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積層セラミック・コンデンサ(MLCC)を削減する設計手法

ホワイトペーパー

MLCCクライシスを生き抜くために

積層セラミック・コンデンサ(MLCC)の深刻な供給不足が続くなか、アナログ・デバイセズはMLCCをできるだけ使わないスイッチング・レギュレータICを提案します。

「MLCC」(Multi-layer Ceramic Capacitor)と略される積層セラミック・コンデンサの供給不足が2016年終わり頃から続いており、とくにECU(電子制御ユニット)に内蔵する電源回路の出力コンデンサ(一般的に数十μF以上の大容量品)の入手がきわめて困難になっています。一説には、部品メーカーや部品商社に新規でオーダーしたときのリードタイムは40週から75週にも達するといわれていますし、新規オーダーを受け付けてくれないケースもあるようです。
なぜこのような需給のアンバランスが起きているかというと、2010年頃のエレクトロニクス市場の低迷のときに一部の受動部品メーカーが生産の縮小や撤退を行ったことで供給力が大きく低下した状態のまま、2016年頃からスマートフォンの需要回復やクルマの電子化を背景に需要が増えたことが原因とされています。

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このカタログについて

ドキュメント名 積層セラミック・コンデンサ(MLCC)を削減する設計手法
ドキュメント種別 ホワイトペーパー
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取り扱い企業 アナログ・デバイセズ株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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業界動向とソリューション H o t T o p ioc s t Topics MLCCクライシスを生き抜くために 積層セラミック・コンデンサ(MLCC)の深刻な供給不足が続くなか、アナログ・デバイセズは MLCCをできるだけ使わないスイッチング・レギュレータICを提案します。 「MLCC」(Multi-layer Ceramic Capacitor)と略される積層 BOMの必要量を抑えることで需給のアンバランスの緩和が図れ セラミック・コンデンサの供給不足が2016年終わり頃から続いて るほか、部品コストの削減、回路面積の小型化、マウンターでの実 おり、とくにECU(電子制御ユニット)に内蔵する電源回路の出力コ 装時間の短縮などのメリットも得られます。 ンデンサ(一般的に数十µF以上の大容量品)の入手がきわめて困 難になっています。一説には、部品メーカーや部品商社に新規で オーダーしたときのリードタイムは40週から75週にも達するとい 多くのコンデンサが使われる電源周り われていますし、新規オーダーを受け付けてくれないケースもある ようです。 ここでECUに使われる一般的な降圧コンバータ(Buck converter) 回路を例に、MLCCの削減に向けたアプローチを説明します。 なぜこのような需給のアンバランスが起きているかというと、 降圧コンバータ回路では、主に次の四つの目的でコンデンサが使われ 2010年頃のエレクトロニクス市場の低迷のときに一部の受動部品 ます。 メーカーが生産の縮小や撤退を行ったことで供給力が大きく低下 した状態のまま、2016年頃からスマートフォンの需要回復やクルマ (a) 出力コンデンサ:出力リップル電圧の平滑化と、急激な負荷変動 の電子化を背景に需要が増えたことが原因とされています。 に対して電流を瞬間的に供給する役割を担う。一般に数十µFから 100µF程度の大容量品が用いられ、複数個を並列に接続する場合も  実際に、ミッドレンジ・クラスのクルマに搭載されるMLCCの個 ある。 数は、2000年には約500個だったのが、2017年には5倍以上に 相当する2600個程度に増加しているといわれており、2020年に (b) 入力コンデンサ:入力電圧を安定させるとともに、急激な負荷 は3500個を超えると想定されています。 変動に対して入力電流を瞬間的に供給する役割を担う。一般に数µF から数十µFが用いられる。 これはマイコンなど心臓部の処理能力が年々アップしているため です。大容量を高速に処理するためは、安定な電圧と大電流が不可 (c) バイパス・コンデンサ:スイッチング動作で生じるスイッチング・ 欠です。そのため、大電流を供給でき、かつ、電圧変動が小さい電源 ノイズや、他の回路から回り込んでくるノイズを吸収する役割を担う。 回路が求められるため、より多くのコンデンサが必要になっているこ 0.01µFから0.1µF程度の容量が一般に用いられる。回路のEMI特性 とが品不足に拍車を掛けています。 が良くない場合は、ノイズ対策として多くのバイパス・コンデンサが 必要になる。 調達のご担当者は必要数量の確保に相当の努力をされていると 推察しますが、そもそも絶対的な供給量が不足していることを考え (d) 補償用コンデンサ:帰還ループの位相補償用で、位相余裕を ると、いい特効薬はないのが現実と思われます。 確保し発振を防止する役割を担う。スイッチング周波数や帰還ループ のクロスオーバー周波数などによって異なるが、数百pFや数十nF そうした状況の中でアナログ・デバイセズが提案するのが、 オーダーの小容量品が用いられることが多い。補償回路を内蔵した MLCCをできるだけ使わない設計への転換です。具体的にはスイッ スイッチング・レギュレータICもある。 チング・レギュレータ周りの出力コンデンサやバイパス・コンデンサ の削減です。 このうち、(a)の出力コンデンサはスイッチング周波数を高めに設定 するなどの工夫で容量を減らせるほか、(c)のバイパス・コンデンサも ノイズを出さない回路構成にすることで個数を大幅に削減することが 可能です。それぞれ具体的に見ていきましょう。 04
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MLCCクライシスを生き抜くために 業界動向とソリューション H o t T o p i c s スイッチング周波数を高くして つまり、クロスオーバー周波数を高くすれば、負荷応答性が高まり、 出力コンデンサ(Cout)を小容量化 出力電圧の変動が抑えられるため、出力コンデンサ容量を小さくできる ことがわかります。ただし、クロスオーバー周波数を高くしようとすると まず、出力コンデンサについて説明します。図2左は降圧コンバータの 二つの課題が生じます。まず、発振を防ぐために帰還ループの位相余裕 概略構成図で、PWM回路の上側にトップFETと右側にボトムFETが を十分に確保しておかなければなりません、一般にはクロスオーバー 置かれています。回路の下半分は帰還ループで、赤枠内の「COMP」は 周波数にて45°以上(できれば60°以上)の位相余裕が必要とされて 補償回路です。 います。 もうひとつの課題がスイッチング周波数(fsw)とクロスオーバー 周波数の関係です。両者が近いとスイッチング周波数で発生するリップル 電圧に対しても負帰還が応答してしまうため、安定した動作が難しく なります。スイッチング周波数に近い周波数成分には反応しないように しなければなりません。そのための目安として、クロスオーバー周波数は スイッチング周波数の1/5以下の周波数に設定することが推奨され ます。 クロスオーバー周波数(ゲイン=0dB)を高周波側にもっていきたい 図2. 降圧コンバータの帰還ループと、ゲインと位相の関係 帰還ループの特性をボード線図に表すと図2右のようになります。 ループ・ゲインが0dB(ゲイン=1)のところをクロスオーバー周波数(fc) と呼び、クロスオーバー周波数が高いほど負荷変動に対する応答性が 上がります。たとえば図3において、負荷電流が1Aから5Aに急激に 増えたとき、クロスオーバー周波数が20kHzの場合は出力に60mVの 電圧低下が現れているのに対して、50kHzのときは32mVにとどまって います。 図4. スイッチング周波数とクロスオーバー周波数の関係 図3. クロスオーバー周波数と出力応答性(スイッチング周波数:400kHz) 05
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MLCCクライシスを生き抜くために H o t T o p i c s 業界動向とソリューション 以上により、クロスオーバー周波数を高くするためには、スイッチング そして、上述の通りクロスオーバー周波数を高めに設定できることや、 周波数も高い周波数に設定する必要がでてきます。ここでクロス スイッチング・サイクルが短くなるため負荷変動に対する応答性が上 オーバー周波数を上げようとしてスイッチング周波数を単純に高く がって出力電圧変動が抑えられ(図7)、やはり出力コンデンサの容量を すると、トップFETとボトムFETで発生するスイッチング損失が増えて、 小さく出来る方向に働きます。 電源の変換効率が低下するという新たな問題が生じます。損失に 高スイッチング周波数化メリット よってパッケージ温度が上昇してしまうため、熱的な制約からスイッチ 周波数が低い場合 周波数が高い場合 ング周波数を高くできない、といった問題が他社のソリューションでは M1 見られます。 M2 アナログ・デバイセズが提供するスイッチング・レギュレータICは、 独自のFET制御によって、スイッチング周波数を高くしてもほとんど M2ON期間 M2ON期間 効率が落ちないという特長があります(図5)。 ここで負荷電流 IOUTが増えたとする。 ここでM1がON、 ここでM1がON、コイル電流 ILが早く増えて、 コイル電流 ILが増えるためには,次のスイッチングサイクル コイル電流 ILが増える。 出力電圧 Voutの落ち込みは素早く復帰 (=M1がONのタイミング)を待たなければならない。 効率比較: ADI vs 競合 高スイッチング周波数化で高速負荷応答 図7. スイッチング周波数を高めに設定した場合のメリット2:    負荷変動に対する応答性の向上 ADI ADI電源は高スイッチング周波数でも高効率を維持 競合品 競合品は高スイッチング Silent Switcherがバイパス・コンデンサを大幅に削減 競合品 周波数で効率低下 = 続いて(c)のバイパス・コンデンサの削減についても説明しましょう。 0.01µFから0.1µF前後の小容量のMLCCの供給は、出力コンデンサに ADIは高スイッチング周波数でも高効率 用いられる大容量のMLCCほど逼迫してはいませんが、BOMコストや 図5. スイッチング周波数を高めに設定した場合の課題: 基板面積などの観点からも少ない個数で構成できるに越したことはあ   スイッチング損失の増加による効率の低下 りません。 スイッチング・レギュレータ回路におけるバイパス・コンデンサの大き たとえば6A出力のLT8640Sの場合、スイッチング周波数が2MHzの な役割は、スイッチング動作で発生するスイッチング・ノイズやその高調 とき、入力12V、出力5Vの構成で、全負荷範囲(0.5Aから6A)で90%を 波を吸収し、他の回路に影響が及ばないようにすることです。逆に、回路 超える効率を実現しています。 自体が発するノイズを最初から抑えてしまえば、バイパス・コンデンサを 効率が落ちなければ、スイッチング周波数を高めに設定することで 多数配置しなくても済むと考えられ、アナログ・デバイセズはまさにこの どのようなメリットが生まれるでしょう。まず、インダクタの電流リップル ようなアプローチに基づいた「Silent Switcher」と呼ぶスイッチング・ (ΔIL)が小さくなるため、出力リップル電圧(ΔVout)が小さくなり、結果 レギュレータICを提供しています。 としてリップルの平滑化に必要な出力コンデンサの容量を減らすことが スイッチング・レギュレータのノイズ源となるのが、スイッチング動作で できます(図6)。同時にインダクタも小型化が図れます。 切り替わるふたつの電流ループです。トップFETがオンでボトムFETがオ フのとき(図8. 赤色ループ)と、トップFETがオフでボトムFETがオンのと 高スイッチング周波数化メリット き(図8. 青色ループ)です。それぞれで電流ループが切り替わりますが、 コイルのΔIL(ピークtoピーク電流)が小さくなる コイルのΔILが小さいため、出力リップル電圧ΔVOUTも小さくなる なかでも「ホットループ」と当社が呼んでいる、入力コンデンサCIN>トップ FET>ボトムFETで形成されるループにおいて電流の激しいオン・オフ が発生し、あたかもアンテナのような役割をしながら電磁ノイズを放射 実線 : 高スイッチング周波数 ΔIL ΔVOUT します(図8. 緑色ループ)。 破線 : 低スイッチング周波数 ESR Cout f : 周波数 Cout: 静電容量 高スイッチング周波数化で低出力電圧リップル 図6. スイッチング周波数を高く設定した場合のメリット1: 出力リップル電圧が小さくなり、出力コンデンサ容量の削減が可能 図8. スイッチング動作に伴って生じる電流ループ 06
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MLCCクライシスを生き抜くために 業界動向とソリューション H o t T o p i c s このノイズを抑えるためによく使われるのが、トップFETとボトムFET ADIの電源ソリューションでMLCCクライシスを乗り切る のゲート信号を制御して両FETのスイッチング動作(=ループを流れる 電流の立ち上がり/立ち下がり)を緩やかにする「スルーレート・コント MLCCの供給不足が続くなか、MLCCをできるだけ使わない電源設 ロール」法です。ノイズの抑制には効果がある一方で、スイッチング損失 計への転換をアナログ・デバイセズは提案しており、その概略を説明しま が増え、とくに前述のようにスイッチング周波数を高くした場合は発熱 した。 が無視できなくなってしまいます(。スルーレート・コントロールは条件次 スイッチング周波数を高くして出力リップル電圧を減らし、合わせてク 第では有効であり、アナログ・デバイセズでもそのような機能を搭載した ロスオーバー周波数も高く設定することで良好な負荷応答性を実現。結 ソリューションを提供しています。) 果として出力コンデンサの容量を大きく減らすことが可能になりました。 「Silent Switcher」の場合、スルーレート・コントロールは用いずに また、スイッチング動作に起因する電磁界ノイズを閉じ込めることでEMI ホットループから発生する電磁ノイズを抑えるアーキテクチャです。入力 ノイズを大幅に抑制したSilen Switherアーキテクチャにより、バイパス・ 電圧VINピンと入力コンデンサCINとをパッケージの左右それぞれに コンデンサの削減も実現できます。実際に、入力12V、出力5V/4Aと 配置して、ホットループが左右対称に形成されるようにしたのが特徴で 3.3V/4A(2出力)の条件のとき、他社競合のソリューションと比べた場 す。それぞれの磁界はいわゆる「右ねじの法則」に従った向きで発生しま 合で、32個のMLCCを14個に減らせるとの比較も出ています(図11)。 すが、その結果として磁界は左右の電流ループにあたかも閉じ込められ 「MLCCクライシス」を乗り切るためにも、ノイズが少なく、応答性に優 るようになり、外部にはほとんど放射されません(図9)。 れ、回路の小型化が図れるなどさまざまなメリットをもたらすアナログ・ TOP FET ON BOTTOM FET ON デバイセズの電源ソリューションをぜひご検討ください。 競合比較 VIN 12V→ 5V/4A & 3.3V/4A 競合 ADI LT8650 デバイス 1個 デバイス 1個 コンデンサ 32個 コンデンサ14個 抵抗 22個 抵抗 7個 コイル 2個 コイル 2個 FET 4個 ダイオード 4個 部品合計 65個 部品合計 24個 図11. 評価ボードにおける他社製品(左)との実装面積および部品数の比較 図9. スイッチング動作に伴って生じる電流ループ 合わせてパッケージングも工夫し、ワイヤー・ボンディングを使わない フリップチップ構造にして、ノイズ源のひとつになる寄生インダクタンス 成分を大幅に削減しています。なお、Silent Switcherの第二世代品に あたるLT8640Sの場合、スイッチング周波数を動的に変更してノイズの ピークを分散させるスペクトラム拡散機能も搭載するほか、左右の入力 コンデンサCINをパッケージに内蔵したことで、第一世代に比べてさらな るノイズ低減を実現しています。その結果、自動車のEMC基準のひとつ である「CISPR 25 Class 5」も余裕をもってクリア(図10)。実際にお客様 からも「他社のスイッチング・レギュレータICから切り替えたところ、 ノイズ問題がぴたりと収まった」とのご評価をいただいています。 著者 低ノイズ・スイッチングレギュレータ= Silent SwitcherⓇ 古川 敦彦 LT8640S VIN=14V VOUT=5V/4A fsw =2MHz w/ EMI filter アナログ・デバイセズ株式会社  ADIは高スイッチング周波数でも低ノイズ フィールドアプリケーション 図10. Silent Switcherファミリのひとつである エンジニア LT8640S(6A出力)の優れたEMI特性 07