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制御盤DXの教科書‗10PDL.pdf、制御盤DXの教科書
制御盤DXの教科書
~設計・製造のデジタル化と標準化~
Rittal Japan | EPLAN Japan | 2023.03 1
1. 制御盤市場の未来予測
これからの需要はどうなる?
制御盤業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を考える上で、ニーズとしての製造工場での更なる自動化、それに伴う設備機械の複雑化は
益々進み、業界を問わず需要は拡大すると思われます。
また、下記グラフを示すように人材不足を補うためのラインの自動化や機械の頭脳として必要不可欠な制御盤の複雑化のニーズの重要性も高まっ
ています。制御盤を使う製造ラインや機械設備メーカーにとっては、この市場の変化をいち早く捉え、そこに柔軟かつ素早く対応できるかどうかが
今後のビジネスの拡大のキーとなります。
▍BEMS・BAS市場規模推移と予測 ▍次世代物流システム市場規模推移と予測
152,000 7000
150,000
150,000 例えば・・・ 6000 958 例えば・・・
148,000
146,000 ビルオートメーションの
146,000 5000 865 ロボットや自動搬送を
市場規模は今後大きく 172 活用する次世代物流
144,000
142,000 伸長 4000 72 システム市場の拡大
142,000
140,000 567
3000 124
140,000 138,600 3658 AI
138,000 2000 loT
2603
136,000 ラストワンマイル
1000 ロジスティクス・ファシリティ
134,000 ロボティクス・オートメーション
132,000 458 815
0
2018年度 2019年度 2020年度 2025年度 2030年度 2020年見込 2025年予測
予測 予測 予測 予測
※株式会社矢野総研 2019年8月9日プレスリリース「BEMS・BAS市場に関する調査を実施(2019年)」 ※株式会社 富士経済 2021年2月8日プレスリリース
「自動化ニーズが高まる次世代物流システム・ビジネス市場を調査」
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2. 制御盤業界が直面するリアルな課題
人手不足と工数増の解決が最優先
制御盤業界は、その担い手となる中小、零細企業数・従業員数の減少が続いており、その上、制御盤自体の高機能化や要求の増加によって、1台にか
かる工数が増えています。また高齢化による人手不足と熟練技能者の育成はノウハウ伝授などに時間がかかり、生産性は上がらない状況です。また、
総労働時間が規制されている中、長時間労働での納期合わせには、限界がきており発注者を含め緊急課題として認識する必要があります。
この供給力不足と忙しさの解消が業界の最大の課題となっています。
制御盤業界の課題
制御盤の設計・製造方法自体を
慢性的な人手不足 1台当たりの工数増 見直していく必要がある
事業所数 高機能化
の減少
人材採用 高性能化
が困難
小型化
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3. 制御盤のDXとは?
生産性を高め利益を生み出し、稼ぐためのデジタル活用
DXは生産性を上げることで人にかかる負荷を減らし、技術者が時間を効率的に使えるようになる環境も実現します。制御盤DXでは、電気設計の効
率化だけに注力するだけではなく、電気設計者が作成したデジタルツインで制御盤制作をビギナーに任せる作業等手法を導入し生産性が増えるこ
と、また、制御盤熟練者はより高度な作業に専念できるようになります。
DXによって実現すること
そもそも
DX デジタル技術を活用して業務を効率化し、
とは? 制御盤の製造・組み立て作業を自動化
それをベースに利益を高める力をつけること
ビギナーでも 作業・労働 属人化を 複雑・難解な
ラクに作業 時間を軽減 解消 作業に専念
制御盤業界の
DX デジタル技術を使って経営と製造現場に
柔軟性を加え、より利益を高める
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3. 制御盤のDXとは?
デジタル技術でこんなに変わる制御盤設計・製造プロセス
制御盤の設計・製造プロセスにデジタル技術をフル活用し、制御盤業界のDXが実現することで、生産性が高まり、より多くの盤をより早く効率的に
作ることが可能となります。以下の対比表のようにこれまでのプロセスを見直し、デジタル技術で補える(人力での作業をしない)部分を増やすこと
で従来のプロセスの期間を半減する事が可能になります。
1 電気回路図
の作成 2 部品表、指示 筐体の設計・
書等の作成 3 調達 4 必要部材の
・加工 5 盤の組立・ 6 検査・納品
調達 配線
繰り返し使える回路 ソフトウェアで自動生成 図面データがすでに用意 EDIやEコマースで発注 端末の画面・音声ガイド 作業履歴の照合と実稼働
DXの データを登録し、総合電 されている標準品を使用 し、各部材は設計データ に従って手作業しつつ、 の二重チェック
プロセス 気設計CADで作成 を元に機械で自動加工 一部作業はロボットや専 立ち会いはリモートも可能
用機械で自動化
イチから作成 手作業で異なるファイル 機械CADで別に図面を 必要部材はメーカー等に 紙のレイアウト図や製作 稼働状態をチェック
現在の または過去図面のコピ を作成 作り、板金業者に依頼 発注し、紙図面を元に目 指示書を見ながら手作業 設備立ち上げには同席
プロセス ペ・手作業で修正 測・手作業で加工
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4. 制御盤DXに向けて制御盤メーカーがやるべきこと
「デジタル化」と「標準化」が制御盤DXの基本
制御盤DXの実現には、制御盤の設計から製造、保守・メンテナ
ンスの各作業と、そこに至る一連の流れを、デジタルツールを
制御盤DX
使って効率化し、最適化することが肝要です。
の実現
しかしながら実際は、デジタルツールを導入する前に、DXに
向けた基盤の整備(プロセスの見直し)が大切です。今までのノ
ウハウが詰まっている紙図面の解読をして汎用性の高い部分
の「デジタル化」を行い、またデジタル化した際の社内ルール・
仕組みを「標準化」として見直しを行うことではじめて、デジタ
ルツールが効果を発揮します。社内の基盤が整備できていなけ
れば、どんなに優れたデジタルツールを導入しても宝の持ち腐 デジタルツールの導入
れになってしまうのです。
デジタル化 標準化
紙図面のままではデータ 技術者ごとに自分ルール
として活用ができない… があり、やり方が異なる…
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4. 制御盤DXに向けて制御盤メーカーがやるべきこと
デジタル化 紙図面からデジタルデータ中心のプロセスへ
現在の制御盤の設計・製造プロセスの中心にあるのは紙図面です。デジタル化とは、単にこの紙図面をPDF化することではなく、設計以外の製造・
保守など後工程や制御盤の作業でも加工して使用でき、同じような案件でも大多数が繰り返し使えるデジタルデータを作ることを指します。
(データのリサイクル)
紙図面 デジタルデータ
電気設計CADなど
データを自社クラウド等
他人との共有が難しく、図面の情報を活用できない 誰でもすぐに探して取り出せるデータとして、あら
に整理・保管
ため、自動化や効率化の障害に ゆる工程に活用され、別の案件への転用も容易に
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4. 制御盤DXに向けて制御盤メーカーがやるべきこと
標準化 社内ルールを定めてプロセス改革
属人化されたプロセスにおいては、当たり前過ぎてあまり意識されない部分が認識されておらず、制御盤の作り方には本来あるべき共通化したルールが
決めていないため、技術者ごとに異なるやり方や自分ルールで製造されている面も多く存在します。また、それが多忙という理由で整理されていないの
が実態です。混在する暗黙知を整理整頓して標準化することで、仕組み化が可能になり、自動化や効率化、DXにつながっていきます。
国際標準に則った表記の使用 社内設計ルールの統一と明確化 標準品化と標準部品の利用
図面の表記ルールをグローバルスタンダードなIECのルー 設計ルールを統一することで、設計者の知識やノウハウ 顧客主導の100%カスタム品を受注するのではなく、標準
ルに統一することで、海外案件への対応や海外委託など に頼った「個人の資産」としての図面ではなく、「会社の資 品・標準仕様をカタログスペック化し、部材もメーカーの
グローバルなケースに適応ができます。 産」として設計データを蓄積する必要があります。 標準品や汎用品を採用することで効率化を目指します。
Rittal Japan | EPLAN Japan | 2023.03 8
5. まとめ
制御盤の未来のために必要なのはDX
今後ますます制御盤に対する短納期、複雑化の需要が高まっ
ていく中、制御盤の設計・製造は、自動で効率的に製造できる 効率化による安定的な利益の創出
ように変わっていく必要があります。しかしながらDXは一朝
一夕でできることではありません。 ビギナーの 作業時間の 属人化の 難解な
育成 短縮 解消 作業に専念
上位マネージメントの理解などを通じて、プロセス変革を行う
事で、清流化すれば、技術者の個人レベルでも得られるメリッ
トは大きく、その変革は電気設計者だけではなく部門間連携 制御盤DXの実現
で取り組んでいく必要があります。
設計製造の効率化が必要 電気設計と連携した製造加工の自動化
人手不足と工数増に課題 総合電気設計CADの導入
制御盤ニーズの高まり 図面のデジタル化 標準化
▶ 実際のDX事例はこちら 制御盤業界の潮流 制御盤メーカーがやるべきこと
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6. EPLAN・リタールが提案する制御盤DXソリューション
バリューチェーンとは?
EPLANとリタールでは、制御盤DXを支えるデジタル基盤、DX
稼働 製品仕様
を実現する仕組みとして「バリューチェーン」を提案しています。
保守メンテ 事前コンサルティング
バリューチェーンは、設計工程で作ったデジタルデータを、他 1
電気設計
の工程でも活用して作業を効率化し、最適化された各工程が エンジニア
連なることで、プロセス全体として生産性向上を実現します。 4 リング
検証・修正
テスト オペレー
例えば、故障が起きたときにも、設計工程がデータとして残っ ション
機械仕様
ていることで、①~④のどの段階のどの設計・部品に問題があ 配線作業
ったのかを簡単に突き止めることができます。 デジタルツイン
電線加工 バリューチェーン
Value chain 熱計算・筐体検討
2
ラベル付け
調達
配置
3
端子台組立 発注
製造
▶ 工程最適化の例はこちら 筐体加工 製造用帳票
配送
カッティング
キッティング
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お問合せはこちら
制御盤の設計・製造DXは当社にお任せください
EPLAN・リタールが提案する「バリューチェーン」は、各工程を個別に行う「部分最適化」と、全体を考慮して行う「全体最適化」があり、お客様の現
状に合わせて取り入れていただけます。
制御盤の設計・製造の最適化にまつわるセミナーも開催しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
バリューチェーン 電気設計 制御盤製造
の紹介はこちら はこちら はこちら
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制御盤DXの教科書_TeamRed.pdf
制御盤DXの教科書
~設計・製造のデジタル化と標準化~
目次
はじめに ………………………………………………………………………………………………………… 3
1. 制御盤市場の未来予測 これからの需要はどうなる? ………………………………………………… 4
機械の頭脳を担う制御盤。社会の自動化が大きな追い風 ……………………………………………… 4
デジタル化やCO2削減要求でも高まる制御盤の重要性………………………………………………… 5
2. 制御盤業界が直面するリアルな課題 …………………………………………………………………… 6
慢性的な人手不足。減る制御盤メーカーと技術者 ……………………………………………………… 6
小型・高密度化の要求増で制御盤の設計・製造も変化 ………………………………………………… 7
人手不足と工数増の解決が最優先 ……………………………………………………………………… 7
3. 制御盤のDXとは? ………………………………………………………………………………………… 8
利益を生み出し、稼ぐためのデジタル活用 ……………………………………………………………… 8
個人の負荷を減らし、良い労働環境を実現するDX …………………………………………………… 8
DXは技術者の地位をワンランクアップさせる ………………………………………………………… 9
デジタル技術でこんなに変わる制御盤設計・製造プロセス ……………………………………………10
4. 制御盤DXに向けて制御盤メーカーがやるべきこと ……………………………………………………13
デジタル化 紙図面からデジタルデータ中心のプロセスへ ……………………………………………13
標準化 社内ルールを定めて仕組み化を ………………………………………………………………14
①国際標準に則った表記の使用 …………………………………………………………………………14
②社内設計ルールの統一と明確化 ………………………………………………………………………15
③制御盤の標準品化と標準部品の利用を促進する ………………………………………………………16
5. 制御盤業界のDX 先行するヨーロッパ …………………………………………………………………17
イギリスの事例 制御盤メーカー LCAグループ ………………………………………………………17
ドイツの事例 自動車部品メーカー シェフラー Sondermaschinenbau社 ……………………18
6. まとめ 制御盤の未来のために必要なDX ………………………………………………………………19
EPLAN・リタールが提案する制御盤DXソリューション「バリューチェーン」 ……………………20
工程最適化の例①設計済み回路のライブラリ化と活用 …………………………………………………20
工程最適化の例②筐体の自前加工 ………………………………………………………………………21
工程最適化の例③電線等の部材調達 ……………………………………………………………………21
2
はじめに
いまDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が流行しています。
社会のあらゆる場面でデジタル技術を活用して便利にしていこうという取り組みで、製造業でもその活
動が広がっています。
このデジタル化の流れは、数年前から言われ始めた第4次産業革命そのもの。今まさに時代のターニン
グポイントに差し掛かっており、このDXは一時的なブームではなく、これから長く取り組んでいくべ
きものです。
しかし現実は、DXと言っても概念的で抽象的なものにとどまっており、具体的な将来像や、それに向
けて何をやればいいのかという具体的な話はあまり表に出てきていません。
また、世間で言われている一般論のDX論と、製造業のDXは異なります。さらに「制御盤を作ること」
に絞れば、その未来もやり方もアプローチも、一般論や製造業のDXとはまた形が違ってきます。
そこで本書では、制御盤を設計・製造する人々とその業界に焦点を絞り、制御盤の将来と、その設計・
製造のDX、それを実現するために必要なことを解説していきます。
リタール株式会社
EPLAN Software & Services株式会社
3
1. 制御盤市場の未来予測
これからの需要はどうなる?
制御盤業界のDXを考える上で、制御・自動化の将来は重要な要素です。まず、それを考えてみましょう。
機械の頭脳を担う制御盤。社会の自動化が大きな追い風
制御盤は、機械や設備をコントロールするための電気制御機器や電気機器が搭載された箱で、「機械
の頭脳」の役目を担います。
工場で働く工作機械やコンベア、ロボットなどはすべて制御盤からの指示を受けて動いています。ま
た、ビルのエレベータや空調の制御、高速道路のETC、浄水場のポンプといった社会インフラの監視
とコントロールでも制御盤が活躍しています。つまり、社会の自動化を支えているのが制御盤と言って
も過言ではありません。
自動化は今、少子高齢化にともなう人口減とその対策、さらには国や世界を挙げてのDXの推進を受け、
大きな追い風が吹いています。
例えばビルオートメーション(ビルの自動化)について、矢野経済研究所の調べ※1によると、空調
機器や電力機器、照明機器、動力機器、セキュリティ管理等を自動化するBEMS・BAS(ビルエネルギー
マネジメントシステム・ビルオートメーションシステム)について、2018年度の国内BEMS・BAS市
場規模は1,386億円だったが、これが2030年には1,500億円へ伸長すると予測しています。
(百万円)
150,000
150,000
146,000
142,000
140,000
138,600
140,000
130,000
120,000
110,000
0
2018年度 2019年度 2020年度 2025年度 2030年度
予測 予測 予測 予測
注 1. 事業者売上高ベース 矢野経済研究所調べ
注 2. 2019年度、2020年度、2025年度、2030年度は予測値
注 3. システムには、ビル内にハードウェア及びソフトウェアを構築してビル内で運用するオンプレミス型と、
インターネットに接続されたクラウド上のソフトウェアを利用して運用するクラウド型があり、いずれ
も対象としている。
※1 株 式会社矢野総研 2019年8月9日プレスリリース「BEMS・BAS市場に関する調査を実施(2019年)」
4
また働き手不足で自動化が急務とされる物流業界に関して、富士経済の調査※2では、ロボットや自
動倉庫、自動搬送などを駆使した次世代物流システム市場は、2020年の3,823億円から25年には6,468
億円まで拡大するとしています。
■次世代物流システム市場 ※国内市場+日系メーカー海外実績
2020年見込 前年比 2025年予測 2019年比
ロボティクス・
458億円 101.3% 815億円 180.3%
オートメーション
ロジスティクス・
2,603億円 100.2% 3,658億円 140.9%
ファシリティ
ラストワンマイル 124億円 103.3% 172億円 143.3%
IoT 567億円 102.2% 865億円 155.9%
AI 72億円 130.9% 958億円 17.4倍
合 計 3,823億円 101.2% 6,468億円 171.2%
※市場データは四捨五入している
※2 株 式会社 富士経済 2021年2月8日プレスリリース「自動化ニーズが高まる次世代物流システム・ビジネス市場を調査」
このほか、言うまでもなく工場の自動化のニーズは衰え知らずで加速しており、交通インフラでも
自動改札機はもちろん、ホームドアなど自動化技術の導入が進んでいます。
「自動化するところに制御盤あり。」これまでにないほどに自動化の必要性とニーズが高まっており、
国や行政もそれを後押ししています。さらに、機器メーカーやシステムインテグレーター等もそこを
ビジネスチャンスと認識して力を入れています。この変革期は制御盤メーカーにとっても大きなチャ
ンス。市場の変化をいち早く捉え、そこに柔軟に対応できるかどうかが今後を左右します。
デジタル化やCO2削減要求でも高まる制御盤の重要性
さらに背中を押すのが、CO2排出量の削減やDXをはじめ社会のデジタル化の波といった世界的なト
レンドです。
例えば電気自動車は、駆動源が内燃機関からモーターになって自動車が電気機器になり、普及に向け
て街中に充電スポットを拡充する必要が出てきています。EV用充電器は制御盤を内蔵して電気自動車
への電気供給を正確かつ安全にコントロールし、制御盤の新市場としても期待されています。
また、街中に増加している監視カメラ、生活空間でも活用が
はじまったロボット、太陽光発電やマイクロ水力発電といった
再生可能エネルギー等も同様に制御盤の新市場として有望で
す。
自動化が広がり、電気を使って動かすものの種類と数が増え
ていくと、そこにはそれに適した制御盤が必要になります。制
御盤は需要がなくなるどころか、新しい技術が社会に入ってくる際、その動きと電力を安全かつ効率よ
くコントロールするものとしてますます重要性は高まっていくと見込まれています。
5
2.制御盤業界が直面する
リアルな課題
慢性的な人手不足。減る制御盤メーカーと技術者
今後の制御盤は需要の拡大が見込める一方、
その生産・供給能力は、人手不足が深刻化し
ているため、黄色信号が灯りつつあります。
経済産業省「工業統計表 産業別統計表」
によると、リーマンショック前の2008年の制
御盤メーカー(配電盤・電力制御装置製造業)
の事業所数(4人以上)は2,620社ありましたが、
2018年には2,214社(マイナス406社)まで
減っています。※3
さらに、制御盤メーカーは中小企業がほとんど。従業員4-9人の企業が805社と全体の36%を占め、
10-19人が624社で28%、20-29人が278社(12%)、30-99人が373社(16%)で、90%以上
が従業員100人以下の中小企業となっています。中小企業は慢性的な人手不足と人材採用が課題となり、
人を確保しての生産能力向上は難しい状況が続いています。
■配電盤・電力制御装置製造業の事業所数
2,800
2,700
2,620
2,600 2,581
2,523
2,500
2,411 2,426
2,400 2,353
2,308 2,296
2,300
2,234 2,224 2,214
2,200
2,100
0
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018(年)
※3 経済産業省2019年確報 産業別統計表
6
小型・高密度化の要求増で制御盤の設計・製造も変化
制御盤そのものに対する顧客の要望も変化しています。高度な自動化の実現、制御盤の小型化によ
る省スペース化を求めるケースが増え、制御盤にも小型化・高密度化の波が押し寄せてきています。
要望 課題
● 高度な自動化の実現 ● 搭載機器の増加による設計の見直し
● 制御盤の小型化による省スペース化 VS ● 作業性の悪化
● 制御盤にも小型化・高密度化 ● 人手不足
● 作業難易度が上がりかかる工数が増える
高機能化、高性能化には搭載機器の増加は欠かせず、搭載機器が増えるとそもそも回路図や機器レ
イアウトが変わり、設計の見直しが必要になります。同時に、安定稼働を考えて、発熱や放熱といった
熱設計の見直しもしなければなりません。
さらに組み立て・配線についても、機器が増えると配線作業が必要な箇所が増え、制御盤内が高密
度化すると作業性も悪くなります。
これらは小型化でも同様で、ただでさえ人手不足のなかで、作業難易度とかかる工数が増えるという
難問が横たわっています。
人手不足と工数増の解決が最優先
昔に比べて設計・製造が複雑で難しくなっていることと、それにともなって1台を完成させるまでに
かかる工数が増えていることが、制御盤業界の人手不足、リソース不足に拍車をかけています。さらに、
忙しくて丁寧に作業を教えて任せる時間がなくなっているという負のサイクルも出てきています。
総じて制御盤業界は、その担い手となる企業数・従業員数の減少が続き、盤の高機能化や要求の増
加によって1台にかかる工数が増え、人手不足と1人あたりの忙しさが増している状況です。この供給
力不足と忙しさの解消が業界の最大の課題となっています。
7
3.制御盤のDXとは?
利益を生み出し、稼ぐためのデジタル活用
需要はありつつも、それを賄うだけの供給能力、企業と人手の不足に課題を抱える制御盤業界。しか
しこれは制御盤に限ったことではなく、日本や世界全体で同じような状況にあり、それを解消するため
に取り組まれているのがデジタルトランスフォーメーション、いわゆる「DX」です。
DXは人によってさまざまな解釈がありますが、シンプルに言えば「デジタル技術を活用して業務を
効率化し、それをベースに利益を高める力をつけること」。つまりは市場や環境の変化に関係なく、安
定的に利益を出すため、デジタル技術を使って企業の柔軟性と変化力を高めていこうという取り組み
です。
制御盤業界に絞って言えば、いまは制御盤の設計・製造を専門とする技術者が自らの技術で制御盤
を作っています。しかしこれからは、その力技に頼るのではなく、もっとデジタル技術を活用して、
誰でも制御盤を作りやすく、または作業を自動化し、安定かつ柔軟な生産能力を確保・増強して仕組み
化し、受注件数を増やしていく。さらに、汎用的な制御盤は仕組みに任せ、専門の技術者はより難易度
が高く、単価の高い業務に集中することで利益を上げていく。デジタル技術を使って経営と製造現場に
柔軟性を加え、より利益を高めるようにしていこうというのが、制御盤業界のDXです。
個人の負荷を減らし、良い労働環境を実現するDX
DXの効果は企業の利益の拡大だけではありません。現場で実際に制御盤を設計して製造する技術者
にとっても良い労働環境、「ラクができて稼げる仕組み」を実現します。
今は手作業が中心となっている制御盤の製造、組み立て作業も自動化技術を取り入れると、人はす
べての仕事をやる必要がなく、人しかできない、機械よりも人の方が優れている作業に集中できるよう
になります。また、夜間に材料と手順をセットしておけば朝には作業が完了しているような24時間作
業も可能になります。
さらに、デジタル技術を使ってマニュアルや作業ガイドが用意されることで、ビギナーやパートタイ
マーでも作業手順にも迷うことなくラクに作業ができ、失敗するストレスやプレッシャーからも解放さ
れます。
DXで生産性を上げることによって人にかかる負荷を減らし、時間を効率的に使えるようになり、自
分の時間が増え、仕事やプライベートも充実させることができます。
8
DXは技術者の地位をワンランクアップさせる
デジタル技術の助けを得て誰でも盤を作りやすい状態にすると、それを専門にやってきた技術者は仕
事を奪われる、自分の仕事がなくなってしまうと考えてしまうかもしれません。しかしそんなことは決
してありません。専門で優れた技術を持つ人は、単価の高い仕事や将来に向けた人材の育成といった
重要な役割が期待されます。
例えば、盤の注文はカスタム仕様の一品一様が多く、そうした案件は専門家しかできません。いわゆ
る量産品や汎用品は別の誰かに任せ、カスタムや複雑で難しいもの、案件単価の高いものを専門家が手
掛けられるようになります。自分の技量に合った仕事を選んで実行し、利益の高い案件を集中して取っ
ていく。そうやって稼げる環境が実現できるようになります。
誰でも盤を作れる環境をつくる、技術を教えて仕組みを整えるのも、専門家しかできない仕事です。
受注の増減に合わせてパートタイマーを調整することで柔軟に対応する。自らもラクになるだけでなく、
売上と利益に貢献できる仕組みづくりにもチャレンジできます。
さらには、制御盤メーカーは忙しく、なかなか休暇を取ったり、新たな技術習得のための時間を取る
のが難しいという話も聞きます。仕事ばかりではなく、時には休むことも必要です。DXでは作業その
ものの効率化と他人に任せられる仕組みを実現し、仕事を分散して余裕ができて休みが取りやすくなり
ます。ワークライフバランスの取れる労働環境、
いわゆるホワイト企業に近づけることができます。
DXは短期で見れば従業員自らの待遇改善につな
がり、長い目で見れば人材採用にも有利な環境づ
くりに役立ちます。DXの取り組みは現場の従業員
にとってもメリットになります。
9