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【解説】過酢酸蒸気でのフィルタを含めたバイオ除染

その他

当社では、空気清浄、バイオ除染、環境モニタリングの三つのコア技術をベース に高度に管理された無菌環境の維持のためのソリューションを提供している。これら当社の取り組みから、より安全・ 簡単に「無菌環境の維持」や「バイオセー フティレベルの維持」に資するエアフィルタを含めたバイオ除染方法について提案する。

掲載内容
◆エアフィルタのバイオ除染の必要性
◆バイオ除染方法
◆ミスト発生方式での過酢酸バイオ除染
◆発生したミスト粒子の気化の検証
◆浮遊するミストのエアフィルタヘの影響
◆過酢酸蒸気(VPA)を用いた新しいバイオ除染方法 など

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このカタログについて

ドキュメント名 【解説】過酢酸蒸気でのフィルタを含めたバイオ除染
ドキュメント種別 その他
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取り扱い企業 ニッタ株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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このカタログの内容

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クリーンテクノロジー 2022 年 3 月号 P.73~77 掲載内容 P.73 解 説 過酢酸蒸気でのフィルタを含めたバイオ除染 ニッタ㈱ 茂田 誠 ●はじめに ●バイオ除染方法 一つであるアクトリル(米国 当社では、空気清浄、バイオ除染、環境 施設・設備のバイオ除染には、これまで MEDIVATORS 社)の含有濃度は、過酢 モニタリングの三つのコア技術をベース はホルムアルデヒドガスが広く使用され 酸 0.06wt%、過酸化水素 0.80wt%、酢酸 に高度に管理された無菌環境の維持のた ており、安全キャビネットのバイオ除染で 5.0wt%、水 94.14wt%である。低濃度で めのソリューションを提供している。 は、除染開始 12 時間後のホルムアルデヒ バイオ除染効果を発揮するが、強力な酸化 これら当社の取り組みから、より安全・ ドのガス濃度が 600ppm 以上必要とされ 力を有しており、液滴が腐食しやすい金属 簡単に「無菌環境の維持」や「バイオセー ている(1)。ホルムアルデヒドガスはヒトに である鉄や銅などに触れると腐食させて フティレベルの維持」に資するエアフィル 対し、0.08ppm で刺激症状が出始め、 しまう恐れがある。過酢酸を用いた空間及 タを含めたバイオ除染※方法について提 5ppm で気管支攣縮が引き起こされ、 び物体表面のバイオ除染は、ミスト発生方 案する。 50ppm 以上では重篤な気管支障害を惹起 式が知られている。ミスト発生方式の薬剤 する(2)とされており、その危険性により、 噴霧方法は、超音波振動子を使用する方 過酸化水素、二酸化塩素、過酢酸などを使 法、スプレーのように噴霧する方法等があ ●エアフィルタの 用した代替法が開発されているが、いずれ り、噴霧薬剤のミスト径が小さい方が拡散 バイオ除染の必要性 も危険な物質であるために取り扱いには 性や濡れ抑制の面で良いとされている。ミ 一般空気環境中には多くの微生物及び 十分注意しなければならない。安全性の高 ストを噴霧し続けると、湿度の上昇により ウイルスが浮遊しており、無菌環境を作る いバイオ除染方法の開発には、除染薬剤の 結露が発生して腐食の恐れが出てくるが、 ためにはそれらを取り除くか死滅させな 性質、バイオ除染時のガス濃度、体内動態 噴霧量を適切にコントロールすることで、 ければならない。エアフィルタは、それら 等を考慮して開発しなければならない。過 腐食を防ぎながら SAL10-6 レベルの除染 の微生物及びウイルスを捕集するため、無 酢酸系除染剤は、希薄な濃度でバイオ除染 効果を発揮することができる。ミスト発生 菌環境の維持が必要な医薬品製造施設、再 効果を示し、蒸気は速やかに酢酸に分解す 方式での過酢酸バイオ除染は、希薄な過酢 生医療等製品製造施設、食品製造工場、無 る薬剤である。さらに過酢酸の体内動態 酸系除染剤を使用するため、他のバイオ除 菌動物飼育施設などの施設や、アイソレー は、熱及び金属イオン存在下で、速やかに 染方法とは異なり厳密な養生が不要で、簡 ター、バイオハザード対策用クラス II キ 酢酸、過酸化水素及び酸素に分解され、血 易養生でバイオ除染を実施できるメリッ ャビネット(安全キャビネット)などの設 液循環への移行も少ない(3)と記されてい トがある。写真 1 に庫内除染装置 備には必ずと言っていいほど設置されて る。過酢酸は、希薄な濃度でバイオ除染が FOGACTTM(当社製)を使用したミスト いる。エアフィルタが微生物及びウイルス 可能であり、分解が早い物質であることか 発生方式での安全キャビネットのバイオ を捕集しているため、無菌環境を構築・維 ら、実施への制約が少ないバイオ除染方法 除染時の様子、写真2に部屋用除染装置 持するにはエアフィルタを含めた環境の である。 FOGWORKSTM(当社製)での室内のバ 除染が必須であると考える。 イオ除染時の様子を示す。過酢酸系除染剤 ●ミスト発生方式での を用いたミスト式除染方法は容易に施設 過酢酸バイオ除染 や設備のバイオ除染を実施できるが、エア ※バイオ除染:空間や作業室を含む構造設備内 に存在する微生物をあらかじめ指定したレベ 拭き上げ・清拭やミスト発生方式のバイ フィルタのバイオ除染には好ましくない ルまで減少させること。 オ除染に使用される過酢酸系殺芽胞剤の ことが判明したので次に説明する。 Copyright Ⓒ NITTA CORPORATION All Rights Reserved
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クリーンテクノロジー 2022 年 3 月号 P73~77 掲載内容 P.74 写真1 安全キャビネットバイオ除染時の様子 写真1 安全キャビネットのバイオ除染時の様子 図1 浮遊ミストの蒸発化イメージ 写真2 室内のバイオ除染時の様子 ●発生したミスト粒子の気化の検証 超音波振動子やスプレー等でミストを発生させる噴霧方 法は、液滴を空間に浮遊させて表面積を過大にして蒸気 化(気化)を促す方法である。浮遊したミストが空気中に 図2 検証実験1ミスト粒子気化実験模式図 浮遊しながら蒸気になるイメージを図1に示す。ミストの 蒸気化を検証するために、密閉空間でミストを発生させた 100 700,000 時のミストの各粒子径の個数及び相対湿度について検証実 90 験 1 を行った。扉を有する密閉容器(容積約 0.35 m3)内 粒子径0.3µm(右軸) 600,000 80 に純水を入れた超音波式ミスト発生装置(周波数 2.4 ) % 70 500,000 MHz)、オプティカルパーティカルサイザー(OPS)、温湿 j H x(R L・ 度計、エア攪拌用の卓上扇風機を設置して密閉容器内の測 シ・60 ・/ 湿度RH%(左軸) 400,000 q・ 定を行った。装置配置の模式図を図2に示す。なお、実験 A・ 50 ア・ ・) i・ は大気中の浮遊粒子の影響を下げるためにクリーンルーム x(・ 300,000 40 ・ 内で実施している。操作として、OPS の測定開始後、8分 キ・ q・ ・ ア・ 30 粒子径0.374µm(右軸) 目から 17 分目までミスト発生装置を稼働し、21 分目で扉 温度℃(左軸) 200,000 ・ を解放した。温湿度及び各粒子径の個数の測定結果を図3 20 100,000 に示す。測定結果より、相対湿度が低い噴霧開始直後でも 10 粒子径0.465µm(右軸) ミストが浮遊し、相対湿度が 80%を超えるあたりから粒子 0 0 数が急激に増加することが分かった。つまり、発生させた 0 10 20 30 時間(分) ミストは低湿度でも空間中に浮遊し始め、湿度が上がるに つれ⾧時間にわたり浮遊することが分かる。 図3 検証実験1温湿度及び各粒子径の個数 Copyright Ⓒ NITTA CORPORATION All Rights Reserved
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クリーンテクノロジー 2022 年 3 月号 P73~77 掲載内容 P.75 ●浮遊するミストの BI HEPA フィルタを含めた安全キャビネット エアフィルタヘの影響 の内部全体をバイオ除染することができる。 無菌環境の構築・維持に使用されるエ アフィルタは、一般的に HEPA グレー ●VPA式除染装置 ドよりも粒子捕集性能が高いフィルタ バイオ除染作業フロー が使用される。ミスト発生方式でのバイ VPA 式除染装置で安全キャビネットをバ オ除染時に通風した場合、エアフィルタ アクトリル イオ除染するときの標準作業フローを表1 は除染薬剤のミストを捕集してしまう。 に示す。装置組立の Step2 から Step6 の片付 ミストを捕集したエアフィルタは、圧力 けまでを約4時間で終了することができる。 損失が急上昇してプリーツ構造の変形、 Step5 のガス回収工程でガス回収部に搭載す 部材の黄変・劣化、捕集した液滴が乾燥 写真3 検証実験 2 VPA 除染実験 るケミカルフィルタを用いて高効率でガス するまでの間は酢酸臭が放出される等 を回収するため、速やかに過酢酸、過酸化水 の不具合を起こす可能性がある。 入れ て培養すると、結果は陰性(BI は死 素の分解及び酢酸の除去を行うことができ 滅)であった。検証実験2より、VPA は る。酢酸臭は臭いの感じ方に個人差があるた ●過酢酸蒸気(VPA)を バイオ除染の効果を有することが分かっ め、さらに酢酸臭対策が必要な場合は、 用いた新しいバイオ除染方法 た。 新しいバイオ除染方法は、除染成否の ●VPA式除染装置 指標として用いられるバイオロジカル 過酢酸蒸気(VPA)を用いてバイオ除 インジケーター(以降、BI)よりヒント 染を行うにあたり、解決しなければなら を得た。BI は、芽胞が付けられたディス ない課題として、ミスト発生装置を使用 クやストリップの外側を不織布で覆わ せずに、VPA を効率的に発生させるこ れている構造をしている。図4に BI 構 と、VPA は分解しやすく存在時間が短 造の模式図を示す。BI は不織布で覆われ いこと、VPA は空気より重いために下 ているので、ミストが透過するとは考え 部に滞留することがあげられる。それら にくく、BI 中の芽胞へのバイオ除染効果 の課題を解決した VPA 式除染装置の開 はミストではなく、過酢酸蒸気(VPA: 発し、検証を行った。写真4は VPA 式 Vaporized Peracetic Acid)が影響してい 除染装置を接続した ESCO 社製安全キ ると考えた。 ャビネット ESC-AC2-6N7 のバイオ除 染中の写真及びその排気部の写真であ る。バイオ除染中は常に排気 HEPA 部 よりエアを吸引し、VPA を添加したエ アをワークエリアに導入するように設 計した。また、開発した VPA 式除染装 置はバイオ除染対象の陰圧設定が可能 図 4 BI 構造の模式図 であり、安全キャビネット内部を外部環 境に対して陰圧でバイオ除染するので、 BI に対し、VPA がバイオ除染に効果を発 薬剤の漏洩を抑制することができる。陰 揮しているのかを確かめるために、検証実 圧にしない設定でバイオ除染した場合 験2を行った。写真3のように密閉可能な でも、バイオ除染対象の周囲では酢酸臭 デシケ一ターを用意し、下部に過酢酸系殺 はほとんどせず、過酢酸濃度計は 0pp 芽胞剤アクトリルを入れ、上部に BI mであった。開発した VPA 式除染装置 (CROSSTEX 社製 型式 TTS-06 菌種 により、先述の課題を克服しつつ空気の 写真4 VPA式除染装置での G.Stearothermophilus、菌数 2.0×106)を 流路の全てに VPA が流れるため、 安全キャビネットバイオ除染 入れて室温で一晩静置した。BI を培養液に Copyright Ⓒ NITTA CORPORATION All Rights Reserved
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クリーンテクノロジー 2022 年 3 月号 P73~77 掲載内容 P.76 表 1 VPA 式除染装置作 ●過酢酸蒸気(VPA)式 作業内容 所要時間 バイオ除染法の評価 Step1 装置の搬入 −(施設により異なる) 先述した VPA 式除染装置を使用したバ Step2 装置組立(ユニットの連結) 5分 イオ除染の評価として、「JIS K3800 2021 附属書B 除染及び除染方法の評価 B.2 除 Step3 排気部に接続アタッチメント取付け 10 分 ガラス面の養生 10 分 染方法の評価」に準じた試験を3種類の安 Step4 バイオ除染実施(装置稼働) ~3時間(SAL 106 レベル) 全キャビネットに対して実施した。BI 及び Step5 バイオ除染ガスの回収 30 分 培養液は MesaLabs 社製の HMV-091(菌 種G.Stearothermophilus)、PM/100 を使用 Step6 養生及び接続アタッチメント撤去、 装置片付け 15 分 した。図5にバイオ除染の模式図及び①~ 作業所要時間合計(バイオ除染3時間時) 4時間 10 分 ⑥の1対の BI 設置位置を示し、表2に評価 ケミカルフィルタ及びエアフィルタを搭載す る FFU(Fan Filter Unit)を設置して除去する ①排気フィルタ下流側中央忖近の ことをお勧めする。写真5に FFU の例として、 フィルタプリーツの中 FOG-Qdeo(ニッタ㈱)を示す。 ②排気フィルタ下流側外壁から 7.5cm 以内のフィルタプリーツの中 ③排気フィルタ下流側外壁から 7.5cm 以内のフィルタプリーツの中 ④汚染正圧域 ⑤作業台トレイの下 ⑥吹出しフィルタ上流側中央忖近の フィルタプリーツの中 ※JIS 規格には「フィルタのプリーツの中」 と記載があるが、フェイスガードやアルミ セパレーターによりプリーツの中に設置困 難な場所については、BI をフェイスガード やアルミセパレーターの上に設置して試験 を行った。 写真5 FFU 例 FOG-Qdeo 図5 バイオ除染の模式図及び BI 設置位置 表2 除染評価結果一覧表 メーカー ESCO PHC 日本エアーテック 型式 ESC-AC2-6N7 MHE-181AB3-PJ BHC-1610HA2 検証回数 1回目 2回目 3回目 1回目 2回目 3回目 1回目 2回目 3回目 1 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 2 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 3 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 4 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 5 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 6 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 除染成功 除染成功 除染成功 除染成功 除染成功 除染成功 除染成功 除染成功 除染成功 除染成功 判定 ○:除染有効 一対の BI の両方が培養陰性または片方だけが培養陽性 ×:除染無効 一対の BI が両方とも培養陽性 Copyright Ⓒ NITTA CORPORATION All Rights Reserved
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クリーンテクノロジー 2022 年 3 月号 P73~77 掲載内容 P.77 した安全キャビネットの詳細及び評価結 し、エアフィルタの機能や性能に様々な悪 JIS K3800 に準じた除染効果の検証を記 果を記載する。評価した全ての安全キャビ 影響を与え得るため、エアフィルタのバイ 載したが、VPA 濃度や除染時間を変更す ネットに対して「除染成功」の判定が出た。 オ除染にミスト発生方式はお勧めできな ることで、要求される除染強度に対応で 安全キャビネットの除染時間は2~3時 い。エアフィルタを含めた施設・設備のバ きるため、「構造設備のクリーン化」や「バ 間であり、ATI 社製過酢酸ガス濃度計にて イオ除染方法として、過酢酸蒸気(VPA) イオセーフティー対策」等の様々な場面 測定した過酢酸濃度を用いてCT値を計 を用いた方法が、エアフィルタを含めたバ で有効なバイオ除染が可能である。VPA 算すると、全ての評価においてCT値(p イオ除染に効果を有することを示した。 除染法が多くの場面で皆様の手助けがで pm×h)は 100 以下であった。ホルムア きればと期待し、VPA 除染法を提案す ルデヒドガスによるバイオ除染のCT値 ●おわりに る。 7,200 以上(1)と比較すると非常に低濃度 VPA除染方式を用いた安全キャビネッ <参考文献〉 (1)JIS K 3800 2021 バイオハザード対策用クラス の薬剤でバイオ除染が可能であることが トなど設備のバイオ除染は、他の除菌剤を II キャビネット 分かる。また、今回の試験によって、安全 用いたバイオ除染方法に比べて安全性が高 (2)産業衛生学雑誌、49(4), pp.175-181(2007) キャビネット内の結露及び金属腐食はな いこと、薬剤による設備の設置環境の汚染 (3)厚生労働省平成 28 年 1 月 29 日薬事・食品衛生 審議会食品衛生分科会添加物部会配布資料 かった。 リスクを抑制しやすいこと、約4時間程度 ●まとめ の作業時間で除染を完了できることなどか 筆者紹介 ミスト発生方式では湿度の上昇につれ ら、バイオ除染実施に係る施設の稼働効率 茂田 誠 て⾧時間にわたり空間中にミストが浮遊 や生産性への負荷を低減しつつ、より安全 ニッタ㈱ することが分かった。浮遊ミストはエアフ な設備のバイオ除染を可能とする有効な手 クリーンエンジニアリング事業部 ィルタに捕集されてエアフィルタを濡ら 法である。バイオ除染例として、 技術部 研究開発課 Copyright Ⓒ NITTA CORPORATION All Rights Reserved