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湿度センサの特性に与える影響と対処方法をご紹介しています。
【掲載内容】
1.相対湿度-電気容量特性変化の実測例
2.相対湿度-電気容量特性の変化が予測されるその他の環境
3.特性変化の抑制および実用的対処方法
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このカタログについて
ドキュメント名 | 使用(保存)環境が湿度センサの特性に与える影響と対処方法 |
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ドキュメント種別 | 製品カタログ |
ファイルサイズ | 270.8Kb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | トウプラスエンジニアリング株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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使用(保存)環境が湿度センサの特性に与える影響と対処方法 1011-01
高分子薄膜電気容量型湿度センサ素子 TI-A、TD-A、TD-ASの基本構造を図-1に示します。
水蒸気透過性上部電極
高分子感湿膜
下部電極
ガラス基板
図-1 高分子薄膜電気容量型湿度センサ素子 TI-A、TD-A、TD-ASの基本構造
水蒸気は上部電極を透過して高分子感湿膜に拡散し高分子に含まれる親水基に水素結合で吸着
します。水分子の誘電率は比較的大きく、その吸着量は環境の湿度に依存するため、上部電極と
下部電極間の電気容量を計測し、予め求められた相対湿度-電気容量特性と比較することで相対
湿度を求めることが出来ます。TI-A、TD-A、TD-ASの感湿膜として使用されている高分子は、湿
度センサに適した親水基と疎水基の適切な配置、高い耐熱性、高湿度域での低膨潤性等の特徴を
有しており、空気中のみならず水素やメタン中等においてもその流速によらず広い温湿度範囲で
長期間安定な相対湿度計測を可能にしています。しかし、高分子の構造や水分子の吸着量などが
影響を受ける環境では、相対湿度-電気容量特性が変化し湿度計測の精度も影響を受けます。
以下では、相対湿度-電気容量特性変化の実測例、相対湿度-電気容量特性変化の発生が予測
されるその他の環境、特性変化の抑制および実用的対処方法を述べます。
1.相対湿度-電気容量特性変化の実測例
表-1に湿度センサ素子 TI-Aを人体に対する許容濃度の各種気体雰囲気に 2週間および 4週
間放置した前後の 30℃における相対湿度-電気容量特性の差の相対湿度換算値を示します。表中
の低湿とは 10%RH程度、高湿とは 90%RH程度を意味します。TD-Aと TD-ASでは TI-Aと同一素材
を使用しているので TI-Aと同様の変化を呈します。酸である塩化水素、アルカリであるアンモ
ニア、エステル類である酢酸エチル、ケトン類であるエチルメチルケトン、芳香族であるトルエ
ン、エーテル類であるジエチルエーテル、アルコール類である 2-ブタノール、ハロゲン化物であ
る 1.2-ジクロロエタンのいずれの雰囲気に 4週間放置した場合にも低湿、高湿域ともその変化幅
は 1%RH以下であり明らかな変化は見られません。
表-2に湿度センサ素子 TI-Aを人体に対する許容濃度の 100倍の各種雰囲気(人間が生存でき
ない環境)に 2週間および 4週間放置した前後の 30℃における相対湿度-電気容量特性の差の相
対湿度換算値を示します。
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表-1 湿度センサ素子TI-Aを人体に対する許容濃度の各種気体雰囲気に 2週間および
4週間放置した前後の 30℃における相対湿度-電気容量特性の差の相対湿度換算値
気体種と濃度 2週間放置 4週間放置
低湿 高湿 低湿 高湿
塩化水素 (5ppm) 0 -1 -1 0
アンモニア(50ppm) -1 0 0 0
酢酸エチル(400ppm) 0 -1 0 -1
エチルメチルケトン(200ppm) 0 -1 1 0
トルエン(100ppm) 0 0 0 -1
ジエチルエーテル(400ppm) 0 -1 0 -1
2-ブタノール(150ppm) 0 -1 0 -1
1.2-ジクロロエタン(50ppm) -1 -1 0 -1
表中の数値の単位は%RH
表-2 湿度センサ素子TI-Aを人体に対する許容濃度の 100倍の各種気体雰囲気に 2週間
および 4週間放置した前後の 30℃における相対湿度-電気容量特性の差の相対湿度換算値
気体種と濃度 2週間放置 4週間放置
低湿 高湿 低湿 高湿
塩化水素 (500ppm) -1 -1 -1 -1
アンモニア(5000ppm) -1 0 0 -1
酢酸エチル(40000ppm) -6 -28 -8 -31
エチルメチルケトン(20000ppm) 7 -13 13 -11
トルエン(10000ppm) -3 -8 -6 -14
ジエチルエーテル(40000ppm) -7 -24 -9 -31
2-ブタノール(15000ppm) -4 -17 -3 -21
1.2-ジクロロエタン(5000ppm) -1 -19 0 -22
表中の数値の単位は%RH
塩化水素とアンモニアの場合には、相対湿度-電気容量特性の変化幅は 1%RH以下であり、酸
とアルカリに対しては影響を受けにくいことがわかります。これに対して、数値は様々ですが、
許容濃度では見られなかった明らかな変化が塩化水素とアンモニア以外、即ち有機気体の場合に
見られています。即ち有機気体による特性変化の程度は気体種、濃度、放置期間に依存すること
がわかります。また、概して有機気体に 2週間放置した場合の変化は 4週間放置の値に近いが異
なっています。これは有機気体による特性変化は、相対的には放置初期に大きいが 2週間経過後
もさらに進行していることを示しています。ステップ状の湿度変化に対する TI-Aの電気容量の
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時間的変化は、およそ 1分程度で飽和しますので、有機気体による特性変化は相対的には極めて
遅い現象であることがわかります。これは各種有機気体分子が水分子に比較して大きいことに関
係すると解釈でき、短時間であれば高濃度有機気体に晒されても影響が無視できる場合もあるこ
とが推測されます。
表-2から、人体に対する許容濃度の 100倍の各種有機気体中に TI-Aを 2週間以上放置した
場合、その相対湿度-電気容量特性には明らかな変化が出ることがわかりました。以下では、こ
の変化が可逆変化(長時間を要するが清浄な環境では特性が復帰する→湿度センサ素子としての
劣化は無い)であるのか、不可逆変化(清浄な環境に置かれても特性は復帰しない→感湿膜の構造
が変化している等)であるのかを調査した結果を述べます。表-3に、人体に対する許容濃度の 1
00倍の有機雰囲気に 4週間放置した湿度センサ素子 TI-Aの 30℃における相対湿度-電気容量特
性と初期相対湿度-電気容量特性との差(表-2中の4週間のデータと同じ)と、それら素子に 10
0℃の大気中で 24時間熱処理した後の相対湿度-電気容量特性と初期相対湿度-電気容量特性と
の差の相対湿度換算値を示します。
表-3 人体に対する許容濃度の 100倍の有機雰囲気に 4週間放置した湿度センサ素子 TI-A
の 30℃における相対湿度-電気容量特性と初期相対湿度-電気容量特性との差(表-2中の4週
間のデータと同じ)と、それら素子に 100℃の大気中で 24時間熱処理した後の相対湿度-電気容
量特性と初期相対湿度-電気容量特性との差の相対湿度換算値
有機気体中に 4週間放置と
気体種と濃度 4週間放置 100℃,24h処理
低湿 高湿 低湿 高湿
酢酸エチル(40000ppm) -8 -31 → -3 6
エチルメチルケトン(20000ppm) 13 -11 → -2 5
トルエン(10000ppm) -6 -14 → -1 -1
ジエチルエーテル(40000ppm) -9 -31 → -1 -1
2-ブタノール(15000ppm) -3 -21 → -2 3
1.2-ジクロロエタン(5000ppm) 0 -22 → 0 2
表中の数値の単位は%RH
100℃の大気中での 24時間の熱処理は正常な TI-Aの相対湿度-電気容量特性には影響を与え
ないことはわかっており、高分子膜に吸着した有機気体を短時間で脱離させることを目的として
います。相対湿度-電気容量特性の初期時からの変化は、この熱処理によりいずれの有機気体の
場合にも明らかに減少していることがわかります。特にトルエンとジエチルエーテルでは初期時
からの変化が相対湿度幅換算値で 1%RH以下と、ほぼ初期特性に復帰していることから 4週間放
置時の特性変化は有機気体の吸着による変化であり湿度センサ素子はほぼ劣化していないことが
わかります。一方トルエンとジエチルエーテル以外の場合には少なくとも相対湿度幅換算値で 2%
RH以上の初期時からの変化が残っており不可逆変化している可能性も残されています。ここで、
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これら 6種気体の双極子モーメントと比誘電率を双極子モーメントが大きい順に表-4に示しま
す。比誘電率と双極子モーメントは溶媒として性能を示す指標であり、定性的には値が大きいほ
ど溶質(ここでは高分子感湿膜)を溶かす能力が高くなります。表-3の結果と合わせると、比誘
電率と双極子モーメントが小さい 2種において相対湿度-電気容量特性が、熱処理によりほぼ復
帰したことがわかり、試験に用いられた有機化合物以外でもそれらの値が小さい場合には、熱処
理もしくは常温でも清浄な環境に長時間置くことにより特性の復帰が期待できることがわかりま
す。
表-4 試験に用いた有機化合物の比誘電率と双極子モーメント
気体種 双極子モーメント 比誘電率
エチルメチルケトン 2.76 18.5
酢酸エチル 1.88 6.0
1.2-ジクロロエタン 1.86 9.1
2-ブタノール 1.68 15.5
ジエチルエーテル 1.13 4.2
トルエン 0.37 2.2
単位は D
2.相対湿度-電気容量特性の変化が予測されるその他の環境
電気容量型湿度センサ素子 TI-A、TD-A、TD-ASの感湿材料は、一般的に電気抵抗型湿度センサ
の感湿材料に含まれる電解質等の本来水溶性である極性の強い基を含まないこと、高湿度域にお
いても膨潤が少ない分子構造であること等から、図-2に示すように、35℃の結露環境に 40日
間放置された場合にも、その相対湿度-電気容量特性の変化幅は約 3%RH 以内と比較的安定です。
100
80
60
40
40日間放置後
20 標準値
0
0 20 40 60 80 100
相対湿度(%RH)
図-2 35℃の結露環境に 40日間放置前後の湿度センサ素子 TI-Aの相対湿度-電気容量特性
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出力(%RH)
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しかし、センサ素子表面での結露発生時に、酸、アルカリ、塩類、粉塵などの不純物が同時に
飛来すると結露水はイオンの発生と共に大きな導電性を持ち、感湿膜での漏電や電極の腐食が発
生します。例えば感湿膜での漏電が発生した場合には、特に高湿度域で 100%RHを大きく超える
異常出力が現れ易くなり、この状況が長時間継続した場合には、電極の腐食に至り断線状態とな
る場合もあります。これら変化は、いずれも不可逆であり熱処理などで特性を復帰させることは
出来ません。結露が発生しない環境でもセンサ素子に直接水滴やオイルミストなどの液体が飛来
する場合には定性的には同様な変化が生じる可能性があります。
有機化合物を酸化する能力のある活性酸素を生成する気体(代表的にはオゾンや NOx)中にセン
サが設置された場合にも特性が不可逆変化します。活性酸素は感湿材料である有機高分子に含ま
れる化学結合の一部を切断し、本来その高分子には存在しない酸素を含んだ結合を形成します。
酸素を含む化学結合は、相対的には強い極性を有するため、感湿薄膜の誘電率は乾燥状態におい
ても本来の値よりも上昇し、またその極性の強い化学結合部は水分子の吸着点となるため湿度変
化に対する電気容量変化も増加します。(出力としては、乾燥状態においても湿度がある程度有
るように見えたり、高湿度域においては 100%RHを超える値となったりします)また、紫外線が照
射されると感湿材料である高分子の結合が直接解離したり、大気中では、酸素との反応によりオ
ゾン等が生成しますので基本的には上記と類似の変化が起こると考えられます。
3.特性変化の抑制および実用的対処方法
*有機気体が特性変化の一因であると考えられる場合、「焼結樹脂製センサフィルターキャッ
プ」や「焼結金属製センサフィルターキャップ」の物理的フィルターの効果は期待できません。
基本的には、有機気体の濃度を下げる(概して臭わない程度に)か、その気体に晒される時間を短
くすることが重要です。しかし、有機気体中での使用や保存が避けられない場合には、以下のよ
うな対処方法をお試しください。
1) 湿度センサ素子のみを取り外し 100℃程度に加熱することで吸着有機気体を脱離させ特性
の復帰を試みる
2) 多くの場合、一定環境での特性変化は飽和するので、湿度センサ素子の熱処理や交換はせ
ず湿度調節計などを利用して出力調整する
3) 定期的に湿度センサ素子を交換する
*センサに飛来する水滴、オイルミスト、酸、アルカリ、塩類、粉塵などが一因と考えられる
場合、以下のような対処方法をお試しください。
1) 汚染物質の飛来量が少ない位置へセンサを移動する
2) 物理的フィルター効果のある「焼結樹脂製センサフィルターキャップ」や「焼結金属製セ
ンサフィルターキャップ」を使用する
3) 汚染物質が電極や感湿膜に直接接触することを防ぐ効果のある「湿度センサ素子の防水撥
水加工」を選択する
4) 定期的に湿度センサ素子を交換する
*オゾンや紫外線が一因と考えられる場合には、以下のような対処方法をお試しください。
1) 紫外線に対して不透明であるだけでなく、触媒効果によるオゾンの不活性化を期待できる
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酸化銅が含まれる「焼結金属製センサフィルターキャップ」を使用する
2) 定期的に湿度センサ素子を交換する
*湿度センサ表面での結露のくり返しが一因と考えられる場合には、以下のような対処方法を
お試しください。
1) センサ取り付け位置を壁やドアから離すこと、被計測気体を十分攪拌すること、断熱性に
優れた樹脂製プローブを使用すること等によりセンサ部の温度が周囲温度よりも低くなる
状況を避ける
2) 湿度センサ表面での結露を防ぐ効果のある「湿度センサ素子の防水撥水加工」を選択する
3) 定期的に湿度センサ素子を交換する
*長期保存する場合
6ヶ月間、1年間等長期間におよびセンサを使用せず保存する必要がある場合、湿度センサ素
子のみを取り外し、ガス透過性の低い袋に入れシリカゲルと共に密封してください。一例として、
三菱ガス化学社製 RPシステム用ハイバリアフィルムを使用した約 6cm×15cm の PTS袋に鳥繁産
業社製 A型シリカゲル コバルトフリー5gとともに湿度センサ素子 TI-A 1個を密封し、室温で 1
6ヶ月放置した場合の相対湿度-電気容量特性の安定性は相対湿度換算で±1%RH以内であること
が実験的にわかっています。湿度センサ素子を取り外すこと無く変換回路部やリード線と共に密
閉容器で長期間保存することは、有機気体の吸着に類似した特性変化の原因となる可能性があり
ますので避けてください。
湿度センサはガスセンサの一種であるため、温度センサで用いられるような保護管を利用し
たセンサ素子の保護は出来ません。相対湿度-電気容量特性が変化する可能性が高い環境でご使
用あるいは保存される場合は、十分なご配慮をお願いいたします。
トウプラスエンジニアリング株式会社
〒182-0006東京都調布市西つつじヶ丘 1-9-9
海老水第二ビル
Tel.042-490-7377 Fax.042-490-7378
e-mail : humidity@toplas-eng.com
URL : http://www.toplas-eng.com
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