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AC モータ制御の基礎

製品カタログ

The AC Motor Controller

【目次】
はじめに
本書に関して
AC ドライブ(インバータ)の原理
本書の最新性
著作権
本書の内容と用語
関連資料
AC 電動車両システム概要図
AC 電動駆動システムの概要
AC 駆動システムの概要
AC コンポーネント
AC 誘導モータ
AC ドライブ開発の歴史
AC モータシステムの優位点
AC 誘導モータについて
AC 誘導モータの構造
誘導モータ制御関連用語
回転磁界を発生させる
ロータに発生するトルク
すべりの役割
誘導モータの簡易モデル
誘導モータの制御
はじめに
固定交流電源によるモータ駆動
AC ドライブ(インバータ)によるモータ駆動
AC ドライブ(インバータ)の原理
モータ制御の概要
ブロック図
CAN コントローラ(can controller)
速度制御(Speed control)
界磁制御(Flux control)
すべりとステータ周波数の推定(Slip and stator frequency estimation)
電流制御と SPWM-sym (Current control and SPWM-sym)
動力変換部(Power conversion section)
速度センサーインターフェイス(Speed sensor interface)
制御電源(Logic power supply)

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このカタログについて

ドキュメント名 AC モータ制御の基礎
ドキュメント種別 製品カタログ
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ACモータ制御の基礎 The AC Motor Controller Rev.1 Ver.1 Date Released: 21 Sep 2009 日本語版作成:2018年 9月 Item. No. 1P111329
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 Technical changes to improve the performance of the equipment may be made without notice! Printed in Sweden. All rights reserved. No part of this work may be reproduced in any form (by printing, photocopying, microfilm or any other method) or processed, copied or distributed by electronic means without the written permission of Danaher Motion. ©2008 Danaher Motion 2 Item. No. 1P111329 Rev.1 Ver.1
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 目次 1 はじめに .................................................................................................................... 4 1.1 本書に関して ................................................................................................... 4 1.1.1 本書の最新性 ................................................................................................ 4 1.1.2 著作権 .......................................................................................................... 4 1.1.3 本書の内容と用語......................................................................................... 4 1.1.4 関連資料 ....................................................................................................... 4 2 AC電動車両システム概要図 ........................................................................................ 5 3 AC電動駆動システムの概要 ........................................................................................ 6 4 AC 駆動システムの概要............................................................................................... 7 4.1 ACコンポーネント .......................................................................................... 7 4.1.1 AC 誘導モータ ............................................................................................. 7 4.1.2 AC ドライブ開発の歴史 ............................................................................... 7 4.1.3 AC モータシステムの優位点 ........................................................................ 7 4.2 AC誘導モータについて ................................................................................... 9 4.2.1 AC誘導モータの構造 ................................................................................... 9 4.2.2 誘導モータ制御関連用語 ............................................................................ 11 4.2.3 回転磁界を発生させる ............................................................................... 11 4.2.4 ロータに発生するトルク ............................................................................ 12 4.2.5 すべりの役割 .............................................................................................. 13 4.2.6 誘導モータの簡易モデル ............................................................................ 13 4.3 誘導モータの制御 .......................................................................................... 14 4.3.1 はじめに ..................................................................................................... 14 4.3.2 固定交流電源によるモータ駆動 ................................................................. 15 4.3.3 AC ドライブ(インバータ)によるモータ駆動 ......................................... 16 5 ACドライブ(インバータ)の原理 ........................................................................... 20 5.1 モータ制御の概要 .......................................................................................... 20 5.1.1 ブロック図 ................................................................................................. 20 5.1.2 CAN コントローラ(can controller) ......................................................... 20 5.1.3 速度制御(Speed control) ........................................................................ 21 5.1.4 界磁制御(Flux control) ........................................................................... 21 5.1.5 すべりとステータ周波数の推定(Slip and stator frequency estimation) . 21 5.1.6 電流制御と SPWM-sym (Current control and SPWM-sym) ........................ 21 5.1.7 動力変換部(Power conversion section) ................................................. 21 5.1.8 速度センサーインターフェイス(Speed sensor interface) ..................... 23 5.1.9 制御電源(Logic power supply) ............................................................... 23 Rev.1 Ver.1 Item. No. 1P111329 3
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 1 はじめに 1.1 本書に関して 1.1.1 本書の最新性 本書はこれより以前の全ての改訂版に代わる最新版です。弊社では印刷時点において、本書 の内容が最新の物であるように努力いたしますが、製品改良の結果、予告なく本書の内容を 変更または修正することがあります。 1.1.2 著作権 このマニュアルは弊社によって 2005 年に著作権が保護され、 全ての権利を留保しています。 弊社の書面による許可なく、このマニュアルの全体または一部を複製することや、他のメデ ィアへの転載および他言語への翻訳を禁じます。 1.1.3 本書の内容と用語 このマニュアルでは ACモータ制御の基礎についてご紹介しています。弊社の製品インバー タは、本書では”ACドライブ”または”ドライブ”と称します。 1.1.4 関連資料 A mobility system solution, document name 89A21009A. 4 Item. No. 1P111329 Rev.1 Ver.1
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 2 AC電動車両システム概要図 産業用電動車両向けに、インモーションでは各種コンポーネントを提供しており、それらに よってシームレスなシステムを構築することが可能です。インモーションのコンポーネント の通信プロトコルは CANopenです。よって、機能や特性を各車両に適合するように改変す る事が可能です。電動システムはより広範囲のソフトウェアシステムとの通信が可能で、フ リートマネージメント、オーダーマネージメント、トラフィック制御などを可能にします。 本書では、DCと比較した ACモータの利点とその制御の基礎をご紹介しています。ACモー タと ACドライブ(インバータ)を組み合わせて車両を作り上げることができます。各コン ポーネントの詳細については、個別のマニュアルをご覧ください。 下図は典型的な電動フォークリフトを例に、ACシステムの構成を図で表しています。 ステアリングドライブ(インバータ) 走行ドライブ(インバータ) 荷役ドライブ(インバータ) ステアリングドライブどギア 走行モータ 荷役モータ 車両マスターコントローラ ワイヤーガイダンスユニット ディスプレイ ブレーキ CANバス Rev.1 Ver.1 Item. No. 1P111329 5
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 3 AC電動駆動システムの概要 図 1は典型的な AC電動駆動システムで、通信は CANを基礎とした CANopen通信です。荷 役ドライブ(lift drive)が荷役モータ(lift motor)を、走行ドライブ(traction drive)が駆動 ホイールに接続された走行モータ(traction motor)を制御しています。ACドライブは、バッ テリーからの DC電源を 3相 AC電源に変換し、指令を受けた通りに誘導モータを動かすため の周波数と電流値に調整しています。 図 1. 電動車両駆動システム メインコンタクタ(main contactor)は、通常車両マスターコントローラ(truck controller) によって制御され、バッテリーから ACドライブの動力変換部へ電源を供給し、エラーの際 には供給を停止する役割を担っています。オンボードヒューズは動力変換部の短絡から AC ドライブを保護しています。 PTC (Positive Temperature Coefficient) 抵抗(PTC resistance)は、突入電流から ACドライ ブを保護しています。システムに電源が投入された際には、ACドライブのフィルターコンデ ンサバンクに大量の突入電流が流れますが、PTC抵抗がこれを制限しています。現在弊社の ACドライブには突入電流からの保護用 PTC抵抗が内蔵されています。 キースイッチは ACドライブの制御基板に電源を供給する役割を持っています。 各モータは ACドライブに、回転速度、回転方向、温度の情報をフィードバックし、ACドラ イブはそれらによってモータの監視や制御を行っています。モータには速度センサー(エン コーダ)が内蔵されていて、速度と回転方向のフィードバック信号を送ります。温度センサ ー(PTC 抵抗)はステータ巻き線に埋め込まれていて、モータの温度情報を発信します。 車両マスターコントローラ(truck controller)は、操縦者の制御を受けて、速度コマンド、ブ レーキコマンド、その他のコマンドを CANバス経由で ACドライブに指令します。車両マス ターコントローラは常に稼働状態を監視しており、警告やエラーの情報を受けて、それに対 処する動作を指令します。重大なエラーの場合は、車両マスターコントローラがメインコン タクタを開き、バッテリーから ACドライブへの動力電源を遮断します。 6 Item. No. 1P111329 Rev.1 Ver.1
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 4 AC 駆動システムの概要 4.1 ACコンポーネント 4.1.1 AC 誘導モータ 1880年代に発明された AC 誘導モータは今でも産業における主要な動力です。誘導モータの効率(電気エ ネルギーから動力エネルギーへの変換効率)は約 90%です。 4.1.2 AC ドライブ開発の歴史 ACドライブ(インバータ)は、AC誘導モータの利点を活かそうという意図の下に開発されました。マイ クロエレクトロニクスとパワー半導体技術の急速な発展が ACドライブを可能にし、1980年代初頭までに は、従来の DCモータシステムと比べても遜色ない ACモータとドライブの組み合わせが誕生しました。 その後たった数年間で工作機械や産業用ロボットが ACモータに切り替っていきました。ACドライブは周 波数が可変で調整可能、幅広いトルクと速度が実現でき、信頼性も高く、熱性能も改良されていきました。 近年制御技術がさらに発達し、速度とトルクの制御が大幅に進化したベクトル制御も生まれました。これ により AC誘導モータの効率がアップし、ダイナミックなパフォーマンスが可能になりました。 4.1.3 AC モータシステムの優位点 4.1.3.1 誘導モータ ACシステムの優位点について述べる際には、まず AC誘導モータの特性を述べる必要があります。AC誘 導モータの構造は、同等サイズの DCブラシ付きモータと比較して格段にシンプルです。構造がシンプル であれば、部品点数が少なく、動作の信頼性がより高くなり、製品寿命も長くなります。摩耗部品である ブラシや整流器がないため、部品交換のメンテナンスが不要で、車両設計において自由にモータの位置を 決めることができます。さらに、高度な IP保護等級が求められる際にも密封がより容易です。 パフォーマンスの面では、AC誘導モータはより大きな加速・減速トルクを発生することができます。特 に高速領域では、DCブラシ付きモータでは整流器による制限がかかるところ、AC誘導モータではその制 限がなく、モータが本来持っているトルクを出すことができます。これは、車両において、高速で走行し ている際のブレーキ力がより強いということを意味します。 図 2 は、同レベルのピークトルクを持つ電磁石界磁型DCモータと AC誘導モータの速度/トルク特性を比 較したものです。図 2 では、同じ DCモータを直巻モータおよび他励モータ(SEM = Separately Excited Motor)として稼働した 2つの場合が描かれています。DC他励モータと AC誘導モータは、加速時の速度/ トルク特性は 殆ど変らず、よって、重なった線で示されています。黄色で示した領域(“SEM motor commutation limit”と付記した領域)は間欠運転領域で、他励モータのブラシや整流子の摩耗が激しい領域 です。“induction motor during braking”の線で示してある通り、AC誘導モータの方が制動時により大きい トルクを発揮できます。特に高速領域でその傾向は目覚ましく、速度 2600 RPMにおける 63 Nm のトル クは、他励モータの 32 Nm の実に 2倍の制動トルクとなっています。 Rev.1 Ver.1 Item. No. 1P111329 7
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 SEM motor commutation limit 3000 induction motor (during braking) induction motor (during accel.) 2000 R SEM motor P series (during accel & decel) M motor 1000 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 (Nm) Torque G0046.CDR 図 2. DCモータと同サイズの ACモータの速度トルク特性曲線の比較 4.1.3.2 AC ドライブ(インバータ) ベクトル制御インバータ(以下“ACドライブ”と称します)には DCシステムに比較して特筆すべき優 位点があります。ACドライブはその本質から四象限稼働が可能なので、 前後進の両方向で直接加速と制 動ができます。DCシステムでは前進と後進を切り替えるための複数のコンタクタが必要ですが、ACシス テムでは必要ありません。よってそれらのノイズや不感時間もなくなり、メンテナンスの手間も省けます。 AC ドライブは駆動から制動へ瞬時に切り替えができます。DCの SEMモータシステムでは構造上どうし ても 0.2から 0.4秒の遅れが発生しますが、ACシステムではそれがありません。さらには、方向転換がシ ームレスにスムーズです。 制動時の回生は ACドライブでは自然な特性です。DCシステムでは回生を制御するためにしばしばコン タクタや回生抵抗等が必要になりますが、ACシステムでは必要ありません。その上、バッテリーに戻す ことができる回生エネルギーの比率も、DCに比べて高くなっています。そのため DCシステムよりも長 い稼働時間(一回の充電当たり)を実現しています。 AC ドライブは、AC誘導モータが持つ最大可能速度で駆動することができます。50Hzまたは 60Hzの固 定電源で駆動した場合、誘導モータの同期速度は 1500~1800RPMですが、ACドライブで駆動すると、 その 2~3倍の速度で回転することができます。 ベクトル制御のインバータが持つもう一つの特徴は、閉ループ速度制御です。閉ループ速度制御によって 効率が著しく改善します。ACドライブは負荷が変動する条件下で、指令速度を維持するために必要なト ルクに瞬時に調整していきます。つまり、上り坂または下り坂でも、運転者が特に注意を払うことなく、 指令速度通りに走行できるということです。 パワーエレクトロニクス技術が日進月歩に発展し、部品価格が年々安くなっている中、ACシステムの優 位点は益々強まっています。 8 Item. No. 1P111329 Rev.1 Ver.1
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 4.2 AC誘導モータについて 4.2.1 AC誘導モータの構造 図 3に、かご型 AC誘導モータの構造を示します。ステータ(stator)は回転しない固定部分です。ステー タアッセンブリ(stator assembly)の内部には、薄く絶縁コーティングされた鉄のシートが積層してあり、 鉄心と呼ばれます。鉄心のスロットには銅ワイヤーの巻線が挿入されています。 図 3. かご型誘導モータの構造 Rev.1 Ver.1 Item. No. 1P111329 9
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 ロータ(rotor)はモータの内部で回転する部分です。ロータのコアはスチールシートラミネーションが積 層されたものです。ロータコアの周囲のスロットにはアルミニウムと銅(またはブロンズ)の導体がはめ 込まれていて、これら導体はロータの両側の止め環(circular end ring)で短絡されています。 これらの導 体はロータコアから絶縁する必要はありません。 多くのロータの止め環は羽付きの鋳造アルミニウムです。この羽が回転してモータ周囲の空気を循環させ ます。ファン付きのロータもあり、さらに空冷能率を高めます。殆どのロータでは、コギングを防ぐため にスロットは回転軸に対して斜めに走っています。回転軸はロータの中心を通っています。ロータとステ ータ間には狭い空間があります。 モータを駆動するためには、ステータに三相の交流電流を流し回転磁界を発生させます。回転磁界は逆の 磁界をロータに誘発させ、それがロータを回転させる駆動力となります。 10 Item. No. 1P111329 Rev.1 Ver.1
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 4.2.2 誘導モータ制御関連用語 AC誘導モータを制御する際にキーとなる用語を説明します。 用語 説明 基底速度 基底電源周波数および定格負荷条件でモータを回転させた時の速度。 同期速度 基底電源周波数および負荷なしの状態でモータを回転させた時の、理論的な回転 速度のことで、回転磁界の回転速度と一緒になります。同期速度は電源周波数と モータの巻線の極数から、次式で求めることができます。 すべり 同期速度と実際の回転速度との差。通常パーセンテージで表示されます。 = x 100 (%) 4.2.3 回転磁界を発生させる 簡単のために、シンプルな 3相 2極の AC誘導モータのステータを考えます。各相の巻線は図 4のように、 一極一スロットの構造です(巻線コイルの終端は図に表していません)。U-U’ が U相の巻線を表し、以下 同様に V-V’ が V相、W-W’ がW相を表します。U, V ,W の 3相はお互いに 120度離れてステータ上に配 置されています。正の電流は U, V ,Wに入り、U’, V’ ,W’から出ていくものとします。すなわち、正の電流 は U→U’、V→V’、W→W’と流れ、負では U’→U、V’→V、W’→Wと流れます。 3相の交流電流は位相もお互いに 120度ずれて通電されます。図中の “a” の時点を見て下さい。U-U’相で は正の最大値の電流が流れています。 V-V’ とW-W’ 相では絶対値が最大値の 2分の 1で、符号が負の電流 が流れています。電流が流れる周囲には磁場が発生するので、各相の作り出す磁場が合成されて、結果と して Diagram Aに示されている方向の磁界が発生します。 "a"から 30度位相が進んだ時点の “b” では、U-U’ 相は絶対値が最大値× 0.866 で正、W-W’ 相では絶対値 が最大値×0.866 で符号が負の電流が流れます。V-V’ では電流はゼロになります。結果として Diagram B に示した方向に磁界が発生し、Diagram Aから 30度時計回りに回転しています。 さらに位相が 30度進んだ時点 “c”では、Diagram Cのように元の磁界から 60度回転しています。 このようにステータの 3相交流電流の位相が 30度進むごとに、回転磁界も 30度回転します。 Rev.1 Ver.1 Item. No. 1P111329 11
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 U V W I 3 I 2 I/2 0 120 240 360 three phase supply cycle waveform a b c Diagram A U V' W' N S V W U' Diagram B Diagram C N U U N 60 W' W'V' 30 V' V V W S W G0036A.CDR U' U' S 図 4. 3相誘導モータのステータで発生する回転磁界 2極ステータ(1対の極)の場合、電源 1サイクルすると回転磁界は一回転します。一般的に、回転磁界 の回転数は下記の式で与えられます。 2 f  60 RPM  , p 記号 意味 f 電源周波数 単位:Hz. p 極数 RPM 一分間の回転磁界の回転数 よって、2極のモータが 60Hzの AC電源で駆動される場合、同期速度(回転磁界の回転速度)は 3600 RPM、50Hz AC電源の場合は 3000 RPM となります。 4.2.4 ロータに発生するトルク 回転磁界によって、ロータ内の導体に電圧が誘起されます。回転磁界密度が最大のところで、ロータに起 こる誘導電圧も最大になります。図 5では反時計回りの回転磁界を想定しています。またロータに起こる 電流は、(×)と(・)でその向きを表しています。 12 Item. No. 1P111329 Rev.1 Ver.1
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 図 5. 回転磁界によって誘起されるロータ導体内の電流 かご型ロータの導体に誘起される電圧は電流を生み、その電流による磁界を生み出します。図 6の電流の 向きでは、新たにできた磁界は、導体の右側の回転磁界と方向が一緒なので右側磁界を強め、左側の回転 磁界と逆向きのため左側磁界を弱めます。結果として、ロータを回転磁界と同じ方向に回転させる力が発 生します。 図 6. ロータ導体付近の磁界のゆがみが力を発生させる 4.2.5 すべりの役割 ロータの回転に比して回転磁界の速度が大きいほど、ロータに誘起される電圧は大きくなります。ロータ の速度が回転磁界の速度すなわち同期速度と同じになると、ロータに電圧は誘起されなくなり、よってト ルクも発生しません。そうなると、摩擦や風損によってロータはこれ以上回転できなくなります。そのた めロータの回転速度は、電圧とトルクがロータ損失とモータ軸にかかる負荷を均衡させるまでは同期速度 より遅くなければなりません。 この回転磁界とロータの回転速度との差はすべりと呼ばれます。すべりは通常同期速度に対する百分率 (%)で表されます。すべりは発生トルクとほぼ比例関係にあります。定格負荷におけるすべりの値は、 小型モータの場合約 7% 、大型モータの場合は約 2% となります。 4.2.6 誘導モータの簡易モデル Rev.1 Ver.1 Item. No. 1P111329 13
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 ドライブがどのようにトルクを制御するかを理解するには、単相誘導モータの等価回路で考えると分かり やすいです(図 7)。回転磁界の強さは IF、‐インダクタンス Lを励磁するためにステータに流れる電流 ‐に比例します。Lの値はモータの設計によって決まる定数です。インダクタンス Lに流れる電流の大き さは、電圧 VAC に比例し、周波数 f に反比例します。ステータが消費する電力のほとんどは無効電力です。 図 7. 単相誘導モータの等価回路 R はロータの等価抵抗です。モータに発生するトルクはすべりに比例します。すべりが大きくなると抵抗 Rが小さくなります。トルク電流 ITQ は、抵抗 Rと電圧 VACで決まります。ロータが消費および生成する 電力は、ほとんどが有効電力です。 IF と ITQ は、どちらも周波数 fとステータ巻き線に印加される電圧 VAC の大きさを調整することで制御さ れます。回転磁界を最大に保つように IFを固定し、ITQを加減することで必要トルクを出すようにすること が望ましい方法です。IF を一定値に保つには、 VAC対 f の比を一定に保ちます。モータの速度が上昇して いき基底速度に達するまでは、周波数 fは速度に比例して増加していきます。基底速度に達すると電圧 VACは最大限界値に達し、それ以上増加することはできません。よって、基底速度を超えた領域では、も はや VAC対 f の比を一定に保つことはできません。この領域では、回転磁界の強度を弱め、(弱め界磁) それに比例してトルクを減少させるようにモータを稼働させます。 図 8 にステータ電流、ステータ電圧、すべりおよびトルクの関係を示します。基底速度の 1倍から 2倍の 領域では、弱め界磁を中和するようにある程度すべりが増加します。2倍以上の領域ではすべりは一定と なり、トルクは急激に落ちていきます。 Stator voltage Motor torque T=1/ 1 Stator current 2 T=1/( ) 1 Slip frequency 0 1 2 3 Multiple of base speed 基底速度の倍数 図 8. ステータ電流、ステータ電圧、すべり、トルクの関係 図 7はさまざまな稼働状態に適用できる優れた等価回路ですが、誘導モータに発生するリアクタンス(誘 導抵抗)を無視しています。弊社の ACドライブのアルゴリズムでは、より精緻なモデルを採用しており ます。そのためアルゴリズムは複雑になっておりますが、それにより全ての稼働領域で最適効率と最大の 制御性を実現しています。 4.3 誘導モータの制御 4.3.1 はじめに 14 Item. No. 1P111329 Rev.1 Ver.1 G0070
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 誘導モータは元々三相交流の固定電源で駆動されていたので、多くの解説書では固定周波数と固定電圧の 下でのモータの特性を説明しています。本書では、それに倣い、まず固定周波数電源におけるモータ特性 をおさらいし、その後弊社のドライブが採用しているベクトル制御におけるモータ特性を紹介します。 固 定電源との比較において、ベクトル制御の持つ優位性がはっきりわかります。 4.3.2 固定交流電源によるモータ駆動 4.3.2.1 トルク- 速度特性 図 9 は、固定電圧・固定周波数の三相交流電源で駆動した誘導モータの代表的なトルク/速度特性を表して います。モータの設計によってはこの 図 9の曲線が多少変わってくるかもしれませんが、大まかな形は変 わりません。 図 9 固定交流電源によりモータを駆動した場合の典型的な特性 2 f  60 同期速度(単位:RPM) = , ただし fは電源周波数、 Pはモータの極数 p 殆どの誘導モータの極数は、2、4ないし 6極です。 “”rated load torque” (定格負荷トルク)と示された点線は、定格速度(rated speed)において連続して出 せるトルクを表しています。トルクを発生するためには、定格速度は同期速度から数%遅くなくてはなら ないことにご注意ください。モータが内部損失によって発生した熱をどれだけ発散できるかが、定格 負荷 トルクの大きさに直接関わってきます。 図 9には他に重要な 3つのポイントが示されています。 破壊トルク(breakdown torque、通常定格負荷ト ルクの 250 ~ 350 %)はモータが出せる最大のピークトルクです。破壊トルクの大きさを決める要因は、 ステータとロータの磁気回路およびその磁界生成能力です。定格速度で運転しているモータの負荷が突然 破壊トルクを超える大きさになると、モータは失速します。誘導モータは間欠的にしか定格負荷トルクを 超えるトルクを出せません。過負荷の状態が長く続くとモータ内部の温度が上昇し、ステータ巻線の絶縁 破壊を起こす原因になります。 Rev.1 Ver.1 Item. No. 1P111329 15
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 固定電圧・固定周波数電源による駆動では、始動トルク(rocked rotor torque)はモータが停止状態から始 動する時に出せるトルクのことです。脱出トルク(pull-out torque)は、モータが全負荷速度に向かって加 速している時のトルクです。誘導モータを始動するには、全負荷時に消費する電流の 8倍の電流が必要で す。より大きいモータでは始動回路の電圧を抑えて、始動時に必要な電流も抑制しています。 4.3.2.2 出力値の単位 誘導モータのサイズは、全負荷速度で連続で出すことができる出力値を基準に決められます。下式は、速 度、トルク、出力の関係を、アメリカ式単位とメートル単位で表しています。 アメリカ式単位 speed[RPM] torque[ ft  lb] power[HP]  5252 1 HP = 746 W 1Nm = 0,738 ft-lb メートル単位 power[WATTS]  speed[radians / sec] torque[Nm] speed[RPM] torque[Nm] power[WATTS]  9.55 1 Metric HP = 735 W モータの連続出力(馬力)定格は、そのモータの熱的特性と直接関係しています。モータの内部では、電 気的・磁気的損失から熱が発生し、モータは温度上昇を抑制しようとします。この、モータがどれだけ熱 を発散し解消できるかが、出力の大きさを決めています。 4.3.3 AC ドライブ(インバータ)によるモータ駆動 4.3.3.1 負荷が変動する条件下での速度制御 フォークリフトでは速度は可変で、制御対象です。誘導モータを一定速度で駆動するには、ACドライブ は変動する負荷(必要トルク)に対して自動的に対応できなければなりません。図 10 は ACドライブが 走行モータを 1800RPMの速度で、水平面、上り坂、下り坂を駆動した時のパフォーマンスを表していま す。 水平面で 1800 RPM を維持するには、回転磁界の速度(WS)は 1800 + (X) RPM (X:すべり)であ ることが必要です。上り坂で 1800 RPM を維持するためには、より大きな滑りが必要で、例えば、1800 + (2X) RPMが必要となってきます。水平面走行の時よりも大きなトルクを出すために、より大きなすべり が必要です。下り坂では、モータとインバータは制動トルク(モータの回転方向と逆向きのトルク を出し て回転磁界の速度を 1800RPMより小さくします( 1800 - (Y) RPM)。 ACドライブは回転磁界の周波数とすべりを調整することによって、どのような条件下でもモータのフル トルク性能を活かすことができます。 16 Item. No. 1P111329 Rev.1 Ver.1
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 W 2f x 60s = p f = stator current frequency p = number of poles rotor speed = 1800 RPM motor/SuperDrive operating area 1800 + 2X 1800 + X 1800 1800 - Y G0091.CDR torque - torque 0 + torque (regenerates electrical (generates mechanical power) power) 図 10. 変動負荷トルク条件下でのモータ速度制御 4.3.3.2 トルク/ 速度特性 図 11 は ACドライブで駆動した際のトルク/速度特性を表しています。比較用に、同じ誘導モータを固定 交流電源で駆動した場合の特性も緑の破線で示しています。ACドライブで駆動した場合、ゼロから基底 速度までのどの速度状態でも、破壊トルク以下ならばどのような値のトルクでも出すことができます。連 続運転は “continuous operation area”が指し示す領域ならば、どのポイントでも可能です。 “intermittent operation area”の領域では、間欠的な運転が可能です。 continuous operation area 300 rated load torque high speed operation region 200 intermittent operation area breakdown torque constant power region 100 constant torque region G0045.CDR 0 50 100 200 300 Tp % of rated load torque Tp 2 図 11. ACドライブで駆動した誘導モータのトルク/速度特性カーブ Rev.1 Ver.1 Item. No. 1P111329 17 % of base speed
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 4.3.3.3 通常運転速度範囲 ACドライブは回転磁界の周波数を自在に変えることができるので、固定電源駆動のモータが同期速度以 上になれないといったような制限がありません。ACドライブで駆動する場合、通常誘導モータは基底速 度の 2倍の早さまで運転することができます。基底速度以上の領域でのトルク/速度特性も 図 11に示され ています。速度 0から定格速度以上に運転できるということは、始動トルクがより大きく、走行速度が速 いことを意味します。 4.3.3.4 定出力領域での稼働 基底速度の 100~200%の速度の領域は定出力領域と呼ばれます。この領域ではモータの連続出力能力がほ ぼ一定に保たれるからです。これは定格負荷トルク曲線に反映されています。基底速度の 200%(2倍) の速度では負荷トルクが基底速度時の 50%(1/2)になっていることに注目して下さい。よって、定格出 力(速度×トルク)はこの領域では一定です。 定出力領域での破壊トルク(モータのピークトルク)は、ステータの弱め界磁のために減少します(12ペ ージの 誘導モータの簡易モデル 参照)。基底速度の 100 ~ 200% の速度領域では、概算ですが、下記の 式で破壊トルクが計算できます。 1 breakdown torque@base speed  speed2 base speed breakdown torque@base speed: 基底速度における破壊トルク base speed: 基底速度 speed2 : モータ速度(基底速度の 100 ~200% ) 4.3.3.5 高速領域での稼働 基底速度の 200% 以上の領域では、破壊トルクは下記の式に従って急激に落ち込みます。 1 breakdown torque@base speed  2  speed3    base speed  speed3 : モータ速度(基底速度の 200% 以上) 破壊トルク曲線(赤)が定格負荷トルク曲線(青)と交わる点以上の高速領域では、破壊トルクがモータ の連続トルク能力となります。 4.3.3.6 制動時のトルク/速度特性 制動時には誘導モータは発電機となり、ステータ内に交流磁界を発生させます。この磁界によって破壊ト ルクと等しいまたはそれ以上の制動トルクを出すことができるようになります。これは全ての速度領域で 可能です。 図 12 は、ACドライブで駆動した際の誘導モータの速度/制動トルク特性曲線です。 比較のために、定格負荷トルクと破壊トルクを点線で示しています。 18 Item. No. 1P111329 Rev.1 Ver.1
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 図 12 ACドライブで駆動した誘導モータの速度/制動トルク曲線 Rev.1 Ver.1 Item. No. 1P111329 19
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ACモータ制御の基礎 Date Released: 21 Sep 2009 5 ACドライブ(インバータ)の原理 5.1 モータ制御の概要 5.1.1 ブロック図 図 13 はインバータ内部にあるモータ制御機能のブロック図です。主要な入出力も記載されて います。いくつかの機能はハードウェアが実行しますが、主にソフトウェアが実行する機能 もあります。次からは各機能ブロックについて説明していきます。 図 13. モータ制御のブロック図 5.1.2 CAN コントローラ(CAN CONTROLLER) CANコントローラ(CAN controller )は、ACドライブと CANバスの通信を仲介する CAN インターフェイスです。CANコントローラは ACドライブのソフトのデジタル信号を電気信 号に変換して CANバス上に送信します。また CANバス上の電気信号をデジタル信号に変換 して、ACドライブに伝えます。ACドライブ内では CANopen プロトコルによって処理され ます。速度センサー(Speed sensor interface)では CANの代わりに I/O ポートが使用され、 直接の信号として伝達されます。 CANネットワーク上の特定のデバイス(ノード)に向けられたメッセージには、COB-ID (Communications Object - Identifier)フィールドが含まれ、それによりターゲットノードが 識別されます。CANバス上の各 ACドライブは、I/Oコネクタの 2つのピンの配線によって自 分の COB-IDを認識します。CANバス上の ACドライブの IDは重複してはいけません。 20 Item. No. 1P111329 Rev.1 Ver.1