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マルチパラメータのバイタル・サイン監視システムを、かつてないほど容易に実現

製品カタログ

ここ10年ほどの間に、モバイル機器、ウェアラブル機器、デジタル・ヘルス機器は飛躍的な成長を遂げました。
なかでも、急速に進化/普及しているのが、デジタル・ヘルスケア機器です。
健康管理に役立つ小型で使いやすい機器、なかでもウェアラブルなスマート・デバイスに対するニーズは、歴史的な高水準に達しています。

そうした小型の機器に複数のセンシング機能を持たせるのは、容易なことではありませんでした。
フォーム・ファクタと消費電力を抑えつつ、性能を大幅に高めてマルチパラメータに対応する機能を実現しなければならないからです。
しかし、アナログ・デバイセズが提供する単一のアナログ・フロント・エンド(AFE)を採用することで、
そうした機能に極めて容易に対応できるようになりました。

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本稿では、そうした先進的なAFEが備える画期的な機能と特徴について説明します。

このカタログについて

ドキュメント名 マルチパラメータのバイタル・サイン監視システムを、かつてないほど容易に実現
ドキュメント種別 製品カタログ
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取り扱い企業 アナログ・デバイセズ株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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Vol 54, No 3—November 2020 マルチパラメータの バイタル・サイン監視システムを、 かつてないほど容易に実現 著者:Yigit Yoleri、アプリケーション・エンジニア Guixue (Glen) Bu、アプリケーション・エンジニア はじめに うことです。本稿では、そうした先進的なAFEが備える画期的な ここ10年ほどの間に、モバイル機器、ウェアラブル機器、デジ 機能と特徴について説明します。 タル・ヘルス機器は飛躍的な成長を遂げました。なかでも、急速 に進化/普及しているのが、デジタル・ヘルスケア機器です。そ 先進性の高いAFE の背景には、エレクトロニクスの継続的な進歩、クラウド・コン 「ADPD4100」、「ADPD4101」は、マルチモーダル・センサー ピューティング、AI(Artificial Intelligence)、IoT(Internet of に対応するAFEです。8つのアナログ入力を備えており、プログ Things)、5Gなどによる後押しがあります。例えば、バイタル・ ラムが可能な最大12のタイム・スロットに対応しています。12 サインの監視(VSM:Vital Signs Monitoring)を実現するい のタイム・スロットを使用した場合、サンプリング期間中に12種 くつかの機能は、携帯電話や腕時計などのウェアラブルなスマー の測定が行えます。8つのアナログ入力は、マルチプレクサによ ト・デバイスに組み込まれ、より多くの人が利用できるように り単一のチャンネルまたは2つの独立したチャンネルとして構成 なっています。そうした小型、高精度の機器に対する需要は、健 可能であり、シングルエンドまたは差動の構成で2つのセンサー 康に関する意識の高まりを受けて急速に高まっています。それら による同時サンプリングに対応します。また、8つのLEDドライ の機器を使えば、体温、心拍数、呼吸、血中酸素飽和度(SpO2)、 バを備えており、最大4個のLEDを同時に駆動することが可能で 血圧、組成といった様々なバイタル・サインを監視することがで す。各LEDドライバは電流シンク型なので、LEDへの供給電圧や きます。COVID-19のパンデミックを受けて、病院でも、家庭で LEDの種類には依存しません。更に、ADPD4100/ADPD4101 も、体温、SpO2、心拍数など複数のバイタル・サインをモニタ は、電圧励起に対応するためのパルス電圧源を2つ備えています。 できる機器が強く求められるようになりました。健康管理に役立 両製品の信号パスは、トランスインピーダンス・アンプ(TIA)、 つ小型で使いやすい機器、なかでもウェアラブルなスマート・デ バンドパス・フィルタ(BPF)、積分器(INT)、A/Dコンバータ バイスに対するニーズは、歴史的な高水準に達しています。 (ADC)で構成されています。一方、デジタル・ブロックは、複 そうした小型の機器に複数のセンシング機能を持たせるのは、容 数の動作モード、プログラマブルなタイミング機能、GPIO(汎 易なことではありませんでした。フォーム・ファクタと消費電力 用入出力)の制御機能、ブロック平均機能、2次~4次に設定可 を抑えつつ、性能を大幅に高めてマルチパラメータに対応する機 能なカスケード型/積分型のコム(CIC:Cascaded Integrator 能を実現しなければならないからです。しかし、アナログ・デバ Comb)フィルタを備えています。各種のデータは、データ用の イセズが提供する単一のアナログ・フロント・エンド(AFE)を レジスタから直接あるいはFIFO(First-in, First-out)方式で読 採用することで、そうした機能に極めて容易に対応できるように み出します。 なりました。そのAFEは、複数のパラメータの同期測定を実現す ADPD4100はSPI(Serial Peripheral Interface)に対応して るVSMのハブとして機能します。それにより、ウェアラブル機 います。一方、ADPD4101はI2Cに対応します。ADPD4100/ 器の機能/性能を大幅に改善することが可能になります。つまり、 ADPD4101は、光学測定の面で大きな優位性を持っています。 ノイズが少なく、S/N比が高く、フォーム・ファクタが小さく、 周辺光を自動的に除去する優れた機能を備えているからです。ま 消費電力が少ない医療機器を実現できるということです。それに た、BPFと組み合わせた同期変調方式には、1マイクロ秒の短パ より、医師や患者を含む消費者は、複数の機器を使う煩わしさか ルスを使用します。外部の制御ループ、DC電流の減算、デジタ ら解放されます。より高い性能、より長いバッテリ寿命、より高 ル・アルゴリズムを必要としません。加えて、デシメーション係 い精度で、従来よりも簡単にVSMを利用できるようになるとい 数(1より大きい値)を使用することにより、出力のS/N比を高 めることができます。 VISIT ANALOG.COM/JP 1 マルチパラメータのバイタル・サイン監視システムを、かつてないほど容易に実現
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更に、サブサンプリング機能を使えば、プログラムしたサンプリ 連続接続モード ング・レートよりも低いサンプリング・レートで、選択したタイ 連続接続モードは、PPG測定向けの代表的な動作モードです。こ ム・スロットを実行することができます。それにより、消費電力 のモードでは、周辺光の除去性能として最高のレベルが得られ、 (サンプリング・レートに比例)を抑えることが可能になります。 高いS/N比を実現できます。また、電流伝達率(CTR:Charge TIAにおける上限値の検出機能も搭載しています。この機能では、 Transfer Ratio。LEDの電流に対する光電流の比)が5nA/mA TIAの出力部にある電圧コンパレータを使用します。TIAの入力 ~10nA/mAという低いレベルでも適切に動作し、95dB~ が標準の動作限界を超えた場合には、割り込みビットが設定され 100dBという優れたS/N比(DC)が得られます。このレベルは、 ます。 デシメーション係数を大きくすることにより高めることができま す。連続接続モードでは、TIA、BPF、INT、ADCから成る完全 ウェアラブルな健康機器やフィットネス機器は、心拍数や心拍 なアナログ信号パスを使用します。流入する電荷は、ADCによ 変動(HRV:Heart Rate Variability)の監視、血圧の測定、 る変換が行われるたびに1回積分されます。PPGのような単一の ストレスと睡眠の追跡、SpO2の測定などに使用されます。 刺激イベントでは、センサーの応答によって得られる電荷を積分 ADPD4100/ADPD4101は、そうした機器における様々な電気 する際、INTのダイナミック・レンジの大部分を使用することに 的/光学的センサーのハブとして最適です。複数種の動作モー なります。TIAは、プリコンディショニング期間の後、常に入力 ドを備えていることから、様々なセンサーによる測定に対応す に接続されている状態になります。そのため、入力信号は変調さ ることができます。例えば、ヘルスケア・アプリケーションに れません。フォトダイオードのアノードは、ノイズを低減するた おける光電容積脈波(PPG:Photoplethysmography)や、 めに、プリコンディショニングによってTIAのリファレンス電圧 心電図(ECG:Electrocardiogram)、皮膚電気活動(EDA: TIA_VREFに設定されます。通常、TIA_VREFは、TIAで最大のダ Electrodermal Activity)、身体の組成、呼吸、温度、周辺光な イナミック・レンジが得られるよう1.27Vに設定します。一方、 どの監視に対応できます。また、その用途はこれらに限られるわ フォトダイオードのカソードは、その電圧源となるVCxピンに接 けではありません。 続します。通常、ADPD4100/ADPD4101は、フォトダイオー ドのカソードにTIA_VREF + 215mVを供給します。それにより、 PPG測定 フォトダイオードの両端に215mVの逆バイアスがかかるように PPG測定では、各心周期に関連した組織における微小血管床中 します。その結果、フォトダイオードの容量が低下し、信号パス の血液量の変化を検出します。収縮期/拡張期のイベントによ のノイズが低減されます。連続接続モードでは、LED用の標準 る血液量の変化は、光の吸収量と相関を持ち、その吸収量に応 的なパルスの幅は2マイクロ秒です。このパルス幅を狭くするこ じてPPG信号が生成されます。PPG測定は、LEDからのパルス とにより、周辺光の除去性能が最高のレベルに達します。また、 光を人体の組織に照射し、得られた反射光/透過光をフォトダ LED用に複数のパルスを使用する場合、パルスの数を2倍にする イオードで光電流に変換して収集することで行います(図1)。 ごとにS/N比が3dB向上します。通常、最高レベルのS/N比は、 ADPD4100/ADPD4101は、光電流の処理と測定を行った上で INTのチョッピングをイネーブルにすることによって得られます。 デジタルのPPG信号を生成します。両製品は、ハードウェアの接 チョッピングを実行すると、INTにおける低周波ノイズが除去さ 続を全く変更することなく、PPG測定の様々な用途に応じて異な れるからです。TIAのゲインとして高い値を選択すれば入力換 るモードで動作するよう柔軟に構成することができます。異なる 算ノイズが低下しますが、TIAのダイナミック・レンジは狭くな モードというのは、以下の4つです。 ります。TIAのダイナミック・レンジは、TIA_VREFをTIAのゲイ ンで割ることにより計算できます。ADCの飽和レベルを高める X 連続接続モード には、TIAのゲインを下げるか、INTの抵抗値を大きくします。 X 複数積分モード INTの抵抗値を高めるほどノイズは小さくなりますが、低い値を X フロート・モード 選択するほど周辺光に対する余裕が増加します。 X デジタル積分モード 以下、各モードの概要について順に説明していきます。 複数積分モード 複数積分モードは、連続接続モードと非常によく似たモードです。 異なるのは、ADCによる変換が行われるたびに、流入する電荷 VCx を複数回積分する点だけです。複数積分モードは、照度が低い状 R 6.3 pF 況でも高いS/N比を得たい場合に役立ちます。そのような状況で F INx RINT は、1回の刺激イベントに応じて使用されるダイナミック・レン TIA BPF RINT ADC ジは小さく、場合によっては50%しか使用されません。そこで、 V RF LED1 スイッチ このモードでは、ADCによる変換の前に複数回積分を実行する + CVLED 6.3 pF TIA_VREF ことにより、INTのダイナミック・レンジの使用範囲を広げます。 LEDx 積分の回数を2倍にするごとに、S/N比は3dBずつ向上します。 図1. PPG測定用の標準的な回路 2 マルチパラメータのバイタル・サイン監視システムを、かつてないほど容易に実現
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つまり、パルス数を2倍にする場合と同じレベルの効果が得られ トダイオードに蓄積できる電荷容量が周辺光によって独占されて ます。通常、複数積分モードは入力が小さい場合に使用します。 しまうからです。複数積分モードでは、BPFやLED用の短パルス そのため、TIAのゲインとしては最大の値を選択します。また、 を使用するので、周辺光の除去性能が本質的に優れています。 このモードは、CTRが5nA/mAよりも低く、高い周辺光除去性 能が求められる場合に使用します。 デジタル積分モード ここまでに説明した3つのモードでは、INTを使って、流入する フロート・モード 電荷を積分します。デジタル積分モードでは、ADCで取得した フロート・モードも、照度が低い状況で高いS/N比を得たい場合 サンプル・データをデジタル処理によって積分することもできま に使用します。このモードでは、フォトダイオードにノイズが生 す。デジタル積分を実行する場合には、INTをバッファで置き換 じていない状態で、光によって得られた電荷を蓄積することがで えます。デジタル積分モードは、2つの領域で動作します。LED きます。なぜなら、フォトダイオードがAFEから切り離されるか は、明領域ではパルスによって駆動され、暗領域ではオフになり らです(そのため、フロート・モードと名づけられました)。その ます。ADCでは、明領域/暗領域において1マイクロ秒間隔で 後、再びAFEをフォトダイオードに接続すると、フォトダイオー 変換処理が行われます。得られたデータはデジタル処理によって ドに蓄積された電荷がAFEに急速に流入し、積分が実行されま 積分されます。計測の対象となる信号は、ADCにより明領域で す。このような動作により、信号パスで加わるノイズを最小限に 取得した積分値から暗領域で取得した積分値を減ずることで計算 抑えつつ、パルス当たりの電荷量が最大の状態で処理を行うこと できます。このモードでは、LED用により幅の広いパルスを使用 ができます。電荷の読み出しは短い変調パルスを使って高速に行 することが可能です。そのため、このモードは、フォトダイオー われるので、信号パスで加わるノイズは少なく抑えられます。フ ドの応答時間が長く、幅の広いパルスを使用しなければならない ロート時間を延ばして、より高い信号レベルを得ることもできま 場合によく使われます。このモードでも、BPFはバイパスして電 すが、フォトダイオードの容量(蓄積できる電荷量)には限界が 源をオフにします。デジタル積分モードでは、最も高い電力効率 あります。なお、このモードではBPFがバイパスされます。その と、達成可能な最高レベルのS/N比が得られます。但し、LED用 理由は、TIAとの接続を確立してフォトダイオードからの電荷を のパルスの幅が広く、BPFをバイパスするので、連続接続モード 転送する際、生成される信号の形状がデバイスや条件によって変 よりも周辺光の除去性能は劣ります。デジタル積分モードでは、 化する可能性があるからです。信号と積分シーケンスを確実に適 同一のタイム・スロットで2チャンネルの同時サンプリングを行 合させるためには、BPFをバイパスする必要があるということで うことはできません。ただ、100dBを超えるS/N比(DC)を得 す。このモードでは、高い周辺光除去性能は得られず、フォトダ ることができます。 イオードの容量による制限も加わります。ただ、電力効率が高く、 非常に照度が低い条件下でも、ノイズを抑えて測定を行うことが デジタル積分モードの長所と短所 可能です。 先述したように、PPG測定によく使用されるのは連続接続モード です。このモードでは、CTRが5nA/mAを超える条件下で優れ 複数積分モードとフロート・モードの比較―― たS/N比と周辺光の除去性能が得られるからです。一方、デジタ 低照度に適したモードはどちらか? ル積分モードを使用すれば最高のS/N比が得られます。しかも、 CTRが5nA/mAよりも小さい低照度の条件では、フロート・モー 消費電力に対して最高の効率で高いS/N比が実現されます。アプ ドがよく使われます。同モードでは、複数積分モードよりもノイ リケーションにおいて周辺光が問題なのではなく、目標とするS/ ズが小さくなります。複数積分モードでは、より多くの積分サイ N比(DC)が85dB以上である場合には、デジタル積分モード クルが発生し、TIAとINTからのノイズが増えるからです。また、 を選択し、高いS/N比を効率的に達成するとよいでしょう。目標 フロート・モードでは、複数積分モードよりも高い電力効率が得 とするS/N比(DC)が85dB以下である場合には、デジタル積 られます。BPFがパワー・ダウンしていることに加え、測定時間 分による電力の削減効果は、連続接続モードと比べて大きいとは がより短いからです。フロート・モードでは、複数積分モードと 言えません。 比べて消費電力当たりのS/N比が大幅に高くなります。 まとめると、デジタル積分モードは、フォトダイオードの応答時 フォトダイオードにリークが発生している場合や、PPG測定にお 間が長いため、より幅の広いパルスを必要とする場合に適してい いて多くの周辺光が存在している場合には、複数積分モードを使 ます。1つのタイム・スロット内で、2つのチャンネルにおける同 用することをお勧めします。フォトダイオードにリークが生じて 時サンプリングを行う必要がない場合に使用可能です。 いる場合、フロート・モードは使用できません。電荷の高速読み また、周辺光が問題になるのではなく、目標となるS/N比(DC) 出しを行う前に、電荷が漏れ出てしまうからです。また、周辺光 が85dB以上である場合には、デジタル積分モードを選択するこ が多い場合にも、フロート・モードは適切ではありません。フォ とで電力効率を高められます。 VISIT ANALOG.COM/JP 3
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表1に、4つのモードの特徴をまとめておきます。 サーの入力にも対応できます。1つのAFEを使用するだけで、マ ルチパラメータに対応する完全なVSM用プラットフォームを構 PPG測定のアプリケーション 築できるということです。 COVID-19のパンデミックを背景とし、VSMや健康診断におけ るPPG測定の重要性が一層高まっています。また、問題を検出 パルス・オキシメトリによるSpO2の測定 するためには、複数の指標を使用することが不可欠です。例えば、 パルス・オキシメトリでは、赤色LED(波長は660nm)と赤外 VSMの重要な項目としては、心拍数、HRV、SpO2などが挙げら (IR)LED(波長は940nm)を使用して測定を行います。脱酸素 れます。これらの値は、パルス・オキシメトリと血圧測定によっ 化ヘモグロビンは赤色光をより多く吸収し、酸素化ヘモグロビン て取得することができます。 は赤外光をより多く吸収します。そして、フォトダイオードは吸 収されなかった光を感知します。それによって得られた信号は、 パルス・オキシメトリは、SpO2を光学的/非侵襲的に監視す DC成分とAC成分に分けられます。これらのうち、DC成分は組 る手法です。これは、COVID-19の感染者が低酸素症に陥って 織、静脈血、非脈動性の動脈血による光の吸収量に対応します。 いることを検出したい場合に非常に役立ちます。低酸素症は、 一方のAC成分は、脈動性の動脈血による光の吸収量を表します。 COVID-19の主な症状の1つであり、身体の組織への酸素供給が SpO2の割合(%単位)は、次式で計算することができます。 欠乏している場合に発症します。また、この症状は心拍数の増加 を引き起こすことがあります。したがって、光学的/非侵襲的に %SpO2 = (ACred/DCred)/(ACIR/DCIR) 心拍数をモニタリングする手法も低酸素症の検出には不可欠です。 ADPD4100/ADPD4101は、SpO2の計測に向けて、任意の2 こうした条件に対応するためには、複数の測定機能を統合するの つのタイム・スロットを使用して赤色LEDと赤外LEDの応答を取 が最適な手法となります。将来的にウェアラブル機器が必要にな 得できるように構成することが可能です。残りのタイム・スロッ るわけではない場合でも、ADPD4100/ADPD4101は極めて有 トは、様々な波長のLEDを対象としたPPG測定に対応するよう 効なソリューションとなります。これらのAFE製品を採用すれば、 構成することができます。具体的には、ECGの測定、リードオフ 温度、ECG、呼吸の監視用センサーなど、どのような種類のセン 検出、呼吸の監視など、任意のセンサーを用いた計測に対応可能 です。 表1. ADPD4100/ADPD4101における各動作モードの設定、特徴 モード 標準的な設定 特徴 PPG測定用の標準的なモード SAMPLE_TYPE=0 周辺光の除去性能が最高 連続接続モード MOD_TYPE=0 NUM_INT=1 低ノイズ、低消費電力 NUM_REPEAT≥1 INTのチョッピングとデシメーションにより、95dB以上のS/N比を達成可能 適切なCTRが必要(5nA/mA以上) 85dB以上のS/N比(DC)、最高の電力効率 SAMPLE_TYPE=1¦2 LED用パルスの幅を広くとることで、100dB以上という最高レベルのS/N比(DC)を達成 デジタル積分モード MOD_TYPE=0 NUM_INT≥1 周辺光が問題にならないアプリケーションに最適 NUM_REPEAT≥1 センサーの応答時間が長く、短パルスを使用できないアプリケーションに最適 2チャンネル/ソースの同時サンプリングには対応しない 低照度(CTRが5nA/mA以下)に対応 SAMPLE_TYPE=0 連続接続モードでフルスケールの50%に達しない場合に使用 フロート・モード MOD_TYPE=1 NUM_INT=1 周辺光が問題にならないアプリケーションに最適 NUM_REPEAT≥1 複数積分モードよりも低ノイズ、低消費電力 SAMPLE_TYPE=0 低照度(CTRが5nA/mA以下)に対応 複数積分モード MOD_TYPE=0 NUM_INT>1 連続接続モードでフルスケールの50%に達しない場合に使用 NUM_REPEAT≥1 高い周辺光除去性能が求められるアプリケーションに最適 4 マルチパラメータのバイタル・サイン監視システムを、かつてないほど容易に実現
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図2に、赤色光、緑色光、赤外光に対応するPPG信号を同時に 和します。また、第3の電極を用いてリファレンス電圧を身体に 取得した結果を示しました。例として、赤外光に対応する信号の 戻すためには、右足駆動(RLD:Right Leg Drive)技術が使わ AC成分/DC成分にはマーカーを付加しています。 れます。これは、電圧を測定するECGシステムにおいて、人体、 電極、ケーブルがさらされる同相電圧を除去するために実装され PPG:フィルタなし 780k ます。 760k ADPD4100/ADPD4101をECGの測定に適用する場合には、新 740k AC しいアプローチを採用することになります。それは、抵抗とコン 720k デンサから成る受動回路を使用して、1対の電極間の差動電圧に 700k 追従させるというものです。図3(a)に示すように、受動回路は 2個の抵抗RSと1個のコンデンサCSによって構成します。この方 DC 680k 法では、ECGの各サンプル・データを取得するために、充電ス 660k テップと電荷の転送ステップから成るプロセスを適用します。 640k 620k 2つの入力ピンIN7、IN8は、充電ステップの間はフロート状態に 赤色光 緑色光 赤外光 なっています。コンデンサCSの電荷は、充電時間が3τ(τ = 600k 2RSCSで定義される時定数)より長い場合、2つの電極間の差動 図2. 赤色光、緑色光、赤外光に対応するPPG信号。 電圧に比例します。電荷の転送ステップの間、CSはTIAに接続さ 例として、赤外光に対応するPPG信号のAC成分/DC成分には れ、測定を行うためにAFEに電荷が転送されます。このように、 マーカーを付加してあります。 ADPD4100/ADPD4101を採用したECG向けソリューション は、電荷の測定をベースとしています。このソリューションによ 心拍数の監視 り、バッファとRLD用の第3の電極が不要になる、外付け部品を 心拍数の監視も、COVID-19の検出には不可欠な要素です。低 減らせるのでシステムを小型化できる、消費電力を削減できると 酸素症によって酸素の供給量が低下すると、身体の組織に十分な いった複数のメリットが得られます。 量の酸素を供給するために心臓の拍動が速くなります。心拍数の 監視は、心臓の問題を検出したり、フィットネスにおける運動量 ADPD4100/ を追跡したりする際に役立ちます。 ADPD4101 25.5 kΩ 47 pF 一般に、心拍数の監視には、波長が540nm前後の緑色LEDが使 IN5 用されます。緑色LEDは赤色LEDや赤外LEDよりも変調指数が CH1 電極 RS = 500 kΩ IN7 高いので、最良のPPG信号が得られます。また、適切なレベル のCTRが得られるため、消費電力もそれほど多くなりません CS = 470 pF RS = 500 kΩ IN CH2 8 S/N比(AC)は、信号品質を表すパラメータとなります。これ 電極 25.5 kΩ 47 pF は、S/N比(DC)と変調指数の乗算によって求められます。例 VC2 VC2 えば、変調指数が1%でS/N比(DC)が95dBである場合、S/ N比(AC)は55dBと算出することができます。 (a) ECGの測定 スポット・チェックに対応する腕時計や連続監視用の胸部パッチ のようなウェアラブル機器に、ECGの測定機能が追加されるよう 充電 になっています。一般に、そうした機器には、金属などの導電材 電荷の転送 料で作られた電極が使用されています。それらの電極は分極して おり、乾式電極と呼ばれます。乾式電極を使用したECGの測定 では、電極と皮膚の間の接触インピーダンスが高く、過電圧が比 較的高くなることが大きな課題になります。 時間 従来、ECGの測定には、計装アンプをベースとするソリューショ (b) ンが使われていました。その場合、バッファを使用することで、 図3. ECGの測定用の構成(a)。抵抗とコンデンサから成る受動回路を 信号の減衰に関わる電極‐皮膚間の高い接触インピーダンスを緩 付加しています。また、リードオフ検出用の回路も構成しています。 (b)は、ECGのデータをサンプリングする際の充電ステップと 電荷転送ステップについて示したものです。 VISIT ANALOG.COM/JP 5 PPG〔LSB〕 0.01 0.17 0.33 0.49 0.65 0.81 0.97 1.13 1.29 1.45 1.61 1.77 1.93 2.09 2.25 2.41 2.57 2.73 2.89 3.05 3.21 3.37 3.53 VCS VECG
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このソリューションでは、生体インピーダンスをベースとするア 患者が呼吸する際には、肺の容量が増減します。それにより、胸 プローチを採用したADPD4100/ADPD4101により、設計上の 部のインピーダンスに変化が生じます。その変化は、胸部を横切 柔軟性がもたらされます。例えば、図3(a)の回路には、リード るパスに電流を流し、電圧降下を測定することによって検出でき オフ検出の機能が追加されています。この回路では、一方の電極 ます。図5(a)に示したのは、2つの電極を使用してECGの測 にパルスを印加し、もう一方の電極で電流を受け取ります。一方 定と呼吸の監視を実現する回路(リファレンス設計)です。図5 の電極または両方の電極が皮膚から離れている場合、パスが切断 (b)に、同時に記録したECG信号、呼吸に関連するインピーダ されて電流を受け取ることができなくなります。図4に示したグ ンスの変動波形、PPG信号を示しました。ECGと呼吸の測定は、 ラフは、ECGの信号と、リードオフ検出用に受け取った電流を表 ステンレスの乾式電極を左右の手首に装着することで行いまし しています。タイム・スロットAでECGを測定し、タイム・スロッ た。PPGは、緑色LEDを使用して測定しました。 トBでリードオフ検出を行っています。 従来のECG向けソリューションでは、リードオフ検出に使用す ADPD4100/ 1 nF 10 kΩ ADPD4101 るプルアップ抵抗回路がECGの測定回路の入力インピーダンス GPIO2 に影響を及ぼします。それに対し、生体インピーダンスをベース 25.5 kΩ IN7 とするリードオフ検出では、タイム・スロットが分離されている 電極 R 0 kΩ IN CH1 S = 50 5 ことから、ECGの測定には全く影響は及びません。図3のように CS = 470 pF DC結合回路を使用することで、電極と皮膚の間の接触が再び確 IN6 立されたらECG信号が取得されます。 電極 RS = 500 kΩ CH2 IN8 25.5 kΩ × 104 ADPD4100によるECG測定とリードオフ検出 × 105 GND 1.85 1 nF 10 kΩ 1.316 (a) リードの接触が回復すると 1.80 すぐにECG信号を取得 1.314 ECG:3点移動平均、ベースラインを補正済み 50 0 1.75 1.312 –50 –100 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 1.31 時間〔秒〕 1.70 呼吸:9点移動平均、ベースラインを補正済み 500 1.308 リードオフの検出 0 1.65 –500 1.306 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 時間〔秒〕 時間〔秒〕 × 10–3 PPG:5点移動平均 図4. ECGの測定とリードオフ検出。 5 DC結合により、瞬時にECGの測定に復帰しています。 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 インピーダンス・ベースの呼吸の監視 時間〔秒〕 ADPD4100/ADPD4101を使用すれば、呼吸の監視も行えま ECG、呼吸、PPGを同時に測定した結果 1 す。その場合、吸息サイクル/呼息サイクルにおける肺の生体イ 0.5 ンピーダンスの変化を検出します。呼吸の監視は、集中治療室 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 (ICU)にいる患者や睡眠中の患者を対象として行われます。呼吸 時間〔秒〕 をモニタリングすることで患者を管理し、適切なタイミングでア (b) ラームを発することにより、命を救うことが可能になります。こ 図5. ECGと呼吸を監視するための構成(a)。 れは、呼吸器系の問題や睡眠時無呼吸の症状を抱える患者にとっ スリープ・フロートによるECGの測定とケルビン検出法による 呼吸の測定を行うための外部回路を付加しています。 て極めて重要な機能です。睡眠時無呼吸も健康に対する脅威であ (b)は、ECG、呼吸、PPGを同時に測定した結果です。 り、米国では2500万人を超える成人がこの症状に苦しめられて います1。 6 マルチパラメータのバイタル・サイン監視システムを、かつてないほど容易に実現 ECG信号〔LSB〕 リードオフ検出用の誘起電流〔LSB〕 正規化した信号 PPG、灌流指標 呼吸〔LSB〕 ECG〔LSB〕
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まとめ ります。また、ADPD4100/ADPD4101を使って構成したマル VSMを実現するシステムは、ウェアラブルなスマート・デバイ チパラメータ対応のシステムでは、同期をとった状態でデータが スの形で民生市場における存在感を高めています。ウェアラブル 生成されます。したがって、データの同期をとるために労力を費 機器によって生成された健康に関する情報は、健康と疾病の管理 やす必要はありません。 を行う上で重要な役割を果たします。そうした機器に対する需要 を満たし、より多くの人々が利用できるようにするためには、コ 参考資料 スト、サイズ、消費電力などの要件について検討しなければなり 1「Rising Prevalence of Sleep Apnea in U.S. Threatens ません。ADPD4100/ADPD4101は、アナログ・デバイセズが Public Health(米国で睡眠時無呼吸の有病率が上昇、健康 提供する革新的なAFEです。これらの製品には、マルチパラメー に対する脅威が増大する)」American Academy of Sleep タに対応するVSMのハブとしての高い優位性があります。単一 Medicine (AASM)、2014年9月 のAFEを使用してマルチパラメータ対応のVSMを実現するシス テムを設計できるため、必要なICの数を削減できます。その結 果、システムのコストとサイズを大幅に低減することが可能にな 著者について Yigit Yoler(i yigit.yoleri@analog.com)は、アナログ・デバイセズの分子センシング・グループ(マサチュー セッツ州ウィルミントン)に所属するアプリケーション・エンジニアです。2019年2月に入社しました。主 に、ヘルスケア、民生、産業などの分野で使用される光センサー・アプリケーションを担当しています。ト ルコのボアズィチ大学で電気工学と電子工学の学士号を取得。カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD) では、医療用機器/システムを専門領域とし、電気工学とコンピュータ工学の修士号を取得しました。 著者について Guixue (Glen) Bu(guixue.bu@analog.com)は、アナログ・デバイセズの分子センシング・グループに 所属するアプリケーション・エンジニアです。2018年9月に入社しました。主に、医用生体計測の技術/ アプリケーションに関する研究開発に携わっています。中国の清華大学で医用生体工学の学士号を取得。パ デュー大学で同分野の修士号と博士号を取得しています。 VISI T A N A L O G . C O M /JP お住いの地域の本社、販売代理店などの情報は、analog. ©2020 Analog Devices, Inc. All rights reserved. com/jp/contact をご覧ください。 本紙記載の商標および登録商標は、各社の所有に属します。 Ahead of What’s Possibleはアナログ・デバイセズの商標です。 オンラインサポートコミュニティEngineerZoneでは、アナ ログ・デバイセズのエキスパートへの質問、FAQの閲覧がで きます。 AD5411-0-11/20 VISIT ANALOG.COM/JP 7