1/6ページ
カタログの表紙 カタログの表紙 カタログの表紙
カタログの表紙

このカタログをダウンロードして
すべてを見る

ダウンロード(1.1Mb)

蓄電システムにより、電気自動車用の高速充電インフラを強化

ホワイトペーパー

充電ステーションへの電力供給には太陽光などの再生可能エネルギーが利用されるようになるでしょう。しかし、充電に15分もかけたくないですし、1つしかない充電パイルの前で順番待ちもしたくないはずです。

複数の充電パイルを用意する場合、グリッド(送電網)から充電する際のピークの電力量は1MWを超えます。そうすると、グリッドの多くの個所で障害が発生してしまう可能性があります。そのような事態を引き起こさないようにするには、どうすればよいでしょうか。そのためには、はるかに高いベース・ロード(基礎負荷)に対応できるように、送電線や中央発電所を改善しなければなりません。このためには巨額の投資が必要になるということを意味します。また、そのような負荷は瞬間的に発生するので、再生可能エネルギーによって断続的に生成されるエネルギーの利用法にも工夫が必要になります。
これらの問題は、蓄電システムを構築することによって、シンプルかつエレガントに解決することができます。その解決方法をご紹介します。

このカタログについて

ドキュメント名 蓄電システムにより、電気自動車用の高速充電インフラを強化
ドキュメント種別 ホワイトペーパー
ファイルサイズ 1.1Mb
取り扱い企業 アナログ・デバイセズ株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

この企業の関連カタログ

このカタログの内容

Page1

Technical Article 蓄電システムにより、 電気自動車用の高速充電 インフラを強化 著者:Stefano Gallinaro、戦略的マーケティング・マネージャ 概要 す。この数字を見て、人によってはEVの市場はまだ小さなもの 自動車の市場では、電気自動車(EV)のシェアがより高ま だと感じるかもしれません。しかし、EVの販売台数は、2025 っています。いずれは、EVが内燃エンジン車の地位を引き 年に最大1000万台に達する見込みです。また、2040年には 継ぐことになるでしょう。それに伴い、直流(DC)高速充 5000万台を超え、総台数は1億台まで急成長すると予想されて 電ステーションが旧来のガソリン・スタンドに取って代わる います。そうすると、2040年までに販売される自動車の50% か、あるいは両者の統合が進むはずです。そうした充電ステ がEVに置き換わることになります。それらすべての車両を対象 ーションへの電力供給には、太陽光や風力などの再生可能エ として充電が行えるようにしなければならないのです。そのため ネルギーが利用されるようになるでしょう。しかし、人々は の方法は、いくつか考えられます。例えば、単純な電源ボックス EVの充電に15分もかけたいとは思いません。また、1つし (wall box)を使用して、自宅で一晩かけてゆっくり充電する方 かない充電パイルの前で順番待ちの行列を作りたくはないは 法があります。その場合、電源ボックスの代わりに、太陽光発電 ずです。 (PV:Photovoltaics)システムと蓄電用バッテリを組み合わせ 複数の充電パイルを用意する場合、グリッド(送電網)から た数kW規模の住宅用DCチャージャを使用することもできるで 充電する際のピークの電力量は1MWを超えます。そうする しょう。あるいは、充電パイルを使用して高速に充電する方法や、 と、グリッドの多くの個所で障害が発生してしまう可能性が 将来の燃料ステーションによって超高速に充電する方法も考えら あります。そのような事態を引き起こさないようにするに れます。 は、どうすればよいでしょうか。そのためには、はるかに高 成長しているのはEVの市場だけではありません。再生可能エネ いベース・ロード(基礎負荷)に対応できるように、送電線 ルギーを利用する発電の市場も、PVシステムを中心として活況 や中央発電所を改善しなければなりません。このことは、巨 を呈しています。この市場では、過去10年の間に約80%の価格 額の投資が必要になるということを意味します。また、その 低下が実現されています。脱CO2の動きも活発になっていること ような負荷は瞬間的に発生するので、再生可能エネルギーに から、現在も順調に成長を続けています。現在、PVによる発電 よって断続的に生成されるエネルギーの利用法にも工夫が必 量は、全世界の発電量の5%に満たない状況にあります。しかし、 要になります。 2050年には、PVによる発電量が1/3以上を占めるようになると この問題は、蓄電システムを構築することによって、シンプ 予想されています。 ルかつエレガントに解決することができます。内燃エンジン 車の時代には、ガソリンやガスのような流体としてエネルギ 将来的には、PVや風力発電などによって断続的に生成されるエ ーを保存しておき、必要なとき(給油時)にそれらを利用で ネルギーを使って、EVのような断続的な負荷に充電する仕組み きるようにしていました。それと同じような考え方で、電子 も必要になります。それに向けては、グリッドを中央に位置する や化学物質を使用して電気エネルギーをバッテリに蓄えるの エネルギーのエコシステムにおいて、新たな要素をどのようにし です。そのエネルギーを使用してEVの充電環境を増強すれ て組み合わせるのかといったことが課題になります。EVなどの ば、ピークの電力量を抑制してグリッドを安定させたり、停 断続的な負荷を対象とする場合、大きなピーク電力量に対応する 電が発生した際に電力を供給できるようにしたりすることが ために、より大規模な送電線が必要になります。 可能になります。 PVの普及が進めば、グリッドに対する需要が過大にならないよ うにしつつ、人々がより簡単に電気を利用できるようにするため 自動車の市場には大きな変化が訪れています。2020年には300 に、中央の発電所の運用方法にも変化が訪れるでしょう。そして、 万台近いEVが販売され、総台数が8000万台に達する見込みで 住宅用のPVシステムにより、自宅で発電した電力を自家利用す るケースがますます増えていくはずです。 VISIT ANALOG.COM/JP
Page2

すべてが円滑に連携して動作し、再生可能エネルギー源やゼロエ 以下では、EVの充電用インフラにおけるESSの活用法に焦点を ミッションのEVの恩恵を享受できるようにするには、蓄電シス 絞ることにします。 テム(ESS:Energy Storage System)を導入する必要がありま AC充電用のインフラは、個人向けであっても公共向けであって す。ESSを使用すれば、需要が少ない時間帯に発電した電気エネ も簡素なものになります。ただ、いずれの場合も電力に関する ルギーを蓄えて再利用することが可能になります。例えば、昼間 制限が存在します。レベル1のACチャージャの場合、120V に発電したPVエネルギーを夜間に使用するといった具合です。 AC で動作し、最大2kWの電力を供給できます。レベル2の場合、 また、ESSを採用すれば、余ったエネルギーを使用することが可 240VACで動作し、最大20kWの電力供給に対応可能です。いず 能になり、グリッドのバランスを維持することにも貢献できます。 れにせよ、ACからDCへの電力変換は、車両に実装されたチャー ESSは、燃料タンクや石炭の貯蔵庫に相当する電気設備です。住 ジャを使って行う必要があります。AC電源ボックスは、チャー 宅の分野、産業の分野を問わず、多くのアプリケーションで利用 ジャというよりも、計測/保護のための機器だと言えます。車両 できます。住宅の分野では、PV用のインバータを蓄電池に接続 に実装されるチャージャは、コスト、サイズ、重量に関する制限 することで、家庭でエネルギーを保存したり使用したりすること により、定格は必ず20kW未満に設定されています。 ができるようになります。もちろん、昼間の太陽光によって生成 一方、DC充電であれば、ACよりもはるかに高い電力でEVを したエネルギーを使用し、一晩かけてEVを充電するということ 充電することができます。レベル3のチャージャの定格は最大 も可能です。グリッドに接続されるサービスなど、産業や公共事 450VDC/150kWです。最新のスーパー・チャージャ(レベル4に 業のような大規模な用途においても、ESSは様々な目的で活用で 相当)では、800VDC/350kWを超える定格も許容されます。な きます。例えば、PVや風力発電で生成したエネルギーのレギュ お、出力コネクタを車両に差し込む際の安全性を確保するために、 レーションやエネルギーの裁定取引などに利用可能です。また、 電圧の上限値は1000VDCに設定されています。DCチャージャを バックアップのサポートやブラック・スタート(ディーゼル発電 使用する場合、電圧変換は充電パイルで行われます。そして、充 機の排除)などにも利用できます。そして、最も重要なメリット 電パイルと自動車のバッテリを直接接続することでDC電力が供 としては、トータル・コストの観点から投資を先送りできること 給されます。この方法であれば、自動車にチャージャを実装する が挙げられます。グリッドのノードにおけるピーク電力に対応す 必要はありません。そのため、占有スペースと重量の削減という るためにESSを活用することで、多大なコストをかけて既存の送 面でメリットが得られます。ただ、現状は過渡期の段階にあり、 電線を刷新する必要がなくなるのです。もう1つの重要な用途は、 EVの充電用インフラとしては国/地域ごとに異なる種類のもの オフグリッドの電力源としての活用法です。ESSを利用すること が使用されています。ほとんどのEVは、11kWに対応する小型 により、マイクログリッドや島しょにおける電力の自給自足が可 のチャージャを搭載しており、必要に応じてACのコンセントか 能になるのです。 ら充電できるようになっています。 充電用の電力を増やすにはどうすればよいのでしょうか。電流は ケーブルのサイズやコストに見合う範囲内に維持しなければなら ないので、電力を増やすには動作電圧を高める必要があります。 また、充電ステーションを設置するマイクログリッドやサブグ リッドのサイズを適切に決定し、適切な設計を行う必要がありま す。 ここで、2030年の時点における充電ステーションがどのような ものになっているのか考えてみます。その頃には、自動車の燃 料としては電子が利用されるのが当たり前になり、送電線と呼 ばれるパイプによって電子がやり取りされるようになっている とします。送電線は、トランスを介して中電圧(MV:medium 図1. 再生可能エネルギーによる発電システム、蓄電システム、 EVの充電用インフラの統合 voltage)に対応するグリッドに接続されます。現在、自動車の 燃料は地下の大きなタンクに貯蔵されており、タンクローリーに 可能性のあるすべてのアプリケーションを考慮すると、ESSの市 よって定期的に燃料ステーションに運ばれています。電子は新た 場は現在の10GWの電力、20GWhの電力量(ワット時)とい な種類の燃料ですが、それをグリッドから常に利用できるように うレベルから急速に成長を遂げると考えられます。具体的には、 するのは、特に難しくはなく、何ら問題のないことのようにも思 2045年までに1000GWの電力、2000GWhの電力量というレ えます。しかし、15分もかからずにEVを充電できるようにした ベルに達する見込みです。 い場合、単純な方法では持続可能な手段にはなりません。 2 蓄電システムにより、電気自動車用の高速充電インフラを強化
Page3

ここでは、5基 のDC充 電 パ イルを 備 え、そ れ ぞ れ が 最 大 PVシステムは500kWの電力を供給することができ、グリッド 500kWのピーク電力を出力できる充電ステーションを想定しま に要求される電力を500kWに制限することができます。しかし、 す。充電ステーションのサイズを決める際に考慮すべき最も厳し PVシステムからの電力供給は断続的になる可能性があり、電力 い状況は、5台のEVを対象として完全に空になったバッテリを同 を常時供給できるとは限りません。そのため、グリッドが不安定 時に充電するケースです。計算を簡素化するために、電力変換段 になる可能性が生じます。また、太陽が最大限に照りつけている とバッテリ充電経路で生じる損失はゼロであると仮定します(電 とき以外、自動車を最速で充電することはできないということに 力チェーン全体の小さな電力損失に対し、どのような設計が必要 なります。これは、ユーザが望んでいる状況ではありません。つ になるのかということについては後ほど説明します)。 まり、この方法は持続可能なものではないということです。 現在市場に出回っている完全なEVは、30kWh~120kWhの 上述したパワー・エレクトロニクスのパズルに欠けているピース バッテリを搭載しています。そこで、5台のEVは、それぞれ がESSです。ESSは、今日のガソリン・スタンドの地下燃料タン 75kWhのバッテリを搭載しているものとします。10%充電され クのような役割を果たします。また、大型のバッテリのようなも ている状態から80%まで充電する必要があるとすると、必要な のだと考えることもできるでしょう。ESSを使用すれば、再生可 電力量は次式で表されます。 能エネルギー源からのエネルギーを蓄えることができます。蓄 えたエネルギーはグリッド/充電パイルに供給することが可能で 5 × (70% × 75 kWh) = 5 × 52.5 kWh = 262.5 kWh す。ESSの重要な特徴は、グリッドの低電圧側で動作し、双方向 262.5kWhのエネルギーをグリッドからEVに15分で伝送する 性を有していることです。この新たな設備では、再生可能エネル 必要があるとすると、以下に示す電力が必要であることがわかり ギー源、EV用の充電パイル、ESSのバッテリを1500VDCのDC ます。 バスで結ぶことが目標になります。また、ピーク電力とエネル ギー容量のバランスが最適になるように、ESSのサイズを適切に (262.5 kWh)/(0.25 h) = 1050 kW 設定する必要もあります。この設定は、太陽光や風力などのエネ ルギー源を利用するローカル発電の規模、充電パイルの数、サブ つまり、グリッドからEVに対し、1MWを上回る電力を15分間 グリッドに接続されている他の負荷、電力変換システムの効率に で供給する必要があるということです。リチウム・イオン・バッ 大きく依存します。 テリの充電プロセスには、定電流、定電圧の充電プロファイルが 必要です。バッテリを80%まで充電するためには、最後の20% 先述した数値に基づくと、ESSは500kWh~2.5MWhの電力量 を充電するよりも多くの電力が必要です。この例では、最大電力 と最大2MWのピーク電力に対応しなければなりません。 を想定して80%で充電を停止するものとします。 充電ステーションでは、エネルギー源、負荷、エネルギー・バッ 充電ステーションが設置されているグリッド/サブグリッドは、 ファが重要な構成要素となります。これらについて定義した上で、 断続的に1MWを超えるピーク電力に対応しなければなりませ 充電ステーションのエネルギー経路を形成する4つの電力変換シ ん。この問題に対処するためには、複雑ではあるものの非常に高 ステムについて分析を実施する必要があります(図2)。 い効率が得られるアクティブ力率補正(PFC)段が実装されます。 EV(×5) それにより、周波数に影響を及ぼしたり、不安定な状態に陥った 50kW~ PV用のインバータ DC充電パイル(×5) 200kW(×5) りすることなく、グリッドを効率が高い状態に確実に維持するの PVの 100kW~500kW 150kW~500kW(×5) エネルギー源 DC DC です。このことは、低電圧の充電ステーションを中電圧のグリッ 1000V~1500V DCバス 1000V~1500V ドに接続するために、非常に高価なトランスを使用しなければな AC DC らないということも意味します。加えて、生じ得るピーク電力に 400V~600V 400V~1000V ACバス 対応できるように、発電所から充電ステーションへ電力を伝送す MVグリッド用 る送電線のサイズも適切に決定しなければなりません。充電ス のトランス AC DC 400V~600V 1000V~1500V テーションにおいて、自動車、トラック、バスが混在する状態で 充電が行われる場合には、必要な電力も増えます。 DC DC 1000V~1500V 1000V~2000V ESSのバッテリ スマート・ ESSの双方向PFC ESSのチャージャ 500kWh~ 最もシンプルで、最もコストがかからない解決策は、太陽光や風 100kW~1MW 100kW~1MW 2.5MWh グリッド 力などの再生可能エネルギー源を使ってローカルで発電した電力 図2. 将来のEV用充電ステーション向けに行われる電力変換 を使用することです。この方法であれば、新たな送電線や大きな トランスは必要ありません。また、電力が余っている充電ステー ションに直接接続することも可能になり、グリッドだけに頼る必 要がなくなります。現実的には、100kW~500kWのPVシス テムを、充電ステーションまたは充電ステーションが接続されて いるサブグリッドの近くに設置すればよいでしょう。 VISIT ANALOG.COM/JP 3
Page4

4つ の 電 力 変 換 シ ス テ ム は、い ず れ も 定 格 が1000VDC~ PFCインバータが対応しなければならない1MWに対し、5%は 1500VDCのメインのDCバスに接続されます。必要な電力が多い 50kWに相当します。一方、IGBTからSiCに置き換えることで ほど、DCバスの電圧を高くする必要があります。ただ、今後20 効率が向上することから、合計で250kWの電力を削減できます。 年間は1500VDCが業界標準の値になるはずです。より高い電圧 つまり、充電パイルを追加できるレベルの効果が得られるという を採用することも可能ですが、それに伴い、安全に関する規制、 ことです。また、負荷の実際の需要量とエネルギーの経時的な消 電力部品、システム設計に関連する複雑な問題が生じます。その 費量のバランスを良化させることも可能でしょう。 結果、現在利用可能な技術を適用するだけでは効率が低下してし 上述した効果を得るには、SiCベースのMOSFETへの移行が必 まうでしょう。但し、パワー・スイッチや保護システムなどに関 要になります。また、それだけで問題を解決できるわけではあり する新技術については、10年以内に2000VDC以上への移行に対 ません。SiCベースのMOSFETを駆動する方法は、システムのコ 応できるようになる可能性があります。 スト(MOSFET、コイル、インダクタに依存)と効率の間のトレー 次に、PV用のインバータについて考えると、2つの電力段が存在 ドオフを最適化するために必要なスイッチング周波数を選択する することがわかります。PVパネルからDCバスへ向かう電力経路 上での鍵になります。スイッチング周波数は50kHz~250kHz には、DC/DCコンバータの機能が存在します。また、PVパネル に設定することが目標になりますが、ゲート・ドライバに対する からACバスを経由してグリッドへ向かう電力経路には、DC/AC 要件はより厳しくなっています。なぜなら、伝播遅延の短縮と短 インバータの機能が設けられます。ここではDC/DC変換段の機 絡保護性能の向上を図ることが求められているからです。 能がより重要になります。AC/DC変換段は、DCバスからACグ アナログ・デバイセズの「ADuM4136」は、絶縁の手段とし リッドへ向かうメインの双方向PFCインバータに統合できるから て最先端のiCoupler®技術を採用したゲート・ドライバです。 です。最先端のパワー・エレクトロニクス設計を考えると、最高 iCoupler技術により、150kV/マイクロ秒のCMTI(Common の効率を得るには、SiCベースのパワーMOSFETを中心にして変 -mode Transient Immunity)を実現でき、SiCベースの 換段を設計することになるでしょう。それにより、シリコン・ベー MOSFETを数百kHzのスイッチング周波数で駆動することがで スのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)と比較して、 きます。ADuM4136を採用すれば、単一または並列に接続した 効率が5%(最大負荷時)~20%(部分負荷時)向上するはずです。 SiCベースのMOSFETを最大1200Vで適切に駆動することが可 定格が500kWのPVインバータの場合、効率が5%向上すると、 能です。併せて、非飽和保護など、高速の障害を管理する機能を 損失が25kW減少します。もちろん、その分だけ電力の出力を 利用できるようになります。 高めることが可能です。これは、5軒の家で消費される電力に相 当します。あるいは、温水を生成したり、夏に充電ステーション なお、絶縁ゲート・ドライバに対する給電方法については、アプ の建物の冷房を稼働したりするために使われる大型ヒートポンプ リケーション・ノート「AN-2016」をご覧ください。このドキュ の電力消費量と同等だと表現することもできます。 メントには、ゲート・ドライバであるADuM4136をプッシュプ ル・コントローラ「LT3999」と組み合わせることで、ノイズが DCの充電パイルとESSのチャージャについても同様に計算でき 極めて少なく、効率の高いビルディング・ブロックを実現し、 ます。どちらについても、2つのアプローチで設計を行うことが SiCベースのMOSFETを適切に駆動する方法が記されています。 可能です。1つは、定格が100kWを超える大型かつモノリシッ 絶縁型の電源コントローラであるLT3999は、ADuM4136用の クのパワー・コンバータを使用する方法です。もう1つは、定格 バイポーラ絶縁電源を制御するために使用します。EMI(電磁妨 が25kW~50kWの小型のコンバータを多数並列に使用する方 害)性能が非常に高いので、最高1MHzのスイッチング周波数を 法です。どちらの方法にも長所と短所があります。最近では、ス 選択できます。同ICを採用すれば、小型で費用対効果に優れた ケールメリットが得られ、設計が容易なので低コスト化を図れる ソリューションを実現することが可能です。 ことから、小型コンバータを複数台使用する方法が選択されてい ます。当然のことながら、その場合には高度なエネルギー管理シ デッド・タイムと伝播遅延を含めたトータルの伝播遅延は、ター ステムを併用する必要があります。 ンオン時に226ナノ秒、ターンオフ時に90ナノ秒です。ドライ バの遅延時間は、ターンオン時に66ナノ秒、ターンオフ時に68 これらのDC/DCコンバータにおいても、シリコン・ベースの ナノ秒です。デッド・タイムは、ターンオン時に160ナノ秒、ター IGBTからSiCベースのMOSFETへの移行を図ることになりま ンオフ時に22ナノ秒です。 す。それにより、効率を大きく高められることに加え、スペース や重量を削減できるからです。その代償として、コストは25% パワー・コンバータにおいて非常に高い電力密度を実現するとい ほど高くなります。ただ、このコストの上昇分は、今後5年の間 う目標を、効率を損なうことなく達成できます。 に5%まで圧縮されると予想されます。また、効率の向上による 効果だけでも、このわずかな価格差を吸収することが可能です。 次式のように、電力を削減できるからです(最大負荷時の5%を 使用する場合)。 (5% × 5[充電パイルの数]× 500 kW = 125 kW) + (5% × 1 MW = 50 kW) = 175 kW 4 蓄電システムにより、電気自動車用の高速充電インフラを強化
Page5

GDU 30%の寿命延伸を達成できるとされます。このレベルでバッテ トップ側のパワー・コンバータ リの寿命を延伸すれば、運用コストや所有コストを少なくとも +15 V (ISO) 30%削減できます。SOCの情報の高精度化と併せて、バッテリ +5 VDC LT3999 –3 V (ISO) に蓄えられたエネルギーをすべて利用し、可能な限り最良の方法 Ready でバッテリを充電することが可能になります。その結果、過充電 Fault Reset や過放電を防止し、非常に短い時間でバッテリが空になったり、 デッド・タイムの発生 ADuM4136 短絡や火災といった危険な状況を生み出したりする可能性があ LT1720 トップ側の る状態を回避することができます。予知保全を実現したり、エネ PWM_T_D ゲート・ドライバ ルギーと電力の流れを適切に管理したりするためには、バッテリ ボトム側の のSOCとSOHを正確に把握する必要があります。それにより、 PWM_B_D ゲート・ドライバ グリッドの安定化、EVの充電プロセス、車両を蓄電ユニットと LT1720 VOUT Ready 見なした場合の車両からグリッドへの(V2G:Vehicle-to-Grid) Fault ADuM4136 Reset VGS_B SiCの 接続に関連するアルゴリズムを導き出し、調整を加えることが可 –3 V (ISO) 温度測定 能になります。 LT3999 +15 V (ISO) 正確なモニタリングを行うためには、トータルの測定誤差を ボトム側のパワー・コンバータ LT3080 2.2mV未満に抑えつつ、最大18セルの測定を実行できるマルチ + 10 V セル対応のバッテリ・モニタIC「LTC6813」を採用するとよい でしょう。これを使用すれば、18個のセルの測定を290マイク ADuM4190 ロ秒以内に実行できます。また、ノイズを低減する効果を高める ために、低いデータ・アクイジション・レートを選択することも 図3. ADuM4136とLT3999によって構成した ゲート・ドライバ・ユニット(GDU) 可能です。LTC6813は複数個を直列接続することができるので、 高電圧を得るためにスタックされた数多くのセルを同時にモニタ パワー・コンバータは電力変換経路の基盤になるものです。た リングすることが可能になります。同ICは、RFノイズに対する だ、蓄電システムの場合、最良の総所有コストを保証する上での 耐性を備える高速/長距離通信向けの絶縁型SPI回路(isoSPI) 重要な構成要素としては、バッテリ管理/監視システム(BMS: を内蔵しています。複数個のLTC6813をデイジー・チェーン接 Battery Managing/Monitoring System)が挙げられます。コ 続すれば、1つのホスト・プロセッサによって全LTC6813を制 ストの内訳を分析すると、MWクラスの蓄電システムにおいてコ 御できます。このデイジー・チェーンは双方向の動作が可能なの ストの半分以上を占めるのは、バッテリ・ラックのコストである で、通信経路で障害が発生した場合でも、通信の完全性を確保で ことがわかります。現在、このコストは1kWhあたり約200米 きます。このICに対しては、バッテリ・スタックから直接給電す ドル(約2万1300円)です。2025年には、このコストは100 るか、または個別の電源から給電することが可能です。各セルに 米ドルまで低下すると見込まれています。精度と信頼性に優れる 対するパッシブ方式のバランス機能を備えており、PWM(Pulse BMSソリューションを適用すれば、バッテリの寿命を30%延伸 Width Modulation)のデューティ・サイクルをセルごとに個別 できます。また、大幅なコスト削減と充電ステーション全体の操 に制御することができます。その他にも、5V出力のレギュレー 作性の向上が図れます。保守の回数を抑えられるということは、 タ、9本の汎用I/Oライン、消費電流を6μAまで低減するスリー 稼働時間が長くなり、ユーザにとって問題がない状況が得られる プ・モードなどを備えています。 ということを意味します。その結果、修理に関連するリスクを低 減でき、安全性のレベルが高まります。 BMSのアプリケーションでは、短期的/長期的な精度が要求さ れます。そのため、LTC6813はバンドギャップ・リファレンス 上記の内容を実現するためには、充電ステーション周辺のエネル ではなく、埋め込みツェナー・リファレンスを採用しています。 ギーの流れを制御するエネルギー管理システムが、蓄電用のバッ それにより、小さなドリフト(20ppm/√kh)、小さな温度係数 テリの充電状態(SOC:State of Charge)と劣化状態(SOH: (3ppm/℃)、小さなヒステリシス(20ppm)を実現し、長期 State of Health)を極めて正確に把握している必要があります。 安定性に優れる1次側電圧リファレンスとして使用できるように 高い精度、高い信頼性でSOCとSOHを算出することにより、 なっています。このICでは、リファレンスの精度と安定性が非常 バッテリの寿命を10年から20年に延ばすことができます。一般 に重要になります。なぜなら、これらの特性は、全バッテリ・セ 的には、BMSに関連する電子機器のコストを増やすことなく、 ルの測定値の基盤になるからです。その測定値に誤差があると、 取得したデータの信頼性、アルゴリズムの一貫性、システムの性 能に累積的な影響が及びます。 VISIT ANALOG.COM/JP 5 TEMP_SiC PWM_B PWM_T
Page6

高精度のリファレンスは、優れた性能を確保するために必要な機 能ブロックです。ただ、それだけで十分だというわけではありま 著者について せん。AC/DCコンバータの動作は、電気的なノイズが多い環境 Stefano Gallinaro(stefano.gallinaro@analog.com) でも仕様を満たしている必要があります。問題になるノイズは、 は、2016年にアナログ・デバイセズに入社し、再生可能 システムが備える高電流/高電圧のインバータをPWM制御する エネルギー事業部門に加わりました。電力変換技術を中 際の過渡現象に起因して発生します。バッテリのSOCとSOHの 心に、太陽エネルギー、電気自動車、充電、エネルギー貯 正確な評価には、電圧、電流、温度の相関がとれた状態での測定 蔵の分野でストラテジック・マーケティングのマネージ 値が必要です。 ングを担当しています。ミュンヘンを拠点とし、全世界の 事業の責任者を務めています。イタリアのトリノ工科大 BMSの性能に影響を与えないようにシステムのノイズを低減す 学で電気工学の学士号を取得。イタリアのアオスタにあ るために、LTC6813のA/Dコンバータのトポロジとしては、シ るSTMicroelectronicsでアプリケーション・エンジニア グマ・デルタ(ΣΔ)方式を採用しています。また、ノイズの多 としてキャリアをスタートさせました。アナログ・デバイ い環境に対処できるようにするために、ユーザが選択可能な6種 セズに入社する前は、ドイツのウンターハヒングにある 類のフィルタ・オプションを用意しています。ΣΔ方式を採用し Vincotechで2年半、プロダクト・マーケティング・マネー ていることから、EMIなどの過渡的なノイズの影響を低減するこ ジャを務めていました。 とが可能になります。ΣΔ方式では、1つのサンプルの取得に向 けて多数回のサンプリングを行います。それによって得られた結 果に対し、平均化とフィルタリングを施す機能を備えていること から、ノイズの低減という効果が得られます。 EngineerZone® オンライン・サポート・コミュニティ なお、アナログ・デバイセズはスタック・モニタICの最新製品群 アナログ・デバイセズのオンライン・サポート・コミュ として、「LTC681x」と「LTC680x」の両製品ファミリを提供し ニティに参加すれば、各種の分野を専門とする技術者と ています。LTC681xファミリの製品の中で18チャンネルに対応 の連携を図ることができます。難易度の高い設計上の問 するバージョンがLTC6813です。 題について問い合わせを行ったり、FAQを参照したり、 最後に、本稿で説明した内容をまとめます。高速なDC充電を可 ディスカッションに参加したりすることが可能です。 能にするためには、将来のインフラで生じるであろういくつかの 課題を解決する必要があります。それらに対処する上では、電 力変換システムと蓄電システムが重要な要素になります。それら の構成例として、本稿では、アナログ・デバイセズの製品を利用 Visit ez.analog.com する2つの回路ブロックを提示しました。1つは、SiCベースの MOSFETを採用する電力変換段向けの絶縁型ゲート・ドライバ *英語版技術記事はこちらよりご覧いただけます。 (ADuM4136)と電源コントローラ(LT3999)を組み合わせた 回路です。もう1つは、蓄電用バッテリ向けのバッテリ・モニタ・ デバイスであるLTC6813を利用した回路です。それらの回路に は、電流の測定から故障に対する保護まで、あるいはガスの検知 から機能安全までといった具合に、多くの重点領域が存在しま す。これらはいずれも極めて重要なものであり、大きな利点をも たらす要素でもあります。アナログ・デバイセズは、これら全サ ブシステムに対して積極的に取り組んでいます。信頼できる重要 なデータを取得することで、あらゆる物理現象の確実な検知、測 定、接続、解釈、安全の確保、給電が行えるようになります。取 得したデータは、ハイ・エンドのアルゴリズムによって、再生可 能エネルギー源から得たエネルギーを負荷(EV)に供給するた めのエネルギーへと確実に変換するために使用されます。 VISI T A N A L O G . C O M /JP お住いの地域の本社、販売代理店などの情報は、analog. ©2020 Analog Devices, Inc. All rights reserved. com/jp/contact をご覧ください。 本紙記載の商標および登録商標は、各社の所有に属します。 Ahead of What’s Possibleはアナログ・デバイセズの商標です。 オンラインサポートコミュニティEngineerZoneでは、アナ ログ・デバイセズのエキスパートへの質問、FAQの閲覧がで きます。 TA21853-2/20