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制御機器の基礎知識 (2)制御用リレー 総論

ハンドブック

リレー編

制御用リレーの仕組みや選び方・使い方を解説した制御機器の基礎知識【リレー編】。
下記章がありますが、本章では、リレーの構造、接点障害、信頼性評価及び規格などを紹介しています。
他の章や制御用リレーのカタログは制御用リレー特集 https://www.aperza.jp/feature/page/102/  にてご確認ください。

1. 制御用リレーとは
2. 総論
3. 各論 ヒンジ形リレー
4. 各論 プランジャ形リレー
5. 各論 リードリレー
6. 各論 特殊用途リレー
7. 各論 半導体リレー
8. 資 料 編

※規格に関しては、必ず現行規格のご確認をお願いいたします。
※NECA Webサイトにも、リレー編を掲載しています。https://www.neca.or.jp/standard/howto/relay/

※本コンテンツの商用目的、営利目的での利用、また無断転載を禁じます。
(本コンテンツは、一般社団法人 日本電気制御機器工業会及び第三者が有する著作権により保護されております。)
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このカタログについて

ドキュメント名 制御機器の基礎知識 (2)制御用リレー 総論
ドキュメント種別 ハンドブック
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このカタログの内容

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リレー 編 総論
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制御機器の基礎知識 リレー編 2 総論 目次 2.1 リレーの構造と特性 ...........................................................................10 2.2 接点現象と接点障害 ...........................................................................18 2.3 接点材料 ................................................................................................34 2.4 信頼性評価 ...........................................................................................36 2.5 規格 ........................................................................................................37 Copyright 2018 NECA All rights reserved.
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2.1 リレーの構造と特性

制御機器の基礎知識 リレー編 2 総論 2.1 リレーの構造と特性 2.1.1 基本構造と構成材料 2.1.1.1 概要 リレーの動作順序を説明するにあたって、代表的なリレーの模式図を図 2.1 に示す。図中一点鎖線の中のリレ ーを用いて、ランプ負荷を点滅させた時、リレーの動作順序は次に示すようになる。 ①駆動スイッチを ON にすると駆動電源よりリレーのコイルに電流が流れる。 ②鉄心に磁束が発生し鉄心は磁化される。 ③磁化すると接極子(可動鉄片又はアーマチュアともいう)は鉄心の磁極面に吸引され、支点(ヒンジとも いう)を中心に回転し鉄心に吸着する。 ④接極子に固定された可動接点が接極子と連動し対向するメーク側の固定接点に接触する。 ⑤可動接点と固定接点が接触すると、負荷電源より電流がランプに流れ点灯する。 ⑥駆動スイッチを OFF にすると接極子は復帰ばねの力によって最初の定位置に戻るため、可動接点は対向す るブレーク側の固定接点の方に移動するのでランプは消える。 可動ばね 可動接点 ブレーク固定接点 接点負荷電源 接極子(B) 出 復帰ばね ヒンジ 力 ランプ負荷 磁極面 メーク固定接点端子 入 駆動スイッチ コイル(A) 力 駆動電源 コイル端子 継鉄(B) 鉄心(B) 図 2.1-代表的なリレーの模式図 リレーの機能は、1.1 で述べたように、電気エネルギーを機械的エネルギーに変換し、機械的に接点を開閉さ せ、電気回路の ON-OFF を制御するものである。この機能をエネルギー形態と構成部品とに分けて考えると、 表 2.1 に示すようになる。変換の基本要素は三つあり、電気的エネルギーを磁気エネルギーに変換する変換部 A (電磁コイル)と、磁気エネルギーを機械的エネルギーに変換する変換部 B(鉄心、継鉄、接極子で構成する電 磁石)及び電気的エネルギーを断続する機械的スイッチ(ばねと接点)から成る。 以下、これら構成部品の構造と構成材料について述べる。 10 Copyright 2018 NECA All rights reserved.
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制御機器の基礎知識 リレー編 表 2.1-リレーの機能と構成部品 機 能 入 力 変換部 A 変換部 B 機械的スイッチ 出 力 エネルギー 電 気 的 電 磁 機 械 的 電 気 的 形態 エネルギー エネルギー エネルギー エネルギー 鉄 心 接 点 構成部品 コイル端子 電磁コイル 継 鉄 接点ばね 接点端子 接極子 復帰ばね 2.1.1.2 磁気回路系 a) 磁気回路の構造 接点の駆動には、電磁石を構成する接極子に直結された駆動カードによって接点を機械的に駆動する接極 子駆動形が最も多く用いられ、サイドアーマチャ形とエンドオン形、リード形とがある。いずれの形も磁気 回路は、鉄心 C、継鉄 Y、接極子 A、巻線 W から成るが、図 2.2 に示す通り、接極子が接心の軸方向と直角 に運動し、鉄心側面に吸引される構造をサイドアーマチャ形、接極子が接心の軸方向に運動し、鉄心端面に 吸引される構造をエンドオン形と称している。また、リード形は図 2.7 に示す通り、コイルに電流を流してリ ード片(磁性体)を吸引する構造である。 さて、接極子は、巻線 W に通常直流電流を流し、磁気回路を励磁すると、磁束 φが発生し、間隙を通して 接極子に働く電磁力(吸引力)により駆動される。この吸引力Fは磁極間隙を通る磁束 φの二乗に比例し、 磁束は同一起磁力において磁極間隙 δにほぼ逆比例する。よって磁気吸引力は磁極間隙の二乗にほぼ逆比例 し、次のような式で表される。 F ∝ ∅2 、 ∅ ∝ 1⁄
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制御機器の基礎知識 リレー編 心に流される磁束 φ1による吸引力 F1と、くまとりされた鉄心に流れる磁束 φ2による吸引力 F2の位相をずら すことができるので、接極子を吸引する合成吸引力を、図 2.6 の F のように平滑にさせる働きをする。 接極子 リ くま取りコイル レ F1 ~ R ーの F1 コイ φ1 3 ル φ2 π 0 2 2 A π π π ωt α 2 Φ2m sin(ωt-α) Φ1m sinωt ~ R φ 合成吸引力(F) 継鉄 0 鉄心 くま取りコイル 平均吸引力 交番吸引力 0’ A’ ~ R 図 2.4-整流形交流用電磁石 図 2.5-くま取りコイル形交流用電磁石 図 2.6-吸引力 b) 磁気回路用材料 磁気回路用材料のうち、コイル線材には通常表 2.2 の絶縁被覆銅線が用いられるが、被覆の絶縁性、耐熱性、 可とう性、均一性、吸水性、はんだ付性などを考慮して選定される。 表 2.2-線材の代表例 線材 耐熱性種別(代表例) 油性エナメル線(UEW) A 種(105 ℃) ホルマール線(PVF) A 種(105 ℃) ポリウレタン線(UEW) E 種(130 ℃) ポリエステル線(PEW) F 種(155 ℃) ポリイミド線(DHW) H 種(180 ℃) 一方、磁性材料には、通常純鉄、低炭素鋼、ケイ素鋼などが使われ、一般的に次のような条件が要求され ている。 ① 透磁率が高く磁気飽和が高いこと ② 抗磁力が小さいこと ③ 磁気特性が安定で劣化しないこと ④ 固有抵抗が高いこと ⑤ 機械強度があり加工性がすぐれていること ⑥ 価格が安いこと 2.1.1.3 ばね負荷系 a) ばね負荷の構造 ばね負荷系には、接点の駆動方法の違いにより、図 2.7 に示されるようなフレクシャ形、リフトオフ形とリ ード形がある。 12 Copyright 2018 NECA All rights reserved.
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制御機器の基礎知識 リレー編 フレクシャ形は接点駆動カードで可動接点ばねを押し上げて可動接点を固定接点に閉成させ、必要とする 接点接触力を付与する構造のばね、リフトオフ形は可動接点ばねに予備変位を与えておき、その復元力を利 用して接点駆動カードを介して接点を閉成させ、必要とする接触力を付与する構造のばねであり、両者は代 表的なリレーであるヒンジ形リレーとプランジャ形リレーに用いられるタイプである。これに対し、リード 形は磁性体であるリード片の先端を重ね、対向させた構造のばねであり、封入形のリードリレーに用いられ るタイプである。 (N) (N) SX/2 ば ば ね ね 開 負 負 離 荷 荷 力 力 力 F F Fr 接極子ストローク S (mm) 接極子ストローク S (mm) 接点ギャップ X S F F ケース コイル リードスイッチ S ボビン 端子 a)リフトオフ形 b)フレクシャ形 c)リード形 図 2.7-ばね負荷系の構造図とばね負荷曲線 ばねの動作機構はいずれのばねにもほぼ共通するので、ここではフレクシャ形リレーで以下説明する。 フレクシャ形リレーのばね負荷曲線は図 2.8 に示すようになる。無励磁時、b 接点が ON、a 接点が OFF で あった復帰状態から、コイルに電流を流し、接極子を A 点から b 接点が開き始める B 点に至る Cb だけ移動 し、その後 a 接点が閉じ始める C 点に至るまで Cg 移動させ、さらに a 接点がばねから一定の力で押付けられ る D 点まで Ca だけ移動させ、b 接点が OFF、a 接点が ON の状態となる。このコイルの励磁、無励磁の繰り 返しで、接点の開閉動作が進む。 ここで、閉成時の接点が互いに押し合っている力 Pa、Pc を「接点接触力」、接点開閉時、接点にばね負荷 がかかる接点接触後の接極子の移動量 Ca、Cb を「接点追従」、相対する一組の接点の開いている接点の間隙 Cg を「接点間隙」、互いに接触していた接点が離されるときの力 Pa、Pb を「接点開離力」と呼び、これらば ねの動作機構に関連して定義づけられる四つの因子を「接触特性パラメータ」と称する。 13 Copyright 2018 NECA All rights reserved.
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制御機器の基礎知識 リレー編 (N) D A :無励磁での静止状態(復帰状態) F :ばね負荷力 Pa B :b 接点がOFF する Fb :b 接点 OFF 時のばね負荷力 F C :a 接点がON する S :接極子ストローク C D :励磁での静止状態(動作状態) Ca :a 接点フォロー Cb :b 接点フォロー Fb B Pa :a 接点接触力 Cg :接点間隙に相当 Cb Pc Pb :b 接点接触力 する磁極間隙 Ca Cg Pb Pc :a 接点開離力 (吸引力-Fb=b 接点開離力) A (mm) S 図 2.8-フレクシャ形リレーにおけるばねの動作機構 b) ばね負荷用材料 リレーのばね材料としては次のような材料が使用されることが多い。 ①りん青銅 ②ベリリウム銅 ③キュプロニッケル ④洋白 ⑤黄銅 ⑥ステンレス鋼 このばね材料には次の事項が要求されているが、これらの要求をすべて満足するものはなく、個々にその 目的にあった重要度を設定して選択されなければならない。 ①弾性係数が大きい ②ばね限界値が大きい ③疲労限界値が大きい ④耐クリープ特性がよい ⑤電気抵抗が低い ⑥耐食性がよい ⑦抜き、曲げなどの加工性がよい ⑧溶接性がよい ⑨はんだ付性がよい ⑩安価であること 2.1.1.4 接点系 a) 接点形状と構造 電気信号、電気エネルギーのオン、オフを行う接点部は、リレーの構造の中でも、直接性能に関係する重 要な部品である。 接点の構造は図 2.9 に示すように、リベット形とフープ形に大別され、さらに平形ドーム・コーン形・かま ぼこ形・台形などの形状に分かれ、それぞれにむく材、クラッド材、めっき材が適用され、組み合せは多種 類に及ぶ。各組合せともそれぞれに一長一短があるが、接点の信頼性/製造性/経済性等諸要求に応じて、最適 材料/構造/形状寸法を選定することが肝要である。 リベット形 フープ形 むく 複合 三層複合 むく エッジレイ インレイ 溶接用 ダブルオーバーレイ リジレイ 図 2.9-接点の構造 b) 接点用材料 電気接点は閉成時には接触抵抗が低くかつ安定した値を維持し、負荷の遮断に際しては接点金属の移転、 14 Copyright 2018 NECA All rights reserved.
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制御機器の基礎知識 リレー編 消耗が少なく、かつ接点の融着、溶着がなく確実に開離する事が理想である。 このために接点材料に対しては、固有抵抗が小さく、熱伝導がよく、融点、沸点が高く、耐食性、耐摩耗 性にすぐれ、機械的加工性がよく、安価であることが要求される。 しかし広い範囲の接点負荷に対してこれらすべての条件を満足する材料は、みあたらない。現状は、使用 される負荷や環境などを考慮してそれぞれの目的に応じた材料が選択されており、2.3 において、低負荷、高 負荷接点別に改めて述べる。 2.1.2 構成部品の特性 2.1.2.1 磁気吸引力特性 a) コイル定数 2.1.1.2 で磁極間隙と吸引力の関係を示す吸引力曲線について述べたが、この磁極間隙を通る磁束は鉄心磁 束の飽和しない範囲においてコイルより発生する起磁力 A(コイルに流れる電流とコイル巻数の積 I×N で A と書きアンペアと呼ぶ)にほぼ比例する。 すなわち吸引力は起磁力の二乗に比例する。 ∅ ∝ IN ∴ F ∝ A2 起電力の二乗とコイルの励磁に要した消費電力との比をとれば Gc = A2/W = (NI)2/I2R = N2/R ここに、 N: コイル巻数 I : 電流 R: コイル抵抗 W: コイル消費電力 となり、この比例定数 Gc はコイル定数と呼ばれ、これはコイルの寸法と線材の固有抵抗巻線の占有率によっ て定まる。図 2.10 にコイルの断面を示す。 r2 h r2 r r 11 l フィルド巻(絶縁紙挿入整列巻) スプール巻(俵巻) 図 2.10-コイルの断面 Gc は次のように求めることができる。
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制御機器の基礎知識 リレー編 e は hl 断面積に占める線材の面積比であり通常、図 2.11 のようになる。 また、コイル定数と吸引力との関係はコイルに印加する電力を同一とすると、 F ∝ Gc となりほぼ比例することとなる。このようにコイル定数 Gc は大きいほどよい。 0.8 フィルド巻き (エナメル線) 0.6 スプール巻き 0.4 (エナメル線) 0.2 スプール巻き (エナメルナイロン線) 0 24 28 32 36 40 AWG ゲージ 0.3 0.2 0.12 0.08 0.5 mm ゲージ (AWG ゲージ、mm ゲージは線材の太さを示す数値) 図 2.11-各種巻線のスペース・ファクタの例 b) 定格コイル駆動電圧 ばね負荷に抗して接触子が磁極に吸着するのに必要なコイル電圧を定格コイル駆動電圧という。通常、接 触子が磁極に吸着するのに必要な電流の 1.4~1.5 倍を流し、コイル駆動電圧として印加している(後述する 図 2.14 では、a アンペアが定格駆動電圧における電流である。) 2.1.2.2 ばね負荷特性 リレーの信頼性を左右する直接要因は接触抵抗特性と開離不能特性である。その両特性には、電気的負荷と 接点材料とが大きな影響を及ぼす因子となるが、それらに加え、接触抵抗特性には接点接触力が、開離不能特 性には接点開離力、接点追従、接点間隙がそれぞれ直接的、間接的に重大な影響を与える因子となる。 このうち、電気的負荷と接点材料の影響については、2.3 で後述するが、本節では、2.1.1.3 a)のばねの動作機 構に関連して定義づけた接触特性パラメータについて述べる。 a) 接点接触力 前述した図 2.8 のリレーにおいて、b 接点、a 接点の接点接触力は、それぞればねの復帰力に相当する Pb、 Pa である。その接点接触力と接触抵抗の関係は図 2.12 に示す通り、接点接触力が大きいほど接触抵抗は低く 安定し、電気的接続が確実となる。接触抵抗はこの接点接触力のほかに、接点材料、接点の表面状態、接点 形状、周囲雰囲気などによっても左右される。周囲雰囲気に関し、大気中の活性ガスの影響に対しては 2.2.2 で改めて述べる。 16 Copyright 2018 NECA All rights reserved. (スペース・ファクタ)
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制御機器の基礎知識 リレー編 (Ω) 102 ①炭素 ②グラファイト 1 ③Cu 板 接 ⑤ ① 触 ④Ag 板 ⑤ 抵 -2 ② 抗10 ⑤Ag 針金 ⑦ ⑥Mo ⑥ ⑦W 10-4 ③ ④ 10-6 0.0001 0.01 1 100 10 000 (N 接 点 接 触 力 ) 図 2.12-接触抵抗と接点接触力 b) 接点追従 図 2.8 における接点追従 Cb、Ca は接点接触力を決めるばね負荷の復元力と比例関係にあるので、極めて重 要なパラメータである。また接点表面は機械的摺動や電気放電等によって消耗、溶融・移転するが、この消 耗量や溶融・移転量は、接点追従の影響を大きく受ける。このためリレー設計時は接点接触力と消耗量、溶 融・移転量のバランスを考慮しなければならない最重要ポイントとなる。 c) 接点間隙 図 2.8 のリレーで接点間隙は、b 接点が開き始め、a 接点が閉じ始める磁極間隙 Cg に相当する。 この接点間隙は、接点間の遮断空隙であり、①絶縁耐電圧、②アーク遮断能力、③接点移転の大小を左右 する因子である。このうち、アーク遮断可不可領域は大まかには図 2.13 に示すような領域に区分され、設計 時、接点追従と合わせ、耐放電対策の重要な設計ポイントとして抑えておかなければならない。 200 アーク遮断不可領域 100 接点間隙 接 点70 大 間50 中 電40 小 圧30 (V) 20 アーク遮断可領域 10 0.5 1 2 3 5 10 接点電 流(A) 図 2.13-接点間隙とアーク遮断能力 17 Copyright 2018 NECA All rights reserved.
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2.2 接点現象と接点障害

制御機器の基礎知識 リレー編 d) 接点開離力 図 2.8 のリレーでは、接点開離力は次式のように表わされる。 b 接点の開離力=B 点での吸引力-Pb a 接点の開離力=Pc ただし、a 接点で溶着または粘着などがあった場合の接点開離力は最大 Pb+Pmとなる。 この接点開離力はアーク放電に伴う溶着、機械的摺動に伴う粘着等に耐え、2.2.3 と 2.2.4 で述べる開離不能 障害に関わる重要な接点パラメータである。 2.1.2.3 接点特性 図 2.14 に磁気吸引力曲線とばね負荷力曲線の層畳図を示す。この図で、動作電流値及び復旧電流は次のよう に特徴づけられる。 a) 動作(感動)電流 磁気吸引力がばね負荷曲線を全トラベルに渡って越える電流を印加すれば、接極子は磁極に吸着する。こ の電流値を動作(感動)電流と呼び、これに相当するコイル印加電圧を動作(感動)電圧と呼ぶ。 b) 復帰(開放)電流 磁気吸引力がばね負荷曲線を全トラベルに渡って下まわる電流を印加すれば接極子はバックストップ位置 に復旧する。この時の電流を復帰(開放)電流と呼び、これに相当するコイル印加電圧を復帰(開放)電圧 と呼ぶ。 (N) D 力 F B a アンペア b アンペア c アンペア (mm) スト ローク S 図 2.14-吸引力とばね負荷 2.2 接点現象と接点障害 2.2.1 概 要 リレー接点の機能は極めて単純で、閉成時、規定値以下の接触抵抗特性を保ち、開離時、接点が完全に離れ ることである。その機能には多くの現象が絡み、多くの要因が影響するが、その接点現象を大きく変え、障害 モードに最も大きな差を生じさせる要因は電気的負荷条件である。 電気的負荷条件を小電流(数アンペア以下)で放電も軽微で済む低電圧領域で用いられる接点を低負荷接点、 中・高電流(数アンペア~数十アンペア)で放電を伴う電圧領域の接点を高負荷接点に分け、それぞれの負荷 に対する接点現象と接点障害の関係を示すと表 2.3 のようになる。 18 Copyright 2018 NECA All rights reserved.
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制御機器の基礎知識 リレー編 低負荷接点は通信機器や放送機器、産業機器のうち信号機器に用いられるリレーの接点であるが、この負荷 では貴金属といえども、表面被膜が生成し、その被膜を機械的にも電気的にも除去し難いため、接触抵抗障害 が生じ易い。このとき、接触抵抗障害には生成被膜の種類や被膜生成量が支配要因となる[1][34]。 一方、高負荷接点は、産業機械や家電製品等の制御機器や車載用制御回路や駆動回路に用いられるリレーの 接点であるが、放電、ブリッジ、ジュール熱による溶着が支配的となり、開離不能障害が大きな問題となる[1]。 この章では、上記二つの負荷接点の障害の支配要因である表面被膜生成による接触抵抗現象と放電やジュー ル熱の発生に伴う溶着あるいは粘着による開離不能現象について述べる。 表 2.3-汎用リレーの接点現象と接点障害[1] 接点負荷 用 途 接 点 現 象 接点障害 通信機器 伝送装置 表面被膜生成 低負荷 ネットワーク機器 塵埃付着 接触抵抗 小電流 無線機器局機器 放電消耗に伴う 障害 放送機器 下地露出 低電圧 デジタル放送機器 産業機器 相対摺動に伴う 開離不能 信号制御機器 粘着 障害 下記電子機器・設備機器 の電源回路 放電 高負荷 制御駆動回路 接触抵抗 中・大 産業機器 消耗 障害 電流 家電・住設機器 OA 機器 ロッキング 中・高 FA 機器 溶着 開離不能 電圧 車載用制御・駆動回路 障害 エンジン系 ジュール熱 カーアプリケーション 2.2.2 被膜生成現象と接触抵抗障害 一般に、接触抵抗は集中抵抗 Rc と境界抵抗 Rf の和からなるとされている。集中抵抗は、二つの接点面を接 触させたとき、電流が通過できる真の接触点に生ずる抵抗、境界抵抗は表面に生成した被膜を介して生ずる抵 抗であり、被膜が薄く、トンネル抵抗が流れうる場合は次式で表される[2] R = Rc + R 2f = ρ/2a + σ/πa (2.1) ここに、 ρ: 接点金属 σ: 表面被膜の固有抵抗 a : 接触半径 接触抵抗は、実際には多点で接触するし、接触力や、被膜が厚い場合はその機械的特性等々によって、複雑 な式となり、説も分かれるが、その議論は専門書に譲るとし、本書では Rcと Rfの和で表されるということに留 める。 さて、接触抵抗障害は R が負荷回路の抵抗許容値を越えた場合に発生する。その原因は接点表面被膜の生成、 接点の摩耗、放電に伴う消耗による下地露出、塵埃や部品の摩耗粉の付着等であるが、ここでは表面被膜の生 成によりフィールドで発生した障害を中心に、大気中の活性ガスと接点金属とのガス腐食反応による現象、接 点金属を触媒とし、大気中のガス分子同士の一種の触媒反応による現象及び放電に伴う発生ガスと構成材料と の腐食反応による現象について述べる。 19 Copyright 2018 NECA All rights reserved.
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制御機器の基礎知識 リレー編 2.2.2.1 ガス腐食反応による被膜生成 大気中の活性ガスには、自然界の循環系で存在する主要構成成分の酸素(O2)や硫化水素(H2S)と人工によ り、主に化石燃料から生成した硫黄酸化物(SOX)、窒素酸化物(NOX)塩化物(HCl)等があり、被膜はこれら のガス成分と接点金属との電気化学的ガス腐食反応で生成した、酸化物、硫化物、硫酸化物、塩化物などの金 属化合物である[3]。 この反応はイオン化傾向の相対的に高い金属で生じ易く、最初の自動交換機であるステップ バイ ステップ (S×S)交換機に用いられた銅合金と銀合金で顕著である(図 2.15)。銅合金や銀合金では予測し得る現象にも 拘わらずなおかつ適用されたのは、用いた上昇回転スイッチの接触力が現用と比べはるかに高く、摺動量も大 きかったことから、被膜の破壊が期待できると判断されたとみることができる。 図 2.15-Ag 接点表面に生成した塩化銀[4] 2.2.2.2 触媒反応による被膜生成 a) 白金族系合金におけるポリマの生成 この被膜は、やや高い濃度で存在する有機ガス雰囲気中で摺動する白金族系接点の触媒作用で、合成され た有機被膜(ポリマ)である(図 2.16)。 これは白金族系接点特有の現象で、クロスバー交換機のクロスバースイッチやワイヤスプリングリレーで 発現したものである。 この反応に関わった有機ガスは、交換機室内にあるケーブル類や交換機構成部品の樹脂材料から発生する もので、室内実験ではベンゼン、トルエンなど不飽和炭化水素を含む雰囲気中で著しく生成することも分か った[5]。さらに、放電の発生しない条件では、褐色の微粉末になり、放電の発生する条件では黒色の微粉末 になることから、それぞれブラウンパウダ、ブラックパウダと云われた。また、生成したポリマはアーク放 電電圧が低いことから、放電点で接点が活性化し、放電回数を増すと、放電消耗を著しく進行させた[6]。こ のことがリレー取換えの頻度を増大させ、クロスバー交換機の更改を早めさせる一因にもなった。 b) 金系合金における硫酸アンモニウムの生成 この被膜は、硫黄酸化物ガス(SOX)、窒素酸化物ガス(NOX)等の大気汚染ガスとケーブルから発生する アンモニアガス(NH3)からなる混合ガス雰囲気中で、金系合金の触媒作用で合成された硫酸アンモニウム ((NH4)2SO4)である。 この現象は電子交換機用接点から見出されたもので(図 2.17)、当時、大気汚染ガスのもっとも過酷な時代 で、かつ空調系の吸気口が隣接する駐車場側にあった等の悪条件が重なった点もあって、改善を余儀なくさ れた例である[7]。なお、硫酸アンモニウムの生成量は耐食性に富む金系金属が最も多く、酸化膜や硫酸塩な ど表面被膜が発生し易い金属ほど少ない傾向にあること、生成後高湿度になると、粒子が集まって粗大化し、 接触抵抗上昇を加速させる原因になること等も分かった。 20 Copyright 2018 NECA All rights reserved.
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制御機器の基礎知識 リレー編 図 2.16-Pd 接点上に生成したポリマ(×75)[5] 図 2.17-Au 系接点上に生成した硫酸アンモニウム[7] 以上、接点被膜別に実用リレーで現れた事例を述べたが、接点材料と接点表面被膜とを対比させまとめる と、表 2.4 のようになる。イオン化傾向順に、銅合金、銀合金では電気化学的腐食による金属化合物の生成が、 白金系合金では腐食生成物もある程度あるが、接点間摺動と触媒反応の相乗作用による有機被膜の生成が、 金系合金では汚染大気下での触媒作用による無機被膜の生成が支配的となる[1]。 なお、被膜の生成で障害になるか否かは、不純物ガスの濃度等の環境条件、リレーの構造、電気的負荷条 件、動作条件の他、適用システムの構成や信頼基準等々に依存し、実証データに頼らなければならない。厳 密を究めるのであれば、フィールドデータの蓄積や実使用条件での加速劣化試験データの積み重ねが必要で ある。 表 2.4-接点材料と接点表面被膜[1] 表面被膜 腐食生成物 触媒生成物 通話路 酸化物 硫化物 塩化物 有機物 硫酸アンモ スイッチ/接点材料 硫酸塩 (ポリマ) ニウム 上昇回転 銅合金 大 大 中 - - (S×S) 銀合金 中 大 中 - - クロスバー 白金系合金 小 小 中 大 - (XB) XS(電子) 金系合金 - - - - 大 c) シリコーン樹脂から発生するシロキサンガスによる被膜生成 シリコーン樹脂材料を構成材料に用いた電子機器等の構造物の近傍で開閉するリレー接点では、接触部に 白濁または黒色の被膜が生成し(図 2.18)、接触抵抗に異常をきたす場合がある。抵抗異常となった接点部の 被膜を分析してみると、Si と O が検出され(図 2.19)、Auger 分析では Si がケミカルシフトし、SiO2になって いることが分った[8]。この SiO2は接触部に選択的に生成しており、メカノケミカル的な反応で生じている現 象とみることができる。 さらに SiO2の生成原因はシリコーン樹脂に含まれる低分子シロキサンが大気中に飛散し(沸点が常温付近)、 開閉時、機械的活性部に吸着し、放電または抵抗熱で SiO2化したものと考えられる。 シリコーンは 1940 年代半ばに工業化され、耐熱・耐候性に富む材料として、自動車、電気・電子工業製品 から日用品に至るまで広く普及されているが、接触障害の直接原因となる低分子シロキサンはシリコーンの 製造工程中に副生されるもので、完全に除去することはコスト的にも困難とされている。接触障害の発生は 周囲環境や通電条件にもよるが、動作回数が多く、高電圧・電流条件で発生し易く、これらリスクの高い条 件での使用は避けるべきである[8]。 21 Copyright 2018 NECA All rights reserved.
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制御機器の基礎知識 リレー編 図 2.18-シリコーン樹脂近傍で開閉した接点表面[8] 図 2.19-接点表面のオージェスペクトル[8] 2.2.2.3 放電に伴う被膜生成 -放電による NOXガス生成と構成材料の硝酸塩の生成- 窒素と酸素が存在する条件下では、放電により NOX(N2O、NO、NO2、NO3、N2O5など)が生成し、このう ち N2O を除く物質と水が反応することにより硝酸が生成することが知られている。ここで生成した硝酸は構成 材料であるばね材料や配線材料と電気化学的に反応し、図 2.20 に示すような硫酸塩を生成させるため、ばね折 損や導通不良の障害の原因となる。特に放電で発生した NOXガスは密閉構造の場合は飛散し難いため、硝酸塩 の生成量も多く、気中放電リレーの大きな課題となっている[9]。 図 2.20-接点・コイル部に生成した硝酸塩[9] 2.2.3 放電現象と接触障害 接点の開閉時には、アーク放電などが発生し、特性、寿命に大きな影響を与えることが多い。ここでは、接 点における放電現象の基礎について述べ、リレーの設計、使用の参考としたい。 2.2.3.1 放電現象の基礎 空気などの気体は、基本的には絶縁体であるが、ある電圧以上では、絶縁破壊を起こす。気体の絶縁破壊電 22 Copyright 2018 NECA All rights reserved.
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制御機器の基礎知識 リレー編 圧 Vsは、通常、次式の Paschen の法則に従う[10][11]。
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制御機器の基礎知識 リレー編 - + T temperature n 103 K V x Va anode fall cathode fall vc i x current density x 図 2.23-アークの構造 表 2.5-最小アーク電流 Iminと最小アーク電圧 Vmin Imin(A) Vmin(V) Au 0.38 11.5 Ag 0.4 12 Pt 0.9 14 Pd 0.8 14 Cu 0.43 13 Ni 0.5 14 Fe 0.35~0.55 11.5 W 0.8~1.2 13 C 0.01~0.02 20 金属電極の場合、アーク電圧は、多くの材料で十数 V である。また、最小アーク電流は、融点の高い材料で は、比較的大きな値である。カーボン電極は、金属とは違い、最小アーク電流がかなり小さいことも分かる。 アーク電圧は、アーク電流とアーク長の関数であり、通常は、図 2.24 に示すように、垂下特性をもつ。電圧、 電流の漸近線は、最小アーク電圧及び最小アーク電流である。R.Holm は、アークの V-I 特性の形は、金属に 寄らずほぼ一定で、最小アーク電圧、最小アーク電流のみが材料によって異なるとしている。図中の点線は、 カーボン電極の場合である[14]。 また、アークの V-I 特性を双曲線で近似すると、次式で表すことができる。 (
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制御機器の基礎知識 リレー編 va 50 V+Vm 40 V+Vm Im+1Amp Im+2Amp 10 30 V+Vm 0.8 20 V+Vm 0.5 0.4 0.3 10 V+Vm 0.2 0.1 V 0.05 min Vm Imin Arc current ia 図 2.24-アークの V-I 特性 2.2.3.3 開離時アーク放電について ある大きさの電流を遮断する場合、遮断が完了する前に接点間にアーク放電が発生する。 アーク放電はプラズマ状態の一種であり、接点間が導電状態となる。一般にアーク放電は高温状態(数千 K 以上)で維持されるため、接点(電極)の消耗・移転、酸化などが起こり、接点性能に大きな影響を与える。 アーク放電は、接点の閉成時にも発生する。その主要因は閉成時の接点のバウンス現象である。バウンス時 に、開離時と同じように、ある電流値以上であればアークが発生する。これが閉成時アークである。 図 2.25 の誘導性負荷回路で、閉成時電流が最小アーク電流より大きい場合に、接点 K で回路を遮断すると、 アークが発生する。 図 2.26 は、典型的なアークの電圧波形である。この例では、アークは 2 ms 継続して消滅し、接点間は電源電 圧 24 V になっている。 I0 R L ℓ E0 C K y-axis 20 V/div x-axis 0.5 ms/div 図 2.25-誘導性負荷回路(並列容量付き) 図 2.26-開離時定常アークの電圧波形 定常アークは、初期は、電極からの金属蒸気中で維持されるが、ギャップが大きくなると、周囲気体の影響 を受ける。金属蒸気中で維持されるアークは、金属相(metallic phase)アーク、周囲気体の影響下で持続するア 25 Copyright 2018 NECA All rights reserved. Arc voltage arc length in mm
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制御機器の基礎知識 リレー編 ークを、ガス相(gaseous phase)アークという[15]。 図 2.25 の回路で、並列容量が大きいと、例え閉成時電流が最小アーク電流より大きくても、点弧したアーク は、短時間で消滅する(初期アークと呼ばれることがある)。しかし、負荷のインダクタンスが大きい場合には、 その蓄積エネルギーで、開離時に並列容量が充電され、その結果、接点間電圧が上昇する。その電圧が、接点 間の絶縁破壊電圧(式 2.2 参照)より高くなると、接点間が絶縁破壊し、アークが発生する。この場合の典型的 な波形を図 2.27 に示す。この場合、絶縁破壊が 8 回生じている。このようなアークは、シャワリングアーク(間 欠アーク)と呼ばれる[16]。 Breakdown 200 V/div V=0 - 10 μs/div I=0 - I=0 - 図 2.27-シャワリングアークの波形 2.2.3.4 アークによる消耗・移転 a) 開離時アーク アークが発生すると、アークの陰極点などは数千 K の高温になるので、電極は溶融、蒸発を起こし、消耗 する。陰極あるいは陽極のどちらが消耗するかはアークの形態による。先にも述べたように、アーク長の短 い場合には金属相アークとなるが、この場合には、陽極が消耗し、その一部が陰極に堆積する。すなわち、 陽極ロス、陰極ゲインとなる。しかし、アーク長が長くなり、ガス相アークでは、逆に、陽極ゲイン、陰極 ロスとなる。図 2.28 にその様子を示す[17]。 3 Metallic arc Gaseous arc 2 Cathode 1 0 -1 -2 -3 Anode -4 1 2 3 4 5 Curren t (A) 図 2.28-電極質量変化と電流の関係 b) 閉成時アーク 図 2.29 は、100 V、30 A の抵抗性回路を閉成した時の、接点間電圧と回路電流の波形である。時間ゼロで接 26 Copyright 2018 NECA All rights reserved. Gain or loss (mg)
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制御機器の基礎知識 リレー編 点が一旦閉じ、30 A の電流が流れたが、0.3 ms で接点がバウンスで開きアークが発生している。両切り接点 であるので、0.4 ms 付近でもう一つの接点も開いたためそこでもアークが発生し、アーク電圧がほぼ 2 倍とな っている。時間が 0.7 ms 以降で接点の閉成が完了している。 図 2.30 は、閉成時アークによる接点の質量変化をレーザ顕微鏡で調べた結果である。陽極ロスで陰極ゲイ ンとなっている[18]。 通常、バウンスアークは、極めて短ギャップで生じているので、金属相アークで、陰極ロスとなる[19]。 図 2.29-閉成時の接点間電圧と電流波形 図 2.30-閉成時の電極質量変化の例 2.2.3.5 放電に伴う溶着 大電流パルスにより生じる閉成時の溶着は、リレーではそんなに多くは起こらないが、閉成時のあるいは開 離時でも発生する溶着は、接点不良を引き起こす。溶着には、多くのファクターが関係する複雑な現象であり、 ここでは、基本的なことを説明する。 閉成時では、アークは接近する接点間の電圧破壊によって、あるいは、前項で述べたように、最初の衝突後 の再開離、バウンスにより発生することがある。アーク発生時には、アークスポットは溶融し、もし接点が溶 融した面内で接触すると閉成後に直ちに固相化する。その溶着を破るのに必要な力が、開離力より高ければ、 接点は開離に失敗し、溶着となる[20][21]。 溶着は、バウンスの最後にも生ずる可能性がある。すなわち、可動接点が、最後に反撥するが、その力は対 向電極から離れるほどは強くないが、短時間、接触力を減少させ、そのため一時的に接触面が溶融点以上に加 熱され、溶着を引き起こす。 開離時でも、もし、接点が閉成時に弱く溶着し、この溶着が開離力により破壊され、接点開離後の接点スプ リングの振動を引き起こした場合、溶着が起こりうる。 2.2.3.6 アーク抑制の方法 a) 磁気吹き消し 近年、電気自動車、太陽光発電の普及により、従来のリレーよりも高い直流電圧、電流の開閉が必要とな っている。直流の場合には、周知のように、交流と違って電流のゼロ点がない。したがって、一度アークが 点弧すると、消弧するのが難しい。そこで、磁界を利用して、アークを強制的に引き伸ばし消弧させる、磁 気吹き消しを用いることが多い。図 2.31 のように、アーク電流の方向に垂直に磁界を印加すると、ローレン ツ力により、アークに上向きの力が作用し、アークを上方に移動させる。 27 Copyright 2018 NECA All rights reserved.