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ステンレス鋼を組織観察する場合の適切な研磨方法をご紹介いたします。
このカタログについて
ドキュメント名 | ステンレス鋼の試料作製方法 |
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ドキュメント種別 | 事例紹介 |
ファイルサイズ | 1.2Mb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | 株式会社三啓 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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PRESI
LAB’NOTE
ステンレス鋼の試料作製方法
はじめに
広範囲な腐食環境に対して耐性を持っている鉄合金は全て「ステンレス鋼」と呼ばれます。 鋼がス
テンレス鋼 (一般にステンレス鋼と呼ばれる) であるためには、標準では常に 10.5% 以上、実際に
は 12% 以上のクロム含有量、および 0.02% から 1.2% の間の炭素含有量が必要です。
鉄 炭素 クロム
元素記号 l: Fe 元素記号: C 原子 元素記号: Cr
原子番号: 26 番号: 6 原子番号: 24
密度 : 7.8 密度: 2.1 – 2.3 (グラファイト) 密度 : 7.15
モル質量: 55,8 g.mol-1 モル質量: 12 g.mol-1 モル質量 : 52 g.mol-1
融点 : 1538 °C 融点 : 1907 °C
クロムと空気中の酸素が反応を起こして酸化クロムの保護膜(不動態膜、パッシベーション膜)を鋼の表面に形
成します。鋼の耐蝕性はこのクロムの含有によります:
4 Cr + 3 O 2 Cr O3
2 2
の特定の元素が添加され(合金添加)、ステ その耐腐食性と機械的特性の組み合わせにより、ス
ンレス鋼のグレードが生成されます。この添 テンレス鋼は、航空機、自動車、化学および造船、
加によって耐蝕性または機械的特性が向上し 医薬、台所用品、日用品、工具などの多くの分野で
ます。ニッケルは最も一般的な添加物です 不可欠な材料となっています。
が、モリブデン、銅、チタン、シリコン、ニ
オブ、アルミニウム、タングステンなどもよ
く使われます。
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そそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそ
ステンレス鋼の冶金
ステンレス鋼のすべてのグレードを、その組成と冶金学的構造に応じて 5 つのカテゴリに分類できま
す:
• フェライト系ステンレス 鋼 は、炭素含有量が非常に少ない (< 0.1%) ため、フェライト構造を持っています。クロム
含有量に応じて耐腐食性が向上します。クロム含有量は 12% から 25% 以上の範囲です。
フェライト系ステンレス鋼は磁性を帯びており、安定化(チタン、ニオブ、ジルコニウムの添
加)すると溶接可能になります。但し、その構造によって機械的特性 (特に強度と硬度) が制限
されます。
グレード 例 : SUS430(JIS)
・マルテンサイト系ステンレス鋼は十分な炭素含有量があります (> 0.08%、最大 1.2%)。マルテンサ
イト系ステンレス鋼は 12 ~ 18% のクロムで構成されており、マルテンサイト構造のため、一般に他
の等級のステンレス鋼よりも耐蝕性が低くなります。
この構造は熱処理によって得られ、これらのステンレス鋼は従来の処理鋼と同様の機能を示します。
従って、マルテンサイト系ステンレス鋼は磁気を備えて、高い機械的特性が必要な用途で使用されま
す。
グレード 例 : SUS420J1(JIS).
• オーステナイト系ステンレス鋼は優れた耐蝕性と高い延性を備えていますので、最も広く使用されていま
す。クロム含有量は 16 ~ 20% で、ニッケル含有量は非常に高く、通常は 8 ~ 10% です。ステンレス鋼にオー
ステナイト構造を与えるのは、このニッケル含有量の高さによります。耐蝕性を向上させるために、他の元素
を添加したり、炭素含有量を減らしたりすることができます。
この構造によってオーステナイト系ステンレス鋼は非磁性となります。そして、機械的特性は冷間処理の影響
を受けます (熱間処理はできません)。
グレード 例: SUS304(JIS)、SUS316(JIS).
• 析出硬化系ステンレス鋼は、銅、アルミニウム、モリブデン、ニオブなどの 13 ~ 17% のクロム含有量に加
えて、いくつかの添加元素で構成されるグレードです。
これらのステンレス鋼の機械的性質は、金属間化合物を析出させる熱処理によって改善されます。多くの場
合、グレードはマルテンサイト マトリックス グレードです。
グレード例: W8CrNiMoAl15-7-2 (AISI).
• オーステナイト-フェライト系ステンレス鋼 (一般にデュプレックスとして知られている) は、フェライト系と
オーステナイト系の部分がほぼ等しい構造をしています。目的は、純粋なフェライトまたはオーステナイト ス
テンレス鋼よりも優れた機械的特性を得ることです。
そのクロム含有量は高く(> 20%)、構造硬化を促進し靭性を高める添加元素として窒素を使用することを特
徴として いま す。
グレード例: SUS329J3L (JIS)
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金属組織観察の前処理
一般的にば、成長、変態、機械的、熱的および表面処理はステンレス鋼に固有の特性と微細構造に影響を及ぼ
します。これらのすべての影響は 微細構造検査、溶接管理、多孔性 及び/又は 異質性の調査、介在物検査、硬
度試験、硬化管理、結晶粒度、コントロールなどの金属組織学的品質管理に関係します。
試料材質に関係なく、表面の検査には一連の作業が必要であり、どの作業工程も重要です。
手順は次の順序で行われます。:
• 「切断」:検査対象の生産物の切り出し (必要な場合)
• 「埋込」:切り出した試料の形状の標準化 (必要な場合)
• 「研磨」:試料の表面状態の改善
• 試料の特性評価: 「金属組織学エッチング」 (必要な場合) と光学顕微鏡観察、又は電子顕微鏡
• によって試料の微細構造を明らかにする。
•
•
=> 上記の工程は厳密に行う必要があります。先のステップが不十分な場合は次のステップに移れません。
切断
切断の目的は、ステンレス鋼の物理化学的特性を変えることなく、検査に適した表面を得るために、生産品の
正確な部分を切り出すことです。
言い換えれば、歪みによる硬化の原因となる可能性のある過熱や変形を避けることが不可欠です。切断は、次
に続く試料作製条件と検鏡に影響を与える基本的な作業工程です。
部PR品E。SI は中型および大型の湿式高速切断機及び小型精密切断機まで幅広い製品ラインアップを有しています。
切断する試料のサイズ、個数、精度に適した切断機をご提供します。
Fig 1: メカトーム T215 Fig 2: メカトーム ST310 Fig 3: EVO 400
切断機ごとにそれぞれカスタマイズした消耗品と付属品があります。クランプシステムと切断砥石、防錆冷却剤
の選択は金属組織学の切断を成功させるための重要な要素です。
=> クランプ、試料を保持することは必須です。試料が適切に保持されていないと、切断が失敗する可能
性が生じます。
切断砥石、試料、切断機に害を及ぼす恐れあります。
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消耗品
試料の切断面を過熱させずに、焼けの無い切断面を得るためには、切断機の循環冷却システムに水と防錆冷却剤
を混合した冷却水を使用します。防錆冷却剤は試料と切断機を腐食から保護します。
ステンレス鋼
UTW
精密切断機 S Ø180
AO
A
中型切断機
AO
大型切断機 A
AO
Table 1: 適切な切断砥石の選択
=> 切断面の不良、切断砥石の過度の摩耗や破損を避けるために、適切な切断砥石を適切に選択する必要があり
ます。切断砥石は試料の材質、硬さで決まります。
埋込
試料が複雑な形状、壊れやすい、又は、サイズが小さいため、取り扱いが難しい場合があります。試料の埋込
みは形状と寸法を標準化し、壊れやすい材料を保護するので取り扱いが容易になります。良好な研磨結果と分
析結果を得るには、高品質な埋込みが不可欠です。
試料を埋込む前に、例えば、切断時のバリを除去するために、粗い研磨紙で試験片のバリ取りを行う必要があ
ります。エタノールでの洗浄(超音波洗浄はさらに効果的です)もお勧めです。バリ取り、アルコール洗浄に
よって、試料と埋込樹脂の密着性が向上します。
埋込樹脂の収縮は試料と樹脂の境界に隙間をつくります。その隙間に入った砥粒、研磨屑が後の工程で研磨ク
ロス上に落ちると、試料の研磨面に傷が付く心配があります。隙間のある試料には、各工程間の超音波洗浄機
による洗浄をお勧めします。
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埋込みには選択肢が 2 つあ ります。
・試料のエッジ観察の目的、又は、硬さ試験の準備として金属組織学的試料作製が行われる場合は加熱加圧
埋込(熱間埋込)が推奨されます。加熱加圧埋込には埋込機(埋込プレス)が必要です。
加熱 加圧埋込 に必要な 埋 込機は
メカプレス 3 です。 : + POINT
・自動埋込機(埋込プレス) メカプレス 3 による成型試料の
天面と底面は完璧な平行です。
・使いやすい: 埋込条件のメモ
リと調整
・時間短縮:成型時間が短い
・モールド径: 25~50mm までミ
リとインチの 6 種類の型径を
選択可能
Fig 4: メカプレス 3
常温硬化埋込(冷間埋込)が推奨される場合は:
・試料が壊れやすい/圧力に弱い場合
• 試料がハニカム構造などの複雑な形状をしている場合。
• 試料数が多く、一度にたくさん埋込みたい場合
常温硬化埋込用機材:
+ POINT
樹脂収縮抑制、透明度向上、樹脂含浸などで埋込試
料の品質が大幅に向上します。
Fig 5: プレッシャーべセル
+ POINT
真空中でエポキシ樹脂を多孔質材料に
含浸させる装置です。
Fig 6: 真空含浸装置:
ポリバック
常温硬化樹脂は液体のメニスカス(界面張力によって表面が凹状の曲面になる)のために、上面の平坦性を
損ないます。研磨作業の前に研磨紙でメニスカスを除去します。この作業で埋込成型品の両面(天面と底面
(研磨側))を確実に平行にすることが大切です。
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消耗品
ユーザーのニーズを満たすために、PRESI はいろいろな種類の冷間埋込用成形型を提供しています。ミ
リ、インチの直径で 20 ~ 50 mm の範囲で用意しています。透明アクリル樹脂、シリコンゴム、テフロ
ン、ポリエチレンなどの異なる材質の成形型があります。円筒形以外では、長方形の埋込成形型がありま
す。
ステンレス鋼
エポキシ
Hot process フェノール
アクリル
エポキシ
Cold process アクリル
Table 2: 適切な埋込樹脂を選定
*
研磨
試料作製プロセスの最後の重要な段階は研磨です。原理は単純です。各ステップは前の砥粒より
も細かい研磨剤を使用します。目的は平坦な表面に仕上げて、顕微鏡分析、硬さ試験、微細構造
又は寸法検査などの金属組織管理の検査を妨げる条痕、残留欠陥を排除することです。.
PRESI は粗研磨から超精密仕上げまで、少量から大量の試料個数まで対応する幅広い製品ラインアップの中か
らお客様のニーズに最適な手動研磨機と自動研磨機を提案しています。
Fig 7: Fig 8: Fig 9: Fig 10:
ミニテック 300SP1 ミニテック 300DP1、DP2 メカテック 300 SPC メカテック 250 DPC
手動研磨機ミニテックシリーズは最先端の技術が組み込まれています。
使いやすく、信頼性が高く、頑丈で、あらゆるニーズに対応できます。
自動研磨機メカテックシリーズは手動研磨と自動研磨の両方できます。PRESI の全ての知識、経験、技術が集
約されています。高機能・高品質の自動研磨機メカテックは試料数、試料サイズに応じて、最適な仕上がりを
提供します。
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消耗品と研磨条件
以下のすべての研磨条件は最も一般的な自動研磨用です (手動研磨の場合は Head Speed( 試料回転機の回転速
度)のパラメーターは考慮しないでください)
研磨条件の最初の工程(No.1)はすべて「面出し」と呼ばれ、試料 (および埋込樹脂) の表面を平らにするために
材料を迅速に除去することから成ります。以下に示すものは標準ですので、必要に応じて変更してください。
適用する圧力は試料 サイズによって異なりますが、一般的に次の条件が適用されます。研磨前のステップで
は、埋込直径 10 mm あたり 1 daN (例: Ø40 mm = 4 daN) で、工程が進む毎に 0.5 daN ずつ力を減らします。
ダイヤモンド研磨剤はサスペンションを使用しています。
研磨条件 No.1
Platen Head
Suspension / Rotation direction
N° Support speed speed Time
Lubricant platen / head
(RPM) (RPM)
1 SiC P320 Ø / Water 300 150 1’
SiC
2 Ø / Water 300 150
P1200 1’
3µm LDP /
3 RAM 150 135 2’
Reflex Lub
1µm LDP /
4 NT 150 135 1’
Reflex Lub
Al O N°3 /
5 NT 2 3 150 100 1’
Water
Micrograph 1: Micrograph 2:
Surface condition P320 lens x5 Surface condition P1200 lens x5
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Micrograph 3: Micrograph 4:
Surface condition RAM 3µm lens x5 Surface condition NT 1µm lens x5
Micrograph 5:
Surface condition Al O N°3 lens x5
2 3
研磨条件 No.2
Platen Head
Suspension / Rotation direction
N° Support speed speed Time
Lubricant platen / head
(RPM) (RPM)
I-Max R
1 Ø / Water 300 150 3’
54µm
I-Max R
2 Ø / Water 300 150 3’
18µm
3µm LDP /
3 ADR II 150 135 4’
Reflex Lub
1µm LDP /
4 NT 150 135 1’
Reflex Lub
Al O N°3 /
5 NT 2 3 150 100 1’
Water
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Micrograph 6: Micrograph 7:
Surface condition I-Max R 54µm lens x5 Surface condition I-Max R 18µm lens x5
Micrograph 8: Micrograph 9:
Surface condition ADR II 3µm lens x5 Surface condition NT 1µm lens x5
研磨条件 No.3
Platen Head
Suspension / Rotation direction
N° Support speed speed Time
Lubricant platen / head
(tr/min) (RPM)
1 SiC P80 Ø / Water 300 150 1’
9µm super
2 MED R 150 135 3’
abrasive / Ø
3µm LDP /
3 ADR II 150 135 3’
Reflex Lub
1µm LDP /
4 NT 150 135 1’
Reflex Lub
Al O N°3 /
5 NT 2 3 150 100 1’
Water
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Micrograph 10: Micrograph 11: Micrograph 12:
Surface condition P80 lens x5 Surface condition MED R 9µm lens x5 Surface condition ADR II 3µm lens x5
研磨条件 N°1 研磨条件 N°2 研磨条件 N°3
ステンレス鋼
すべて 熱処理 (硬質) すべて
• 長寿命消耗品
• 大量試料数に最適 迅速
利点 柔軟性 • 平坦性良好
工程数を削減
Table N°3: 研磨条件の選択
=> 上記の研磨条件で試料は問題なく仕上がります。しかし、金属組織検査(顕微鏡観察)の結果次第で、
必ず全ての工程を実行する必要はありません
最終仕上げ研磨を行った後に、試料片は金相エッチングなしで検鏡できます。他の方法として、ADLER試薬を
使用した金属組織エッチングが一般的に行われます。MARBLE 又は KALLING 試薬を使用して行うこともあり
ます。エッチングで異なる成分の境界が色、及び/又は、浮彫で識別されて検査が可能です。
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顕微鏡検査
: 以下の例示顕微鏡写真は、全て PRESI VIEW ソフトウェアを使用して作成しています。
Micrographs 13 and 14:
Stainless steel polished up to 1µm lens x20 and x100
Micrographs 15 and 16:
Stainless steel polished up to Al O N°3 lens x10 and x50
2 3
Micrographs 17 and 18:
Stainless steels polished up to Al O N°3 lens x20
2 3
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Micrographs 19 and 20:
Stainless steel etched with ADLER lens x5 and lens x20
Micrograph 21: Micrograph 22:
Stainless steel etched with ADLER lens x10 Stainless steel etched with MARBLE lens x5
PRESI
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Tel.: +33 (0)4 76 72 00 21 | Email: presi@presi.com