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光学薄膜は幅広い分野で用いられており、製品用途 によっては光学機能だけにとどまらず、他の機能も複 合的に要求される。本稿では、高透過機能に加え、防汚 機能、防傷機能、防塵機能を付加した光学薄膜について 紹介する
このカタログについて
ドキュメント名 | 【ホワイトペーパー】様々な機能を付加した光学薄膜 |
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ドキュメント種別 | ホワイトペーパー |
ファイルサイズ | 307.7Kb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | 伊藤光学工業株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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「光学薄膜」
最新動向を解説
機能性コーティングガイドブック
・⾼透過性能
・防汚性能
・防傷性能
・防塵機能
伊藤光学⼯業株式会社
*光アライアンス10月号掲載記事
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様々な機能を付加した光学薄膜
要約 伊藤光学工業株式会社 三 輪 俊 夫
光学薄膜は幅広い分野で用いられており、製品用途 神 谷 雅 男
によっては光学機能だけにとどまらず、他の機能も複
合的に要求される。本稿では、高透過機能に加え、防汚
機能、防傷機能、防塵機能を付加した光学薄膜について
紹介する。
――――――――――――――――――――――――――
1 はじめに
――――――――――――――――――――――――――
光学薄膜は多岐に渡る産業分野で利用され、デジタルカ
メラ、プロジェクター、ディスプレイなどの撮像機器や映
像機器にとどまらず、車載機器、医療機器などにも用いら
れている。年々、光学薄膜製品の高性能化や高機能化が進 (a) 分光反射率(片面)
み、光学機能のみならず、耐擦傷性や撥水・撥油性などの
機能を併せ持つ光学薄膜が要求されている。本稿では、光
学機能に加え、各種の特徴的な機能を併せ持つ光学薄膜に
ついて紹介する。
――――――――――――――――――――――――――
2 高透過機能
――――――――――――――――――――――――――
ガラス基板やプラスチック基板の表面上に真空蒸着に
よって誘電体膜を積層して、光の干渉を利用する反射防止 (b) 分光透過率
膜は、眼鏡レンズ、カメラレンズ、光ファイバーなど多く 図1 低反射高透過反射防止膜の分光特性
の光学部品に応用されている。近年では光学機器の高性能
化に伴い、反射率の低減および透過率の向上に対する要求 図1にガラス基板の両面へ低反射高透過反射防止膜を成
はますます厳しくなっている。 膜した際の片面の分光反射率と全体の分光透過率を示す。
例えば、一眼カメラ用交換レンズでは、ゴーストやフレ 反射率計測には反射率測定機 USPM-RU(オリンパス社製)
アの低減のためには低反射率化が求められ、明るい鮮明な を用い,透過率計測には分光光度計 U-4100(日立ハイテク
画像を得るためには高透過率化が求められる。レンズは、 ノロジーズ社製)を用いた。波長 420-680 nm の片面平均反
10~20 枚程度で構成されていることが多い。従って、例え 射率 Ravと全体平均透過率 Tavとを比較してみる。成膜前の
ば、透過率が 99.0%のレンズを 10 枚使用すると、交換レン Rav および Tav はそれぞれ 4.3%および 91.5%であるのに対
ズ全体の透過率は 90.4%となる。一方、僅か 0.5%の違いで し、成膜後は 0.1%および 99.8%となり、極めて低い反射率
あるが、99.5%の透過率のレンズを使用すると全体透過率は と高い透過率が得られている。
95.1%まで改善される。 このような低反射高透過反射防止膜は、反射率の抑制と
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ともに、薄膜の吸収や散乱を極力減らすことや、基板の表 厚みは、光学機能を損なわないようにナノメートルオー
面粗さや洗浄などによる光散乱(1)についてコントロールす ダーである。
ることも必要である。図2に表面粗さが異なるガラス基板 図4に反射防止膜の最表層に成膜した防汚膜の水滴接触
の AFM 像を示す。また、それぞれの基板に同じ反射防止膜 角測定時の撥水性を示し、図5に油性インクの付着性を示
を成膜した光散乱の様子を図3に示す。成膜前の基板 A と す。防汚膜を成膜すると水に対する接触角は 115°程とな
基板 B の表面粗さ Raの違いは僅かであり、同一バッチの反 り、高い撥水性を示すとともに、油性インク等も弾き、汚
射防止膜の成膜後もほぼ同じ値を示した。しかしながら、 れが付きにくくなる。防汚膜は撥水・撥油性を高めるほか、
高輝度ランプを照射すると、成膜前には明確でなかった光 表面の滑り性も優れるため、指紋の拭き取り性やタッチパ
散乱の違いが成膜後に顕著になった。基板 1 枚の透過率に ネルの操作性向上などにも効果がある。防汚膜を利用する
与える影響は僅かであるが、同一基板を 10 枚並べた状態で ことで、視認性の向上に加え、汚れが付きにくく拭き取り
基板 A と基板 B の Tav を比較すると、基板 B の方が 1.2% やすいコーティングを実現している。
程良い値を示した。高い透過性を実現するには、光散乱を
抑制する必要があり、成膜前の基板の表面粗さは重要であ
ることがわかる。
(a) 防汚膜無し (b) 防汚膜有り
図4 防汚膜の撥水性
(a) 基板 A (b) 基板 B
図2 表面粗さの異なる成膜前基板の AFM 像
(a) 防汚膜無し (b) 防汚膜有り
図5 油性インクの付着性
――――――――――――――――――――――――――
(a) 基板 A (b) 基板 B 4 防傷機能
図3 成膜後の光散乱の様子 ――――――――――――――――――――――――――
屋外などの過酷な環境下で使用される光学機器は、反射
―――――――――――――――――――――――――― 防止による視認性の向上や汚れにくさとともに、傷つきに
3 防汚機能 くさも注目すべき機能である。
―――――――――――――――――――――――――― 防傷機能付き反射防止膜を成膜したガラス基板の傷つき
光学薄膜は使用される用途によって様々な機能が要求さ にくさをベイヤー試験によって評価した。図6にベイヤー
れるため、各種の機能性薄膜が開発されている(2)。例えば、 試験後の外観写真を示す。従来の反射防止膜と比較した場
眼鏡レンズ、カメラレンズ、カーナビやスマートフォンの 合、目視で明確な曇り度合いの違いが確認できる。同基板
タッチパネルなどには、水滴の付着防止や水ヤケの防止、 の曇り度合いをヘーズメーターで測定したヘーズ値を表1
指紋などの汚れの付着防止のための防汚膜として、撥水・ に示す。防傷機能付き反射防止膜はヘーズ値の変化量がほ
撥油膜が利用されている。薄膜材料は低屈折材料である とんどなく、従来の反射防止膜と比較して、10 倍以上の値
パーフルオロポリエーテル化合物(3)を使用することが多く、 の違いがあり、極めて傷つきにくいことがわかる。
真空蒸着法やディッピング法などで表面層に成膜される。
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6 おわりに
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光学薄膜は多種多様な分野に広がり、光学製品の要求は
複雑化している。本稿で紹介した各種の機能の他にも防曇
(a) 防傷機能無し (b) 防傷機能有り 性や抗菌性を求められる製品もある。高機能化のみならず、
図6 ベイヤー試験後の外観写真 製品外観なども、商品として厳しい品質が求められる。
(試験条件:砂 500g、600 回振動 COLTS 社製試験機) 弊社では、最新鋭の成形機、成膜装置、超精密洗浄機を導
入し、近年、要求の高まっている高外観への対応を含め高
表1 ベイヤー試験前後のヘーズ値 品質なものづくりを目指し、日々改善を繰り返している。
防傷機能無し 防傷機能有り また、レンズ等の成形から蒸着までの一貫した工程で製造
0.02 0.02 を行う、業界でも数少ないメーカーでもある。硝子、樹脂
ベイヤー試験前
11.92 0.82 問わず、求められる製品を一貫生産体制で提案が可能であ
ベイヤー試験後
る。今後も多様化する市場ニーズに応えながら製品提供を
―――――――――――――――――――――――――― 進めていきたい。
5 防塵機能
―――――――――――――――――――――――――― 参 考 文 献
眼鏡レンズへのホコリや花粉などの付着や撮像機器のイ (1) 室谷裕志:「基板の表面粗さが光学薄膜の光散乱に与える影響
メージセンサーへのダスト付着の抑制など、製品用途に について」,精密工学会誌,Vol.80,No.6,pp.519-523 (2014).
よっては防塵機能が必要とされている。プラスチックやガ (2) 猪俣崇:「光学薄膜の物性評価と機能性薄膜材料の開発」,表
ラス上に誘電体多層膜を形成しても、全体が絶縁性である 面技術,Vol.71,No.10,pp.613-619(2020).
ため帯電しやすく、その結果ダストの付着を促す。そこで、 (3) 小澤香織:「タッチパネル用ガラスの表面改質」,表面技術,
透明導電膜を多層膜中に積層すれば、帯電防止効果が得ら Vol.64,No.8,pp.444-446 (2013)
れ、防塵機能を付加できる。図7に基板を帯電させた時の ――――――――――――――――――――――――――
発泡スチロールビーズの付着の様相を示す。 【筆者紹介】
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三輪俊夫
伊藤光学工業株式会社 光学事業部
<主たる業務歴および資格>
光学薄膜製品の開発および営業
神谷雅男
伊藤光学工業株式会社 技術部
(a) 防塵機能無し (b) 防塵機能有り
<主たる業務歴および資格>
図7 発泡ビーズ付着試験
光学薄膜製品の開発、博士(工学)
(試験条件:シルボン紙 20 往復擦り)
防塵機能有りでは、基板を擦った時の帯電が避けられる
ため、ビーズがほとんど付着しない。このことから、空間
に浮遊するダスト付着を防ぐコーティングであることがわ
かる。
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