制御機器の基礎知識 リレー編
3 各論
目次
3.4 特殊用途リレー .......................................................................... 125
3.4.1 セーフティリレー ................................................................. 125
3.4.1.1 概説 ................................................................................... 125
3.4.1.2 原理と構造 ....................................................................... 126
3.4.1.3 種類 ................................................................................... 127
3.4.1.4 特性 ................................................................................... 127
3.4.1.5 上手な使い方 ................................................................... 128
3.4.2 高周波リレー ......................................................................... 129
3.4.2.1 概説 ................................................................................... 129
3.4.2.2 原理と構造 ....................................................................... 130
3.4.2.3 特性 ................................................................................... 132
3.4.2.4 選び方と使い方 ............................................................... 133
3.4.3 直流高電圧リレー ................................................................. 134
3.4.3.1 概説 ................................................................................... 134
3.4.3.2 原理と構造 ....................................................................... 134
3.4.3.3 種類 ................................................................................... 135
3.4.3.4 特性 ................................................................................... 136
3.4.3.5 選び方と使い方 ............................................................... 136
3.4.4 ラッチングリレー ................................................................. 138
3.4.4.1 概説 ................................................................................... 138
3.4.4.2 原理と構造 ....................................................................... 138
3.4.4.3 特性 ................................................................................... 140
3.4.4.4 上手な使い方 ................................................................... 140
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3.4 特殊用途リレー、3.4.1 セーフティリレー、3.4.1.1 概説、3.4.1.1.1 定義、3.4.1.1.2 沿革
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3 各論
3.4 特殊用途リレー
3.4.1 セーフティリレー
3.4.1.1 概説
3.4.1.1.1 定義
セーフティリレーとは、IEC 61810-3 に規定されている強制ガイド接点機構(3.4.1.2 参照)により接点
溶着時にその溶着状態を検出し制御回路で判定できるようにする機能をもったリレーである[1]。
それ故に強制ガイド接点機構付リレーとも呼ばれる。
3.4.1.1.2 沿革
近年、機械類の安全性について、ISO 12100 を始めとする国際規格の規格化が進んでいること、PL 法の
施行、欧州域内における機械指令の制定により、安全システムを構築する重要部品としてセーフティリレ
ーのニーズが急速に高まっている。
特に、図 3.4.1 に示す機械装置、設備装置、ロボット装置などの機械安全に組み込む制御回路の故障検
出に適用された例が多い。
これらの製造にかかわる代表的な製造業者は、国内では IDEC 株式会社、オムロン株式会社及びパナソ
ニック株式会社、海外では ELESTA GmbH、E.Dold&Sohne KG 及び TE Connectivity Corporation である。
プレス機械装置 安全柵設備装置
自動車生産ロボット装置 半導体製造装置
図3.4.1-アプリケーション適用事例(出典:オムロン(株))
125
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3.4.1.2 原理と構造
a) セーフティリレー(図3.4.2)は強制ガイド接点機構をもつことを特長とする。
強制ガイド接点機構とは、安全規格(IEC 61810-3)が要求するセーフティリレーの機能のひとつで、
少なくとも一つの a 接点が溶着した場合、コイルが無励磁状態(OFF 状態)で b 接点が 0.5 mm 以上の
接点間隔を保持している、また b 接点が溶着した場合、コイルが励磁状態(ON 状態)ですべての a 接
点が 0.5 mm 以上の接点間隔を保持している機構のことである。
b) 代表的な適用例は一般のリレーと異なり強制ガイド接点機構により、接点溶着時にその溶着状態を検
出し制御回路で判断できる。また機械安全の回路に用いることができる。
0.5 mm 以上 接点溶着
図3.4.2-セーフティリレーの構造例[2]
c) 一般リレーとセーフティリレーの構造比較について図3.4.3にて説明する。
一般リレー セーフティリレー
コイル無励磁 コイル無励磁 コイル無励磁 コイル無励磁
折損箇所 溶着箇所
遮へい構造 遮へい構造
強制ガイド 強制ガイド
b 接点 a 接点 b 接点 a 接点 b 接点 a 接点 b 接点 a 接点
・a 接点、b 接点がともに閉状態 ・折損可動ばねで極間短絡を ・b接点が 0.5 mm 以上の間隔 ・遮へい構造により他の接点組に
になる可能性がある。 起こす可能性がある。 を保つ 影響を与えない
a) 接点間が溶着した場合 b) 可動ばねが折損した場合 a) 接点が溶着した場合 b) 接点ばねが折損した場合
(a 接点溶着時) (b 接点折損時)
図3.4.3-一般リレーとセーフティリレーの構造比較[2]
126
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3.4.1.3 種類、3.4.1.4 特性
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3.4.1.3 種類
セーフティリレーの種類は接点構成と接点極数による種類で分類される。
a) 接点構成による分類は強制ガイド接点機構の接点構成によりTYPE AとTYPE Bに分類される。
1) TYPE A 強制ガイド接点機構が全ての接点に備えられたリレーで、シンボルマーク(図3.4.4)
を製品本体に捺印することが安全規格(IEC 61810-3)で要求されている。
図3.4.4-TYPE A シンボルマーク[1]
2) TYPE B 強制ガイド接点機構が一部の接点に備えられたリレーで、シンボルマーク(図3.4.5)
を製品本体に捺印することが安全規格(IEC 61810-3)で要求されている。
又は
図3.4.5-TYPE B シンボルマーク[1]
b) 接点極数による分類は接点極数と接点構成(表3.4.1)で分類される。
表3.4.1-セーフティリレーの接点極数と接点構成
接点極数 接点構成
2極 1a1b
4極 3a1b
2a2b
6極 4a2b
3a3b
5a1b
8極 4a4b
3.4.1.4 特性
セーフティリレーは主に安全規格(IEC 61810-3)から要求される下記事項を満足していること
が必要である。
a) 強制ガイド接点機構をもっていること。
b) 機械的耐久性は少なくとも10 000 000回以上あること。
c) 使用周囲温度は少なくとも-10 ℃~+55 ℃の範囲であること。
d) 接点負荷開閉はAC-15、DC-13(IEC 61810-1 Annex B又はIEC 60947-5-1)に適合すること。
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3.4.1.5 上手な使い方
a) セーフティリレーは強制ガイド接点とよばれる構造をもっている。しかし、その他の点につい
ては一般リレーと基本的には同じある。セーフティリレーは故障を起こさないリレーではなく、
接点溶着などの故障のときに強制ガイド接点とよばれる構造により故障している状態を他の回
路によって検出できるリレーである。
b) セーフティリレー(図3.4.2)は単独ではなく安全要求・機能を取り入れた制御回路との組合せ
で使用されることが一般的なことから、セーフティリレーと制御回路で構成されているセーフテ
ィリレーユニット(図3.4.6)を使用することも多い。セーフティリレーユニットを使用するこ
とで、動力(M:モータ)の制御回路で接点溶着などが発生しても、動力(M:モータ)を確実に
遮断して、その故障が取り除かれるまで再起動できない機能を実現することができる。
c) セーフティリレーユニットの外観(図3.4.6)および内部安全回路(図3.4.7)と動作チャート
(図3.4.8)を下記に示す。回路は冗長性とセルフモニターリング機能をもたせた完全回路例で
ある。
図3.4.6-セーフティリレーユニットの外観[2]
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3.4.2 高周波リレー、3.4.2.1 概説
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フィードバック
S1 ループ
KM
S2
KM
DC24 V Fuse
L1 L1 L2 L3
A1 A2 T11 T12 T31 T32 13 23 33 41
3
4
TH a K1 K2 K1
1
SA K2 2 KM1
3
K1 a Control
4
2
b Circuit 5 JP
5
b 6 K2 KM2
SB1
PE T21 T23 T22 A B 14 24 34 42
M
KM1 KM2
N
図3.4.7-セーフティリレーユニットの内部安全回路[2]
1 2 3 4 5 6
非常停止スイッチ S1
リセットスイッチ S2
K1、K2 b 接点
動作チャートの説明
① 非常停止スイッチS1 ON
KM1、KM2 b 接点 ② リセットスイッチS2 ON
③ リセットスイッチS2 OFF
KM1、KM2 a 接点 ④ 安全出力 KM1,KM2 ON(M:モータ動作)
⑤ 非常停止スイッチS1 OFF
モータ M 回転 ⑥ 安全出力KM1,KM2 OFF(M:モータ停止)
図3.4.8-セーフティリレーユニットの動作チャート[2]
3.4.2 高周波リレー
3.4.2.1 概説
3.4.2.1.1 定義
高周波リレーとは、高周波信号を損失が少なくかつ漏れが少なく伝達と切替えができる接点部構
造を特徴としたリレーである。信号周波数帯の規定はないが、数 kHz から高いものでは十数 GHz
に対応した製品もある。
高周波信号を機械的に接点で切替えるものとしては同軸リレー(スイッチ)やリードリレーなど
もあるが、本章ではプリント基板実装用ヒンジ型リレーについて説明する。
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3.4.2.1.2 沿革
近年、アナログ、デジタルの高周波信号を扱う機器、特に、無線通信機器、放送・映像機器、ネ
ットワーク機器、計測機器、検査装置などが普及し、それに伴い、高周波リレーの需要が急速に増
した。
現在、各機器には次のようなシステムが用いられている。
①無線通信機器:各種無線機、携帯電話基地局・中継局、マイクロ波通信
②放送・映像機器:放送機器、中継局、チューナー・アンテナ機器
③ネットワーク機器:LAN
④計測機器:オシロスコープ、スペクトラムアナライザ
⑤検査装置:半導体自動検査装置
これら高周波リレーの製造に関わる代表的な製造業者は、国内ではオムロン株式会社及びパナソニック
株式会社、海外では TE Connectivity Corporation 及び TELEDYNE RELAYS である。
3.4.2.2 原理と構造
3.4.2.2.1 原理
高周波回路では一般の直流回路や低周波回路と異なり、図 3.4.9 に示す分布定数回路として扱う
必要があり、伝送線路の抵抗やインピーダンスが無視できない。また、回路の浮遊容量による結合
などで伝送線路が繋がっていなくても信号が漏れて伝わることがある。
~ Z
配線に使った 2 本の電線
R L
~ C G Z 等価回路
図 3.4.9-分布定数回路(出典:オムロン(株))
機械的リレーで高周波信号を制御する場合には、接点部や導電部の構造や形状による高周波信号
の減衰や漏れや反射が無視できなくなり、次のような点が問題になる。
接点が閉じている場合:信号の損失が大きくなり正確に伝達できない。損失による発熱が生
じる。
接点が開いている場合:接点間で信号が漏れたり、他の伝送路に漏れたり影響しあうことで混
線や誤動作が生じる。
このため 3.4.2.2.2 に示すような構造を採用することで高周波信号の損失を抑えている。
3.4.2.2.2 構造
高周波リレーは、一般の信号切替用リレーと比較して、コイルに通電・動作させることで可動接
点ブロックを動作させて接点を開閉させるという点では同様であるが、接点部構造に特徴がある。
高周波信号を損失が少なく伝送する方式として、一般的には図 3.4.10 に示す同軸線路、マイク
ロストリップ線路、コプレーナ線路などがあり、高周波リレーにもこれらが応用されている。
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導体(信号ライン) 導体(グランドプレーン) 導体(信号ライン)
誘電体
誘
電体
導体(グランドプレーン)
同軸線路 マイクロストリップ線路 コプレーナ線路
図 3.4.10-高周波信号の伝送方式(出典:オムロン(株))
高周波帯域では特性インピーダンス(回路の伝送系インピーダンス)の不整合点で信号が反射し
てロスが大きくなることを考慮して、用途や規格などによって 50Ω 系、75Ω 系などに統一されて
いる。高周波リレーも特性インピーダンスに合わせて設計されている。
開放時の信号の漏れに対しては、接点が開いた状態での間隔を広くするためにダブルブレーク方
式(二つの可動接点と二つの固定接点で構成された一つの接点)を採用しているものが多い。また、
開放側の接点間の浮遊容量の影響を減らすために接触片をグランドにアースすることや、誘電率が
低い材料を使用するなどの方法が取られる(図 3.4.11 参照)。
固定接点端子
(信号端子)
2 本の接触片 が
接触片 可動ブロック 平行移動
a) ダブルブレーク方式
グランド端子
接触片がアースされ接点間の浮遊容量が 低減される
b) 接触片のグランドへのアース
図 3.4.11-信号漏れへの対応例(出典:オムロン(株))
接点構成は、シングルエンド信号用に 1 極タイプ、差動伝送信号用などに 2 極タイプがあり、一
般的には切替えに用いられることが多いため C 接点構造が多い。
固定接点端子および可動接触片からの高周波信号の漏洩、外部からの高周波ノイズの遮蔽や同軸
構造などの高周波線路構造での特性インピーダンス調整の役割として金属製プレス部品や金属め
っきなどによるグランドで囲われている。グランドには基板のグランドに接続してアースするため
の端子が設けられる(図 3.4.12 参照)。
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固定固接定接点点端端子子
(信(号信号端端子子)) 接接触触片片
グランドド
誘電体体
((ベースス))
図 3.4.12-接点部グランド構造(出典:オムロン(株))
3.4.2.3 特性
3.4.2.3.1 特性(性能)
高周波リレーの重要な特性として次がある。
a) インサーションロス(挿入損失/伝送損失)
接点が閉じているときに、入力電力と出力電力の比を dB で表したものである。伝送経路での信号の
放射、誘電体損失や特性インピーダンスが不整合な部位での反射などによりロスが生じる。このロスの
程度を表すのがインサーションロスで、この数値が小さいほどロスが小さく優れた特性である。
b) アイソレーション(信号漏洩量)
接点が開いているときに、入力電力と出力電力(漏れ)の比を dB で表したものである。浮遊容量に
よる静電結合などで信号の漏れが生じる程度を示すのがアイソレーションである。また、2 極タイプの
場合には異極間の漏れ(クロストーク)も重要である。この数値が大きいほど漏れが小さく優れた特性
である。
c) リターンロス(反射損失)
伝送経路に特性インピーダンスの不整合点があると、電力は一方向に流れず反射が生じる。この反射
の程度を示すのがリターンロスで、入力電力と反射電力の比を dB で表したものである。この数値が大
きいほど反射が少なく優れた特性である。
d) VSWR(Voltage Standing Wave Ratio、電圧定在波比)
伝送経路の途中に特性インピーダンスの異なる部分があり反射が生じている場合、伝送路上には進行
波と反射波が同時に存在することになり、お互いの干渉により見かけ上、進行していない波が生じる。
これを定在波と呼び、この定在波の最大電圧と最小電圧の比を VSWR(電圧定在波比)という。この数
値が小さいほど反射がなく優れた特性であり、数値が 1 の場合に反射がない状態である。また、VSWR
はリターンロスと図 3.4.13 d)の式の関係があるため、どちらか一方を規定する場合もある。
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a) インサーションロス b) アイソレーション
c) リターンロス d) VSWR
図 3.4.13-高周波リレーの重要特性(出典:オムロン(株))
図 3.4.14 に一般信号切替用リレーと高周波リレーの高周波信号伝送損失と開放接点端子間の信
号漏洩量の比較を示す。
良
一般信号切替用リレー
一般信号切替用リレー
高周波リレー
高周波リレー
良
a) インサーションロス(伝送損失) b) アイソレーション(信号漏洩量)
図 3.4.14-一般信号切替用リレーと高周波リレーの高周波特性比較グラフ(出典:オムロン(株))
3.4.2.4 選び方と使い方
3.4.2.4.1 正しい選び方
a) 機種によって接点部の特性インピーダンスが 50 Ω系や 75 Ω系などで設計されているので、使用する
機器の特性インピーダンスに合った製品を選択する必要がある。
b) 製品の構造によっては、製品底面側の基板面に信号線を設けると、信号線とリレーとの間で干渉して
高周波特性に影響する場合や、製品底面がグランドになっており配線できない場合などがあるため、製
品の注意事項や推奨回路接続図などを確認する必要がある。
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3.4.3 直流高電圧リレー、3.4.3.1 概説、3.4.3.2 原理と構造
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3.4.2.4.2 上手な使い方
a) 機器に搭載した際には、使用する基板の材質、厚み、特性や接続部のパッド形状などによって特性イ
ンピーダンスが異なる部分が生じて高周波特性が変わることがあるため、実機での確認が必要な場合も
ある。
b) 高周波電力を通電する場合には、表皮効果と誘導損失により、周波数が高くなると発熱量が増加する。
規定された周波数以外での使用では実機確認試験などが必要になる場合がある。
表皮効果:高周波電力が導体に流れるとき、導体の相互インダクタンスにより表面に近い
部分に多く流れる現象。周波数が高くなるほど電流が導体表面に集中するため
抵抗値が高くなり発熱も増加する。
誘導損失:誘電体に高周波電力を加えたときに、誘電体の分極(プラスとマイナスの変位)
が電場の変化に追従できなくなり、熱として損失する現象。周波数が高くなる
ほど損失は大きくなる。
c) 高周波電力の通電・開閉能力や耐久性は負荷の VSWR により影響される。負荷の VSWR の条件(VSWR
≦1.2 など)が規定されている場合には、これを超える負荷では実機確認試験などが必要である。
3.4.3 直流高電圧リレー
3.4.3.1 概説
3.4.3.1.1 定義
直流高電圧リレーとは、発電や蓄電の関係で高電圧の直流領域を開閉可能なリレーをいう。
3.4.3.1.2 沿革
地球環境問題を背景として、国内外の自動車メーカーによるハイブリッド自動車(HEV)、プラ
グインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)が普及期を迎えつつあり燃料電池車(FCEV)
も導入されはじめている。
一方、電力分野においては再生可能エネルギーの取組みが各国でなされており、この中で太陽光
発電については欧州・日本・米国を中心に推進されてきたが、最近は中国が深刻な大気汚染問題も
背景として積極的に導入を図っている。また太陽光発電を含む各種分散電源とのネットワークを視
野に入れたスマートグリッドの取組みも国内外でなされつつある。
3.4.3.2 原理と構造
3.4.3.2.1 動作原理(遮断メカニズムを含む)
接点部を気密構造にしてガスを封入した、直流高電圧リレーの動作原理(遮断メカニズム)につ
いて、図 3.4.15 を用いて説明する。
a) 接点部を気密構造にしたブロック内において、リレーが ON 状態で通電される。
b) リレーが OFF 時(遮断開始する際)に、接点間にアークが発生する。
c) アークは永久磁石(外付け)の磁束によって横方向に引っ張られ、接点表面を移動する。
d) 気密構造のブロック内に封入されている水素ガスの冷却効果と、アーク長増大にて内壁に引き寄せら
れ、一気にアーク電圧が上昇し、遮断が完了する。そしてこのアークは外部に出ない。
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a) d)
b) c)
図 3.4.15-直流高電圧リレーの動作原理(遮断メカニズム)(出典:パナソニック(株))
3.4.3.2.2 構造
直流高電圧リレーは、主にプランジャ形(接触部をプランジャ形電磁石の力よって駆動し接点の
開閉を行う)のリレーである。そして、直流の高電圧・大電流を開閉(遮断)する場合、交流アー
クと違い、電流ゼロ点のない直流アーク放電が発生する。直流アークは、一旦アークが発生すると
アークが持続して遮断が困難になる(図 3.4.16 交流波形と直流波形の違い)。
そのために、ケース中に冷却効果のあるガスを封入し、直流高電圧・大電流の遮断を行う構造に
している。
気密構造のブロックは、セラミックと金属により完全密閉の防爆構造になっており、アークが外
部に放出されないので、アークスペースが不要である。
封入ガスは、アーク冷却効果のある水素を主体としたガスを使用し、永久磁石の磁気によるアー
ク誘導作用との相乗効果により、短い接点ギャップで瞬時に遮断できる。
図 3.4.16-交流波形と直流波形の違い
3.4.3.3 種類
機構面で分類すると、プランジャ形が主流であるが、制御負荷の小さいタイプのリレーはヒンジ
形もある。
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3.4.3.4 特性、3.4.3.5 選び方と使い方
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高電圧の直流電流を制御するために、意図的にガスを封入しているタイプと、ガスを封入してい
ないタイプがある。直流の電圧・電流が大きい負荷を制御するタイプには、ガスを封入している。
これは直流負荷が大きい場合、磁石の磁力によるアーク消弧能力ではアーク遮断が不充分であるた
め、アークの冷却能力をもつガスを封入してアーク遮断能力を高めている。
3.4.3.4 特性
特性項目は、アプリケーションによって変わるため、車載用途リレーで挙がっている特有の項目
について、その定義を述べる。またその試験条件についてはメーカー毎に異なるので、記載を控え
る。
a) 短時間通電時間
過負荷状態で通電できる時間を表す指標
b) 最大遮断電流
過負荷(過電流)状態で 1 回以上遮断できる最大電流
c) 過負荷遮断
過負荷(過電流)状態で開閉(遮断)した場合の遮断能力を表す指標
d) 逆方向遮断
負荷電圧の極性を逆にした場合の、遮断能力を表す指標
(具体的には、車の運転で急ブレーキを踏んで、減速中に生じる回生電流を遮断する場合)
3.4.3.5 選び方と使い方
ここでは、本リレーが用いられる負荷領域とその適用領域を述べ、選び方に替える。
3.4.3.5.1 負荷領域
直流高電圧リレーの負荷電圧・電流範囲(ロードマップ)は、図 3.4.17 のように、電圧が 0~1 500
VDC、電流が 0~400 ADC の範囲で、おおむねコンタクタ:IEC 60947-4-1 Ed.3.1 と、リレー:IEC
61810-1 Ed.4 の中間の負荷領域に位置づけられる。
図 3.4.17-直流高電圧リレーの負荷電圧・電流範囲
136
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3.4.3.5.2 適用事例
a) 太陽光発電システム向け(パワコン向け)
図 3.4.18 に示すように、太陽光発電システムでは、様々な用途に直流高電圧リレーが使用され
ている。主な用途とその役割を次に示す。
1) ソーラーストリング用途
火災などの災害発生時に、各パネルを短絡させることで、システムの安全性を保つことが可能であ
る。(消防隊員の感電防止)
2) 接続箱・パワーコンディショナー用途
火災などの災害発生時に、DC ラインを遮断することで、システムの安全性を保つことが可能であ
る。保守メンテナンス時に、遠隔で制御が可能である。またメンテナンスコストの低減が可能である。
3) DC 側安全遮断用途
バッテリー及びシステムが不具合・故障した際に、安全対策として必要である。
4) 突入防止用用途
充電時のコンデンサ突入電流防止用として必要である。
1)
2)
4)
3)
図 3.4.18-太陽光発電システム向けリレー(出典:パナソニック(株))
b) 車載向け(メインリレー、プリチャージリレー、急速充電用リレー、他)
図 3.4.19 に示すように、ハイブリッド自動車(Hybrid Electric Vehicle:HEV)、電気自動車(Battery Electric
Vehicle:BEV)、プラグインハイブリッド自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle:PHEV)の電動自動車
は、直流の高電圧のバッテリーを搭載している。そして直流高電圧を安全に入り切りする役割として、
用途に応じて、①~⑥のリレーやスイッチが使われている。その中で、①と②についてその役割を次に
示す。
1) メインリレー
・IG キーと連動したバッテリーパワー伝達
・車両側指令による異常時の回路遮断
・バッテリーと完全分離できる両切りが基本構成
137
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3.4.4 ラッチングリレー、3.4.4.1 概説、3.4.4.2 原理と構造
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2) プリチャージリレー
・IG キーを連動した、インバータ前段の大容量コンデンサ充電
・過大な突入電流防止により、システム安定性アップ
図 3.4.19-電動自動車向けリレー[3]
3.4.3.5.3 使用上の注意
接点に極性表示(+)、(-)があるリレーの場合は、接点の接続は結線図の指示に従うこと。
3.4.4 ラッチングリレー
3.4.4.1 概説
3.4.4.1.1 定義
一度セット(若しくはリセット)状態にすると、次に反転のための入力信号が入るまでセット(若しく
はリセット)状態を保持するリレーをラッチングリレーという。自己保持形(⇔電流保持形)リレーやバ
イステイブル(⇔シングルステイブル)リレーとも呼ばれる。
3.4.4.1.2 沿革
交換機用リレーに古くからあったが、最近では、スマートメータ、タイムスイッチ、省エネ家電、発電
システム、蓄電システム、車両のバッテリー上がり防止用等広く適用されるようになった。また、この形
のリレーはコイル入力電力を節約できる特徴があり、昨今の省エネルギー志向形商品として需要が増して
いる。今後、その適用範囲は広がっていくものと考えられる。
なお、製造業者は、電流保持形リレーに対し同じ外形のラッチングリレーを取り揃えていることが多い
ため、電流保持形リレーと基本的に同様である。
3.4.4.2 原理と構造
原理的には、セット(若しくはリセット)状態を保持するロック機構として、電磁式と機械式の 2 種類
に大別することができ、現在機械式はほとんど使用されてないため、電磁式について述べる。
一般のリレーは、入力を取り去ると、磁気回路中の磁束がなくなり、ばねの力により、元の状態に復帰
するが、電磁式のラッチングリレーは、永久磁石や半硬質磁性材(永久磁石ほどではないが、普通の電磁
硬鉄より残留磁気が大きい)などの使用により、入力がなくなっても、その磁気により、接極子を保持で
きる。
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制御機器の基礎知識 リレー編
電磁式のラッチングリレーの中には、直列形、並列形、2 空隙形、4 空隙形などの磁気回路構造が存在
するが、ここでは最もシンプルな、永久磁石を使用した直列形の原理と構造を説明する。
図 3.4.20 に直列形の動作原理を概略構造図で示す。
a)は、永久磁石、継鉄、接極子により構成された磁気回路において、コイルは無励磁状態であり、復帰
ばねの力が永久磁石の吸引力より大きいため、接極子は OFF のリセット状態である。
b)は、コイルへ指定された極性に電流を流すことで、永久磁石の磁束を増加させる方向に磁束が加わり、
この磁束による吸引力が復帰ばねの力を上回るため、接極子は ON のセット状態へ移る。
ここで c)のように、コイル入力を取り去っても、閉ループを形成しているため、永久磁石による吸引力
が復帰ばねの力より大きく、セット状態は保持される。
次に、d)においてコイル電流を b)とは逆方向、つまり、永久磁石の磁束を打ち消す方向に流す場合、吸
引力が復帰ばねの力に負けて、接極子は OFF の a)リセット状態に戻る。
無励磁 励磁
継鉄
コイル 復帰バネ
永久磁石
リセット
接極子
セット
a) リセット状態 b) セットのためのコイル励磁状態
励磁
無励磁
d) リセットのためのコイル励磁状態 c) セット状態
図 3.4.20-電磁式ラッチングリレーの動作原理(直列形)
以上の説明からもわかるように、一般のリレーとは違って、セット及びリセット状態にするには、コイ
ルに指定された極性の電流を流す必要があり、有極リレーとなる。
また、図 3.4.20 のように 1 巻線形のコイルへセット時とリセット時に逆の極性の入力を行うものと、セ
ット用とリセット用を別々のコイルに巻いた 2 巻線形のタイプがある。2 巻線形の場合、図 3.4.21 のよう
に、各コイルに 2 本の端子を設けたコイル端子が計 4 本のタイプと、各コイルの一方を共通端子としたコ
イル端子 3 本のタイプがある。
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3.4.4.3 特性、3.4.4.4 上手な使い方
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(+)(-) - + - + - +
(+) (-) (+) (-)
a) 2 巻線形(4 本端子) b) 2 巻線形(3 本端子) c) 1 巻線形(参考)
+ / - : セット入力 (+)/(-): リセット入力
図 3.4.21-ラッチングリレー入力端子の例
3.4.4.3 特性
特性としては、自己保持特性を有する以外は、一般のリレー(シングルステイブル)とほぼ同じである。
ラッチングリレー特有の特性について、2 巻線形を例に以下に述べる。
a) 動作時間 (セット時間)
リセット状態において、セットコイルに定格電圧を加えたときから、最初に a 接点が閉じるまでの時
間。
b) 復帰時間 (リセット時間)
セット状態において、リセットコイルに定格電圧を加えたときから、最初に b 接点が閉じるまでの時
間。ただし、a 接点のみの場合は、最初に a 接点が開くまでの時間。
c) 最小パルス幅
自己保持させるために必要な入カパルス幅の最小値であり、動作及び復帰時間の規格値に対し数倍程
度とされることが一般的である。
3.4.4.4 上手な使い方
3.4.4.4.1 使用上の注意
a) ラッチングリレー入力は、指定された極性通り結線すること。特に、2 巻線形においては、逆極性印
加(例えば、リセットコイルへ逆極性電圧を印加するとセットする)による使用が原理的に可能な場合
はあるが、保証外の使用方法のため、避けるべきである。
b) 一般的に出荷時にはリセット状態となっているが、衝撃による反転の可能性があるため、回路起動時
にパルスを入れるなど、必要な動作状態にするよう配慮すべきである。
c) ラッチングリレー入力は、パルスの短時間印加による駆動を想定しているため、リレーが動作し易い
ようにコイルの消費電力を大きくし連続印加を許容していない場合があり、入力印加時間には注意が必
要である。通常、製品ごとに推奨のパルス幅があり、これに従うのが好ましい。
d) 2 巻線形ではセットコイルとリセットコイルの両方に印加した場合、どのような動作状態になるかは、
印加タイミングのわずかな差やリレーの設計仕様に影響を受ける。場合によっては、リレーにバタツキ
を生じることがあるので、同時印加は避けるべきである。各コイルが発熱するため、異常発熱による焼
損などの発生も想定される。
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e) 2 巻線形のラッチングリレーの複数のコイルを並列接続する場合には、コイルの逆起電圧による誤動
作が想定されるため、各コイルへ直列にダイオードを入れること(図 3.4.22 参照)。
尚、ダイオード内蔵のラッチングリレーもある。
(+) (+)
S1 S2 S3 S1 S2 S3
リセット リセット リセット リセット
コイル コイル コイル コイル
セット セット セット セット
コイル コイル コイル
コイル
(-) (-)
ダイオード接続 ダイオード接続 ダイオード接続 ダイオード接続
a) セットコイルの並列接続 b) リセットコイルの並列接続
(+)
(+)
S1 S2 S3 S1
リセット リセット 一般リレー
モータ
コイル コイル コイル
セット セット M
セット又は
コイル コイル
リセットコイル
(-) (-)
ダイオード接続 ダイオード接続 ダイオード接続
c) セットとリセットの並列接続 d) セット又はリセットコイルと
他の誘導負荷の並列接続
図 3.4.22-並列接続にはダイオード挿入
f) 鉄粉その他の磁性粒や塵埃の多い場所では、密封形のリレーを使用すること。
g) 自己接点で自己回路を制御すると、バイブレーションを起こすことがあるため避けること。ただし、
やむを得ず行う場合は、回路素子の特性を利用して、コイルと並列にコンデンサを入れることで改善効
果が得られるが、コイルへの通電時間が十分に確保されていることを実機で確認の上で使用することが
望ましい(図 3.4.23 参照)。
S S
R
C
リセットコイル
自己の a 接点
a) 不適 b) 適
図 3.4.23-自己接点による自己回路制御
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h) ラッチングリレー入力は、最大許容電圧を超えた使用において誤動作が想定されるため、各リレーの
許容電圧範囲内で使用すること。
例えば、図 3.4.20 d)において、許容電圧範囲内であればコイルの磁束に対し、永久磁石は磁束を打ち
消す方向に作用し、磁束による吸引力をばね負荷が超えリセット状態となるが、コイルに過剰な電圧を
印加した場合、コイルによる磁束が大き過ぎるため、永久磁石の磁束での打ち消しが不十分となり、セ
ットに必要な吸引力が得られ、リセット用の極性に電圧を印加した場合であってもセットする現象(誤
動作)が発生することがある。
3.4.4.4.2 応用回路
ラッチングリレーを使用した応用回路例を挙げてみる。これらは、いずれも記憶作用を利用した使い方
の一例にすぎず、この他にもいろいろな応用が展開できる。
a) 2 入力ラッチング動作(リレーフリップフロップ)(図 3.4.24 参照)
1) セット入力、リセット入力を交互にラッチング動作を行う。
2) セット入力を続けて入れた場合は、ON したままである(リセット入力も同様)。
(+)
A B
L L A(セット)
リセット
S R コイル B(リセット)
セット リセット
セット L(負荷)
コイル
(-) L(負荷)
a) 回 路 b) タイムチャート
図 3.4.24-2 入力ラッチング動作
b) 先着判別回路(図 3.4.25 参照)
1) A、B 二つの検出器に A が先着すれば LAが、また B が先着すれは LB が動作する。
2) A、B 二つが通過後、自動的にリセットする。
(+)
A B
K1 K2
LA LB
S R S R
A
B
K2 K1 LA
(-) LB
S:セットコイル R:リセットコイル
a) 回 路 b) タイムチャート
図 3.4.25-先着判別回路
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