確実にし
てください。
した。
Wallsらによって、SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質複合体の別のク
ライオ電子顕微鏡構造が明らかにされました (Reference 10) 。この研 図1:エピトープビニングアッセイフォーマットと最適なエピトープビニング
アッセイフォーマットを選択するための推奨ガイドライン。Octetシステム
究では、SARS-CoV-2 S糖タンパク質は、S1/S2サブユニット間境界は は、クロス競合評価のための複数のアッセイフォーマットを可能にし、エピ
生合成中に処理されるfurin切断部位を有し、これはこのウイルスを トープビニングのための専用のハイスループットソフトウェア解析ツールを提
SARS-CoVおよび他のSARS関連CoVと区別することを示しました。また 供しています。 (A) In Tandemアッセイ。抗原はバイオセンサー上に固相化さ
Octet結合アッセイを用いて、SARS-CoV-2 SとSARS-CoV Sの受容体結 れ、その後、それぞれ飽和mAb (Ab1) と競合mAb (Ab2) の結合が行われます。
(B) Classical Sandwichアッセイ。あるmAbをバイオセンサーに固定化し
合ドメインは、ヒトACE2と同じような結合親和性で結合することが示 (Ab1) 、このmAbを用いて抗原をキャプチャーした後、2つ目のサンドイッチ
されました。同様の観察が、SARS-CoV-2 S RBDの高分解能結晶構造に mAbを試験します (Ab2) 。 (C) Premixアッセイ。あるmAbをバイオセンサーに
より、Joyceらによって報告されています (Reference 5) 。さらにこの 固定化し(Ab1)、抗原と大過剰モル濃度の2つ目のmAb (Ab2) を含む、プレミッ
研究では、SARS-CoVおよびMERS-CoV受容体結合ドメイン (RBD) と相 クス溶液にバイオセンサーを浸します。 (D) 最適なエピトープビニングアッセ
イフォーマットを選択するためのガイダンス。クロス競合スクリーニングの開
互作用することが知られている抗体を用いて、SARS-CoV-2への結合活 発および分析についての詳細は、Octet assay guideをお読みください。
性についてOctetのカイネティクスアッセイを行っています。プールの
うち240CDおよびCR3022の2つの抗体のみが、SARS-CoV-2 RBDに対し
て低nMでの結合親和性を示しました。しかしこれらの2つの抗体 また結晶構造解析の結果、CR3022はSARS-CoVとSARS-CoV-2の両方に
は、Octetのクロス競合アッセイによると、SARS-CoV-2 RBDの同じ結 保存されているRBDの部位に結合し、交差反応性を示しました。しか
合部位に対して競合していました。クロス競合またはエピトープビニ し本研究で同定されたSARS-CoV-2と、これまでの構造データから得ら
ングアッセイは、各モノクローナル抗体 (mAbs) が結合する抗原領域ま れたSARS-CoVおよびMERS-CoVのエピトープ領域を比較したところ、
たはエピトープに基づいて、ビンに抗体をセグメント化するために使 CR3022はSARS-CoV-2 S内の新規エピトープに結合していることが明
用することができます (図1) 。さらにOctet競合アッセイにより、 らかになりました。このエピトープ領域内に導入された特異的なRBD
ノックアウト変異体 (384位置の糖鎖シークオン) は、CR3022と240CD
SARS-CoV-2 RBDに結合した240CDまたはCR3022抗体は、ACE2の認識 の両抗体の結合を排除していることが、両抗体がエピトープを共有す
を阻害しないことが明らかになりました。 ることを確認したOctetデータにより示されました。
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受容体結合と細胞への侵入におけるSARS-CoV-2のスパイク構造を理解 Octet BLI競合アッセイは、CR3022がSARS-CoV-2 RBDのACE2結合部
するために、SARS-CoV-2、SARS-CoV、およびMERS-CoVの三量体ユ 位と競合しないことを示し、ACE2結合部位とは異なるエピトープに結
ニットに結合したCR3022の構造がモデル化されました (Reference 5)。 合していることを示しました (図2B) 。Wrappらは同様に、以前に発表
RBDがダウンコンフォメーションにあるときには、CR3022エピトープ されたSARS-CoV-2 RBD結合抗体の別のセット、S230、m396、および
は隣接するスパイクプロモーターによって妨害されていますが、アッ 80RをSARS-CoV-2 Sタンパク質と一緒に調べました (Reference 12) 。
プコンフォメーションではよりアクセス可能であることが示されまし オクテット結合アッセイでは、SARS-CoVとは異なるエピトープを介
た。Octetアッセイにより、非安定化されたS-糖タンパク質 (S1) のコン して認識されるためか、有意な結合活性の欠如が示されました。Sun
フォメーションへCR3022の結合、またS2 P三量体へのはるかに弱い結 らは、SARS-CoV S1またはRBDタンパク質を用いて、マウスおよびウ
合が観察されました。最小限のタンパク質分解、あるいは受容体結合 サギを免疫して作製したいくつかのpAbsおよびmAbsは、SARS-CoV-2
により、CR3022の不明瞭なエピトープへの結合が変化すかどうかを評 pseudoviruse (PSV) において良好な交差中和活性を示さなかったこと
価するために、S2三量体をトリプシンで処理するか、またはACE2とイ を報告しています。しかしこれらの抗体は、SARS-CoVウイルスに対
ンキュベートしました。S2 P三量体をヒトACE2でインキュベートして して強力な中和活性を示し、SARS-CoV RBDに対する高親和性の結合
も、CR3022結合に劇的な影響は与えませんでした。しかしS2 Pコン を示しました (KD ~9-200 pM) (Reference 8) 。これらの結果は、SARS-
フォメーションのトリプシン処理は、非安定化S糖タンパク質での結合 CoV中和活性やRBD結合を示す抗体が、RBDの高い配列相同性にもか
と同様の結合レベル増加をもたらしました。この結合レベルは、タン かわらず、必ずしもSARS-CoV-2への活性の必須条件ではないことを示
パク質分解の増加と相関があるため、CR3022結合エピトープが構造内 しており、SARS-CoV-2のRBDを特異的に標的とする新規抗体の開発が
部に埋め込まれているような特性であることが推測されました。同様 必要であることを示唆しています。
の観察は、SARS-CoV-2 RBDに結合した中和抗体CR3022の結晶構造を
用いて、Yuanらによって報告されています (Reference 14) 。Octetの Wangらは、SARS-CoV-2およびSARS-CoVウイルス活性に対して中和
結合データは、SARS-CoVとSARS-CoV-2 RBDの間に高い配列保存性が 力を有するヒトモノクローナル抗体の発見を報告しました (Reference
あるにもかかわらず、CR3022 FABsはSARS-CoV-2 RBDよりも100倍以 11) 。免疫化トランスジェニックマウスに由来するSARS S ハイブリ
上高い親和性でSARS-CoVを結合することを示しました。これはおそら ドーマを含む上清コレクションからのスクリーニングで得られた
く上記の2つのエピトープ間で保存されていない残基によります。in 47D11は、SARS-CoVおよびSARS-CoV-2 pseudotyped VSVの両方に対
vitroでのマイクロ中和アッセイでは、CR3022はSARS-CoVに対しては して交差反応性および中和活性を示しました。Octetを用いた研究で
中和活性が高く、SARS-CoV-2では中和活性が低いことが示されました は、47D11は、SARS-CoV-2のSectoドメイン (KD = 10.8 nM) と比較し
が、これはRBDの結合親和性の低さと一致します。これらの構造研究 て、SARS-CoVのSectoドメインに高い親和性 (KD = 0.745 nM) の結合を
により、SARS-CoV-2が体液性免疫応答の標的となるメカニズムに対し 示しましたが、SARS-CoVおよびSARS-CoV-2のRBD結合ドメインへの
ての知見が得られ、また相互防御的なnAbs創薬に利用できる可能性の 結合については似たような結合親和性が報告されているため、2つの
ある、SARS-CoV-2とSARS-CoVの間で保存され構造内部に埋め込まれ ウイルス受容体結合モチーフ (RBM) 構造の間のエピトープアクセス性
の違いをさらに検証しています。加えて、これまでに報告されている
ているエピトープが共有されていることが明らかとなりました。 他の例と同様に、47D11はSARS-CoVやSARS-CoV-2 RBDと競合せず、
受容体ブロッキングとは異なるモードで中和されていることが示唆さ
中和抗体の開発 れました。この交差中和抗体は、共通エピトープを標的としているこ
とが報告されており、SARS-CoV-2の予防や治療に応用できる可能性
中和抗体 (nAbs) は現在の治療法の中でコロナウイルス感染症に対して があります。
最も効果的な治療法の一つであると考えられ、緊急に必要とされてい
ます。SARS-CoV RBDを標的としたいくつかのnAbsでは、in vivoで有 Pintoらは、SARS-CoV生存者からnAbsのスクリーニングを行いました
意な抗ウイルス活性を示すことが、動物モデルでウイルス力価を低下 (Reference 7) 。このスクリーニングで得られた8種類のmAbsは、
させることにより明らかにされています。しかし交差反応性を有する SARS-CoVおよびSARS-CoV-2 Sタンパク質をトランスフェクションし
nAbsが利用できれば、一本鎖RNAウイルスに典型的なウイルス変異に たCHO細胞の両方に結合し、そのうちS303、S304、S309、および
対抗できる、持続的に利用できる治療薬の鍵となる可能性がありま S315は、SARS-CoVおよびSARS-CoV-2 RBDの両方を認識しました。
す。 Octetデータにより、S309は両SドメインどちらにもnMレベルの親和
性で結合し、SARS-CoVおよびCoV-2の pseudovirus、本物のSARS-
SARS-CoVとSARS-CoV-2の2つのスパイク (S) タンパク質の間には80% CoV-2に対しても同等の中和力を示すことが示されました。
程度の配列類似性があることから、SARS-CoVのスパイク (S) タンパク S309は、受容体結合モチーフ (RBM) とは異なる、SARS-CoV-2のRBD
質の免疫応答から得られた抗体が、新しいSARS-CoV-2との交差反応 上のタンパク質/グリカンエピトープを認識し、アップ状態とダウン
性を保持するかどうかを理解することは、治療用抗体や予防ワクチン 状態の両方にアクセス可能であると、構造データより考えられます。
の開発に重要な洞察と指針を提供することになります。 Octet BLI競合アッセイは、S309 FabおよびIgGのSARS-CoV-2 RBDへ
Tianらの先駆的な研究では、CoV-2 RBDを発現および精製し、RBDを の結合が、ACE2受容体のSARS-CoV-2 Sタンパク質への結合を阻害し
標的としてSARS-CoV に対して強力な中和活性を発揮することが知ら ないことを示しました。
れている、いくつかのSARS-CoV特異的中和抗体の結合を試験しまし
た (Reference 9) 。SARS-CoV nAbsであるm396、CR3014、
CR3022、およびMERS-CoV nAbであるm336を、SARS-CoV-2 RBDの
認識について試験しました (図2)。ほとんどの抗体はSARS-CoV-2 RBD
への有意な結合を示しませんでしたが、SARS-CoV患者から単離され
たCR3022は6.3 nMの親和性 (konは1.84×105 Ms-1、koffは1.16×10-3
s-1) で結合しました。
3
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A
B
図2:SARS-CoV-2 RBDに対するSARS-CoV抗体の相互作用の特性解析。 (A) Octetにより測定した、SARS-CoV-2 RBDと、ACE2あるいは抗体との結合プロファイ
ル。 (B) CR3022およびACE2と、SARS-CoV-2 RBDとの競合。競合分析のために、SARS-CoV-2 RBD をStreptavidinバイオセンサー上に固相化し、次いでACE2を作
用させた後に、ACE2のみ、CR3022+ACE2、またはACE2+アイソタイプ抗体コントロールのいずれかと反応させました。図はReference 9からの転載です。
mAbsのパネルセットで認識されるエピトープについてより多くの洞 Wuらは、SARS-CoV-2 RBDを標的とするシングルドメイン抗体の生成お
察を得るために、OctetエピトープビニングアッセイによるSARS-CoV よび試験を報告しました (Reference 13) 。SARS-CoV-2 RBDおよびS1を
およびSARS-CoV-2 RBDに存在する抗原性部位のマッピングが実施さ 抗原として用いたパンニングにより、SARS-CoV-2 RBD上の5種類の中和
れました。Octetエピトープビニング解析により、mAbが標的とする エピトープまたは非中和エピトープを標的とする抗体が同定されまし
SARS-CoV RBD内の4つの抗原性領域が同定されました。これらの知見 た。18個のヒトシングルドメイン抗体を、Octetシステムを用いた競合
に基づき、異なる抗原性領域を標的としたmAbの組み合わせについ 結合アッセイで試験した結果、それらが互いに競合を示さない3つの競
て、中和力と相乗効果の可能性について試験を行ったところ、S304あ 合グループ (グループA、B、C) に分けられることを彼らは発見しまし
るいはS315と、S309の組み合わせは、SARS-CoV-2に対する中和力を た。SARS-CoV-2 S1をパンニング抗原として用いライブラリーから同定
増強することが示されました。この研究で同定されたS309は、複数の したシングルドメイン抗体n3130は、pseudotype ウイルスおよび生ウ
sarbecovirusに対して幅広い中和活性を示し、有効な治療薬候補とし イルスの両方に対して強力な中和活性を示し、SARS-CoV-2 S1および
て期待されています。 RBDドメインへの強い結合を示しました。また、SARS-CoV-2 RBDが
SARS-CoVやMERS-CoVと比較してユニークな免疫原性プロファイルを示
Panらは、SARS-CoV-2のRBDドメインを使用して、馬の抗血清から中 したこともこの研究では報告されており、SARS-CoV-2に対する有効な
和抗体を作製しました (Reference 6) 。馬の抗血清から単離された ワクチン開発に重要な意味を持つと考えられます。
F(ab')2は、SARS-CoV-2に対して~25μg/mLのEC80で中和活性を示し
たと報告されています。Octet BLIのカイネティクス分析はまた、76
nMの親和性でのF(ab')2へのSARS-CoV-2受容体の結合を確認しまし
た。抗血清からのF(ab')2のアフィニティー精製により、SARS-CoV-2
に対する中和活性 (EC80 = 0.18 μg/mL) が向上し、またOctet BLIで測
定した結合親和性 (0.76 nM) も増加しました。これはRBD特異的
F(ab')2がSARS-CoV-2の治療薬候補になる可能性を示唆しています。
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ウイルス侵入を阻害するペプチド阻害剤の設計 まとめ
と検証 親和性の特性評価、中和性、競合性の研究は、新型SARS-CoV-2に対
保護作用を持つ抗体に加えて、ペプチドおよび低分子阻害剤も、 する治療法やワクチン開発のための、高親和性で中和可能性のある
SARS-CoV-2 RBDを標的にしてウイルスの侵入を防ぐための阻害戦略 リード候補の選択に不可欠です。カイネティクス解析は、親和性だけ
として使用可能です。Zhangらは、SARS-CoV-2 S受容体とACE2タン ではなく、親和性の元となる結合および解離の詳細なパラメータを調
パク質の複合体の結晶構造を元に、結合界面にまたがるACE2 PD α1ヘ べます。一方クロス競合アッセイは、より最適な候補の同定を可能に
リックスに基づいて発見された、23-merペプチドインヒビター します。上記の研究に加えて、他のコロナウイルスのメンバーや関連
(SBP1) の設計および開発を研究しました (Reference 15) 。SARS- する種を特徴づけ、調査するために、研究者はOctetアッセイを利用
CoV-2 RBDへのペプチドの結合の標的特異性を試験するために、Octet してきました。これらの観察と結果は、SARS-CoV-2に対する現在の
BLIを使用しています。SPB1は、47 nM (kon = 4.69 × 104 M-1 s-1 および 治療戦略の実施と枠組み作りのために非常に貴重なものでした。表2
k は、現在および今までのコロナウイルス研究において、Octetアッセ
off = 2.2 × 10-3 s-1) の親和性でRBDに結合し、この結合親和性は、全
長ACE2のSARS-CoV-2 RBDへの結合の強さに匹敵します。したがって イを使用している研究についていくつかを選択し、要約したものです
SBP1は、SARS-CoV-2表面のスパイクタンパク質をカバーすること (Reference 20-27) 。これらの研究すべてにおいて、すぐに使える多様
で、ACE2の結合を打ち負かす新たな治療戦略となる可能性がありま なバイオセンサーケミストリーの可用性と、Octetシステムの使いや
す。 すさを組み合わせることで、ユーザーが結果を得る時間を大幅に短縮
し、現在のパンデミックに対するワクチンや治療法のための継続的な
探索を進めることが可能になりました。
Analyte(s) Immobilized ligand(s) Virus species Assay focus Biosensor Reference
ACE2 Fc-tagged SARS CoV-2 RBD SARS CoV-2 Cross-reactivity and receptor binding AHC 12
ACE2 SARS-CoV-2 SB SARS-CoV SB SARS CoV-2 Receptor binding HIS1K 10
mAb, MERS S protein, SARS CoV-2 S1, SARS CoV-2 SARS CoV-2 VHH and mAb binding assessment, AR2G 13
VHH RBD Epitope binning
Fab, IgG SARS CoV-2 S protein, SARS SARS CoV-2 FAB, IgG binding characterization HIS1K 14
CoV-2 RBS
ACE2, SARS-CoV RBD SARS-CoV-specific SARS CoV-2 Cross-reactivity binding SA 9
neutralizing antibodies
Antibodies Biotin-Recombinant SARS- SARS CoV-2 Neutralization antibody assessment SA 8
CoV S1 protein
FAB, ACE2, SARS S mAb, ACE2 SARS CoV-2 Receptor binding, antibody AHC, HIS1K 5
protein reactivity, competition assays
SARS CoV-2 RBD Inhibitor Peptide SARS CoV-2 Peptide inhibitor development SA 15
mAb S1B and SARS Secto domains SARS CoV and Antibody reactivity assessment HIS1K 11
SARS CoV-2
SARS CoV-2 RBD, mAbs, SARS CoV-2 RBD, SARS CoV and Antibody binding characterization, Protein A, 7
SARS CoV RBD, mAbs, SARS CoV RBD SARS CoV-2 epitope binning, competition binding HIS2, HIS1K
FAB
Coronavirus S proteins Biotin-9OAc6SLN SARS CoV and Receptor binding SA 20
MERS CoV
MERS-5HB fusion Biotin-peptide (MERS-HR2P) MERS CoV Protein Inhibitor development SA 21
inhibitor
mAb, MERS S protein mAb, MERS S protein MERS CoV Epitope binning and Receptor SAX, 22
binding Protein A
MERS-CoV S mAbs MERS CoV Antibody reactivity measurements, AHC, HIS1K 23
competition assays
MERS-CoV NTD, mAb MERS CoV Antibody reactivity measurements AHC 24
mutants
MERS S-protein mAbs MERS CoV Antibody reactivity measurements AHC 25
RBD/S1/S2 antigen Vaccine-induced mouse MERS CoV Antibody reactivity and epitope AHC, HIS1K 26
monoclonal IgGs binning
FABs MERS-CoV RBD MERS CoV Epitope binning HIS1K 27
表2:コロナウイルス研究およびワクチン開発におけるOctet BLIアッセイの例。
5
Page6
References
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