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偏光には様々な利点がある。位置や表面の状態だけでなく、従来は検出が難しかった物性を簡単に測定できる。位相差検出と組み合わせることにより、感度まで捉えることができる。
米国イメージング協会の市場調査によると、世界のマシンビジョン用カメラの 2015年販売額は7億6千万ドルである。そのうち、80%がモノクロカメラで、20%がカラーカメラである。
偏光子はマシンビジョンではよく使われている。多重偏光状態画像をキャプチャできるラインスキャン型の偏光カメラは最近まで無かった。偏光には様々な利点がある。位置や表面の状態だけでなく、従来のマシンビジョンでは検出が難しかった物性を簡単に測定できる。マシンビジョンでは、コントラストを強調し、識別が難しい物体を選別するのに使われている。位相差検出と組み合わせることにより、偏光画像は、従来の画像処理ではとらえられなかった感度まで捉えることができる。
このカタログについて
ドキュメント名 | 偏光による画像処理 基本と利点/マシンビジョンについて(Teledyne DALSA) |
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ドキュメント種別 | ホワイトペーパー |
ファイルサイズ | 5.5Mb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | 株式会社エーディーエステック (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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ホワイトペーパー
偏光による画像処理
基本と利点
原著 Xing-Fei He, Teledyne Dalsa
訳 株式会社エーディーエステック
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Teledyne Dalsa Inc. ホワイトペーパー
Polarization-Based Imaging ,Basics and Benefits
偏光による画像処理、基本と利点
空間補正により、ラインスキャン偏光カメラは複屈折、応力、表面の粗さや物
性など、通常の撮像方法では見つけることができないものを検知することがで
きる。
Xing-Fei He Teledyne Dalsa
シン・フェイ へ 氏、テレダイン・ダルサ社
光には 3 つの基本特性がある:強度と波長と偏光の3つである。今日、カメラはモノク
ロまたはカラー画像用に設計されているのが大半である。モノクロカメラは、広い波長域
に対して、全画素にわたり、光の強度を測定するために使われている。一方、カラーやマ
ルチスペクトルカメラは、赤、緑、青、近赤外波長の強度を検知する。同様に、偏光カメ
ラは、多重偏光状態における光の強度を捕捉する。
米国イメージング協会の市場調査によると、世界のマシンビジョン用カメラの 2015年販
売額は 7 億 6 千万ドルである。そのうち、80%がモノクロカメラで、20%がカラーカメラで
ある。偏光子はマシンビジョンではよく使われている。多重偏光状態画像をキャプチャで
きるラインスキャン型の偏光カメラは最近まで無かった。偏光には様々な利点がある。位
置や表面の状態だけでなく、従来のマシンビジョンでは検出が難しかった物性を簡単に測
定できる。マシンビジョンでは、コントラストを強調し、識別が難しい物体を選別するの
に使われている。位相差検出と組み合わせることにより、偏光画像は、従来の画像処理で
はとらえられなかった感度まで捉えることができる。
偏光フィルター技術
人間の眼と同様、シリコンは光の偏光を制御できない。そのため、イメージセンサーの
前面に、偏光フィルターが必要になる。イメージセンサーは、フィルターによって決めら
れた偏光状態を用いて、光の強度を検出する。
以下の3つの区分が、偏光フィルターの種類としては一般的である。時分割、振幅分割、
フォーカルプレイン分割の 3 つである(3 ページの表 1)。時分割偏光では、データは順次
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時間にそって偏光要素として必要である。液晶や偏光子、光弾性があるモジュレータによ
り回転または変調される。変調により速度は制限される。今日のアプリケーションでは、
100kHz 程度の高いラインレートが必要である。時分割フィルターには固有の制限がある。
複雑な設計であり、コストも高い。
振幅分割用フィルターでは、光は異なる光路に分割される。それぞれの光路には別々の
センサーがある。正確に設定するのが難しい場合は、プリズムがよく用いられる。プリズ
ムを搭載するために、通常ハウジングは大きくなる。
フォーカルプレイン分割フィルターには、マイクロ偏光子アレイがフォーカルプレイン
面に置かれ、個々の偏光状態を決める。このような技術は、小型、堅牢で低コストな設計
に向いている。しかし、エリアスキャンのイメージャには空間分解能上の欠点がある。個々
の画素が、そのままでは一種類の偏光状態のデータしか出すことができない。また、エリ
アカメラでは、補間アルゴリズムが使われている。
マイクロ偏光子を用いたラインスキャン偏光カメラは、上記のような欠点がない。ライ
ンスキャンでは複数のアレイが異なる偏光フィルターを持っており、異なる方向の画像を、
同時に少しだけ違う場所からキャプチャする。空間補正により、カメラはすべてのチャネ
ルを同じ物体位置に配置することができる。エリアカメラに比べ、ラインカメラが優れて
いるのは複数の固有の偏光状態を、デジタル操作無しに提供できる点である。
図 1. 偏光カメラのセンサー構造の図:シリコン(Si)の上にナノメートル単位の細
い線フィルターが置かれている。3 列のアレイにそれぞれ 0°(s)、135°、90°(p)
となっている。4 列目のアレイはフィルター無しとなっており、通常のフィルター
無しの画像が記録される。
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表 1 偏光フィルター技術の比較
時 分 割 振 幅 分 割 フォーカル プレイン 分割
データは逐次時系列で取得される。光は異なる光軸に分割され、個々の光マイクロ偏光子フィルターが、ピクセ
原則
偏光要素は回転または変調される。 路に別々のセンサーが割当てられる ル単位で配置され、偏光状態を規定
速度 偏光要素により、制限される 制限無し 制限無し
堅牢性 低 低 高
コスト 高 高 低
図 3. (a)色で表現された偏光画像 。(b) 通常
の画像でフィルターが無いもの。いずれも偏光
カメラが捉えたプラスチック製定規の画像。偏光画
像では、 RGB は それぞれ 0°(s 波), 90°(p 波),
図 2. マイクロ偏光子のコントラスト比
135° の偏光状態
センサーの構造
図 1 の偏光カメラは CMOS センサーを搭載し、4 列の構造になっている。マイクロ偏光子
はナノメートル長で結線されており、シリコン上に配置されている。ナノメートル長線は、
高さ 140nm、幅 70nmである。マイクロ偏光子のフィルターの向きは、それぞれ 0°、135°、
90°である。フィルターを通った光の強度は、フィルター下のアレイに記憶される。4列目
は、フィルターがついてない。それは通常画像と同様、すべての光エネルギーの強度がキ
ャプチャされる。受光アレイ間の溝により、列間の空間クロストークが少なくなる。
光は電磁波である。電場と磁場における波の向きはお互いに直交する。偏光方向は電場
の方向によって決まる。ナノワイヤーと垂直に振動する光はフィルターを透過するが、そ
の光と平行する光は跳ね返される。ラインスキャンカメラが検査面に対して反射角度に設
置されている場合、0°チャネルは s偏光(入射面と直行する偏光)を伝送する。90°チャ
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ネルは p 波光(入射面に対して平行する偏光)を伝送する。カメラが I0、I90、I135、Iufを、
0°、90°、135°偏光とフィルター無しチャネルから出力する場合、s 波と p 波の強さは、
それぞれ「 Is = I0 、Ip=I90 」である。
マイクロ偏光子を用いたラインカメラとエリアカメラで一番違うのは、ピクセル毎の偏
光状態を幾つ持てるかという点である。エリアカメラは普通 0°、45°、90°、135°の偏
光フィルターが必要になる。この4つの組み合わせは、「スーパーピクセルフォーマット」
などと呼ばれており、ピクセルがそれぞれ固有の偏光状態を1つだけ持つことができる。
周辺の3つのピクセルの情報に基づき、他の 3 つの偏光状態を計算するために補間アルゴ
リズムが使われる。この結果、空間分解能が失われるため、データの精度が失われる。こ
の点、ラインスキャンカメラは、偏光はすべて 100%サンプリングされる。複数の偏光状態
データは物理的に計測される。図 2 にナノメートル長で結線された偏光子フィルターのコ
ントラスト比がある。30~90 のコントラスト比が波長に応じて観察される。将来の設計で
はより高いコントラスト比も実現できるはずである。
S0、S1、S2 などの強度パラメータが使われ、物質の特性を分析するのに用いられる。偏
光差分、直線偏光度(DoLP)、偏光角(AoP)はすべて有益なパラメータである。
画像の可視化
偏光画像は、強度中心の従来画像との相関関係はあまりない。映像システムにおいて、
データ処理は特定の偏光状態やその組み合わせによって実現される。人間が見ることがで
きない点を考慮すると、偏光画像を持つことは有益である。カラーで表現される偏光画像
は、人による認識の差異がないので、よく用いられている。これは人が知覚だけでなく、
一般のカラー画像のデータ構造と伝送プロトコルを使うことができるためである。
図 4. 透過構成: 偏光子は光源を直線偏光化された光に変換する。直線偏光化された光が物体を透過すると、通
常は複屈折により、楕円偏光化する。補償器具(λ/4 偏光板など)を装着することもできる。最終的に、偏光カメラ
により画像がキャプチャされる。
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図 5. 反射構成: 偏光子は光源を直線偏光化された光に変換する。直線偏光化され
た光が物体から反射すると、反射光は通常、楕円偏光化する。偏光角度と補償器具
を回転し、最適な性能を実現する。
図 3 は、色で偏光を表現した画像である。プラスチック製の定規を偏光カメラで撮像し
たものである。RGBはそれぞれ 0°(s偏光)、90°(p偏光)、135°偏光に対応している。フ
ィルター無しでキャプチャされた通常画像も比較用にある。見ての通り、偏光を画像化す
ることにより、プラスチック定規の中が圧迫されて密度が高くなっていることがわかる。
これは従来の画像処理では検知できない。
検知能力
マシンビジョン業界は、カメラの検知能力が課題となっている。ラインレートは約 100kHz
にも達し、被写体の分解能はミクロン以下にまで縮小している。Time Delay Integration
方式など様々な方法が開発され、SN 比、分光特性などの改善がされてきた。しかしながら、
材料の物性を見るには、もっと高いコントラストが必要である。偏光は、重要な役割を果
たしている。表面や継ぎ目の変化に対してとても敏感であるからである。位相差検出によ
り、偏光に基づく画像は、光強度に基づく画像よりも、はるかに感度が高い。
透過構成(図 4)は、ガラスやフィルムなど透明な材料によく用いられる。偏光子は光
源を直線偏光化するのに使われる。直線偏光化した光が物体を透過するとき、物体の複屈
折により、楕円偏光化する。λ/4 偏光板などの補償器具を光路上に用いることもできる。
これにより、偏光カメラは画像をキャプチャすることができる。偏光子や補償装置の角度
を変えて、最適な性能に調整することができる。
反射構成(図 5)は光沢がない材料に用いられる。半導体や金属などの材料からの反射光は
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偏光と因果関係を持つ。
偏光子は光源を直線偏光光に変換する。直線偏光化した光が物体から反射された場合、
反射光は一般に楕円偏光となる。偏光子や補償装置の角度を回すことにより直線偏光した
光をカメラに届けることができる。構成は、楕円偏光法と似ている。違いは回転分析器を
使う代わりに、カメラはそれぞれ偏光状態を横方向のセンサーを使って同時にキャプチャ
する。光は点光源よりは線光源が用いられる。
いずれの構成でも、被写体の物性が、欠陥などで変化した場合、偏光状態が他の部分と
比べて変化する。この変化を偏光カメラは、高い感度を持って見つけることができる。
機械によって力が加わると、複屈折が起こり、透過光の偏光状態が変わる。図 6 のメガ
ネでは、ネジに応力がかかっているのが分かる。偏光フィルター無しの画像を見ると、そ
のような圧力は検知されていない。図 7 の表面に傷がある電子回路の画像では偏光画像で
は、コントラスト強調により表面の傷はくっきり見える。
ラインスキャン偏光画像は楕円偏光の力と横方向の解像度を組み合わせたものである。
楕円偏光法は 1970年代に開発された微弱光の技術であり、ナノメートルの何分の一かの長
さで垂直方向の解像度を用いる。膜厚、材料組成、表面分子形状、光学定数、液晶の不良
など材料の特性を決定するのに広く用いられている。 楕円偏光イメージングは、その後に
開発され、一定の横方向の解像度が加わった。しかしながら、点光源であったため、視野
がミクロン単位と狭く、顕微鏡による観察にのみ向いていた。縦方向センサー
と線光源を用いたラインスキャン偏光は、この制約を取り除いた。
ブリュースター角イメージング
楕円偏光における入射角度は、ブリュースター角に近い角度が選ばれる。
θB = arctan (n)
n は物体の屈折率であり、波長と因果関係がある。ガラスの場合、nは約 1.52であり、
θ B ≈ 56°となる。シリコンの場合は n≈3.44 でθB ≈ 74°である(波長域 633nmにて)
ブリュースター角において、p偏光波の反射 rは最小となり、s偏光波と p偏光波の反射
率の差は最大となる。これによりs偏光波の感度は最高となる。ブリュースター角に偏光
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無しで入射し、カメラが鏡面反射角に設置されると、pチャネルでは暗い信号をキャプチャ
し、sチャネルは反射からの通常の信号をキャプチャする。もし完全な p偏光波がブリュー
スター角で入射した場合、同じ角度で設置されたカメラは暗い背景をキャプチャする。欠
陥や傷による表面の差があると、その付近は明るくなる。コントラストが高い画像が得ら
れる。ラインスキャンの今後の課題は視野がセンサーより大きくなると条件を満たすこと
ができなくなる点にある。
まとめると、高い感度の偏光位相検知に横方向の解像度を組み合わせると、ラインスキ
ャン偏光イメージングにより、様々なアプリケーションの次世代ビジョンシステムに必要
な検出能力が得られる。
図 6. (a)メガネの偏光画像 (b)フィルター無しの通常の画像との比較。 周囲のネジによる応
力が、偏光画像の中で見える。これは通常画像では見ることが出来ない。
図 7. (a) 印字された回路基板の偏光画像 (b)フィルター無しの通常画像との比較。
コントラストが強調された偏光画像では、表面の小さな傷が見える。通常画像では見えない。
以上
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補足事項
・本文書は、テレダイン・ダルサ社の技術文書を(株)エーディーエステックが日本語訳しました。 英語の原文と、日
本語訳の間に差異があった場合は、原文の内容を優先致します。
・テレダイン・ダルサ社に偏光技術を使用した製品があります。詳しくは、下記 URLをご覧ください。
http://www.ads-tec.co.jp/imaging/piranha4-polarization/
・本文書に関するご質問は、下記 URLよりお願い致します。
http://www.ads-tec.co.jp/inq/
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