絶縁型パワーデバイスプリドライバーの基礎
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絶縁型パワーデバイスプリドライバーの基礎
(TLP5231 の動作説明と保護機能設定例)
概要
本資料はパワーMOSFET や IGBT のパワーデバイスゲート制御をするゲートドライバーの一種である絶縁型パワ
ーデバイスプリドライバーTLP5231 の基礎について述べたものです。ゲートドライバーを大別すると単機能型ドライバ
ーと多機能型ドライバーがあります。また、これらドライバーはパワーデバイスを直接駆動するものとバッファーを介して駆
動するものがあり、この後者をプリドライバーと呼んでいます。本資料ではデュアル出力を持つプリドライバーTLP5231
ならではの動作の基礎と保護機能について解説します。
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目次
1. 概要 ............................................................................. 3
2. アプリケーション ................................................................ 3
2.1. アプリケーション例 .................................................................................... 3
2.2. インバーターでの応用例 ............................................................................. 3
3. ゲートドライバーの機能的分類 .............................................. 4
4. 絶縁型パワーデバイスプリドライバーの保護機能について ................ 5
4.1. 過電流 DESAT 検出方式 .......................................................................... 5
4.2. DESAT (非飽和) 検出の動作について .......................................................... 6
4.3. ブランキングコンデンサー (CBLANK) の動作について ............................................. 7
4.4. UVLO 機能 (Under Voltage Lock Out:低電圧誤動作防止) ......................... 8
5. プリドライバーTLP5231 の特長 ........................................... 9
5.1. TLP5231 の概要と応用回路例 ................................................................... 9
5.2. TLP5231 と単機能ゲートドライバーの内部構造比較 ........................................ 12
5.3. デッドタイム設計の負荷軽減 ...................................................................... 12
5.4. 保護設計(ソフトターンオフ設計の柔軟性向上) .............................................. 13
5.5. 保護設計(フォルト信号オートリセット) ........................................................ 13
6. TLP5231 を使用した回路設計例 ....................................... 14
6.1. インバーター応用回路例 .......................................................................... 14
6.2. 外付け MOSFET の選定 ......................................................................... 16
6.3. ソフトターンオフ用 MOSFET の選定とソフトターンオフ時間の設定 ........................... 17
6.4. ブランキング容量充電電流と DESAT 検出電圧の設定 ....................................... 18
6.5. ブランキングコンデンサー (CBLANK) の設定 .................................................... 18
7. TLP5231 を使用した動作波形例 ....................................... 20
変更履歴 ......................................................................... 27
製品取り扱い上のお願い ....................................................... 28
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1. 概要、2. アプリケーション、2.1. アプリケーション例、2.2. インバーターでの応用例
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1. 概要
絶縁型パワーデバイスプリドライバーはゲートドライバーカプラーの一種で、パワーデバイスの主流であるパワーMOSFEET と
IGBT のゲートをドライブするためのフォトカプラーです。
パワーMOSFEET と IGBT は数アンペアから数 100 アンペアの大電流と、数 10V から数 100V の高い電圧をスイッチング
動作することで、例えばエレベーターや電気自動車あるいはドローンのモーターコントロールを行うため、現在の生活には欠かせ
ないデバイスです。そのパワーデバイスを動かすタイミングはマイコンに代表されるコントローラーIC より信号出力されますが、例え
ばマイコンでパワーデバイスを直接ドライブすることはできません。パワーデバイスを動かすには数アンペアから10アンペア程度の
電流と、10~30V の電圧が必要ですが、通常のマイコンでこの電流、電圧は扱えません。
ゲートドライバーカプラーはコントローラーIC とパワーデバイスを仲介する専用のアイソレーター(光半導体)で、マイコンが送り
出す数 V、数ミリ アンペアの小さなコントロール信号を、パワーデバイスをドライブするための 10V 以上の出力電圧と数アンペア
の出力電流に増幅して直接パワーデバイスのゲートをオン、オフ制御します。
絶縁型パワーデバイスプリドライバーもゲートドライバーカプラーの一種ですが、後述する特徴のため直接パワーデバイスのゲー
ト端子に接続することはできません。このためプリドライバーとしてカテゴリーを分けています。
なおゲートドライバーカプラーにはパワーデバイスのゲートドライブのみを行う単機能型ゲートドライバーカプラーと、単機能型ゲ
ートドライバーカプラーに各種機能を追加した多機能型ゲートドライバーカプラーがあります(当社では多機能型ゲートドライバー
カプラーをスマート・ゲートドライバーカプラーと呼んでいます)。本アプリケーションノートで取り上げる絶縁型パワーデバイスプリドラ
イバーも保護機能を内蔵しているため、スマート・ゲートドライバーカプラーの類似カテゴリーとなります。
2. アプリケーション
2.1. アプリケーション例
インバーターモーター制御、PV インバーター、EV 充電ステーション、無停電電源装置
産業用インバーター、汎用インバーター、AC サーボアンプ、DC ブラシレスモータードライブ
2.2. インバーターでの応用例
ゲートドライバーは MCU とパワーデバイスモジュール間を絶縁しつつ、パワーモジュールのオンオフを制御します。
図 2 インバーターシステム応用例
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3. ゲートドライバーの機能的分類
パワーデバイスを直接動かす半導体を一般的にゲートドライバーIC と呼び、図 3.1 に示すとおりゲートドライバーカプラーも
このゲートドライバーIC に含まれます。ゲートドライバーIC の中には応用回路に合わせて三相ドライバー、ハーフブリッジドライバ
ー、フルブリッジドライバー、ローサイド/ハイサイドドライバーなどがあります。
この応用回路別分類のさらに大きな分類として、コントローラーIC とパワーデバイスの間を電気的に分離する絶縁型とそうで
はない非絶縁型の 2 種類が存在します。絶縁型と非絶縁型はパワーデバイスの耐電圧で使い分けられており、一般的に
100V 以下の低電圧 MOSFET や 200~300V の MOSFET の場合は非絶縁型が使われ、600V の高耐圧 MOSFET
の場合は非絶縁型か絶縁型のどちらか、それ以上の例えば 1200V 耐圧 IGBT の場合は絶縁型が使われます。
図 3.1 ゲートドライバーの種類
絶縁が必要な用途でも非絶縁型のゲートドライバーIC を用いてパワーデバイスを駆動することは可能ですが、絶縁のために別
途アイソレーターが必要となります。これはコントローラーIC とパワーデバイスの間の半導体部品が 1 つ増えることを意味します。
コントローラーIC コントローラーIC
絶縁型 パワー 非絶縁型 パワー
アイソレーター
ゲートドライバーIC デバイス ゲートドライバーIC デバイス
図 3.2 絶縁型のゲートドライバーIC 使用時 図 3.3 非絶縁型のゲートドライバーIC 使用時
ゲートドライバーカプラーは絶縁型のゲートドライバーIC で、その絶縁性能の高さと使い勝手より主に 600V 耐圧のパワー
MOSFET や 1200V 耐圧の IGBT などと組み合わせて使われています。
また絶縁電圧は少し低くなりますがチップ内で電気的分離を行っている高耐圧 IC もあり、同じく 600V の高耐圧 MOSFET
や 1200V 耐圧の IGBT などと組み合わせて使われています。さらに近年では光絶縁と同等性能の磁気、容量絶縁によるデ
ジタルアイソレーター型ゲートドライバーIC も商品化されています。
本アプリケーションノートでは光絶縁のゲートドライバーカプラーを取上げますが、その中には単機能型とスマート・ゲートドライバ
ーカプラーが存在しますので、その構造の差異について 5.2 章で説明します。
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4. 絶縁型パワーデバイスプリドライバーの保護機能について、4.1. 過電流DESAT検出方式
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4. 絶縁型パワーデバイスプリドライバーの保護機能について
概要で述べたとおり絶縁型パワーデバイスプリドライバーTLP5231 はスマート・ゲートドライバーカプラーの類似カテゴリーでパ
ワーデバイスの保護機能を内蔵しています。ここでは一般的な保護機能について説明します。
4.1. 過電流 DESAT 検出方式
ゲートドライバーカプラーの主な応用であるインバーター回路は通常、パワーデバイスが上下 2 段で構成されてそれが 3 列あ
るため、ゲートドライバーカプラーは合計 6 個使われます。この時、もしも図 4.1 のように直列に配置した上段下段のパワーデ
バイスが何らかのトラブルで同時にオン状態になると、数 100V の高電圧電源を短絡する異常事態になります。この異常事態
は一般的にアーム短絡と呼ばれ、数 100A 以上の大電流が流れ発煙、発火、破壊を引き起こす可能性があります。
400~600V
図 4.1 インバーター回路のアーム短絡異常
高い電圧と大きな電流を扱うパワーデバイスで短絡異常により発生する過電流からの保護は発煙、発火、破壊防止の観
点から非常に重要です。パワーデバイスに過電流が流れてから破壊するまでの時間を短絡耐量と呼び、短絡耐量以内に過
電流を遮断する必要があります。
短絡耐量はパワーデバイスにより異なりますが、最近ではパワーデバイスに内蔵された半導体チップの微細化が進み、その結
果 1~5μs 以内で過電流を遮断するよう短時間での保護が必要な例が増えています。
絶縁型パワーデバイスプリドライバーはパワーデバイスに何らかの異常が発生し過大な電流が流れた場合に、その電流に連
動して増加するパワーデバイスの電圧降下をモニターすることで異常を検知し、パワーデバイスの動作を止める過電流保護機
能を持っています。
図 4.2 のとおり高耐圧ダイオードを介して IGBT のコレクター・エミッター間、MOSFET のドレイン-ソース間の電圧をモニター
する方式で、モニターしたパワーデバイスの電圧降下を、そのパワーデバイスの I-V 静特性カーブから電流に変換して推測しま
す。このため使用するパワーデバイスの IC-VCE カーブまたは ID-VDS カーブは必須となります。
また、コレクターまたはドレイン端子を直接モニターするため、数 100V あるいは 1000V 以上の高耐圧ファストリカバリー ダ
イオードも必ず挿入します。この方式は DESAT (de saturation : 非飽和) 検出方式と呼ばれ、電流を直接モニターする
ことは困難ですが、比較的簡素、安価に構成できる特長があります。
図 4.2 VCE(sat) DESAT 検出方式電流モニターイメージ図
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4.2. DESAT (非飽和) 検出の動作について
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4.2. DESAT (非飽和) 検出の動作について
TLP5231 を例に、DESAT 検出時の保護動作のシーケンスを図 4.3 に示します。
① パワーデバイス (ここでは IGBT) に過電流が発生。
② 過電流に応じて VCE(sat)が上昇し、DESAT スレッショルド電圧 7.5V(最小)を超えると保護動作を開始。
③ ソフトターンオフ用外付け MOSFET をターンオンして緩やかに IGBT のゲートを放電、IGBT を OFF 状態へ遷移。
④ コントローラーIC に異常発生(FAULT)信号を伝送。
図 4.3 DESAT 検出時の保護動作シーケンス
次に DESAT 検出の動作について説明します。
図 4.4 は DESAT をモニターする電流のループを示したものです。
IGBT が正常にターンオンしてコレクター電流を流しているとき、DESAT 端子は定電流源としてブランキング容量充電電流
ICHG を出力し、抵抗 RDESAT と高耐圧ダイオード DDESAT を経由して IGBT のコレクター・エミッター間にモニター電流を重畳しま
す。
図 4.4 DESAT 検出方式の動作説明
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4.3. ブランキングコンデンサー (CBLANK) の動作について
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DDESAT については流れる順方向電流は ICHG だけなので小容量(100mA 程度)のダイオードで十分ですが、IGBT の
コレクター・エミッター間電圧 (VCES)より十分高い逆耐圧を持ち、ノイズ誤検出対策のために接合容量の小さいダイオードを選
定してください。ダイオードを直列にすると接合容量は直列個数分の 1 となりますので、接合容量低減の観点からは効果的で
す。ただし IGBT オフ時の逆耐圧は、ダイオード個々のリーク電流のばらつきなどで直列にしたダイオードに均等に印加されない
ことがあります。したがって IGBT の VCES より高い逆耐圧を持つダイオードが必要です。
4.3. ブランキングコンデンサー (CBLANK) の動作について
前項では DESAT 端子からブランキング容量充電電流(ICHG)を出力し、IGBT の Vce をモニターすることで過電流発生有無
が検出できることを説明しました。ここでは、過電流検出回路を設計する上で注意しなければならない点を説明します。
DESAT 端子は高耐圧のダイオード(DDESAT)を通して IGBT のコレクター端子に接続されています。IGBT が ON している際
に外来ノイズによって IGBT コレクター電圧が変動すると、DDESAT の接合容量を介して DESAT 電圧が変動する場合がありま
す。この DESAT 電圧変動が DESAT スレッショルド(8.0V 標準)を超えてしまうと、保護動作を開始し IGBT をソフトターン
オフさせてしまいます。TLP5231 を含む東芝のスマートゲートドライバーカプラーの DESAT 端子にはノイズフィルターが搭載さ
れていますが、高電圧インバーター回路で発生するノイズは大きくなりがちであるため、図 4.5 に示すブランキングコンデンサー
(CBLANK)を追加し、ローパスフィルターを形成することを推奨します。
図 4.5 DESAT 回路 容量(CBLANK)追加によるノイズフィルター構成
この CBLANK 追加によるトレードオフとして、短絡異常発生時に VCE(SAT)が DESAT しきい値電圧まで達する時間に遅延が
生じます。
短絡発生から DESAT しきい値電圧までの時間をブランキング時間(tBLANK)とすると、スマートゲートドライバーカプラーと
IGBT の電流電圧動作イメージは図 4.6 のようになります。
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4.4. UVLO機能 (Under Voltage Lock Out:低電圧誤動作防止)
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図 4.6 短絡発生時の IGBT とスマートゲートドライバーカプラーのタイミングチャートイメージ
短絡による過電流で IGBT の VCE(SAT)が急上昇すると、定電流源の電源電圧を超えてしまい ICHG は IGBT に流れること
ができなくなります。
電流ループが途切れるため DESAT 端子電圧は短時間で開放電圧に向けて上昇し、しきい値電圧を超え保護に入ります。
この時 CBLANK があると行き場を失った ICHG が流れ込むため、その充電時間分の遅延が発生します。
4.4. UVLO機能 (Under Voltage Lock Out:低電圧誤動作防止)
この機能はゲート電源の電圧をモニターしており、ドライバーカプラーごとに設定されている動作しきい値電圧 UVLO スレッシ
ョルド (VUVLO) を下回ると、図 4.7 のとおり VO または VOUT 端子が Low レベルに固定されゲート出力が遮断されます。
図 4.7 ゲートドライバーカプラーの UVLO 動作例
これはパワーデバイスが不十分なゲート電圧でコレクター~エミッター間、あるいはドレイン~ソース間に電流を流すことを防止
する機能で、過熱による破壊を防ぐ目的があります。特に上段のゲートドライブ回路の電源はフローティング電源が必要になり
ますので、例えばブートストラップ回路を用いてコンデンサーを電源とする場合、ゲート回路の消費電流でコンデンサーの電圧が
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5. プリドライバーTLP5231の特長、5.1. TLP5231の概要と応用回路例
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低下して UVLO スレッショルド (VUVLO) を下回らないよう注意が必要です。
なお TLP5231 は2次側の正電源(VCC2 – VE), 負電源(VE – VEE)それぞれの電圧をモニターしており、これらの
電源電圧が UVLO スレッショルドより低いときはゲート出力を停止し、正電源電圧が UVLO スレッショルドを超え、かつ負電源
電圧も UVLO スレッショルドを超えたときにゲート電圧を出力します。UVLO 解除後に TLP5231 は動作を開始しますので、
UVLO は全ての機能より優先されます。
LED入力信号がHighレベルの状態で図4.8のような電源電圧が入力される例を考えます。この場合、正電源側(VCC2
- VE)は先に UVLO しきい値 VUVLOP+を超えていますが負電源側(VE - VEE)は UVLO しきい値 VUVLON+を超えていま
せん。したがって FAULT は High レベルとなり、1次側に異常であることを知らせます。
図 4.8 電源電圧、VOUTP、VOUTN、FAULT 出力の関係
5. プリドライバーTLP5231 の特長
5.1. TLP5231 の概要と応用回路例
TLP5231 は、過電流検出機能やソフトターンオフ機能を内蔵した中大電流 IGBT/MOSFET の駆動用フォトカプラーで
す。中大電流 IGBT のコレクター電圧あるいは MOSFET のドレイン電圧をモニターする DESAT 短絡検出で過電流保護を
提供します。この機能により過電流を検出し IGBT/MOSFET ゲート電圧をソフトターンオフさせます。このソフトターンオフによ
り、パワーデバイスのハイサイド/ローサイド貫通短絡による致命的な過電流を防ぎます。
さらに、従来のスマート・ゲートドライバーカプラーでは UVLO 検出時には動作停止するだけでしたが、この TLP5231 では
UVLO 検出時にも1次側にフォルト信号を出力することでゲート電源異常もモニターできる製品です。
また、TLP5231 は、P チャネルおよび N チャネルのコンプリメンタリーMOSFET バッファー(増幅用)を介して中大電流 IGBT
およびMOSFETのゲートを駆動するため、バッファーMOSFET ゲートの充放電時のみ電流を流し低消費電力化が図れます。
さらに、外付けのコンプリメンタリーMOSFET バッファーのサイズを変えるだけで、さまざまな IGBT/MOSFET で必要なゲート電
流を作ることが可能です。TLP5231 と MOSFET バッファー、IGBT/MOSFET を組み合わせたプラットフォームにすることで、
システムのパワーサイズに応じたラインアップをカバーできるため設計負荷の軽減に貢献します。
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パワー素子
バッファー(増幅用) ソフトターンオフ用
図 5.1 TLP5231の応用回路例
Ext-PMOS : P チャネル MOSFET (電流バッファー用)
Ext-NMOS : N チャネル MOSFET (電流バッファー用)
GMOS : N チャネル MOSFET (ソフトターンオフ制御用)
注: この応用回路例は参考例であり、量産設計に際しては十分な評価を行ってください。また、工業所有権の使用の
許諾を行うものではありません。
TLP5231は、外付けのP/NチャネルMOSFETを介してパワーデバイスを駆動するプリドライバーとしてお使いいただけるよう
に、これらのMOSFETを別々に駆動させるための出力を2つ有しています(図5.2.a)。
シングル出力タイプのゲートドライバー(図5.2.b)の場合、定格の大きなパワーデバイスのゲートを駆動するための外付け
MOSFETの組み合わせは、上段がNチャネル、下段がPチャネルとなってしまいます。このとき、ハイレベル電圧がNチャネル
MOSFETのVDS(ON)分下がるため、パワーデバイスのゲートに印加される電圧はフルスイングとなりません。
デュアル出力タイプの場合(図5.2.a)はP/NチャネルMOSFETを別々に駆動させるため、パワーデバイスのゲート電圧のフ
ルスイング動作が可能です。
図 5.2.a デュアル出力ゲートドライバー 図 5.2.b シングル出力ゲートドライバー
当社はシングル出力タイプのスマート・ゲートドライバーカプラーTLP5214Aも提供しています。表5は、TLP5214Aと
TLP5231の機能を比較したものです。また、図5.3に、周辺回路の違いを示しています。
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表 5 TLP5231とTLP5214Aの機能の違い
項目 TLP5231 TLP5214A
デュアル出力(負論理)
2次側出力 シングル出力(正論理)
*外付け P/N チャネル MOSFET 駆動
VCC2, VEEの 2 レール
電源電圧(2次側) VCC2(正電源)、VE(共通)、VEE(負電源)の 3 レール
(VEE=VEで使用可)
出力ピーク電流(max) ±2.5 A ±4.0 A
外付け P/N チャネル MOSFET
アクティブタイミング制御(注 1) -
同時 ON 防止
パワー素子非飽和検出 内蔵(DESAT-VE 間検出) 内蔵(DESAT-VE 間検出)
ソフトターンオフ 制御可(外付け) 固定(内蔵)
正/負電源用 正電源用のみ
UVLO 機能
VE 基準で VCC2 と VEEに対して 2 系統の UVLO 回路搭載 (VE 基準 VCC2)
ミュート時間(保護時) (注2) 0.68 ~ 1.7 ms 7 μs (最小)
VCE(sat)非飽和検出時
フィードバック機能 VCE(sat)非飽和検出時
UVLO の状態
(注1)アクティブタイミング制御:外付けのPチャネル、NチャネルMOSFETが同時ONしないように制御します。Nチャネル
MOSFETがオフになってからPチャネルMOSFETがオンし、PチャネルMOSFETがオフしてからNチャネルMOSFET
がオンするような制御をします。
(注2)ミュート時間:保護機能が働いた場合、一定時間入力LED信号を受け付けない時間。この間、保護動作を維
持します。
図 5.3.a TLP5231の周辺回路 図 5.3.b TLP5214Aの周辺回路
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5.2. TLP5231と単機能ゲートドライバーの内部構造比較、5.3. デッドタイム設計の負荷軽減
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5.2. TLP5231 と単機能ゲートドライバーの内部構造比較
光絶縁方式であるTLP5231および単機能ゲートドライバーは確実な絶縁を提供するために、発光素子―受光素子間を
エポキシ樹脂で封止し、かつ絶縁距離0.4mmを担保した構造となっています。産業機器から各種IT機器まで幅広い用途で
安全規格に対応することができます。
LED
フィードバック用 IC LED
ドライバーIC LED ドライバーIC
図 5.4.a スマート・ゲートドライバーカプラー 図 5.4.b 単機能ゲートドライバーカプラー
の内部透視図 の内部透視図
スマート・ゲートドライバーカプラーは図5.4.aのとおり周辺回路を取り込んだドライバーICとフィードバック用ICをそれぞれ光
結合しています。一方、単機能ゲートドライバーカプラーの保護機能は4章で説明したUVLO機能のみとなっており、内部構造
も図5.4.bのようにシンプルな構造となっています。それゆえ、システムとしての保護機能は必要に応じて、ゲートドライバーとは
別に回路設計をする必要があります。
5.3. デッドタイム設計の負荷軽減
TLP5231はMOSFETバッファーQ1、Q2制御用に2本の出力ラインを持ち、Q1、Q2それぞれのON/OFF信号に時間
差(非オーバーラップ時間)を設けることで、Q1、Q2が共にOFF状態になるデッドタイムを確保しています。バイポーラートラン
ジスターでのバッファー構成で困難であったデッドタイム設計を不要とし、同時オン発生でのスイッチングロスを防ぎます。
■ Pチャネル、Nチャネルコンプリメンタリ-バッファーMOSFETの駆動に適したアクティブタイミング制御内蔵デュアル出力。
■ バッファーMOSFETのデッドタイム設計が格段に容易になりスイッチング損失軽減を支援。
図 5.5 デッドタイムのタイミングイメージ
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5.4. 保護設計(ソフトターンオフ設計の柔軟性向上)、5.5. 保護設計(フォルト信号オートリセット)
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5.4. 保護設計(ソフトターンオフ設計の柔軟性向上)
TLP5231は異常が発生した場合のソフトターンオフ用に追加のMOSFETが必要です。このソフトターンオフ用MOSFET
はバッファーMOSFETQ2と配線(ライン)を共有しないので、通常のオフ動作とのトレードオフを気にせずフレキシブルに設計でき
ます。なお短絡耐量が低い新素材パワーデバイス (例:SiC MOSFET) を保護する場合、現在のIGBTとは逆に高速でのタ
ーンオフを要求されるケースがあります。その場合ソフトターンオフ用のMOSFETのサイズを大きくすることで対応が可能です。
■ 過電流発生時のゲートソフトターンオフ時間を外部回路構成で制御可能。
■ ソフトターンオフ用MOSFETを独立した外付けにしたことで通常オフ動作からも独立させ、通常オフ動作のスピード低下
懸念を払しょく。
V
CC2
V
BUS
V
CC1
I TLP5231
F
V
E バッファー
MOSFET
Q1 IGBT
Q2 V
V E
E
独立設計
通常ターンオフ用内蔵 MOSFET ~2.5A
ソフトターンオフ用 MOSFET
通常オフ動作用ラインとソフトターンオフ用
ターンオフ時間のフレキシ
ラインを独立分離させる V
EE
ブルな調整が可能
図 5.6 ソフトターンオフ回路接続
5.5. 保護設計(フォルト信号オートリセット)
高電圧を制御するパワーデバイスのゲート回路はノイズが非常に多く、DESATモニターの誤検知もしばしば発生します。異
常による過電流とノイズ誤検知を切り分けるため、一例としてフォルト信号を複数回検知した場合にシステムを止める方法があ
ります。この場合、異常停止からのリカバリーがオートリセットタイプであれば、フォルト信号に対し毎回MCUからリセット信号を出
す必要はありません。特定回数のフォルト信号をカウントしたらシステムを停止すればよいので動作を簡潔にします。結果、シス
テム運用の安定性が向上します。
■ コレクター電圧(DESAT)モニターによる過電流検出時とUVLO検知時に1次側へフォルト信号を出力。
■ コントローラーからのリセット信号配線が不要。
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6. TLP5231を使用した回路設計例、6.1. インバーター応用回路例
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6. TLP5231 を使用した回路設計例
6.1. インバーター応用回路例
図 6.1 は、TLP5231 のインバーター応用回路例です。U 相、V 相、W 相の3相がありますが、回路構成は全ての相で共
通のため、図 6.1.b と図 6.1.c には U 相を代表として記載しています。表6.1 は本回路例での出力仕様です。
表 6.1 出力仕様
正電源電圧 (VCC2) 15 V
負電源電圧 (VEE) -8 V
駆動周波数 20 kHz
※ 出力駆動周波数はモーターとの接続配線長の影響があるため、最終製品で周波数を調整し確認してください。
U 相
V 相
W 相
図 6.1.a TLP5231 のインバーター応用回路例 全体ブロック図
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図 6.1.b TLP5231 のインバーター応用回路例 U 相(ハイサイド)
図 6.1.c TLP5231 のインバーター応用回路例 U 相(ローサイド)
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図 6.1.d TLP5231 のインバーター応用回路 MCU 部分の例
6.2. 外付け MOSFET の選定
パワーデバイスゲート駆動用の外付けバッファーMOSFET(Ext-PMOS、Ext-NMOS)の出力電流定格 Ipw_charge の選
定は、パワーデバイスを駆動するのに必要なゲート電荷 Qg と充電時間 tpw_charge により算出します。
??
???_?ℎ???? =
???_?ℎ????
例として 1200V/600A の IGBT を駆動する場合を考えます。Qg を 3500 nC、充電時間を 500 ns とすると、
3500??
???_?ℎ???? = = 7?
500??
となります。ピーク電流はこの 2 倍程度とします。表6.2に動かしたいパワーデバイスに応じた外付けバッファーMOSFET と
ソフトターンオフ用 MOSFET の選定例を示します。なお、これら MOSFET の耐圧は使用する電源電圧|VCC2―VEE|に応じ
て選定してください。
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6.3. ソフトターンオフ用MOSFETの選定とソフトターンオフ時間の設定
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表 6.2 外付け MOSFET の選定例
回路図内の部品番号 Q3/Q6 Q1/Q4 Q2/Q5
パワーデバイス IGBT Ext-PMOS Ext-NMOS GMOS
パターン1 600V/ 50A (Qg=300nC) -2A(DC) 2A(DC) 2A(DC)
パターン2 1200V/ 200A (Qg=2000nC) -5A(DC) 5A(DC) 5A(DC)
パターン3 1200V/ 600A (Qg=3500nC) -10A(DC) 10A(DC) 10A(DC)
6.3. ソフトターンオフ用 MOSFET の選定とソフトターンオフ時間の設定
DESAT 端子によるパワーデバイスの短絡(VCE(sat))検知後に、そのゲートをゆっくりとオフさせるため外付けの MOSFET
(GMOS)を使用します。ゲートをゆっくりとオフさせることで、配線の寄生インダクタンスによるスパイク電圧(=|L・di/dt|)
を抑制し、パワーデバイスを破壊しないようにします。
パワーデバイスゲート電荷を引き抜く必要があるため、ソフトターンオフ用 MOSFET(GMOS)の定格は、表 6.2 に示す
ように Ext-NMOS と同等のゲート電圧・ドレイン電流定格の N チャネル MOSFET を使用することを推奨します。
パワー素子のゲート電圧 VG は以下の式に示すように、時間とともに指数関数的に減少します。
−?
?? = (???2 + |???|) × ??? ( ) − |?
? × ? ??|
?? ?
ここで、
t: 時間、Cin: パワーデバイスの入力容量、Rs: パワーデバイスのゲート-ソフトターンオフ MOSFET 間の抵抗
ただし、外付けバッファーMOSFET の出力電圧はフルスイング動作のため初期値は電源電圧とし、GMOS の RDS(on)は十分
に小さいため無視します。
例として Cin=40nF、Rs=180Ω、VCC2=15V、VEE=-8V の場合には図 6.2 ように VG が変化します。
図 6.2 パワーデバイスのゲート電圧の変化例(ソフトターンオフ)
また、例えば VG がパワーデバイスの Vth と比べて十分に低く、2V まで低下する時間をソフトターンオフ時間 tSTO とした場
合、上式を変形し、
2 + |???| 2 + |−8|?
???? = −??? × ?? × ln ( ) = −40?? × 180? × ln ( ) ≒ ?. ???
???2 + |???| 15? + |−8|?
と tSTO を計算することができます。
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6.4. ブランキング容量充電電流とDESAT検出電圧の設定、6.5. ブランキングコンデンサー (CBLANK) の設定
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6.4. ブランキング容量充電電流と DESAT 検出電圧の設定
ブランキング容量充電電流 ICHG による DESAT モニター回路の計算は以下のとおりです。
仮に IGBT を GT40QR21 として、コレクター電流の設計値を 20A とした場合、GT40QR21 のコレクター電流-コレクタ
ー・エミッター間電圧特性 図 6.3 の VGE=15V 曲線より VCE(SAT)は約 1.8 V と見積もれます。なお VGE=15V 曲線は一般
的な IGBT の最小ゲート設計電圧として選択しています。さらに DESAT ダイオード DDESATの VF を 2.4V 、また TLP5231
の DESAT 端子からの ICHG ≒ 540μA、RDESAT を 3kΩ とすると、DESAT 端子と VE 端子 (IGBT のエミッター電位) に発
生する電圧降下は
VDESAT(ON) = VCE(SAT) + VF(DDESAT) + (RDESAT × ICHG)
= 1.8 V + 2.4 V + (3000Ω × 540μA) = 5.82 V
となります。
図 6.3 IGBT (GT40QR21) の IC-VCE 代表特性カーブ
今、何らかの理由で短絡が発生し、IGBT に流れる電流が静特性カーブに沿って増加した場合、VDESAT(ON)は 5.82V か
ら増加していきます。
TLP5231 はこの VDESAT(ON) が 7.5V(最小)を超えると異常として判断し、保護機能を動作させます。
この時の GT40QR21 の VCE は、
VCE(SAT) = VDESAT(ON) - VF(DDESAT) - (RDESAT × ICHG)
= 7.5V - 2.4V - 1.62V = 3.48V
ですので、静特性カーブよりコレクター電流が 80A を超えた後に DESAT 状態と認識して保護動作に入ります。
6.5. ブランキングコンデンサー (CBLANK) の設定
4.3 章で IGBT の短絡耐量 tSC よりもブランキング時間 tBLANK を短くする設定することを説明しました。
CBLANK が充電開始してから、保護動作が起動するまでの時間 tBLANK は、IGBT の飽和電圧 VCE(sat)と DESAT ダイオ
ードの順方向電圧 VF、RDESAT の電圧降下より計算されます。
tBLANK = { CBLANK × ( VDESAT(ON) - ( VCE(sat) + VF + ICHG × RDESAT ) ) } / ICHG
なお tBLANK はソフトシャットダウンの時間と合わせて、IGBT の短絡耐量 tsc より短くする必要があります。
仮に CBLANK を 100pF として前項からの事例に照らし合わせると
tBLANK = {CBLANK × (VDESAT(ON) - (VCE(sat)+VF+ICHG×RDESAT))}/ICHG
= {100pF × (7.5V - (1.8V + 2.4V + 540μA × 3kΩ))}/540μA
= {100pF × (7.5V – 5.82V)} / 540μA = 0.31μs
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となります。1μs 以下ですので短絡耐量が 5μs 以上であれば問題無い遅延ですが、例えばノイズ対策を強化して CBLANK
を 500pF に、また VF を 1V まで低減した場合、には
{500pF × (7.5V - (1.8V + 1.0V + 540μA × 3kΩ))}/ 540μA
= {500pF × (7.5V – 4.42V)} / 540μA = 2.85μs
まで遅延するので設計の際に注意が必要です。
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7. TLP5231を使用した動作波形例
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7. TLP5231 を使用した動作波形例
表 7.1 のパワーデバイスと外付けバッファーMOSFET、ソフトターンオフ用 MOSFET を用いて図 7.1 の回路でダブルパルス
動作評価を実施しました。タブルパルス試験は、MOSFET や IGBT などのパワーデバイスのスイッチング特性を評価するために
広く用いられている試験方法です。今回 TLP5231 をゲートドライバーにしてダブルパルス試験を行い、IGBT のスイッチング波
形を確認しました。評価用基板の回路は図 7.2、定数設定は表 7.2 のとおりです。
表 7.1 動作試験使用デバイス
パワーデバイス バッファーMOSFET ソフトターンオフ用 MOSFET
IGBT Ext-PMOS Ext-NMOS GMOS
富士電機製 IGBT モジュール TPC8407 TPC8407 SSM3K333R
7MBR150XRE120-50(1200V/ 150A) ID(MAX)=-7.4A ID(MAX)=9A ID(MAX)=6A
図 7.1 通常動作確認回路
図 7.2 評価用基板回路
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