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ウェアラブル機器市場ですが、健康志向の高まり、IoTアプリケーションや健康管理サービスの拡大、半導体デバイスの小型化や進化に伴う製品の多様化などを背景にさらなる拡大が期待されています。
人々の健康状態(生命状態)を知る指標を「バイタル・サイン(vital sign)」と呼びます。医療現場や介護現場では、「呼吸数」、「体温」、「脈拍」、「血圧」の四つが用いられ、さらに「意識レベル」や「尿量」が追加で用いられる場合もあります。また、血液中の「酸素飽和度」(SpO2)もバイタル・サインとして扱う場合もあります。
これらのバイタル・サインのうち、ウェアラブル機器で測定可能な情報は、「呼吸数」、「体温」、「脈拍」、「血圧」、および「血中酸素飽和度」の五つです。残りの「意識レベル」は声掛けによる判定が必要ですし、「尿量」は実際に排尿してもらう必要があるため、ウェアラブル機器では計測できません。
アナログ・デバイセズは、画像診断機器(CT、MRI、超音波診断)、医療ライフサイエンス機器および分析装置、疾病管理およびウェルネス、という三つのセグメントに対してソリューションを展開しています。本稿ではそのうち、ウェルネス(ヘルスケア)を対象に、ハードウェア、ソフトウェア、電源、開発用プラットフォームなどの取り組みの一端をご紹介します。
このカタログについて
ドキュメント名 | 遠隔・個別化医療の未来を担うアナログ・デバイセズ |
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ドキュメント種別 | 製品カタログ |
ファイルサイズ | 809.1Kb |
取り扱い企業 | アナログ・デバイセズ株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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Technical Article
遠隔・個別化医療の
未来を担うアナログ・デバイセ ズ
著者:岩﨑 正統
健康寿命の延長が社会課題のひとつに 医療資源に負担がかかるだけではなく、健康保険を中心とする社
日本で少子高齢化が進んでいます。経済産業省が2018年に公表 会保障費は増大し、また、まだ働きたいのに働けない、働いてもら
した「経済産業省におけるヘルスケア産業政策について」[*1]に記載 いたいのに働いてくれる人がいない、といった労働力不足の問題
されている「日本の将来人口推計」グラフには、2002年(平成20 にもつながります。
年)の1億2808万人をピークに、2060年には8000万人台にまで
減少するという人口推計が示されています(図1左)。65歳以上の では健康寿命を延ばすにはどうすればいいでしょうか。先ほど挙げ
高齢者の数は横ばいと推計されていますので、高齢者の比率(高齢 た経産省の資料[*1]には、厚生労働省が発表した「平成25年度 国民
化率)が今後急速に高まっていくことを意味します。 医療費の概況」[*3]のデータを元にした診療費の傷病別内訳グラフ
が掲載されていて、2013年度医療費総額の28.7兆円のうち、生活
また、厚生労働省が発表している健康寿命[*2]は、2019年(令和元 習慣病関連が34.4%を占めていることが示されています(生活習
年)の値で、男性72.68歳、女性75.38歳となっています。ここで健 慣病関連:悪性新生物、高血圧疾患、脳血管疾患、心疾患、糖尿病)。
康寿命とは「、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活
できる期間」を言います。一方「、0歳における平均余命」である平均 これらを踏まえると、日々の生活において健康状態のモニタリング
寿命は、男性81.41歳、女性87.45歳です。この健康寿命と平均寿 を行い、生活習慣病を予防するとともに、健康管理を行って病気の
命との差は日常生活に制限のある「不健康な期間」を表します。 予防につなげることが、医療費の抑制や働き手の確保を図ってい
その人数は高齢者の3割にも達し、今後平均寿命がさらに延びれば くうえでも重要と言えます。
その割合は5割に拡大すると言われています。
図1. 経済産業省が発表した少子高齢化による人口減少と高齢者の増加の推計を示したグラフ(左)と、
厚生労働省が発表した国民医療費の概況からその内訳を示したグラフ(右)
( 出典:「経済産業省におけるヘルスケア産業政策について」、2018年、経済産業省)
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ウェアラブル市場は年率18%で拡大 次に、バイタル・サインの基本とも言える「脈拍」をモニターするウェア
ラブル機器の開発を例に挙げながら、バイタル・サインを取得する
次に、日本の医療におけるICTの利活用に関する状況について説明 テクノロジーと、アナログ・デバイセズが提供するソリューションに
します。 ついて説明します。
2018年に行われた診療報酬改定と2020年に行われた診療報酬 脈拍を電子的に計測する方法としては心電波形を計測する方法や
改定[*4]によって、情報通信機器を活用した診療の推進を図るため 心音を計測する方法などが知られていますが、ウェアラブル機器で
に、オンライン診療のより柔軟な活用、オンライン医学管理料(のち 用いられているのが血管の容積変化を光学的に非侵襲で検知する
にオンライン診療料に統合)の要件の見直し、対象疾患の見直し、 「光電式容積脈波記録法(」Photoplethysmography)です(図2)。
へき地など医療資源の少ない地域などへの対応、希少性の高い疾 略してPPGと呼ばれます。体表近くの血管にLED光を照射し、その
患などを対象にしたかかりつけ医と遠隔医療の連携、などのガイド 透過量(耳たぶなど)または反射量(手首など)をフォトダイオードで
ライン[*5]が定められました。 計測し、その変動から脈拍を求める方法です。
国の方針として、患者の地域や状況によらず医療サービスを提供
するために、情報通信機器を用いたオンライン診療の導入拡大を
図ろうとする意図がうかがえます。
本稿(2023年3月)時点で、民生用のウェアラブル機器で取得した
生体情報のモニタリング値を診断に用いることは認められていま
せんが、各個人が日頃の健康データをモニタリングすることには、
生活習慣病などを予防するためにも十分に意義があると考えられ
ます。さらに、個人がモニタリングした生体情報がオンライン診療
に活用できるように規制などが緩和されれば、ウェアラブル機器及
びヘルスケアの市場はさらに大きく動くと予想されます。
そのウェアラブル機器の市場ですが、人々の健康志向の高まりや
ヘルスケアに対する社会ニーズ、スマートフォンを中心としたIoTア
プリケーションや健康管理サービスの拡大、および、半導体デバイ 光を吸収するヘモグロビンの性質を利用し、心臓が血液を送り出
スの小型化や進化に伴う製品の多様化などを背景に、さらなる拡 すことに伴い発生する血管の血液量変化を測定することによって
心拍に伴う脈波情報を取得
大が期待されています。たとえば米MarketResearch.com社は、
リストウェア、ヘッドウェア、フットウェア、ファッションとジュエリー、
図2. 血管の容積変化を光学的に検知して脈拍を求める
およびボディウェアのマーケットは、2021年度の1163億ドルから 光電式容積脈波記録法(PPG)の概要
2025年には2475億ドルに拡大し、年平均成長率(CAGR)は18%
にも達すると予測しています[*6]。
ハード・ソフト・電源などをトータルで提供
当然ながら生体情報のモニタリング技術やウェアラブル機器の小
型実装技術などは、遠隔医療や個別医療にも応用されていくこと PPGで脈拍を計測するウェアラブル機器を開発しようとした場合、
が見込まれます。 ハードウェア面での課題として挙げられるのがセンシング信号の品
質です。フォトダイオードの出力に対して、DC成分や外乱光成分を
抑えながらAC成分を精度高く取得しなければなりません(図3①)。
バイタル・サインの基本となる脈拍の計測
人々の健康状態(生命状態)を知る指標を「バイタル・サイン(vital アナログ・デバイセズでは、フォトダイオードのフロント・エンドとして
sign)」と呼びます。医療現場や介護現場では「、呼吸数」「、体温」、 最適な心拍数モニター用アナログ・フロント・エンド「AD8232/
「脈拍」「、血圧」の四つが用いられ、さらに「意識レベル」や「尿量」が AD8233」を提供しています。フォトダイオードの電流出力を電圧に
追加で用いられる場合もあります。また、血液中の「酸素飽和度」 変換するトランスインピーダンス・アンプ、DC成分や体動などの
(SpO2)もバイタル・サインとして扱う場合もあります。 外乱成分を除去するハイパス・フィルタ(DCブロック)、ゲイン100
の計装アンプなどを4mm×4mmサイズのパッケージに集積した
これらのバイタル・サインのうち、ウェアラブル機器で測定可能な ソリューションで、消費電力はわずか170µAです。
情報は「、呼吸数」「、体温」「、脈拍」「、血圧」、および「血中酸素飽和度」
の五つです。残りの「意識レベル」は声掛けによる判定が必要ですし、 臨床グレードのアナログ・フロント・エンドが「MAX86178」で、PPG
「尿量」は実際に排尿してもらう必要があるため、ウェアラブル機器 測定サブシステムのほか、心電図計測サブシステム、生体インピー
では計測できません。 ダンス測定サブシステムを統合したソリューションです。これらの
サブシステムを組み合わせることで、脈拍、心電図、血中酸素飽和
度(SpO2)、および呼吸数を取得することができます。
2 遠隔・個別化医療の未来を担うアナログ・デバイセズ
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スマートウォッチなどのケースの設計もウェアラブル機器のハード 生信号が得られる開発用プラットフォーム
ウェアにおける課題のひとつです(図3②)。LED光を皮膚に効率的 アナログ・デバイセズでは実際のアプリケーションを見据えた
に照射するとともに、その反射光が効率的にフォトダイオードに ソリューションの提供にも力を入れています。スマートウォッチ
入るように、LEDやフォトダイオードの実装位置やガラス厚みの最適 あるいはリストウェアの開発用プラットフォームが、時計型の
化を図らなければなりません。アナログ・デバイセズではウェア 「EVAL-HCRWATCH4Z(Gen4)(」図5左)とリストバンド型の
ラブル機器を開発するお客様向けにPPGに最適な筐体設計案も 「MAXREFDES105(」図5右)です。
提供しています。
EVAL-HCRWATCH4Zは、前述の心拍数モニター用アナログ・
また、ソフトウェアを開発するリソースが不足している、あるいは、 フロント・エンド「AD8233」、高精度な電気化学フロント・エンド
すぐに使えるアルゴリズムが欲しい、というお客様向けに、アナ 「AD5940」、マルチモーダル・センサ・フロントエンド「ADPD4100」、
ログ・フロント・エンドで受けたフォトダイオードの出力に対して信号 ローパワー3軸加速度センサー「ADXL362」、容量デジタル・コン
処理を行って脈拍情報などを抽出するソフトウェア・アルゴリズム バータ「AD7156」で構成されています。機能としては、脈拍(PPG)
(図4)や、各種アルゴリズムを内蔵した超ローパワー生体センサー・ のほか、心電波形(ECG)、生体電気インピーダンス(BIA)、EDA、
ハブ「MAX32664」も提供しています。 体表温度、および動きを検知することができます。
魅力的なウェアラブル機器を仕上げるには電源設計も重要です。 アルゴリズム研究やアプリケーション開発が進められるように、ソフ
小型化が求められるウェアラブル機器は、搭載可能なバッテリ容量 トウェア処理前の生信号がUSB経由で取得可能です。また、開
にも制限があり、ソリューションの省スペース化と省電力化は必須 発ツールとして「VSM Wave Tool」が提供されます。
の要件です。
後者のMAXREFDES105は、オプティカル・パルスオキシメーター
こうした課題に対してアナログ・デバイセズは幅広い電源ポート 兼ハートレート・センサー「MAX86174A」、超ローパワー生体セン
フォリオを展開しています。たとえば、複数のスイッチング・レギュ サー・ハブ「MAX32664」、ウェアラブル用パワーマネジメントIC
レータ出力を単一のインダクタで構成できる「SIMO(Single-In- 「MAX20303」、ホストマイコン「MAX32630」など、アナログ・
ductor-Multiple-Output)」DC/DCコンバータや、バッテリ残量 デバイセズが2021年8月に買収した旧マキシム系のデバイスで
を高精度に計測する「Model Gauge」ソリューションがその一例 構成されています。こちらのプラットフォームでは、心拍数、心拍変
です。 動(HRV)、および血中酸素飽和度(SpO2)の計測が可能です。
両方のプラットフォームともに、脈波信号や心電波形などの生データ
を活用して新しい研究やアプリケーションを開発したいお客様に
とって有用なプラットフォームと言えるでしょう。
図3. バイタル・サインの代表である脈拍情報を取得するうえでの課題と
アナログ・デバイセズのソリューション
図5. ウェアラブル機器の開発プラットフォームである
時計型の「EVAL-HCRWATCH4Z(Gen4)(」左)と
リストバンド型の「MAXREFDES105(」右)
図4. 脈拍検出の信号処理アルゴリズムである
MUSIC法(Multiple Signal Classification)の一例
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まとめ
アナログ・デバイセズは、画像診断機器(CT、MRI、超音波診断)、 また、お客様の研究や最終製品の開発を加速するために、半導体
医療ライフサイエンス機器および分析装置、疾病管理およびウェル デバイス(ハードウェア)だけではなく、ソフトウェア、開発環境、リファ
ネス、という三つのセグメントに対してソリューションを展開してい レンスプラットフォームなどの提供にも力を入れています。
ます。本稿ではそのうち、ウェルネス(ヘルスケア)を対象に、ハード
ウェア、ソフトウェア、電源、開発用プラットフォームなどの取り組み 今後の遠隔医療および個別化医療の普及や浸透に向けて、テクノロ
の一端をご紹介しました。 ジーやソリューションを提供するとともに、新たなアプリケーション
の提案を続けていきます。
2021年8月に買収した旧マキシムが展開していたメディカル向け
およびヘルスケア向けのソリューションが統合されたことで、より
幅広いアプリケーションに対し、より優れたテクノロジーやソリュー
ションを提供できるのがアナログ・デバイセズの強みであると考え
ています。
参考資料
[*1] 「経済産業省におけるヘルスケア産業政策について」、2018年、経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/01metihealthcarepolicy.pdf
[*2] 「健康寿命の令和元年値について」、令和3年12月20日、厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf
[*3] 「平成25年度 国民医療費の概況」、平成27年10月7日、厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/13/dl/data.pdf
[*4] 「令和2年度診療報酬改定の概要」、令和2年3月5日、厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000691038.pdf
[*5] 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」、平成30年3月(令和4年1月一部改訂)、厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000889114.pdf
[*6] 「Wearable Technology Market by Product (Wristwear, Headwear, Footwear, Fashion & Jewelry, Bodywear), Type (Smart Textile,
Non-Textile), Application (Consumer Electronics, Healthcare, Enterprise & Industrial), and Geography - Global Forecast to 2026」April
2021, MarketResearch.com
著 岩﨑 正統 EngineerZone®
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アナログ・デバイセズのオンライン・サポート・コミュ
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*本稿は2023年3月の情報に基づいています。
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